映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2015年11月アーカイブ

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《第7回京都ヒストリカ国際映画祭》を終えて

2015年10月31日(土)~11月8日(日)、京都歴史博物館と京都みなみ会館で開催されていた《第7回京都ヒストリカ国際映画祭》は、最終日に『NINJA THE MONSTER』(日本初上映)と『ラスト・ナイツ』(11/14公開)の上映で幕を閉じた。毎年、時代劇のメッカ・京都にふさわしい作品を世界中から集めた映画祭は、時代劇ファンにとっては大変貴重な映画祭である。特に、日本初上映を含む新作だけを集めた【HISTORICA WORLD】は毎年楽しみにしている。今年は全部は見られなかったものの、『フェンサー』『吸血セラピー』『大河の抱擁』『NINJA THE MONSTER』を見る機会を頂いたので少しご紹介したい。
 


his-fencer-500.jpg★自由のない暗い時代でも、生きる希望が人を強くする
第二次世界大戦後のエストニアを舞台にした『フェンサー』 (2015年)は、戦後ソ連の領土となったエストニアの田舎の子供たちと、フェンシングを通して夢と生きる力を育んだ実在の教師エンデル・ネリスの勇気ある行動を精緻な映像で描いた感動作である。政治犯としてソ連の秘密警察に追われる身のエンデルは、息を潜めてエストニアの田舎で教師生活を送っていたが、戦争で父親を失った子供たちに慕われ、特技のフェンシングを教えるようになる。子供たちに支えられ自らも居場所を見出すエンデルの様子や、戦後の困窮生活の中にも柔らかな光が差し込んでいく描写は胸を熱くする。フェンシングの全国大会でのエンデルや子供たちの表情がいい。シンプルな構成ながら、次第に色味を増していく映像から希望がわいてくるのが実感できる、そんな映画だ。
 
 


 his-kyuuketu-550.jpg★悩めるドラキュラ伯爵のセラピー治療とは!?
20世初頭のウィーンを舞台にした『吸血セラピー』 (2014年)は、500年も連れ添った妻の愚痴に悩むドラキュラ伯爵がフロイトのセラピーを受けに来るという、ドラキュラとはいえ人間的な悩みを持つことに親しみがわいてくる映画だ。影がなく鏡にも写真にも映らない。自分がどんな顔なのか見たことがなく、美しいかどうかさえ分からない。他人の意見を聞くしかないので、毎日夫に自分についての感想を言わせる妻。それが500年も続けば、そりゃストレスも溜まるだろう。フロイトがドラキュラ伯爵夫妻に紹介した若い画家とその恋人をめぐる愛と血を追い求めるホラーコメディが、思いのほか面白かった。

◎『吸血セラピー』トークショーの模様はこちら
 


his-taiga-500.jpg★大河が見つめてきた、西洋文化の功罪
アマゾンの奥深く、西洋文化が如何に自然を破壊し原住民たちの生活を踏みにじっていったかがよくわかる『大河の抱擁』 (2015年)。部族で最後の生き残りとなったシャーマン(呪術師)カラマテの記憶を辿りながら行くアマゾン探検の旅である。20世紀初頭、カラマテが若い頃随行した探検家の日記を基にアマゾンを遡上したいとアメリカ人のエヴァンがカラマテを頼りにやってくる。アマゾン流域の豊かな自然がゴム資源を求める白人たちに破壊され、流域で暮らす人々の暮らしも残酷なほど一変させてしまう。それは、資源を求めてやってくる山師であり、無理やりキリスト教を押し付ける宗教家である。自然の息吹を感じながら、畏怖の念をもって逞しく生きて来た人々の変化をモノクロ映像で捉えた世界は、失われた文明を再発見する旅でもある。

 


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★忍者本来の姿を描く時代劇スリラー
松竹株式会社の若手レーベルが海外向けに制作した『NINJA THE MONSTER』は、朝の連ドラ「あさが来た」で五代友厚を演じて人気急上昇中のDEAN FUJIOKA主演の忍者映画。江戸中期の浅間山噴火と天明の飢饉を背景に、困窮する長野藩のお家存亡の危機と正体不明の化け物騒ぎを絡ませたストーリー展開は、斬新。自然界のパワーバランスに敏感な山伏のような忍者像は、黒覆面の超人という従来のイメージを一新させる。お家の困窮を救おうと人身御供にされるお姫様と忍者・伝蔵との微妙な関係性も興味深い。イケメンすぎるDEAN FUJIOKAの甘いマスクがキリリと光る忍者ぶりに魅了される一篇だ。

 



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この上映会は、京都ヒストリカ国際映画祭のいつもの客層とは違い、観客は女性ばかり!映画祭ナビゲーター・飯星景子さん司会による上映後のトークショーでは、黄色い歓声に迎えられてDEAN FUJIOKAと落合賢監督が登場。本作についていろいろ語ってくれた。

■今までの忍者のイメージを一新するアクションと忍者像
国際的に活躍するスタッフやキャストが集結して完成した作品とあって、ブルーレーベル海外向け第1作として自信を持って売り出したいと力強く語る落合監督。5年前に出会って意気投合したDEAN FUJIOKAとは、いつか一緒に映画を作りたいと、東京にあるジャマイカ料理を食べながら語り合ったそうだ。その後、『NINJA THE MONSTER』の企画書がDEAN FUJIOKAの元に届き、スカイプで連絡を取り合い、忍者についての資料を勉強するよう宿題が出されたという。かねてより中華武術をやってきたDEAN FUJIOKAは、今までの忍者像を一新するようなアクションを学ぶように言われ、フィリピンの「カリテ」という接近戦に強い武術を練習。劇中では、一番の見せ場となる山小屋の薄暗い中でのアクションに活用され、忍者・伝蔵の独特の殺陣が生まれた。

 

his-ninja-t-di-1.jpg ■神秘性を出すためにデザインされた液状の化け物
アニメ『もののけ姫』や『プレデター』などからイメージして、CGで創り上げているが、あまり知性的な化け物にはしたくなかったという。そのため目をひとつにして、予測不可能な動きと正体不明な不気味さを出している。具体的なビジュアルが完成する前に実写部分の撮影が進んだので、DEAN FUJIOKAは見えない敵との演技に苦労したようだ。落合監督のゾウのような声を合図に、それに向かってアクションを起こしたという。DEAN FUJIOKAは、『風の谷のナウシカ』のオウムのようなものを想像していたので、完成した作品を見て驚いたという。

 
■京都での撮影と日本武術の様式美
京都の松竹撮影所を中心に行われた撮影は真冬に行われ、劇中降っている雪は本物だそうだ。年末の撮影所では餅つきをしていて、お餅をご馳走してもらって嬉しかったというDEAN FUJIOKA。日本武術の様式美を教えてもらい、別のクルーの人たちと一緒に素振りもしたと懐かしそうに語る。そこで、DEAN FUJIOKA自前の武器を持ち出し、この日来場していたアクション俳優と殺陣を披露。DEAN FUJIOKAの生アクションを近くで見られて、観客も興奮気味。

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■他人とは思えぬ“もののけ”と忍者に親近感
DEAN FUJIOKAは、“もののけ”も忍者も陰の存在で、世の中に認められず孤独に生きている覚悟が心に沁みると振り返り、伝蔵役をまた演じたいと希望。落合監督も、伝蔵が自分の居場所を求めているのに対し、藩のために人身御供になろうとしているお姫様もモンスターも忍者も、同じ立ち位置にいるという。DEAN FUJIOKAと落合監督は海外で長く暮らしてきて、こうしたキャラクターたちと共通するものを感じたようだ。DEAN FUJIOKAも、「5年前、なぜ落合監督に声をかけたのか今分かった。他人とは思えぬ何か共感するものを感じたからだ」と振り返った。


日本公開は、海外での映画祭のスケジュールによるので未定。細かな歴史的考察とファンタジックなシーンをミックスさせた新しい忍者映画に、乞うご期待下さい。

(河田 真喜子)

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プロデューサーが語る異色吸血鬼ムービー秘話とオーストリア映画事情『吸血セラピー』トークショー@第7回京都ヒストリカ国際映画祭
登壇者:アレクサンダー・グレア氏(プロデューサー) 
    ミルクマン斉藤氏(映画評論家)
 
