映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2014年8月アーカイブ

babel-s550-2.jpg『バベルの学校』
La Cour de Babel

監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
出演:ブリジット・セルヴォー二
2013/フランス/89分/ビスタ/5.1ch 配給:ユナイテッド・ピープル
2015年年始公開

© Pyramide Films




babel-2.jpg フランスには、”Classe d'accueil”と呼ばれるクラスが学校に設けられている。他国からフランスに移住してきたフランス語を母語としないこどもたちが、不自由なくフランスで生活し、フランスで教育を受けることができるよう、フランス語学習を強化した特別クラスだ。ジュリー・ベルトゥチェリ監督は、このクラスの日常を、自然なかたちでカメラにおさめた。年代は11歳〜15歳。アイルランド、セネガル、ブラジル、モロッコ、中国……出身国も違う、言語も違う、宗教も違うといった、さまざまな事情を抱える24人の生徒たちと、彼らの自立と成長を見守るブリジット・セルヴォニ先生との交流、そのありのままの姿が、8ヶ月にわたって語られる。

 テレビのドキュメンタリー番組を数多く手がけるベルトゥチェリ監督は、初の長編映画『やさしい嘘』では、2003年度カンヌ国際映画祭の国際批評家週間で大賞を受賞するという経歴も併せ持っている。 

 上映終了後にジュリー・ベルトゥチェリ監督と、ブリジット・セルヴォニ先生の二人が登壇、東京国際映画祭プログラミングディレクター・矢田部吉彦さんの司会で、Q&Aが行われた。
 



babel-s2.jpg――― 監督の映画を観るのは、『やさしい嘘』、『パパの木』に続き、今回が3回めになります。どの作品にも「命の大切さ」という共通のテーマが感じられます。この『バベルの学校』では、フランス語が話せなかったらフランスで生活ができず、自分の国に帰ると今度は命が危険にさらされてしまうこどももいましたが・・・?

ベルトゥチェリ監督:常に死と生を考えてはいますが、今回は特に意識はしませんでした。ただ、この作品にはつらい経験をしてきたこどもたちも登場し、必然的に『死』は反映されていると思います。試練を乗り越えたこどもたちから、そんな命の大切さを感じていただけたとしたら、嬉しいです。

――― ブリジット・セルヴォニ先生に質問します。毎週土曜日、外国にルーツを持つこどもたち(小学生〜高校生)の学習支援をしている者です。『バベルの学校』はフランスの映画ですが、日本も同じような状況にあると感じます。両親と離ればなれで暮らしていたこどもが、ようやく親から呼び寄せられたり、将来のことを考えて母国から離れてやってくるこどもたちが日本にもいます。そんな生徒たちに接するにあたり、どのようなことを心がけ、どのように接していけばよいか教えていただけますか?

babel-s3.jpgセルヴォニ先生:第一に、生徒たちの声を聞くことです。そして、生徒を励ますこと。その子の価値を引き出して自信を持たせてあげること、この3つが大切なことです。

ベルトゥチェリ監督:ブリジット(セルヴォニ先生)は、決して成績の良し悪しにはこだわりません。テストの点が悪かった場合は、教師の説明が悪かったからと考える人です。そして2−3週間後にもう1度テストをし、それでも悪ければ3回めをする。そして3回の中でいちばん高い点数を成績に反映するという方法を取っていました。そういうところがすばらしいですし、教育とは本来そういうものだと思います。

―――(司会の矢田部さんより質問)映画の中で、生徒たちが宗教について語るシーンがありましたね?

セルヴォニ先生:フランスでは、宗教を教育の場に持ち込むことを禁止しています。しかし、生徒たちの中から今ある問題を引き出し、異なる宗教を持つ人を理解できるようになってほしいと考えました。喧嘩ではなく、議論をすることによって相手の立場を考え、一緒に生活していくにはどうしたらよいか学んでもらおうとして、このような方法になりました。

babel-1.jpg――― 生徒たちの表情がとても自然でした。カメラの前でプレッシャーはなかったのでしょうか。監督はどのように撮影されたのですか?

ベルトゥチェリ監督:まず、自分のことを話し、生徒たちと信頼関係を築くことから始めました。監督である私自身が肩にカメラを乗せ、生徒と適度な距離をとりながら撮影しました。ドキュメンタリーは、被写体から自然にわき上がってくるものを撮るものと思っているので、インタビューは行わずに、自然発生した動きを私が拾っていきました。

――― 2年前に撮影されたかと思うのですが、生徒たちとは、その後も連絡は取り合っているのでしょうか?

セルヴォニ先生:生徒と先生の絆が強いクラスなので、卒業後も連絡を取り合っています。また、生徒たちも勉強を続けています。

 フランスにいてさみしいといっていた子も幸せな生活を送り、落第しかけた子も進級できた。3人ほど、故郷の国に帰ったこどもたちがいたが、生徒同士も、FacebookやEメールで連絡を取り合っているという。

「10年後の彼らを撮りたい」と、ベルトゥチェリ監督は語り、Q&Aは終了した。



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 初めて教室でカメラを回したときは、戸惑いがちの生徒もいた。しかし、10月からの8ヶ月間、週2-3回のペースで学校に通いながら、ベルトゥチェリ監督は、生徒たちとの信頼関係を少しずつ築き上げてきた。自分自身のこと、どのような作品をめざしているかなど、監督は生徒たちに根気よく説明をした。生徒たちがカメラの前でも自然に振る舞えたのは、このような日常があったからだ。

 ある朝、ブリジット先生から電話が入る。「急に転校することになった生徒がいる」と。ベルトゥチェリ監督は朝食の支度を中断し、カメラをかついで学校に向かった。感動的なシーンの数々は、ブリジット先生の理解と協力があってこそだった。ブリジット先生のこんな気配りは、本編にちりばめられたさまざまなシーンからも容易に知ることができる。そして、映画祭上映後のQ&Aで、「生徒たちへどのように接するべきか」という観客からの問いに対する、先生の答えが心に残る。「生徒の話を聞くこと。生徒を励ますこと。その子の価値を引き出して自信を持たせてあげること、この3つです」。

『バベルの学校』は2015年新春、日本での順次公開が予定されている。

(田中 明花) 

greatdays-b-550.jpg『グレートデイズ!-夢に挑んだ父と子-』ティーチイン レポート 《フランス映画祭2014》

 

■日時:2014年6月27日(金)20:00
■場所:有楽町朝日ホール
■登壇者:ニルス・タヴェルニエ監督 ファビアン・エロー(ジュリアン役) 
フィリップ・ボエファール(プロデューサー)

『グレートデイズ!-夢に挑んだ父と子-』 
(2014年 フランス 1時間30分)
監督:ニルス・タヴェルニエ(『エトワール』『オーロラ』)
出演:ジャック・ガンブラン(『クリクリのいた夏』『刑事ベラミー』『最初の人間』)、アレクサンドラ・ラミー(『Rickyリッキー』『プレイヤー』)、ファビアン・エロー
提供:ギャガ/カルチュア・パブリッシャーズ  配給:ギャガ
2014年8月29日(金)~全国ロードショー

★作品紹介⇒ 映画レビュー
★公式サイト⇒ http://greatdays.gaga.ne.jp/

(c)2014 NORD-OUEST FILMS PATHE RHONE-ALPES CINEMA


  

~澄んだ瞳が導く、家族の再生と夢の実現~

 

greatdays-550.jpg 《フランス映画祭2014》のオープニングを飾った『グレートデイズ!-夢に挑んだ父と子-』は、障害を抱えながらも夢に挑むことで崩壊寸前の家族を再生させ、またいろんな障害を持つ仲間たちに勇気を与えた感動作である。ストーリーだけを追う人にとっては、親子でハンディを乗り越えてアイアンマンレースに挑むというシンプルな構成を、ありふれた物語と捉えてしまうかもしれない。だが、この映画の素晴らしさは、一人一人の感情を瑞々しい映像で丁寧に綴って、見る者の心に新鮮な感情を浸透させていることだ。

 この映画は、ニースで開催されるアイアンマンレースのスタートから始まる。緊張みなぎる海岸に多くの出場者が黒い塊として登場し、それが一斉に海に飛び出していく。迫力ある空撮シーンから一転して、1年前のスイスと隣接する風光明媚なローヌアルプ地方のアヌシーに舞台が移る。仕事で留守がちの父親が車椅子生活を送る息子ジュリアンと正面から向き合えないでいるのに対し、いつまでも子供扱いをする母親は夫に苛立ち、夫婦関係にも溝が入る。そこで、家庭崩壊寸前を鋭く察知したジュリアンがある突飛なことを思いつく。

