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ベル・エポック時代のパリ散歩を楽しんで!『ディリリとパリの時間旅行』ミッシェル・オスロ監督トークショー

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 8月24日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開されるミッシェル・オスロ監督(『キリクと魔女』)の最新作『ディリリとパリの時間旅行』が、6月22日にフランス映画祭2019 横浜で上映された。
 
 ベル・エポック時代のパリを舞台に、ニューカレドニアから伯爵夫人の助けを借りて船でパリにやってきたカナック族の少女ディリリと、パリの案内人のような顔が広く誠実な配達人の青年、オレルが、地下で暗躍している謎の集団、男性支配団と少女失踪事件の関係を突き止め、少女たちを救う冒険物語だ。ディリリとオレルが行く先々で出会うベルエポック時代の画家や作家をはじめとした実在の有名人が次々と登場。またオペラ座やムーラン・ルージュをはじめ、パリの名所の舞台裏も映し出す。当時の女性や女優たちの美しい衣装や、オペラの歌声にも注目したい。ベル・エポック時代を覗き見るかのような芳醇な体験に胸がワクワクする、宝物のような作品だ。
 
 上映後に登壇したミッシェル・オスロ監督は、開口一番「ベル・エポック時代のパリ散歩を楽しみましたか?」と観客に呼びかけ、女性が初めて社会進出をした時代であり、ロングドレスを着た最後の時代であるベル・エポック時代を舞台に、散策あり、冒険あり、救出劇あり、オペラありと盛りだくさんで、とにかく美しく楽しい物語の発想の源を明かしてくれた。その内容をご紹介したい。
 

 

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■日本のアニメ映画で好きな監督について〜高畑勲監督のことを思いながら作品を作った

高畑勲監督と宮崎駿監督のお二人とは面識があります。ここに高畑監督がいらっしゃらないのは本当に悲しく思いますし、彼のことを思いながら、この作品を作っていました。生きていればこの作品の日本語字幕をつけてくださったと思います。高畑監督がいない中、出来上がったこの作品は「家なき子」のようなものではないでしょうか。
 

■主人公ディリリの設定について〜人種の多様性を描くために、ニューカレドニアのカナック族のハーフに

ディリリと配達人のオレル、オペラ歌手エマ・カルヴェの運転手ルブフの3人は僕の創造物ですが、他の登場人物は全て実在の人物で、今も私たちを楽しくさせてくれています。小さな女の子たちの誘拐事件を題材にしたのは、小さい女の子たちを守りたいという思いがあったからで、主人公も自然とそのようになりました。
 
今回のテーマである男性が支配し、女性や小さな女の子を虐げるものの対抗として文明を取り上げようとしたとき、ベル・エポック時代はまさにパーフェクトな時代ですが、一つだけ問題だったのは、その時代は白人ばかりであったということ。僕の過去作品は世界の各地を舞台に出てくるキャラクターたちも肌の色がとりどりの多様性を描いていたのに、白人だけでは作品が退行してしまう。ですからディリリはニューカレドニアのカナック族に設定しました。当時、公共の公園に「原住民の村」を復元して原住民の生活ぶりをみることが流行っていたのです。さらに加えた要素はディリリがフランス人とのハーフであるということ。ハーフは母国が二つあるので、どちらの国でも排除されるという運命になりがちです。ディリリだけではなく、カフェで踊っているサーカス座の黒人、ショコラやアイリッシュ・アメリカンバーのバーテンダーの中国人、北アフリカチェニジアの詩人も登場します。
 
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■アニメの世界で表現されるフェミニズム〜女性に対する虐待は至るところに見られる

生まれた時から母も姉も素晴らしい女性だったので、僕が男だからといって彼女たちより優れていると感じたことはありませんでした。僕が少しずつ成長し、社会がわかってくるようになると、多くの男性が、女性が劣っていると感じていることを知ったのです。
 
とりわけ宗教は女性蔑視の傾向が強く、それは本当に愚かで良くないことです。家庭内暴力になると、夫婦の間では女性の方が命を落とすことが多い。階級を問わず女性に対する虐待は至るところに見られます。
 
僕自身は人間的、論理的な人間なので、愚かなこと、意地の悪いことを見ると「どうして?」と怒りがこみ上げてくるのです。例えば戦争で命を落とす人の数に比べて、女性や少女たちの死者の方が多い。そういう問題を取り上げなければいけないと思ったので、今回の作品のテーマにしました。
 

■色使いと背景について〜アニメのキャラクターと僕自身が撮った実写の写真を融合

僕自身が今のパリの写真を撮り、それを使うことで、単に夢を作品にするのではなく、人間たちが作った現実のパリを作品にしています。そういうものを人間が作れるということをアピールできたのではないかと思います。
 
背景については、アニメのキャラクターと僕自身がとった実写の写真をとてもシンプルな形で融合しただけ、難しい技法は使っていません。平面的な写真が背景で、そこに人物たちをアニメで載せているだけです。2箇所だけ、もう少し小さい写真をいくつかおいて、カメラが巡回し、風景に一貫性が生まれるようにしました。また、下水道の中は3Dで全て復元しました。
 

■お気に入りのシーンについて〜実在のスーパーウーマン3人が会するシーンは感動

キャラクターは僕が一つ一つ書いて描きましたが、原画を見ながらキャラクターを描くのは本当に楽しいです。中でも友情を感じる人物はロートレックで、彼は画家としても素晴らしいが、人間としても素敵な人でした。
 
スーパーウーマンが一堂に会し、男性支配団への対抗策を議論するシーンでは、ルイーズ・ミシェル(無政府主義者)サラ・ベルナール(ベルエポック時代を代表する大女優)、マリ・キュリー(物理学者、科学者)の3人を登場させましたが、3人が話していることには感動しました。そして、一番満足したシーンは、鉄の建物のエッフェル塔があり、鉄の骨組みの前を、飛行船が(キラキラと輝きながら)降りてくるシーン。それを目にした時、「悪くないな」と思ったのです。
(江口由美) 
 

『ディリリとパリの時間旅行』“Dilili à Paris”
2018年 フランス 94分
[監督]ミッシェル・オスロ 
[声の出演]プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ他
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス