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言葉の意味自体を考えなくなってしまった世の中に、議論を取り戻したい 『マイ・レボリューション』ジュディス・デイビス監督インタビュー

 

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言葉の意味自体を考えなくなってしまった世の中に、議論を取り戻したい

『マイ・レボリューション』ジュディス・デイビス監督インタビュー

 
 『ウィークエンドはパリで』(13)、『ローマに消えた男』(13)などの出演や、自身が立ち上げた劇団で活動しているジュディス・デイビスの初監督&主演作『マイ・レボリューション』が、6月23日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2019 横浜で日本初上映される。
 
 ジュディス・デイビスが演じるのは、共産主義の両親に育てられた都市開発プランナー、アンジェラ。会社から解雇を言い渡されるところから始まる物語は、アンジェラの社会への憤りが家族や仲間と喧々諤々の議論にヒートアップ。さらに、社会問題を議論をするために有志と小グループを立ち上げ、お互いの意見に耳を傾ける活動も始める。結婚し、夫はサラリーマンで小さい子どもがいる姉ヌッカ、その夫ステファンとの衝突や、アンジェラが15歳の時、革命を放棄し田舎に行ってしまった母への憤りなど、アンジェラの中のさまざまなわだかまりは、議論をすることで実は相手も憤りを抑えて懸命に生きていることを目の当たりにする。憤りが募るばかりだったアンジェラの成長物語でもあり、今の時代に欠けているコミュニケーションのあり方を問う本音満載の痛快ヒューマンドラマだ。
 本作のジュディス・デイビス監督に、お話を伺った。
 

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■日頃、自分の劇団で問題意識を共有する団員と書き上げた演劇をより掘り下げて映画化。

―――初監督作ですが、以前からこの物語は構想していたのですか?もしくは、ご自身の境遇を反映させたのですか?
私は映画で女優をやっていますが、自分で立ち上げた劇団で10年以上活動しており、女優をやりつつ、脚本も書きつつ、演出もするという演劇活動がメインです。演劇では政治的な取り組みや、社会人としての仕事のスタイルの2つをメインテーマに据え、リーダーを決めず、みんなで一緒に相談しながら、脚本を書き上げて演じてます。そのやり方がしっくりきますし、問題意識を共有する仲間と演じることができるわけです。今回はこの2つのテーマに加え、人間の孤独についてや、より深く掘り下げるテーマを加えて映画で描きたいと思いました。今回、監督・脚本とクレジットされていますが、実は先ほど問題意識を共有するといった劇団員5人、つまりメラニー・ベステル(アンジェラの姉ヌッカ役)、ナディル・ムーラン(ヌッカの夫、ステファン役)、シモン・バクシ(アンジェラの父、シモン役)、クレル・ジーマ(レオノール役)と相談しながら脚本を書き、一緒に作った作品なのです。
 

 

■言葉の意味を考えなくなってしまった世の中に、日常的な議論を取り戻したい。

―――なるほど、今のお話を聞いていると、劇中でアンジェラの呼びかけで始まった「実践のための小グループ」がまさに今回の映画づくりの方法と同じですね。前のシーンでは言い争った相手も、次のシーンでは小グループの一員になり、議論に参加しています。現在、言い分が一方通行でなかなか協調できない国家間の関係を重ねると、このサブグループの活動は理想的だと感じました。

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色々なバッグラウンドや年代の人が集まって議論するというのは、本当に小さなユートピアではありますが、とても可能性を見出しています。60〜70年代はフランスでは学生運動がありましたし、アメリカではベトナム戦争に伴う反戦運動もあり、日常的に人々が議論をしたり、政治的な話を語りあっていたのですが、今や日常的に議論をするとか、政治的なことに関心を持って取り組むことなどなくなってしまいました。一つ一つの言葉も勝手に商品化され、意味をなさなくなってしまっています。例えば、本作のタイトルである「レボルーション(革命)」も全然革命家ではないような政治家が勝手に口にして、言葉の意味自体を考えなくなってしまった世の中になってしまっています。
 
映画の中で小グループが、単語を決めて、それについてどう思うか、賛成か、反対か、それはなぜかという議論をしていくことで、日常的に議論を取り戻し、政治的なことを共に考え、お互いの考えを共有することがとても重要だと思っているのです。国と国になると大きな話になりますが、市民として、小さな集まりでもいいので、週に1、2度でもいいから継続的に行うことで、議論を日常に取り戻せる。アンジェラにとってみれば、小さなユートピアをそこに見ているのです。
 
