映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

ジャン=マルク・バール「変革が求められていることを語りたい」。ディストピアを描いた『グレイン』記者会見@TIFF2017

DSCN6215.JPG

ジャン=マルク・バール「変革が求められていることを語りたい」。ディストピアを描いた『グレイン』記者会見@TIFF2017
登壇者:セミフ・カプランオール(監督/脚本/編集/プロデューサー)、ジャン=マルク・バール(俳優)、ベッティーナ・ブロケンパー(プロデューサー) 
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているセミフ・カプランオール監督(『蜂蜜』)の最新作『グレイン』。ディストピアの近未来を舞台に、荒廃した大地がモノクロの映像で映し出される。大地の中で、人間の存在は実に些細なものだ。そんな人間が遺伝子組み換えにより生態系を狂わせ、人間が生きるのに大事な穀物が枯れてしまう事態に陥る。ジャン=マルク・バール(『グラン・ブルー』)が演じる主人公、エリン教授は、遺伝子不全を予言していた研究者、アクマンを探す旅にでるが、その旅こそ、生死をかける壮絶な旅になるのだった。
 
 
grain.jpg
© KAPLAN FILM / HEIMATFILM / SOPHIE DULAC PRODUCTIONS / THE CHIMNEY POT / GALATA FILM / TRT / ZDF / ARTE FRANCE CINEMA 2017
 
私たちが日ごろ当たり前にあると思っている土や種が汚染され、穀物が取れなくなってしまったら、まさしく人類存続の危機だ。核戦争やテロなどの国同士の争いによるディストピアではなく、人間のエゴによる環境破壊が徐々に地球を蝕んだ結果のディストピアを描いているところに、ユスフ三部作のカプランオール監督が一貫して描いている大地や生態系への敬意が読み取れる。試練を乗り越え、大事に守られていた汚染されていない土を手にしたエリンが、顔や身体を清めるかのように土をこすりつけるシーンは、命の泉で身を清めるのと同じような神々しさがあった。
 

DSCN6171.JPG

7年ぶりの新作を携えて来日したセミフ・カプランオール監督は、脚本に5年をかけた本作を着想した時のことを振り返り、「近い将来こういうことが起こるかもしれないと思い書き始めました。トルコには300万人近い難民が訪れ、戦争の影響も様々起こっています。農業や水の問題も問われるようになり、自分が想定していたことが、現実になっていくのを今は見ている感じがします」と実際にディストピアへの道を歩みかねない現状への危機感を露わにした。
 
コンペティション部門作品を鑑賞し、「非常にレベルが高い」と称賛したジャン=マルク・バールさん。荒野での撮影を振り返り、「とても美しく、スピリチュアルな体験をしました。トルコのアナトリアでも撮影しましたが、精神的、肉体的な訓練をしているような撮影で、体力的にも大変でした。ラース・フォン・トリア監督作でもドイツ人、ロシア人と様々な人たちと共に英語で撮っていますが、本作も日本人も含め様々な国の人と英語で撮影し、大変ですがとても良い体験になりました」と、国際的なスタッフ、キャストでの撮影を楽しんだ様子。また、ユスフ三部作から携わっているプロデューサーのベッティーナ・ブロケンパーさんは、「私にとっては政治的、精神的な映画。我々が人生を変えないと地球がどうなるか分からない。この映画の一部になれたことをとてもうれしく思います」と作品の意義を語った。
 
DSCN6192.JPG
 
最後に、世界的食糧危機が強く描かれている作品で、主人公の教授を演じた気持ちについて「世の中の映画は娯楽性が高いものが多いですが、カプランオール監督作品は世界中で意識を変えていると思っています。問題を精神的かつ知的に考えていく定義をしています。300年ぐらい営んできた人間の生活を、今変えなければいけない時期にきている。映画がそういうメッセージを出せることが非常に大事です。エリン教授は、最初何をしたらいいか分からなかったけれど、問題解決をしたいと願い、意識の変化を遂げている人物。変革が求められていることを語りたい物語なのです」と、映画を通じて、まさに今、私たちが意識を変える必要性を強調した。
(江口由美)
 

『グレイン』
(2017年 トルコ/ドイツ/フランス/スウェーデン/カタール  127分)
監督:セミフ・カプランオール 
出演:ジャン=マルク・バール、エルミン・ブラヴォ、グリゴリー・ドブリギン 
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第30回東京国際映画祭公式サイトはコチラ