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黎明期の戦場カメラマンの葛藤と、現地民との絆を描くフランス・コロンビア合作映画『戦場を探す旅』が世界初上映@第32回東京国際映画祭

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黎明期の戦場カメラマンの葛藤と、現地民との絆を描くフランス・コロンビア合作映画『戦場を探す旅』が世界初上映@第32回東京国際映画祭
 
 現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第32回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のフランス・コロンビア合作映画『戦場を探す旅』の世界初上映が行われ、記者会見ではオーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー監督(写真左)と主演のマリック・ジディさん(写真右)が登壇した。
 
 1963年メキシコ、フランスの進軍による植民地戦争の戦場写真を撮るため、将軍から依頼を受けて現地に赴いた写真家のルイ(マリック・ジディ)は、軍部から渡された地図を手に戦地を探すが、全くたどり着けない。過酷かつ孤独な旅で偶然であった現地の農民、ピント(レイナール・ゴメス)を最初はスパイと疑うが、言葉が通じないながらも、何度もピンとに救われたルイは、ピントをカメラ助手にし、二人で戦地を探す旅が始まるのだったが…。
 
 
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 黎明期の戦争カメラマンが抱える幾重もの葛藤と、敵味方を超えた友情を描く骨太な歴史ドラマ。フランス出身のオーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー監督は、「映画は知らない場所を描くことを可能にしてくれます。あえて今、自分が生きている時代、場所ではないことを描きました。当時フランスが植民地戦争に参戦した時代背景もありましたし、戦争自体を描くだけでなく、主人公のルイが自分の内面と戦う。さらには殺伐とした自然とも闘わなければならず、闘いが重なることに興味を覚えました。さらに、私は時代の先駆者に敬意を持っています。そういう先人たちは、肉体的にも精神的にも色々なものを背負っていたのです」と、初監督作で19世紀半ばを舞台に、戦争写真家という先駆者を描いた理由を明かした。
 
 

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 加えて、写真家を主人公に据えたのは、先駆者に敬意を払うことだけでなく、そこにある現実を切り取り、残す役割があるからというレルミュジオー監督。実際に、メキシコで主人公ルイは死ぬかもしれない若い兵士の写真を遺しているが、そのエピソードについては、『青い鳥』の作者として知られる詩人のモーリス・メーテルリンクが遺した文献に触発されたという。音楽については逆に、19世紀半ばの古典的雰囲気を出すのではなく、コンテンポラリーな感じを意識したそうで、「テンダースティックスが大好きで、(リードボーカルの)スチュアート・ステープルと一緒にやりたいと思い、私からオファーしました。現代的で、主人公ルイの内面部分を表現してほしいとリクエストし、使用楽器や、どの場面に音楽を使うかをやりとりしながら、自由に作ってもらいました」
 
 

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 ルイ役に没頭したというマリック・ジディさんは、黒沢清監督の『ダゲレオタイプの女』にも出演しているフランスの実力派俳優。「監督から言われたのは、ルイは、強い意志を持っているけれど、脆い部分があり、写真というツールを使って、何かに立ち向かって残そうとします。常に戦場で亡くなった息子を探し続けたり、自殺的行為になることは分かっていても、脆さを抱えながら突き進んでいく人物なのです」と人物像を説明し、劇中でも湖に浮かぶ赤い目に怯え、息子の死を受け入れられず苦悩する姿をみせている。
 
 
 
 戦争を記録するための旅の途中で待ち受ける様々な苦難、事実の捏造、味方の裏切り、そして自分自身が求めているのは本当は生ではなくて死であるということ。戦争を直接的に描かず、戦場で起こる様々な苦難にルイとピントとが立ち向かうサバイバルドラマでもある。歴史映画ならではの時間の流れや、黎明期の写真撮影の様子など、戦争の中のつかの間の日常が感じさせながら、戦争の理不尽さを突きつける意欲作だ。
『戦場を探す旅』は11/3 (日)14:30〜、11/5(火)13:00- 上映
 

 
第32回東京国際映画祭は11月5日(火)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
 
第32回東京国際映画祭公式サイトはコチラ