10月31日から開催中の第7回京都ヒストリカ国際映画祭。2日目となる11月1日は、ヒストリカワールドより『吸血セラピー』(14 オーストリア=スイス)、『フェンサー』(15 ドイツ=エストニア=フィンランド)、『千年医師物語~ペルシアの彼方へ~』(13 ドイツ)の3本が上映され、上映後には映画評論家ミルクマン斉藤氏によるトークショーが開催された。
 
ミルクマン斉藤氏曰く「ヒストリカは歴史映画かと思うギリギリのところを狙ってくる面白い作品が多く、『吸血セラピー』もその部類」と太鼓判を押した作品。ゲストとして、オーストリアより同作のプロデューサー、アレクサンダー・グレア氏を迎えて行われた『吸血セラピー』トークショーでは、冒頭に「オーストリアの映画製作者として地球を半周した日本でこの映画を観てもらえるのはうれしい。作った甲斐があった」と喜びの挨拶をしてから、1930年代のウィーンを舞台にした吸血鬼コメディーの発想のきっかけや、オーストリア映画事情、作品中の諸設定についてミルクマン斉藤氏と興味深いトークを繰り広げた。その内容をご紹介したい。
※『吸血セラピー』をはじめとする、ヒストリカワールド作品は、11月7日(土)22:30より京都みなみ会館で「ヒストリカ・ワールド4作品オールナイト上映」と題した再上映あり。
 
 
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<ストーリー>
1930年代ウィーン、フロイトはミステリアスな伯爵を患者として迎えるものの、彼が語る妻の愚痴や悩みに、腕のいい画家の卵ヴィクトールを紹介し、伯爵夫人の肖像画を描かせることを提案する。ヴィクトールはモデルのルーシーのことが好きだが、伯爵と姿を消したルーシーに疑惑の目を向ける。一方、伯爵はルーシーに何百年も前に別れた最愛の人の面影を重ねていた。そう、伯爵夫妻は500年もの夫婦生活を続ける超倦怠期バンパイア―夫妻だったのだ。
 

―――グレアさんは本作のプロデューサーとのことですが、かなり精力的に映画を制作されているそうですね。
アレクサンダー・グレア氏(以下グレア氏):ノボトニー&ノボトニー社の社員です。社名となっている社長のノボトニ―氏は、70年代から監督として活躍している方で、私は2007年に入社し、今は一緒に映画を作る仕事をしています。ノボトニー&ノボトニーという社名なのは夫婦でやっているからですが、今はノボトニ―フィルムプロダクションというCMに特化した会社を奥さんが経営しており、夫である監督の方は芸術映画作るという形で、完全に分業した映画制作会社になっています。
 
―――日本でオーストリア映画をなかなか見る機会はありませんが、デイヴィット・リューム監督のバックグラウンドは? 
グレア氏:デイヴィット・リューム監督は両親も芸術肌です。父親は作家で、ウィーンの文学界で70年代に革命を起こしたメンバーの一人ですし、母親はポーランドが東西に分割されていた頃の東側に属するポーランド人で、オペラ歌手です。監督自身も幼い頃はウィーン少年合唱団で歌っていたこともあり、芸術的バックグラウンドを持ちかつ、東西分割時の雰囲気を受け継いでいる家庭に育っています。この映画の中でもその要素を散りばめているのが分かります。ロマン・ポランスキーもそうですが、ポーランドは共産主義の中で独特のコメディーを作る要素があります。
 
作家ということで言えば、映画の中で文学的に面白い対話がされており、それは父親の影響が反映されています。フロイトが夢を見る錠剤をいくつか飲み、分からない言葉をしゃべるくだりがありますが、それは父親が作った実際の作品です。
 
