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女性限定のホームレス用シェルターを舞台にした社会派コメディー 『社会の片隅で』ルイ=ジュリアン・プティ監督インタビュー

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『社会の片隅で』ルイ=ジュリアン・プティ監督インタビュー
 
女性限定のホームレス用シェルターを舞台に、そこに通う居場所も仕事もないホームレスの女性たちと、彼女たちの生活基盤を作るために奔走する職員たちの奮闘ぶりを描いたルイ=ジュリアン・プティ監督の社会派コメディ『社会の片隅で』が、6月22日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2019 横浜で日本初上映される。
 
オドレイ・ラミー、コリンヌ・マシエロ、ノエミ・ルヴォヴスキらフランスのベテラン女優たちが女性限定ホームレスシェルターに援助を求めてやってくる女性たちの支援をするため奔走する本作。様々な事情を抱えた年齢層もバラバラの女性たちが、仕事や住む場所を探す姿を、ユーモアを交えながらパワフルに描く力強い女性映画。紆余曲折を経て、彼女たちがみせる目の輝きは、大きな感動を呼ぶことだろう。
本作のルイ=ジュリアン・プティ監督に、お話を伺った。
 

―――社会の中で居場所がない弱者の女性たちと彼女たちを支援するシェルターの女性たちが、働きかけ合いながら、自信を取り戻し、自立する様子を、一人一人実に丁寧に、そしてユーモアをもって力強く描かれており、感動しました。この物語は元々テレビドキュメンタリーだったそうですね。
元々はコレール・ダ・ジューニさんのテレビドキュメンタリー作品でしたが、それはこの作品のメインキャストでもあるホームレスシェルターを運営している職員のジュリー、カトリーヌを含む3人の女性が登場し、そこでの対立が描かれるとても厳しい内容のものでした。コレールさんはこのドキュメンタリーを作った経験を本にまとめたのですが、そこにはユーモアも加えられた内容になっていたのです。その本を手にコレールさんが私を訪れ、映画化できないかと打診してくれました。
 

■厳しい社会の面を映画のテーマとして結びつけるにはコメディーしかない。

―――内容もドキュメンタリーのようにリアルなエピソードが随所に見られましたが、脚本を書くにあたり、どれぐらいリサーチをしたのですか?
映画を撮ることになってから、最初の1年はパリやブルゴーニュをはじめ、さまざまなホームレス受け入れセンターに足を運び、私自身もそこで過ごしました。そしてできた初稿は社会的背景を盛り込みながら、厳しい状況をそのままリアルに書いたのですが、映画にするにはあまりにも描写が厳しすぎるということで、廃棄してしまったのです。1年かけて作ったシナリオを一旦ゼロに戻し、やはり、観る人にとって見たくない厳しい社会の面を映画のテーマとして結びつけるには、コメディしかないと思い、コメディタッチの脚本“Invisible”を2年半がかりで書き上げました。
 

■我々が持っているホームレスのイメージとは違う彼女たちの現状をしっかりリサーチ。

―――相当、脚本に時間をかけたのですね。
作品を作る上で、真実であることに力を注ぎましたので、感動してくださったのは、本当の今の女性の姿を描いているからだと思います。彼女たちはホームレスですがユーモアもありますし、女性らしさを失っていませんし。私自身も調査をするまでは、携帯電話を持っているとか、テレビドラマの話をするとは思っていませんでした。どちらかといえば、とても貧しく惨めな生活をしていたり、何も知らなくて世の中から切り離されているというイメージがありましたが、実際は全く違ったのです。お金も少しは持っていますし、本当の意味での地下経済が実際にはありました。ですから、そういう現状をしっかり知った上で脚本を書きたかったので、リサーチの時間を非常に多くとりました。服や、彼女たちがつけている小物も実際に身につけているものを使っています。
 
往往にして映画の中では、お医者さんや弁護士と同様に、ホームレスというのが一つのタイトルのように扱われ、個人ではなくホームレスというくくりで語られてしまうのですが、私はその人たち一人一人に名前をつけ、寝る場所も与え、一人一人の背景をしっかり描いていきました。
 
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■元ホームレスの女性も出演、映画と撮影自体がリンクし、生まれた信頼関係。