今の世の中は何もかも早く進み、リアルタイムでスマホやニュースをチェックしたり、とにかく忙しく追われ、疲れきってしまい、色々な物事を考えないようになってしまっています。少し、停止ボタンを押して立ち止まり、物事を立ち止まって考え、一つ一つの言葉が持つ意味を考えたり、自分の思いを相手に伝えて対話をすることが重要だと思ってあのシーンを描いています。
 
 

■苦痛を描く時はユーモアのある方が、鑑賞後孤独から抜け出し、今の大変な状況も笑って乗り越えられる。

―――アンジェラをはじめとする登場人物の言動を客観視してふっと笑えるようなユーモアも随所に散りばめられていますが、それはジュディス監督ご自身のアイデアですか?
演劇では皆で一緒に作り上げますし、ユーモアあってこそ乗り越えられるのも分かっていますが、映画はやはり監督である自分が主導する部分もあると分かっています。今の世の中は色々な社会的困難もありますし、ステファンのように社会システムの中で自滅しそうな人もいます。そういう苦痛や苦しみがある中、みなさんが映画を観て、映画館を出る時にエネルギーを持ってもらいたいのです。だから苦痛を描く時は、何かユーモアのある方が一緒に笑って映画館を出て行くこともできるでしょうし、孤独から抜け出し、今の大変な状況も笑って乗り越えられる。伝えたいことを表現する上で、ユーモアは重要だと思って、作品に取り入れています。それも、上から目線のユーモアではなく、自分の身に起こっていることを自虐的に捉えるので、皆、同じ船に乗った仲間のような感覚で平等に受け止め、笑えると思うのです。

 

■貧しいものを追いやる拡大の街づくりより、シンプルに隔たりをなくす街づくりに共感。

―――アンジェラは都市開発プランナーとして、人と人とをつなぐ街づくりを目指していますが、そんなアンジェラが目にする風景は高速で分断された郊外から、従来のフランスの市街地、田舎道、そして長く別れていたアンジェラの母が住む山に囲まれた風景と実に多彩です。このように様々なロケーションを映し出した意図は?
私自身、パリでもない、バンドゥ(ガラの悪い地域)でもない、パリの外れの方の20区出身で、今回映画もそこが舞台になっています。パリは歴史的に街が大きくなったときにバリアを作り、貧しい人を外に追いやる。また街が大きくなったらその周りにバリアを作り、また貧しい人を外にという風にどんどん追いやり、家賃も上がり、元々彼らが住んでいたところに住めなくなってしまう。そんな感じで作られたパリの街の外周を環状線(高速)が通り、そこがパリの境界線になっていますが、さらに大都市構想で大きな広場を作るプロジェクトも進んでいます。
 
私は境目のところに興味があり、人を分断するような街づくりは良くないと思っています。今、サルコジ政権下で打ち出されたグラン・パリ構想があるのですが、「パリ大全」の著者、エリック・アザンは人々を分断するような大きな広場を作ることに警鐘を鳴らし、よりシンプルなことをしながら隔たりをなくしていく街づくりを提唱しています。そういう考えのもと、様々な風景を映し出すことで、そこで住んでいる人たちにどんな影響を与えているのか提示したかったのです。
 
 
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■フランスでは知らない人はいない女優、ミレーユ・ペリエの出演で、時代を取り戻したような感覚に。

―――アンジェラが革命を放棄したと思っていた母との再会は、とても穏やかで、母娘二人のシーンは、映画の中で最も静かで美しいシーンでした。キャスティングも含め、これらのシーンの狙いを教えてください。
アンジェラの母を演じたのはミレーユ・ペリエで、フィリップ・ガレル監督作(『ギターはもう聞こえない』)にも出演しており、フランスでは知らない人はいない女優です。ある時代を象徴する女優で、彼女が登場することにより、フランスの歴史を彷彿させるような、とても重要な役割です。映画が淡々としてくる中で、彼女のシーンだけは少しファンタジーがかった感じにしたいという意図もありました。最初、母の存在が写真などのアーガイブ的なものであったのが、手紙が出てきたり、ナレーションが聞こえたり、だんだんと母を辿っていき、ついに本当の母が出てくるような演出にしています。ミレーユさんが登場すると、フランス人はその時代を取り戻したような感覚にもなりますし、私にとってもミレーユさんは理想的な人でした。アンジェラは現実の中で色々な出会いを経ていきますが、彼女にとっても母と再会するということはある種ファンタジー的な意味合いもあり、そういう重要な役割をぜひミレーユさんに演じてもらいたかったのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『マイ・レボリューション』(2018年 フランス 88分)
監督・脚本:ジュディス・デイビス: 
出演:ジュディス・デイビス、クレア・ドゥーマス、メラニー・ベステル
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス