10月31日に開幕し、従来通りのスタイルで劇場上映を行う他、映画人たちのオンライン交流ラウンジや参加作品監督によるQ&Aを行うオンライントークサロンを並行して開催した第33回東京国際映画祭。最終日の11月9日にクロージングセレモニーが開催され、本年度唯一の価値ある賞となる観客賞に大九明子監督『私をくいとめて』が見事輝いた。
舞台に登壇した大九明子監督は「3年前に『勝手にふるえてろ』で観客賞を頂戴したときと世界は全く違っているし、この映画祭も全く違う形となりました。いろいろな映画祭がリモートや配信で行う中でTIFFが実際にお客様をお入れし、同じ劇場で同じ時間で一緒にスクリーンに向かって映画を観るという体験を実現させたのは本当に素晴らしいこと。まだまだ出歩くことが安心できない不安な中で、チケットを取って劇場まで足を運んで映画をご覧いただき点数を入れてくださった、お一人お一人の貴重な一票が私どもにこの賞をくださったと、いつも以上に感慨ひとしおです。早くひとりひとりのお客さんと直接握手をしたり、お話をしたりできれば良いなとお祈りしております」と挨拶。
主演ののんは「このような素敵な賞をいただきありがとうございます。今年は唯一の賞ということで、観客の皆さんに応援いただいた作品ということに嬉しく思っております。何年振りかの主演映画で大九監督に呼んでもらいこの映画に参加させていただき、本当に心から喜びでいっぱいです。映画というのは観客の方々に見ていただいて初めて完成するものだと思います。今回この賞を大切に受け止めたいと思っています」と喜びを表現した。また、この日残念ながら登壇できなかったキャストからのメッセージが寄せられ、
「劇場に足を運んで投票してくださった皆様、心より感謝申し上げます。ありがとうございます。この作品の細部に散りばめられた監督やスタッフの皆さんの強いこだわり、そして情熱が多くの人に届いたんだなと思うと嬉しい気持ちでいっぱいです。スクリーンから大九組のあのワクワクする空気感を皆さんにもっと味わって頂ける日を楽しみにしています」(林遣都スピーチ代読)
「見てくださった皆様のお力添えに感謝します。この映画も、自分にとっても、映画界全体も、良き未来を作り上げていくために、大きな一歩になったと思っています。何より楽しんでいただけたことが、心から嬉しいです。また、大九監督とのんさんに、本当におめでとうって言いたいです」(橋本愛スピーチ代読)
とキャストたちの感謝と熱い気持ちが伝えられた。
セレモニー後に行われた記者会見では、大九監督がコロナ禍で中断を余儀なくされながら完成にこぎつけた本作の撮影を振り返り、「この作品は3月中旬クランクイン、4月中旬クランクアップの予定でしたが、4月の頭に緊急事態宣言が発令され、撮影中断を余儀なくされました。約2カ月ほど中断し、その間に脚本を書き直し、緊急事態宣言が明けたあとの撮影現場では毎日体温を測る、フェイスシードをつけるなど、自発的に皆で知恵を出し合い健康を守りながら撮影を敢行しました。映画館も閉まり、不要不急という言葉が飛び交いましたが、映画は不要でも不急でもないと信じ、思いたいので、今後も各製作者が細心の注意を図りながら作り続けていくべきだと信じています」。
さらに久しぶりの主演作で見事な演技をみせたのんは、自身にとっての女優業について「私は本当に女優のお仕事が大好きで、ここに一生いたいと思っています。10代の時に一度、もし女優をしていなかったら何をしていたんだろうと考えたことがありましたが何も思い浮かばず、これは自分の生きる術だと思って気持ちが固まった。主演映画というのは本当に特別。出番もセリフもたくさんあり、ずっと大好きな演技をしていられるということが至福です。また映画は、たくさんの人が一点を見つめて同じ目標に向かっていくという感覚が本当にたまらないです。もちろんくたびれることもあるけど、良いものが撮れた時の感覚は他では味わえないです」とそのやりがいを力説。
最後に、.今年の東京国際映画祭の出品作品の女性監督の割合が16.7%とまだまだ少ない現状に対し、大九監督は
「商業映画の世界に入って13年くらいになるが、当初はもっと女性のスタッフは少なかった。私が監督である時点で『この組は女性が多いな』という声が飛び交い、そのたび『地球のバランスでいったらまだまだです』と言い続けてきました。映画を作ることが唯一の欲望なので、お声かけいただけらば手をあげて走り続けてきましたが、その多くの理由は『女性の監督だからお願いしたい』というもの。女であるということが個性の一つだと言われるなんて有利だとも思っていた時期がありましたが、それも数年で終わり、だんだん腹が立ってきました。男の監督にもそれを言いますか、と。きっとこの世に生きる女性なら、そんな思いをしたことが一度でもあると思います。様々な不公平を味わってきて、振り返ると私を導いてくれた大事な人はすべて女性でした。小学校の時に作文をほめてくれたのも、四つの時から通っていた書道教室で戦争体験を楽しく話してくれて笑って生きる大切さを教えてくれた書道の先生も、商業映画の一本目を取らせてくれたプロデューサーも皆女性です。だから私はこれからも女性の後輩にはうんと優しく、たまには厳しくして、彼女たちの個性や才能を照らしていける存在に、そんな大人になりたいなと思っています」と自身のキャリアを振り返りながら、女性であることを特別視されずその才能を発揮できる環境づくりが必要であることを語った。『私をくいとめて』は、12月18日(金)より全国ロードショーされる。
©2020『私をくいとめて』製作委員会
<第 33 回東京国際映画祭 開催概要>
■開催期間: 2020 年 10 月 31 日(土)~11 月 9 日(月)
■会場:六本木ヒルズ、EX シアター六本木、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場ほか
■公式サイト:www.tiff-jp.net
©2020TIFF