「京都は時代劇を撮るためのプロがいる場所」無声映画時代に活躍した活動弁士の悲喜こもごもを描く周防正行監督最新作『カツベン!』で、第11回京都ヒストリカ国際映画祭開幕!
(2019.10.26 京都文化博物館)
登壇者:桝井省志氏(『カツベン!』企画)、片岡一郎氏(活動弁士)
今年で第11回を迎える京都ヒストリカ国際映画祭が、10月26日(土)京都文化博物館にて開幕した。今年は、従来のヒストリカスペシャルに加え、特別企画として、「今こそ語り合おう京都アニメーション、そして京都がアニメ文化史に刻んだ足跡を深掘りする」と題し、アニメーション草創期から京都アニメーションまでの京都発アニメを文化史の中で検証する上映&トークも開催される。
オープニングには、周防正行監督の最新作『カツベン!』が上映され、上映後オープニングセレモニーが開催された。まずは主催者を代表し、実行委員長阿部勉氏が「京都ヒストリカ国際映画祭は、映画の発祥といわれる京都で作られる映画の活性化が大きな目的で、時代劇映画を中心として、京都が積み上げてきた伝統の継承、人材育成を行なってきました。(過去)10年間の積み重ねが今年のプログラムに反映されていますし、京都がアニメ文化史に刻んだものを深掘りしています」と挨拶。引き続き、京都府副知事の山下晃正氏が「作り手の方にフォーカスしてきた我々からすれば、京都アニメーションの事件は、本当に大きなショックを受けました。京都アニメーションは非常にクリエイターの方を大事にし、クオリティの高いアニメーションを作りたいと、わざわざ京都を選び、そこでアニメーションを作ってきた。そのことが世界に広がり、映画の持っている力、人の持っている力を改めて感じました。きちんとしたものを、きちんとやり続けることが、いかに大事かを胸に刻み、これからも取り組んでいきたい。ヒストリカの中で一番思い出に残る映画祭になると思いますので、京都の映画人を叱咤激励していただきたい」と語った。
左:桝井省志さん、右:片岡一郎さん
ゲストによるフォトセッションの後、桝井省志さん(『カツベン!』企画)、片岡一郎さん(活動弁士)を迎えてのトークショーが開催された。ヒストリカの中で、時代劇の企画を活性化させるプロジェクト、京都映画企画市の企画コンペティションで選ばれた1本が『カツベン!』のシナリオだったという桝井さんは「京都で映画の企画が具体的になり、京都の撮影所で昨年撮影し、今日こちらでお披露目できたことを、大変嬉しく思っています」と今の気持ちを語った。
常にオリジナル脚本を自ら執筆してきた周防正行監督は、長い監督人生の中でも他人の脚本(監督補でもある片島章三さん)で監督するのは初めてだったという。桝井さんは「周防監督は、自分が脚本を書く時、脚本家であることを引きずり、演出家として監督する切り替えに時間がかかっていました。今回は出来上がった脚本に対し、具体的な提案をするということで、書き手の呪縛から解き放たれ、監督業に徹することができた。撮影は楽しくできていたようです」と撮影の様子を明かした。
活動弁士役の指導にあたった片岡一郎さんは、活動弁士としての活動のみならず、活動写真研究家としても有名であることに話が及ぶと、「戦前の活動弁士のレコードを3000枚ぐらい集めていたのですが、日本は地震もあり、安全に保管する責任が持てないので、きちんと保管し、公開してくださる機関を探したところ、ドイツのボン大学が全て引き受けて下さいました。今年、国から5年間で5000万円のデジタル化予算がついたそうです」と、今や国を超えて日本の活動弁士の記録を遺すことに尽力しているエピソードを披露。実際に活動弁士活動をしていても、なかなか脚光を浴びることが少ない中、「大きな仕事が来た時は、協力して(活動写真や活動写真弁士のことを後世に伝える)大きな流れを作っていくべきだと思いました」と、本作協力時の心境を語った。
また片岡さんは、活動写真小屋の看板弁士、茂木貴之役を演じた高良健吾さんへの指導を振り返り、「一線で活躍されている方の吸収力の速さには恐れ入りました。伴奏音楽と一緒に喋るわけですが、僕は弁士を始めた数年、それを聞く余裕はなかった。でも高良さんに生演奏で一度やってもらうと、なんと5分で対応されていました。本当に恐れ入りました」一方、活動弁士を夢見て、先輩弁士の真似をしながら自分流の弁士スタイルをみつけていく主人公染谷俊太郎を演じた成田凌も、撮影ですっかり活動弁士に魅了されという。「成田さんは、映画のサントラで自分の活動弁士ぶりを音にしたいということで、先日スタジオに入り、片岡さんに指導していただいて、新録音しています」と桝井さんがサントラ情報も披露した。
劇中で登場する無声映画は、全て実在の作品を、本作用に改めて撮り直し、上白石萌音、草刈民代他豪華キャストが無声映画の登場人物を演じている。桝井さんは「先輩たちのリスペクトも込めて、『十戒』『金色夜叉』『椿姫』を事前に撮影。東映のスタッフと、当時の無声映画はどうやって作られていたかを検証しながら、楽しんで作りました。それを撮り終わってから、本編の撮影に入っています」と、撮影の裏話を語った。さらに「京都は時代劇を撮るためのプロフェッショナルがいるので、東京から来た我々が時代劇を撮るといえば、極端な話、明日からでも撮れる。周防監督もまた京都で時代劇を撮りたいと言っていました」と、時代劇のプロが揃った京都での撮影に強く感銘を受けた様子。
最後に「現在のアニメの吹き替えのように、一人一役で声色掛け合い説明の活弁を再現したのは、映画初。『カツベン!』が間違いなく面白いということはご理解いただけたと思います。12月13日公開ですので、どうぞ宣伝、よろしくお願いいたします」(片岡)
「活動弁士は日本独特の文化であることを知り、日本人は本当に話芸が好きだなと思います。アニメーションの世界でも、話芸が現代につながっていると感じます。片岡さんたち(現在活動中の活動弁士)が頑張ってこられたからこそ、映画『カツベン!』ができました。カツベンは略語で正式には「活動写真弁士」と、勉強することはたくさんありますが、京都発の映画を是非応援していたただければと思います」(桝井)と観客に呼びかけた。
第11回京都ヒストリカ国際映画祭は、11月4日(月・祝)まで、京都文化博物館(3Fフィルムシアター/別館)にて開催中。
(文:江口由美 写真:河田真喜子)
第11回京都ヒストリカ国際映画祭 公式サイトはコチラ
https://historica-kyoto.com/