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「社会的にも個人的にも囲いの中に入れられてしまう30代女性を解放させたい」『寒いのが好き』ホン・ソンウン監督、チョン・ジョウンプロデューサー舞台挨拶@OAFF2025EXPO

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 初長編の『おひとりさま族』でOAFF2022グランプリに輝いたホン・ソンウン監督がコロナ禍の国家統制をゾンビ・エンデミックの時代に置き換えて描く社会派コメディ『寒いのが好き』が、第21回大阪アジアン映画祭コンペティション部門作品として9月4日ABCホール(大阪市北区)で日本初上映された。
 
 噛まれるとゾンビになる疫病が猛威を振るい、国によるゾンビ撲滅作戦が行われていた時代、契約社員としてゾンビ掃討チームで働いていたナビが、理性を残し、人間の言葉がしゃべれるゾンビに窮地を助けられたことから始まる物語は、従来のゾンビに対するイメージが覆される。仕事を解雇され、結婚を約束していた彼氏との関係がギクシャクする中、ナヒは高温の環境下では死んでしまうゾンビを、人間に戻るワクチンができるまでアラスカに避難させる団体のことを知り、彼女を助けてくれたゾンビ“ウンビ”と共に、船が出発する釜山に向かうのだった…。
 
 
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 本作は韓国国家人権委員会からの依頼で製作された、人権映画プロジェクトの第16作で、人権を考える上で、自分たちがコロナパンデミックで体験した状況を映画に取り入れようと思ったとホン監督。またチョンプロデューサーは「人権というと重く難しい問題というイメージがあるが、文化、政治を含めながらも、気楽にみなさんに近寄っていただける話を作りたいと思った。コロナ下で大きく生活が変わった方、あまり変わらなかった方と、いろいろな人生を過ごしてきた人がいると思いますが、それらを含めてホン監督とキャラクター設定を話し合いながら、二人で脚本から作り上げた作品です」と作品の背景を語った。
 
 主人公ナヒの設定について話が及ぶと、ホン監督はナヒがゾンビを助けるという関係性に持っていくために、置かれている現実から脱出し、彼女の責任を軽くしてあげる設定が必要だったと解説。仮にナヒの仕事が順調だったとしても「彼と結婚するという執着からの脱出」するために、ナヒが現実から脱出する話にするつもりだったという。
また、ナヒのキャラクターについて特にたくさん話し合ったというチョンプロデューサーは、「30代前半の女性で、非正規社員であり、結婚を控えているという設定は、どの国の女性でもこの年代は社会的にも個人的にも囲いの中に入れられてしまうことを象徴しています。そういう囲いから解放させるという側面も考えました」と力を込めた。
 
 
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 また本作で登場するキャラクターを、ゾンビそのもの、姿はゾンビだけど人間の心を持ち続けている人、人間、人間だけど冷たい心を持っていると4種類のキャラクターに分け、違う観点を持つ人たちが、どのように交わり社会を築いていけるのかを考えるきっかけにしたかったとホン監督。さらに、ゾンビの症状についても、記憶が少し残っていたり、ゾンビになることによって体に痛みを覚えるなど、多様性をもたせたゾンビを作っていくことで、「わたしたちが人生で起こる問題を解決するとき、ありのままを受け入れるのも解決策のひとつであることを念頭に置いていただきたい」とその狙いについても明かしてくれた。
 
 最後に本作は日本で公開準備を進めていることが明かされ、「俳優たちと一緒にみなさんとお会いできることを楽しみにしています」とチョンプロデューサーが締めくくり、客席から大きな拍手が送られた。ゾンビの権利についても想いを馳せる新しい視点のゾンビ×パンデミックコメディ。劇場公開を楽しみに待ちたい。
 
第21回大阪アジアン映画祭は9月7日まで開催中。
詳しくはhttps://oaff.jp まで。
(c) The Coup Distribution