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―――日本でも映画だけでは食べていけず、CM製作などをすることが多いですが、オーストリアの映画事情は?
グレア氏:オーストリアは、昔は大帝国で文化が花咲いていたのに、第二次世界大戦後、重要な国ではなくなっていると皆認識しています。「昔はすごかった」と嘆くことを我々はオーストリア病と呼んでいます。映画は新しい分野の芸術で、最初は娯楽から始まりましたが、70-80年代、オーストリアの一つの文化となりうるべきではないかという考え方が出てきました。また、80年代には、フランスを中心にヨーロッパでも映画を社会で育てていこうという政策がありました。オーストリアは人口が800万人と少ないですし、そこだけで上げられる収益も少なく、いつもどうやって次の作品のお金を作ろうかと画策しています。オーストリアはドイツ語をしゃべるのですが、かなり方言がキツく、ドイツ人は我々がしゃべるドイツ語をかなり分かりにくいと思っているようなので、この作品では、あえて伯爵は標準ドイツ語をしゃべらせ、ドイツでも作品を受け入れてもらえるようにしています。
 
ただ、人口が少ないことは裏返せば、市場に迎合せず、実験的な作品にも挑戦できるということです。大衆向けではなく自分たちの活路を見い出しています。現在ポストプロダクション中のエゴン・シーレを描いた作品もその中に入るでしょう。
 
―――1932年という時代設定にした理由は?
グレア氏:何年もかけて作られる間に、紆余曲折がありました。リューム監督は最初、精神科医のフロイトに焦点を当てることを考えていました。監督自身もユダヤ人のバックグラウンドがあり、フロイトもユダヤ人ですから。ただ、そこに焦点を当てるとコメディーが成り立ちません。また、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期だと、自動車は登場させられるけれど、まだものすごく交通機関が便利になったわけではない。また登場する景色も現存のものが使える等総合して考え併せた結果、このような設定になった訳です。
 

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―――第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期という設定で、少し世紀末的なコメディーになっていますね。
グレア氏:ナチスが台頭しかける時代でもあり、飲み屋から二人の酔っ払いが出てくるところは、台頭するナチスに心酔する人を皮肉る意味も込めて登場させています。フロイトが吸血鬼というものに実際に関心を持っていたのは事実です。吸血鬼は不死で孤独な存在です。アメリカに興味深い研究結果があるのですが、民主党の人が大統領になると吸血鬼を扱う映画が、共和党の人が大統領になるとゾンビ映画が増えるそうです。吸血鬼は個人主義の台頭、ゾンビは大量の人が同じ方向を向くということで映画の傾向で、次の大統領選が分かるという見方もあるかもしれません。
 
―――吸血鬼は東欧からヨーロッパ文明の退廃の象徴のように思いますが、この作品に吸血鬼を取り入れた理由は?
グレア氏:私はオーストリア南部のシュタイマルク地方の出身ですが、そこにあるお城に伝わる本に吸血鬼伝説があります。ルーマニアに行けば実際にドラキュラ伯爵がいましたし、ヨーロッパの退廃というより、人間が普遍的に持つ不安や願望だと思います。不死が願望であり、誰かを噛むというのはたいてい惚れ込んだ人を噛むので、そこから悲喜こもごもが生まれ、ジレンマにも陥ります。アメリカの『トワイライト』シリーズ同様、普遍的なものだと捉えています。
 
―――吸血鬼にはいくつかお約束的な設定がありますが、数えることにこだわる吸血鬼は初めて見ました。吸血鬼の肖像画を書くときに、筆先が拒否するのも面白く、オリジナリティを感じました。このアイデアはどこから思いついたのですか?
グレア氏:吸血鬼が数えることにこだわるのは、色々な伝承にあり、それらを受け継いだものです。吸血鬼を防ぐために、数を数えて時間を稼ぐのも伝承でありますね。監督が(吸血鬼の妻が)鏡に映らないということは、絵にも書けないのではないかと考え、(妻は)うぬぼれているけれど自分の姿を確認できないという設定を絵に反映させようと、我々のアイデアを取り入れました。
 
―――伯爵を演じているのはドイツ映画ファンならなじみの深いトビアス・モレッティさんです。また『ブリキの太鼓』で主演を演じた少年(ダビッド・ベネット)が伯爵の召使役で出演しています。そのあたりのキャスティングについてお聞かせください。
グレア氏:一番最初に探したのは、ルーシー役とヴィクトール役でした。あまり名声もなく、実績がない若い年齢層から選ばなければなりません。また、ルーシーは美人だけど自己主張が強いので、この二人のやりとりが物語の肝になると思い、ここは時間をかけて選びました。トビアス・モレッティさんは以前一緒に仕事をし、今回ドラキュラ役をやってほしいと脚本を送ったところ、すんなり決まりました。
 
ダビッド・ベネットさんはスイス人で、まさに『ブリキの太鼓』で有名になりましたが、それ以来姿を現していないので、やってもらえるかどうか心配でした。今はオーストラリアで演劇の仕事をしていたので、そこまで出向き、「やりたい仕事しか受けない」と言われながらもオファーを受け入れていただけ、非常に幸運でした。ダビッド・ベネットさんは、トム・クルーズの映画にも出演しており、あの人と今回一緒に映画ができるなんてと興奮しました。
(江口由美)

<作品情報>
『吸血セラピー』
(2014年 オーストリア=スイス 1時間27分)
監督・脚本:デイヴィット・リューム
出演:トビアス・モレッティ、ジャネット・ハイン、コーネリア・イヴァンカン、ドミニク・オリー 
 
第七回京都ヒストリカ国際映画祭はコチラ 
 

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観客賞を受賞!エドアルド・ファルコーネ監督がコメディーに込めた思いとは?『神様の思し召し』(イタリア)記者会見&上映後トーク@TIFF2015
登壇者:エドアルド・ファルコーネ氏(監督/脚本) 
 

~イタリアの大ヒットコメディーが観客賞に!「映画であまり描かれていないことを撮ろうと思った」~

 
10月31日にクロージング・セレモニー授賞式が開催された第28回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のイタリア映画『神様の思し召し』(エドアルド・ファルコーネ監督)が見事、観客賞を受賞した。
 
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脚本家としてキャリアを確立させているファルコーネ監督の初監督作。完璧主義だが、傲慢で自己中心な辣腕医師トンマーゾを主人公に、将来は医者へと期待を寄せている息子の思わぬ告白から、ある神父と出会い、人生観がひっくり返される様子をコミカルに描いている。トンマーゾと結婚して以来、かつての輝いている自分が消えうせ、子どもが育った今、人知れず孤独を抱えている妻や、トンマーゾらとほぼ同居状態の能天気な娘、トンマーゾからは馬鹿にされながらも、愛嬌のある不動産業の娘婿と、家族のキャラクターも個性的。トンマーゾの態度が変わることで、家族との関係が変化していく様子も丁寧に捉え、トンマーゾと共に家族が再生していく姿も感動を呼ぶヒューマンコメディーだ。
 
10月28日に行われた記者会見の模様をご紹介したい。
 

 
(最初のご挨拶)
イタリア人はうるさいタイプの人間なので、皆静かに観ていたので好まれていないのかと思いましたが、後で楽しかったと言ってくれました。イタリア人に比べて日本人は礼儀正しいですね。
 
―――息子の部屋の後ろの棚にゴジラがありましたが、その意図は?
エドアルド・ファルコーネ監督(ファルコーネ監督):美術担当が選びました。私も映画を観たときに、なぜゴジラがあるのかと思いましたが、今(東京で)質問を受け、このためにあるのだと思いました。全てのことには理由があるんですね。
 

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―――「神が望むなら」という原題を聞くと、より深く感じられると思いました。脚本を書く段階からいわゆるコメディーで終わらせるつもりはなかったのでしょうか。
ファルコーネ監督:最初からハッピーエンドは全く考えていませんでした。イタリアではポジティブで終わるコメディーが多いですが、あまりにも当たり前なので。死によるエンディングも考えていました。ただ、そうすると映画の意味が変わってしまい、哀しみが勝ってしまうので、こういうエンディングにしました。
 
 
―――この映画を製作しようと思った経緯と、目に見えるもの(科学)と目に見えないもの(宗教)を扱おうとした理由は?
ファルコーネ監督:もともと脚本家ですが、初めて監督をやってみないかと、何でも好きなものをやっていいと言われたので、精神性、宗教について撮ろうと思いました。映画であまり扱われていないこと、個人的なことに興味がありましたから。民主的なことを言っているにも関わらず差別的な人物を揶揄するようなことも考えていました。
 
