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プロデューサーが語る異色吸血鬼ムービー秘話とオーストリア映画事情『吸血セラピー』トークショー@第7回京都ヒストリカ国際映画祭

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プロデューサーが語る異色吸血鬼ムービー秘話とオーストリア映画事情『吸血セラピー』トークショー@第7回京都ヒストリカ国際映画祭
登壇者:アレクサンダー・グレア氏(プロデューサー) 
    ミルクマン斉藤氏(映画評論家)
 
10月31日から開催中の第7回京都ヒストリカ国際映画祭。2日目となる11月1日は、ヒストリカワールドより『吸血セラピー』(14 オーストリア=スイス)、『フェンサー』(15 ドイツ=エストニア=フィンランド)、『千年医師物語~ペルシアの彼方へ~』(13 ドイツ)の3本が上映され、上映後には映画評論家ミルクマン斉藤氏によるトークショーが開催された。
 
ミルクマン斉藤氏曰く「ヒストリカは歴史映画かと思うギリギリのところを狙ってくる面白い作品が多く、『吸血セラピー』もその部類」と太鼓判を押した作品。ゲストとして、オーストリアより同作のプロデューサー、アレクサンダー・グレア氏を迎えて行われた『吸血セラピー』トークショーでは、冒頭に「オーストリアの映画製作者として地球を半周した日本でこの映画を観てもらえるのはうれしい。作った甲斐があった」と喜びの挨拶をしてから、1930年代のウィーンを舞台にした吸血鬼コメディーの発想のきっかけや、オーストリア映画事情、作品中の諸設定についてミルクマン斉藤氏と興味深いトークを繰り広げた。その内容をご紹介したい。
※『吸血セラピー』をはじめとする、ヒストリカワールド作品は、11月7日(土)22:30より京都みなみ会館で「ヒストリカ・ワールド4作品オールナイト上映」と題した再上映あり。
 
 
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<ストーリー>
1930年代ウィーン、フロイトはミステリアスな伯爵を患者として迎えるものの、彼が語る妻の愚痴や悩みに、腕のいい画家の卵ヴィクトールを紹介し、伯爵夫人の肖像画を描かせることを提案する。ヴィクトールはモデルのルーシーのことが好きだが、伯爵と姿を消したルーシーに疑惑の目を向ける。一方、伯爵はルーシーに何百年も前に別れた最愛の人の面影を重ねていた。そう、伯爵夫妻は500年もの夫婦生活を続ける超倦怠期バンパイア―夫妻だったのだ。
 

―――グレアさんは本作のプロデューサーとのことですが、かなり精力的に映画を制作されているそうですね。
アレクサンダー・グレア氏(以下グレア氏):ノボトニー&ノボトニー社の社員です。社名となっている社長のノボトニ―氏は、70年代から監督として活躍している方で、私は2007年に入社し、今は一緒に映画を作る仕事をしています。ノボトニー&ノボトニーという社名なのは夫婦でやっているからですが、今はノボトニ―フィルムプロダクションというCMに特化した会社を奥さんが経営しており、夫である監督の方は芸術映画作るという形で、完全に分業した映画制作会社になっています。
 
―――日本でオーストリア映画をなかなか見る機会はありませんが、デイヴィット・リューム監督のバックグラウンドは? 
グレア氏:デイヴィット・リューム監督は両親も芸術肌です。父親は作家で、ウィーンの文学界で70年代に革命を起こしたメンバーの一人ですし、母親はポーランドが東西に分割されていた頃の東側に属するポーランド人で、オペラ歌手です。監督自身も幼い頃はウィーン少年合唱団で歌っていたこともあり、芸術的バックグラウンドを持ちかつ、東西分割時の雰囲気を受け継いでいる家庭に育っています。この映画の中でもその要素を散りばめているのが分かります。ロマン・ポランスキーもそうですが、ポーランドは共産主義の中で独特のコメディーを作る要素があります。
 
作家ということで言えば、映画の中で文学的に面白い対話がされており、それは父親の影響が反映されています。フロイトが夢を見る錠剤をいくつか飲み、分からない言葉をしゃべるくだりがありますが、それは父親が作った実際の作品です。
 
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―――日本でも映画だけでは食べていけず、CM製作などをすることが多いですが、オーストリアの映画事情は?
グレア氏:オーストリアは、昔は大帝国で文化が花咲いていたのに、第二次世界大戦後、重要な国ではなくなっていると皆認識しています。「昔はすごかった」と嘆くことを我々はオーストリア病と呼んでいます。映画は新しい分野の芸術で、最初は娯楽から始まりましたが、70-80年代、オーストリアの一つの文化となりうるべきではないかという考え方が出てきました。また、80年代には、フランスを中心にヨーロッパでも映画を社会で育てていこうという政策がありました。オーストリアは人口が800万人と少ないですし、そこだけで上げられる収益も少なく、いつもどうやって次の作品のお金を作ろうかと画策しています。オーストリアはドイツ語をしゃべるのですが、かなり方言がキツく、ドイツ人は我々がしゃべるドイツ語をかなり分かりにくいと思っているようなので、この作品では、あえて伯爵は標準ドイツ語をしゃべらせ、ドイツでも作品を受け入れてもらえるようにしています。
 
