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「ノルウェーの今のキリスト教文化を広範囲に描きたかった」ノルウェー映画『ディスコ』ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督、主演女優が語る@第32回東京国際映画祭

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「ノルウェーの今のキリスト教文化を広範囲に描きたかった」ノルウェー映画『ディスコ』ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督、主演女優が語る@第32回東京国際映画祭
 
 現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第32回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のノルウェー映画『ディスコ』の記者会見が行われ、ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督と主演のヨセフィン・フリーダ・ペターセンさん登壇した。
 
<ストーリー>
フリースタイルディスコダンスで世界チャンピオンのミリアムは、義父がカリスマ指導者の新興宗教「フリーダム」で信徒グループリーダーを務めている。教会を誇りに思っているミリアムだったが、ダンスコンクールで演技中に倒れてしまい、家庭内不和も重なって、精神的に追い詰められていく。次第にフリーダムと距離を置いたミリアムは、心の平安をどこに求めるのか…。
 
 
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 本作を通じてノルウェーの今のキリスト教文化を広範囲に描きたかったというヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督は、「以前から健全でない環境にいる人たち、宗教やカルト教団があることは知っていたので、かなりリサーチを重ね、なるべくリアルを意識した作りにしています。最初に登場する『フリーダム』は、脱退した元信者の方の証言を取材したり、実際に集会に参加して作りました。アメリカの教会に影響を受けたヒールソンという教団が基になっています。二つ目はテレビ番組『ビジョナリー・オブ・ノルウェイ』を基にして作っています。最後の団体は完全にフィクションですが、実際に起きたことから着想を得ていますし、私がモラルの問題を感じたところでもあります」と劇中で描かれた新興宗教について説明した。
 
 

■「キリストが伝えようとしているメッセージが何も描かれていない」ことこそが、本作で描きたかったこと(シーヴェシェン監督)

 実際に、本作が公開されることによる社会的な反響も大きく、キリスト教系の新聞にも取り上げられたという。シーヴェシェン監督は「中には同じ経験をしてきたので映画にしてくれてうれしいという声もありましたが、あなたが映画で描いている問題は少数派で、構造的な問題ではないと矮小化する意見も多々ありました」と語り、様々な宗教団体とパネルディスカッションをしても核心を突くディスカッションはできず、極端な宗教団体からはネットでヘイトを掻き立てられるだけだったという。さらに「モダンな宗教団体は、口ではディベートは大歓迎と言いながら、心外だという心情は伝わってきました。キリストが伝えようとしているメッセージが何も描かれていないと指摘されましたが、それこそ私が描きたいことで、この団体たちの中にこそ、そのメッセージがないと私は思っています」と映画の狙いに触れ、密閉された社会に入った信者には多大な抑圧があり、そこでありのままの自分として生きる余白もなく、“信者として足らない”という心境に至ることを力説した。
 

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■監督が要求する芝居、映画で伝えたいメッセージに魅力を感じた(ペターセンさん)

 ミリアム役を演じたヨセフィン・フリーダ・ペターセンさんは、シーヴェシェン監督と組めることが非常に素晴らしかったと全幅の信頼を寄せながら、「体力的にも肉体的にも色々な困難が立ちはだかるだろうと思いましたが、監督が要求する芝居、映画で伝えたいメッセージに魅力を感じました」。撮影前には、シーヴェシェン監督と宗教団体の集会に行き、元信者とも話をすることで、自国で宗教団体を巡る様々な問題があることを意識するようになったという。劇中後半には、恐怖心を煽り、ミリアムを支配するセンセーショナルなシーンが含まれるが、元信者の男性の体験記をリアルに再現すべく、安全面に配慮しながら綿密な計算のもと撮影に臨んだという裏話も明かされた。
 
 取材に基づくリアルなシーンだけではなく、フィクションであることを示すため、様々な象徴的なものを挿入しながら、アートワークを使ってストーリーを推し進める工夫をしたというシーヴェシェン監督。「陳腐な日常であっても面白くするポテンシャルは各シーンにあると思っています。宗教団体の人たちは、同性愛やバイセクシュアルは許せないと言いますが、リベラルだといいながら他人を排除するおかしさを、「最後の晩餐」を模した絵作りや、様々なアートワークを使って表現しました」
 
 

■『ディスコ』は、いつも上から目線の信者たちから見た、世俗的な世界(シーヴェシェン監督)

 『ディスコ』という一見内容を全く想起させないタイトルにも、それこそが狙いだったという。シーヴェシェン監督は「表面的な入り込みやすさを示しながら、実はとてつもなくダークなところにいくことを体験させるため、このタイトルにしました。キリスト教信者から見た彼らの世界観をディスコで体現しています。つまり、あのディスコはいつも上から目線の彼らから見た、世俗的な世界なのです」
『ディスコ』は、11/5(火)17:25より上映。
 

第32回東京国際映画祭は11月5日(火)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第32回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
(江口由美)