 親子でアイアンマンレースに出場するなんて!当然大反対する両親。それを、「ジュリアンに励まされて生きてきた」と言ってくれた姉や、ジュリアンの仲間たちがあの手この手で説得する様子が微笑ましい。特に、「夢を学ぶために学校にきている。泳ぐこと、走ること、飛ぶこと、そんな夢をジュリアンが叶えてくれる」と、いろんな障害を抱えたジュリアンのクラスメートが父親を説得するシーンがいい。

greatdays-4.jpg 体の不自由なジュリアンを引いて3.8km泳いで、180kmを自転車で走って、さらに42.195kmをランニングするなんて、過酷過ぎる。それでもトレーニングを重ねる親子は、次第に信頼し合えるようになる。今までジュリアンを保護してきたつもりが、いつの間にかジュリアンに助けられていることに気付いていく両親。家族にとって守護天使のようなジュリアンの澄んだ瞳に、心が洗われるような清々しい映画だ。
 


 本編上映終了後、舞台上にニルス・タヴェルニエ監督、主人公ジュリアンを演じたファビアン・エロー、そして、プロデューサーのフィリップ・ボエファールが登場。満席の客席から大きな拍手で歓迎を受け、和やかな雰囲気の中、Q&Aが始まった。

 
――― 本作の企画経緯について?
タヴェルニエ監督:トライアスロンは美術的に美しく、まず、息子と父がスポーツを通して何かすることを思いつきました。脚本執筆後、キャスティングには必ず実際にハンディキャップを持つ青年を起用したいとプロデューサーに伝えていました。

プロデューサー:私は監督に信頼を置いていました。彼は数年前に障害をもった人たちに関するドキュメンタリーを撮っており、今回フィクションを撮るにしても、そういう方たちに対する誠実さがあると感じたのです。彼の提案から本物の誠実さやパワー、真実から感動が生まれると思いました。ファビアンには障害があるけれど、そこから真実が生まれたのです。

greatdays-b-2.jpg――― 転ぶシーンはスタントなしだったのですか?レースのための特訓や、レース中のシーンに関して?
ファビアン:転ぶシーンはスタントを使って撮ってもらいました。もし本当に僕が演じていたら、ここには居なかったでしょう(笑)。大変でしたが、喜びでもありました。スタッフも助けてくれましたし、僕自身が努力した結果がスクリーン上に表れていると思いませんか?――(会場から拍手)

――― ファビアンをキャスティングした理由は?
タヴェルニエ監督:彼は並外れた青年です。ベルギー国際映画祭で、ベテラン俳優を差し置いて主演男優賞を受賞したのです。5か月かけてようやくファビアンに出会い、役者としての演技に到達するまで4か月の演技指導を受けてもらいました。もしこの会場に映画監督がいたら、ぜひファビアンを起用してください(笑)。彼は時間に正確だし、セリフもしっかり覚えて来る、とても優秀な俳優です。

greatdays-b-3.jpg――― それぞれの印象に残っているシーンについて?
タヴェルニエ監督:申し訳ないですが、ひとつの場面だけには絞れないですね(笑)何よりも幸せだと思うのは、今ファビアンと一緒にこの舞台に上がっていることです。そして、もうひとつ誇りに思うのは、プロデューサーのフィリップが私を信じて支えてくれたことです。この映画のために資金を集めて、「製作できるよ」と言ってくれた時は、とても感動しました。

ファビアン:ジュリアンが両親に反発して家出するシーンですね。あの場面を演じるのは難しかったです。迎えにきた父親に対して「自立するんだ!」という強い想いを吐き出さなければならなかったのです。それまでの人生ではあまりない経験だったので難しいシーンでしたが、忘れられない場面になりました。

プロデューサー:一番初めに撮影したアイアンマンレースのスタートシーンです。実際のレースを利用して撮影を行なったのですが、朝の6時、2700人の参加者が待機している緊張する中で、ファビアンも埋もれて座っていました。映画初体験のファビアンをスタッフ一同が見守る中、(父親役の)ジャック・ガンブランとファビアンが交わした視線が素晴らしい力強さで、「なんて感動的なんだ!」と言うくらい本当の親子のような関係が生まれたと感じました。

(河田 真喜子)