ただ、人口が少ないことは裏返せば、市場に迎合せず、実験的な作品にも挑戦できるということです。大衆向けではなく自分たちの活路を見い出しています。現在ポストプロダクション中のエゴン・シーレを描いた作品もその中に入るでしょう。
 
―――1932年という時代設定にした理由は?
グレア氏:何年もかけて作られる間に、紆余曲折がありました。リューム監督は最初、精神科医のフロイトに焦点を当てることを考えていました。監督自身もユダヤ人のバックグラウンドがあり、フロイトもユダヤ人ですから。ただ、そこに焦点を当てるとコメディーが成り立ちません。また、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期だと、自動車は登場させられるけれど、まだものすごく交通機関が便利になったわけではない。また登場する景色も現存のものが使える等総合して考え併せた結果、このような設定になった訳です。
 

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―――第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期という設定で、少し世紀末的なコメディーになっていますね。
グレア氏:ナチスが台頭しかける時代でもあり、飲み屋から二人の酔っ払いが出てくるところは、台頭するナチスに心酔する人を皮肉る意味も込めて登場させています。フロイトが吸血鬼というものに実際に関心を持っていたのは事実です。吸血鬼は不死で孤独な存在です。アメリカに興味深い研究結果があるのですが、民主党の人が大統領になると吸血鬼を扱う映画が、共和党の人が大統領になるとゾンビ映画が増えるそうです。吸血鬼は個人主義の台頭、ゾンビは大量の人が同じ方向を向くということで映画の傾向で、次の大統領選が分かるという見方もあるかもしれません。
 
―――吸血鬼は東欧からヨーロッパ文明の退廃の象徴のように思いますが、この作品に吸血鬼を取り入れた理由は?
グレア氏:私はオーストリア南部のシュタイマルク地方の出身ですが、そこにあるお城に伝わる本に吸血鬼伝説があります。ルーマニアに行けば実際にドラキュラ伯爵がいましたし、ヨーロッパの退廃というより、人間が普遍的に持つ不安や願望だと思います。不死が願望であり、誰かを噛むというのはたいてい惚れ込んだ人を噛むので、そこから悲喜こもごもが生まれ、ジレンマにも陥ります。アメリカの『トワイライト』シリーズ同様、普遍的なものだと捉えています。
 
―――吸血鬼にはいくつかお約束的な設定がありますが、数えることにこだわる吸血鬼は初めて見ました。吸血鬼の肖像画を書くときに、筆先が拒否するのも面白く、オリジナリティを感じました。このアイデアはどこから思いついたのですか?
グレア氏:吸血鬼が数えることにこだわるのは、色々な伝承にあり、それらを受け継いだものです。吸血鬼を防ぐために、数を数えて時間を稼ぐのも伝承でありますね。監督が(吸血鬼の妻が)鏡に映らないということは、絵にも書けないのではないかと考え、(妻は)うぬぼれているけれど自分の姿を確認できないという設定を絵に反映させようと、我々のアイデアを取り入れました。
 
―――伯爵を演じているのはドイツ映画ファンならなじみの深いトビアス・モレッティさんです。また『ブリキの太鼓』で主演を演じた少年(ダビッド・ベネット)が伯爵の召使役で出演しています。そのあたりのキャスティングについてお聞かせください。
グレア氏:一番最初に探したのは、ルーシー役とヴィクトール役でした。あまり名声もなく、実績がない若い年齢層から選ばなければなりません。また、ルーシーは美人だけど自己主張が強いので、この二人のやりとりが物語の肝になると思い、ここは時間をかけて選びました。トビアス・モレッティさんは以前一緒に仕事をし、今回ドラキュラ役をやってほしいと脚本を送ったところ、すんなり決まりました。
 
ダビッド・ベネットさんはスイス人で、まさに『ブリキの太鼓』で有名になりましたが、それ以来姿を現していないので、やってもらえるかどうか心配でした。今はオーストラリアで演劇の仕事をしていたので、そこまで出向き、「やりたい仕事しか受けない」と言われながらもオファーを受け入れていただけ、非常に幸運でした。ダビッド・ベネットさんは、トム・クルーズの映画にも出演しており、あの人と今回一緒に映画ができるなんてと興奮しました。
(江口由美)

<作品情報>
『吸血セラピー』
(2014年 オーストリア=スイス 1時間27分)
監督・脚本:デイヴィット・リューム
出演:トビアス・モレッティ、ジャネット・ハイン、コーネリア・イヴァンカン、ドミニク・オリー 
 
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