―――シェルターを使う女性役は、実際にホームレスの方が出演しているのですか?
一部の人たちは過去にホームレスを経験した人たちです。撮影が始まった時は、住居を獲得していましたが、彼女たちをとても美しく、誇らしく描こうと思いました。この物語は時系列で撮っていますが、撮影中にどんどん彼女たちは生命の息吹を取り戻し、映画の中のことが撮影現場でも起こっていたのです。本当に自信を取り戻し、変化していきました。というのも撮影自体がチームの一員となりますし、色々な人から見られ、愛され、報酬をもらえる仕事でもあります。数ヶ月グループの中で、そのようなことが行われるわけですから、自信を持つことができる。撮影が終わった後も、仕事を見つけることができたり、疎遠だった家族と再会したり、自分の子どもを預ける人をみつけたり、前向きな一歩を踏み出しています。撮影のメイキングをDVDにしているので日本でも見ていただけるといいのですが、女性たちが皆と一緒に仕事をすることで自信を高め、私たちにも色々なものをもたらしてくれるという信頼関係が生まれました。
 
 
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■映画を通して、ホームレスの人たちとの絆を作りたい。

―――確かに、私たちはホームレスの人に勝手なイメージを抱いているにすぎませんね。
私たちはみんなホームレスたちの人たちに対する漠然とした恐れを持っていると思います。街でホームレスの人たちに出会うと、かかわりたくないという気持ちから無意識に目を逸らしてしまう。私はもう一度自分たちとホームレスの人たちの絆を作るにはどうすればいいかを考えて、映画を通してそれができればと思いました。1時間40分の間、彼女たちと一緒に笑うことができる作品を作り、それによってホームレスの人と親しい関係を作って、映画館から出たら、「シャンタル(劇中に登場する元受刑者で、刑務所で習った修理一般が得意な女性)がいる!」とまた違う見方ができるようになってほしいですし、映画を見て感動してくださった方が世界中にたくさんいるのなら、それらのみなさんでホームレスの人たちに微笑みかけてほしいと思っています。
 
―――自信を取り戻したホームレスの彼女たちを象徴するようなラストシーンは、みな胸を張り、輝いていましたね。
最後のシーンは最後の撮影日で、彼女たちが自身を取り戻し、自分自身を誇りに思っていることが眼差しの中に見えるシーンだと思います。(別のシェルターに強制移送するバスまでの道に敷かれた)マットレスの上を歩いていますが、現実は住むところがまた奪われ厳しくても「私たちはそれより強いんだ」ということを示すシーンになっています。
 

■主婦ボランティアのエレーヌは、観客をシェルターに導く存在。

―――ノエミ・ルヴォヴスキさんが演じる主婦ボランティアのエレーヌは、シェルターの運営とホームレスの女性たちの求職活動で右往左往しているスタッフとは違い、そこに来ることで家庭でのストレスが和らぐような、独特の存在感でした。エレーヌ役に込めた狙いは?
エレーヌの立場は、脚本準備のためにシェルターに行き、リサーチしていた時の僕の立場とよく似ています。なんでも疑問に思ったことを質問して皆に驚かれたり、意見をいうと「あなたは黙って言われたことをやってればいいのよ」と言われたり(笑)同時に、シェルターで働くボランティアの人たちの中には、何か現実生活の中で満たされないから、そこに来ているという人も実際に多かったのです。そのような人たちを見ていると、家族の中でInvisible(透明人間)になってしまう人たちでもあり、エレーヌ自体もそのようにInvisible(透明人間)になるかならないかの交差点に立っているのです。意味のない生活から、意味を探してボランティアにきているわけで、この映画の流れもまさにエレーヌが活動にのめり込んでいく行程と同時並行し、観客もエレーヌを通してシェルターに入っていきます。エレーヌ自身もそこで役立っているという自信を持てるようになるわけで、僕はそんなエレーヌというキャラクターがとても好きですね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『社会の片隅で』(2018年 フランス 102分)
監督・脚本:ルイ=ジュリアン・プティ 
出演:オドレイ・ラミー、コリンヌ・マシエロ、ノエミ・ルヴォヴスキ
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス