「自分が信じる映画ぐらいは自由に映画を作らせてほしい」大林作品の精神を語る。『花筐/HANAGATAMI』Q&A@TIFF2017
登壇者:大林宣彦監督、窪塚俊介、長塚圭史、矢作穂香、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩、岡本太陽
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でJapan Now部門作品として出品されている大林宣彦監督の『花筐/HANAGATAMI』。壇一雄の『花筐』を原作とした脚本をデビュー以前に書き上げていたという大林監督が、40年の時を経て、佐賀県唐津市を舞台に満を持して映画化した。太平洋戦争勃発前後を生きる若者たちの凄まじい青春群像劇は、戦争を体験した大林監督から戦争を知らない若者たちへの情熱に満ちたメッセージにも映る。
28日に行われた上映後のQ&Aでは、大林監督をはじめ、窪塚俊介、長塚圭史、矢作穂香、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩、岡本太陽らキャストが登壇し、満席の会場が大きな拍手に包まれた。40年経った今、映画化した理由について語り始めた大林監督は、「40年前はこういう映画を撮っても、誰も興味を持ってくれませんでした。日本中、高度経済成長期が訪れ、物とカネが豊かになればそれでいいと思っていました。戦争などなかったことになって、日本人は皆、平和難民になっていた。僕達昭和15年生まれ、寺山修司からミッキー・カーチスの時代は軍国少年だったものですから、戦争が終わって殺してくれるものだと思っていたら、誰も殺してくれない。大人たちはみんな『平和だ!』と言って、ヤミ米を担いで騒ぎ出し、敗戦後の日本の大人が一番信じられなかった敗戦孤児の時代なのです。しかし、私たちは最初に日本の平和を作らなければいけないと、皆、今まで誰もやらなかったことをやりながら生きてきた。
映画においてもそうで、大先輩たちは商業用の35ミリでお撮りになるわけです。私は戦争中一番弱者だった庶民、映画でいえばアマチュアの8ミリで妻や、妹や、戦争に行った叔父を撮ったキャメラで始めました。山田洋次さんは黒澤監督や小津監督と同じく松竹でプロフェッショナルな映画をお作りになっています。私は一生アマチュアとして、弱者の立場から、自分の個人史や日記のような映画を作ってきました。映画監督ではなく映画作家という名目でいさせていただくのが私の正体です。ここに集まっていただいているのは、プロでありながら、プロのアマチュアごっこを自由な精神で楽しもうと面白がってくださる俳優さんたちです」
と一気に思いを明かした後、会場に駆け付けた映画をサポートしてくれた唐津市の皆さんやエグゼクティブプロデューサーの恭子さんらを紹介し、客席から大きな拍手が送られた。
前作の『野のなななのか』に続いての出演で、昨今の大林映画のマドンナと紹介された常盤貴子は、「原作は短編なのに、大林監督の脳内フィルターを通すと、純文学でここまで広がるんだ。純文学って幅広いなと思いました。完成した作品を観ると、なんてやんちゃな監督なんだと思って。こんなに自由に広げる監督なんて世界にいたのかなと思うぐらい。自由でやんちゃで好き放題なのに感激しました。映画の可能性を広げていただきました」と驚きの表情を見せた。
物語の語り部の役目を果たし、戦争で最後まで生き残った俊彦を演じた窪塚俊介は、「俊彦は16歳ですが、僕は35歳ですから、キャスティングにも自由度がこんなにもあるのかと。最初お話をいただいた時には戸惑いましたが、長塚圭史さんも同級生で参加して下さるということで、勇気が湧きました」と話をふると、長塚が「40歳を過ぎて、あんな(高校生の)役をできるとは思わなかった」と苦笑いする一幕も。「全シーン通して、緊張感がこれだけ漂うというのは、この時代大林監督を通じて表現される時代を知らないし、正直今後、こんな緊張感の中で生きていきたくないと改めて思いました」と窪塚が映画の感想をしみじみと語った。それを受けて、大林監督は、「(戦前は)戦争ごっこが一番楽しい遊び。平和ごっこをしたら犯罪人でした。でもどこかこの遊びは不自由だな。やって褒められることと怒られることがあると思っていました。自由に遊ぶのが子どもの証ですから、戦争が終わった後、自分が平和に役立つのなら、自分が信じる映画ぐらいは自由に映画を作らせてほしい。そう思って映画を作らせていただきました。その結果ぶれずに、敗戦後の少年を描いてきましたが、どうもそういう映画がまた作れなくなるのではないかと怯えております。3年後にこの映画を作れるだろうか。今こそ自由の尊さを表現したのが、この作品です」と自由が失われる風潮に警鐘を鳴らした。