 
―――神父をだますため芝居をするシーンでは、叔父が障がい者のふりをする場面がありました。日本では物議を醸す可能性のあるシーンですが、とても面白いかったです。不快感がないように、どう面白く笑いにする演出をしたのですか?
ファルコーネ監督:あの場面で描きたかったのは、娘の夫を馬鹿にしていた主人公が、段々認めるようになってくるというコントラストです。脚本を書く際も不快感を与えないように注意しましたが、イタリアでは大げさすぎること、コメディーということ、俳優もいい役者を見つけることができたので、コミカルな笑えるシーンと捉えていただけました。日本人はセンシティブなので、気を悪くなさる方がいるのかもしれません。
 

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―――同性愛のドタバタも描かれましたが、現在のカトリック教会の状況に重なりました。監督自身はどのようにお考えですか?
ファルコーネ監督:実際イタリアのカトリック教会で強く感じられている問題で、最近も司教が、男性が好きだとカミングアウトしましたが、(それに対して)私は分かりません。もし自分が法王になることがあったら決めたいと思います。
 
 
―――敬虔な信者の方のコメントをもらったことはありますか?
ファルコーネ監督:基本的にはポジティブな意見をもらいましたが、こんなテーマで撮るなんて頭がおかしいのではないかという声もありました。カトリックの方たちにも高評価がありましたし、バチカンがお金を出しているのではないか、冒涜していると色々な意見がありました。
 
―――家族の再生も描いているように感じました。監督ご自身の体験や親子関係も反映されているのでしょうか?
ファルコーネ監督:家族のテーマはそれほど大きいものではありませんが、多くの方がその点を言ってくださるのはうれしいです。今、イタリアでは家族はネガティブに受け取られることが多いので、うれしいです。自分の父親はトンマーゾと別のタイプで、世界中を旅行し、全く会うことがありませんでした。私自身も自分のことに意見を求めようとすることもありませんでした。
(写真:河田真喜子、文:江口由美)
 
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<作品情報>

『神様の思し召し』
(2015年 イタリア 1時間27分)
監督・脚本:エドアルド・ファルコーネ
出演:マルコ・ジャッリーニ、アレッサンドロ・ガスマン、ラウラ・モランテ、イラリア・スパーダ、エドアルド・ペーシェ、エンリコ・オティケル 
 
第28回東京国際映画祭公式サイトはコチラ 
 

his-op-550-1.jpg《第7回京都ヒストリカ国際映画祭》開幕!!

(2015年10月31日(土)京都文化博物館にて)

his-tiger-500.jpg京都ならではの歴史映画の祭典、第7回京都ヒストリカ国際映画祭が10月31日(土)、京都・三条の京都文化博物館で開幕、オープニングとして香港のヒットメーカー、ツイ・ハーク監督のアクション大作『タイガー・マウンテン~雪原の死闘』が上映された。
 

終了後には、同作品のエグゼクティブ・プロデューサー、ジェフリー・チャン氏が登場し、映画祭ナビゲーターの飯星景子さんと1時間を超える熱いトークを繰り広げ、詰めかけたファンを喜ばせた。


his-op-2-1.jpgツイ・ハーク監督とは友人でもあるジェフリー・チャン・プロデューサーは「監督が70年代にアメリカ留学していたころ、ニューヨークの街で中国伝統の“プロパガンダ映画”を見て、リメイクしたい、と考えていたようです。彼は何でも出来るし、ワーカーホリックと言えるほど働く。2Dと3D作品を同時に撮る監督は中国には彼しかいないでしょう。この映画でも雪のシーンで苦労したが、期待出来る映画になったと思う」と称えていた。
 

 

his-ougonjou.jpg初日は午後5時からインドネシアで大人気の武侠映画『黄金杖秘聞』を上映。観客は迫力満点のアクションを堪能していた。


ヒストリカ映画祭は“世界で唯一”歴史をテーマにした映画祭で、世界の最新歴史映画を集めて上映する。7回目の今回は、初の試みとして京都・太秦撮影所製作のテレビ時代劇特集など、11月8日まで9日間で全26作品を文化博物館、京都みなみ会館の2会場で上映する。

(安永 五郎)

★公式サイト⇒ http://www.historica-kyoto.com/