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「世界を思いやる見方を持っている」エドモンド・ヨウ監督が描くロヒンギャ移民とマレーシア人との未来『アケラット-ロヒンギャの祈り』(マレーシア)@TIFF2017

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「世界を思いやる見方を持っている」エドモンド・ヨウ監督が描くロヒンギャ移民とマレーシア人との未来『アケラット-ロヒンギャの祈り』(マレーシア)@TIFF2017
登壇者:エドモンド・ヨウ(監督/脚本)、ダフネ・ロー(女優)
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のコンエドモンド・ヨウ監督(タイ)最新作『アケラット-ロヒンギャの祈り』がワールドプレミア上映された。迫害され、マレーシアに希望を見い出して渡るロヒンギャ移民に訪れる苦難と、マレーシアから脱出するお金を稼ぐためロヒンギャ移民の人身売買に手を染めてしまうヒロインを対比させながら、困難な現実を詩情豊かに描き、ささやかに未来への希望の灯をともしている。エドモンド・ヨウ監督は、行定勲監督『鳩 Pigeon』(『アジア三面鏡2016:リフレクション』の1編)のメイキング撮影から故ヤスミン・アハマド監督の記憶をたどるドキュメンタリー映画『ヤスミンさん』もCROSSCUT ASIA部門に出品されており、マレーシアの今だけでなく、マレーシアが日本を含むアジアとどんな繋がりを見せているかを、改めて映画で示してくれている。TIFF2015『破裂するドリアンの河の記憶』に続いてのコンペティション部門出品作は、社会問題に根差しながら、マレーシアの文化面での多様性をも感じる仕上がりになっている。
 
 
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ワールドプレミア上映の後に行われたQ&Aでは、エドモンド・ヨウ監督と、主演のダフネ・ローさんが登壇。ロヒンギャ移民のことを映画化した理由について、エドモンド・ヨウ監督は、「2年前北マレーシアで、200人以上のロヒンギャ移民の死体が埋められていたことが見つかり、人身売買していたマレーシア人によるものであることが明らかになりました。マレーシアによりよい生活を求めてきた人たちに、色々なことが起こったという事実があります。マレーシアはここ数十年でインドネシア、カンボジア、ミヤンマーなど多くの移民が来ていますが、日頃私たちは彼らにどういうことがあったのか意識していませんでした。でも、このニュースを見て、子どもから女性たちまで色々な人が巻き込まれていることがわかり、また同時に誰がこんなことをしているのか探ってみたいと思ったのです」とその理由を明かしました。また、「マレーシアに来たいと思っている人だけでなく、マレーシアから出たい人もいる。その両者は並行しているかもしれないと思い、この物語を書きました」と、ヒロインが台湾に出ようとしている設定に活かした理由を語りました。
 
『破裂するドリアンの河の記憶』に続いてのヨウ監督作出演となるダフネ・ローさんは、そんなヨウ監督の脚本を読み、「さすが、エドモンド・ヨウ監督だと思いました。彼には世界を思いやる見方を持っています。それを作品で伝えるにあたり、(私が)媒体になれることを嬉しく思いました」と、新作に取り組んだ時の気持ちを明かした。
 
家庭の中でも、広東語、英語と多言語、多文化だというヨウ監督。本作でもマレー語を始め、広東語、タイ語と様々な言葉が語られているところが、マレーシアの特徴を表しているが、「(舞台となっている)タイとの国境はマレー語ですが、首都とは違うアクセントであったり、北京語を話していてもタイ語が混じっていたりと、全く違う国に来たようで、とてもユニークなものを感じました」と、撮影時の印象を語りました。また幻想的な物語の詩情を掻き立てる人形劇のシーンは、「人形劇も実在の最後のマスターに出演していただき、永い間忘れ去られていた、死にゆく芸術でした。この映画でその、“忘れられしもの”をまた描くことができればと思ったのです」と、土地の伝統芸能を映画で映しとっていたことを語った。
 
 
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自身の映画作りについて「脚本には細かい台詞はなく、その場で即興的にコラボレーションをしています。本当にクリエイティブな協力体制にしています」と語ったヨウ監督。ダフネさん演じるヒロインが、お金のために人身売買をしなければならない役としてどう感じたいかと尋ね、「木をナイフで切り刻む」という行為で表現したシーンがある。ヒロインの怒りがストレートに伝わるシーンについて、ダフネさんは「自分に仕事をやらせているボスだと思って切りつけていました。自分は人身売買をしたくないけれど、そういうことになってしまったという怒り。イヤだと言いながら振り返った時にみつけた人質を追いかけなければいけないという対比が、あのシーンにあったのです」と、自分自身の葛藤も込めたシーンであることを明かした。
 
ロヒンギャ語で“来世”という意味の“アケラット”をタイトルにしたヨウ監督。 台詞を減らし、内に秘めた演技で表現した主人公、フイリンが人身売買に手を染めながらも、現実から逃げ出す先に“来るべき世”はあるのか?そして、ロビンギャ移民がマレーシアで、来世として次のものを見い出すことができるのか。詩のような世界観を持つ本作に込められた思いは、とても深く、そして不条理な現実をしっかり見つめ、その未来を探っている。
(江口由美)

 
『アケラット-ロヒンギャの祈り』
(2017年 マレーシア 1時間33分)
監督:コンデート・ジャトゥランラッサミー
出演:トーニー・ラークケーン、ワラントーン・パオニン、ティシャー・ウォンティプカノン
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
 
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