本作が大林監督作初出演となる新星、矢作穂香は、死に至る病を患った美那を演じている。撮影前に監督から役作りとして5キロの減量を指示されたエピソードを披露。「初めて見た時は何がなんだかよく分からなくて、理解するのに時間がかかりました。3、4回目となって色々な魅力が出てきたので、何度見ても色々な楽しみ方ができる映画だと思います」と感想を明かした。美那が仲良くなる女子高生を演じた山崎紘菜は、「戦争に巻き込まれていく女の子ですが、この映画に参加させていただき、若者の青春はこんなに眩しく美しく儚いものであることを学びました。今青春を謳歌している若い人にこそ見ていただき、次の世代に伝えてほしい」と観客にアピール。加えて、大林監督は山崎が演じた役について「戦争で生き残ったけれど忘れ去られた。(日本人は)平和難民になってしまったから戦争の事を忘れさせられている。こういう人があなたのおじいちゃん、おばあちゃんなんだよという気持ちでした。戦争を知らない若い人に向けて作った映画で、あなた(山崎紘菜)が一生懸命考えてくれたことが一番いいこと。自分で何をやったかは忘れているけれど、実感としてあることを描いています。音楽と同じように感じられる、みなさんが実感を持って観て下されば、私としてはとてもうれしい」と若いキャスト二人の素直な感想が大林監督の胸に響いた様子だった。
独特の感性と世捨て人のような雰囲気を持つ高校生、吉良を演じた長塚圭史は、「10代の若者を演じているけれど、どこか40歳を過ぎている自分が、彼より幼い気がして申し訳ない気持ちで立ち向かっていました。吉良を演じる時には、炎のようなスイッチを押さなければならない。『決着をつける』という吉良に乗っかる。押されるように『こうやって戦争が起こるのか』という台詞に出てくる状態でした」と、作品の鍵になる台詞を言った心境を語った。大林監督がさらに「現場ではほとんどテストをせず、俳優さん任せで演じていただきます。吉良がベッドで立ち上がった時に、『戦争ってこうやって起きるんだ』と、ふと浮かんだので、すぐに長塚さんに台詞を言ってもらいました。吉良の役に憧れたのが、素人の三島由紀夫さんで、『花筐』の吉良に憧れて、僕も小説家になると決意をしたのです」と三島由紀夫のエピソードまで披露した。
出征していく山内教授を演じた村田雄浩は、「本当にうれしかったのは、映画の中で撮られながら坊主になる感覚を味わったこと。服だけでなく、皮膚も脱ぐような気分。こういう歴史になっていってはいけないという象徴でいさせてくれたことに、とても感謝しています。忘れられないワンシーン。あれ一つで凄いことを表現したのではないか」と、自分のシーンを振り返った。大林監督にとっても思い入れのある役だったそうで、「村田さんの役が演出をしていて一番面白かった。最初は学生たちから嫌われる敵役のような先生。原作でもそう描かれており、ややそちらに傾きかけていたけれど、出来上がってみたら一番かわいそうな人になっていました。『生きていたら、また会おうね』という表情は、思いもよらないものになっていました」と想定した以上に豊かになった役をしみじみと振り返った。
最後に常盤演じる未亡人の戦死した夫を演じた岡本太陽は、「唐津出身なので、唐津でこの映画を撮れたことが、とても光栄だと思います。チェロが僕のセリフでした」と演技未体験ながら抜擢された気持ちを明かした。
最後に私はアマチュアですから他の人がやらないことをと前置きをして、観客の写真撮影を解禁した大林監督。「世界的に、俳優さんに年齢を聞くと『私は18歳から80歳です』と、自分が演じられる年齢を答えます。これが本来の姿なのです。日本はお母さん役を一度やると、二度と娘役はイヤだということになりますが、十何歳でおばあちゃん役をすれば、もっと上でもバージンの役もできるというのが演技の世界です。『花筐』もかつて青春を経験したことのあるベテランの青年たちですから、痛みや悲しみが十分に表現できた。いい演技をしてくれました。窪塚君は、16歳を演じながら、心の中は35歳の青年の思考を持ってほしいと難しい注文を出しました。多分観客の皆さんは、窪塚君の役を見ながら、二通りの役を見てくださったと思います。私にとっては最高の俳優陣でした」と語り、締めの言葉を常盤に託した。
常盤は「『野のなななのか』を最近観ると、最初分からなかった部分でも時間が経つことで、涙が出てしまうシーンになりました。この映画も5年後、10年後とどんどん変わってくると思うので、その都度皆さんの人生の中で見ていただけたらと思います」と挨拶し、永遠に生き続け、自由の尊さを訴える映画になる手ごたえを見せた。12月16日(土)より有楽町スバル座他にて全国順次公開される大林宣彦監督最新作。あっと驚かせるような自由で、強度のある映像と、そこに込められた強い思い。そして、生の力強さをスクリーンいっぱいに体現する唐津くんち。大林監督がぶれずに訴え続けてきた魂をつかみ取ってほしい。
(江口由美)
『花筐/HANAGATAMI』
(2017年 日本 169分)
監督:大林宣彦
出演:窪塚俊介、長塚圭史、満島真之介、柄本時生、矢作穂香、門脇麦、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩
2017年12月16日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
配給:新日本映画社
(C) 唐津映画製作委員会/PSC 2017
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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