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「教育」があれば社会環境、生まれ育った環境に関わらず希望が持てる。 『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー

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「教育」があれば社会環境、生まれ育った環境に関わらず希望が持てる。
『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー
 
昨年のフランス映画祭観客賞受賞作『夜明けの祈り』のアンヌ・フォンティーヌ監督最新作、『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』が、6月23日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2018で日本初上映される。
 
小さな田舎町で暮らした子ども時代、学校でも家でも居場所がなかったマルヴィンが、才能を見出してくれる先生との出会いを経て、演劇と出会い、家族と訣別して都会で自らの道を見つけようとする。周りとは馴染めず理解されないことに悩む一方、自分の今までの境遇を演劇にし、改めて自らを見つめる姿を描くヒューマンドラマだ。
 
同性愛者の主人公マルヴィンを演じるのは、今最も期待されるフランスの若手俳優フィネガン・オールドフィールド。田舎での家族模様をつぶさに描く一方、都会でのパトロンとの出会いや、パトロンの知り合い、イザベル・ユペールとの出会いを通じて、人生を学んでいくフィネガンを繊細に演じている。本人役で登場するイザベル・ユペールの存在感が、いいアクセントとなっているのだ。
 
本作のアンヌ・フォンティーヌ監督に、作品についてお話を伺った。
 

 
―――修道院を舞台にした女性キャスト多数の『夜明けの祈り』とは打って変わって、同性愛者の男子が主人公でキャストは男性が多い物語です。女性やゲイに対する偏見が根強い田舎と都会の対比も描かれますが、着想のきっかけは?
フォンティーヌ監督:エドワード・ルイという若い作家の本から着想を得ました。彼は非常に厳しい幼少期を送った後、フランスの有名大学に進学できたのです。彼の本は非常に感動的な内容で、自分は人とは違うと思い、また家の中でも阻害され、孤独な若い男性が、芸術に触れることで、自分がどういう存在であるかを理解し始め、自分自身の心の声を出せるようになっていくという、希望を与える内容になっています。そもそも人間は皆違うのですが、本の主人公は他人とは違うという悩みを芸術的表現に昇華させていくのです。ご指摘の通り、主人公が田舎で過ごす時代と、都会で過ごす時代の二つを組み合わせてみせるようにしています。
 
―――若くに産んだことで、子どもに関心を持てないマルヴィンの実の母と、マルヴィンに演劇を通して希望を与えていく女性の校長先生との対比も印象的でした。この二人を通して描きたかったことは?
フォンティーヌ監督:母、オディールは、経済的に恵まれない状況を自分でもどうしたらいいか分からないという立場です。あまり教育も受けていないため、息子が色々な兆候となるサインを見せても、自分のことに精一杯で気付けないのです。そういう、ある意味人間的な存在です。一方校長先生のクレモンは、マルヴィンの才能に気付き、彼の運命を変えていくきっかけになった。クレモン先生がマルヴィンに演劇クラスのワークショップ受講を勧めたおかげで、マルヴィンが他の人からの視線を受けるというのはどういうことになるのかを文化的な側面から感じることができました。そのままだと抜け出せなかった世界から脱し、新しい将来を描けるようになったのです。
 
―――父との関係はまた違った側面を見せます。労働者階級で一見破天荒に見え、差別的発言も繰り返す一方、マルヴィンが家を出て成功する中で、父自身も息子の本当の姿を理解し、受け止めていきます。
フォンティーヌ監督:私も父、ダニーの役柄はとても気に入っています。ダニーも教育を受けておらず、文化に触れていない世界の犠牲者とも言えます。彼らのような労働者階級では、文化と言えばテレビを見ることぐらいで、知性からかけ離れた生活をしていた訳です。一見野生的ですが、一番感動的なのは最後、マルヴィンに向かって「ゲイのお前たちを結婚するのか?」と聞くシーンです。当初はホモと罵ったり、精神病呼ばわりしていたダニーが成長したことを感じられます。ダニー自身も父から殴られて育った訳ですが、自分の子ども、マルヴィンに対しては、同じことを繰り返さなかった人です。
 
 
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―――とても繊細にマルヴィンを演じたフィネガン・オールドフィールドさんですが、キャスティングの経緯や、彼の魅力について教えてください。
フォンティーヌ監督:フィネガン・オールドフィールドさんをキャスティングした理由は、とても優美でありながら、繊細なところも持っており、内からのパワーを非常に感じさせてくれる役者だったことに尽きます。身体的な魅力も、もちろんありました。難しかったのは、子役のマルヴィンと青年役のマルヴィンの二人をキャスティングしなければならなかったことです。子役でわざとらしくないように演じてもらうのは非常に大変で、何度もテストを行いました。子ども時代と青年時代のマルヴィンにズレが生じないように調整し、これがピッタリだという二人を選びました。フィネガンは今まで映画に出演経験はあったものの、主役を務めるのは本作が初めてだと思います。子役の方はジュール・ポリエという男の子です。
 
―――キャスティング段階でもかなりテストを重ねたそうですが、実際の演出はどのように行ったのですか?
フォンティーヌ監督:ジュールに関しては、撮影に入る前に何度もリハーサルを重ねました。例えば撮影に入る前に3週間ぐらい時間を取り、役者たちに家族としての絆を作ってもらいました。もちろん暴力的なシーンも含めてです。フィネガンに関しては、イザベル・ユペールとの演劇シーンもありましたから、撮影前にかなりリハーサルを重ねました。私の仕事のやり方は、撮影初日に初めて演じたようにするのではなく、撮影に入る前のリハーサルでやってきたことの延長線上のようなものを作り出すようにしています。
 
―――次回作は主演としてタッグを組んでいるイザベル・ユペールさんは、今回本人役として登場し、マルヴィンを見守るような役ですが、それだけでなく、最後に大きな見せ場もあります。
フォンティーヌ監督:イザベル・ユペールに脚本を渡すとき、「あなたが今まで一度もやったことがない役よ」と説明すると最初きょとんとしていました。でも読むと理解してくれ、とても楽しそうに撮影に臨んでくれました。現場でも非常にいい雰囲気をもたらして下さったと感じています。映画では無名の若手俳優に対してチャンスを与える役柄ですが、ユペールはとても著名な女優なので、作品中のようなことを実際にもやっていらっしゃるのだと思います。
 

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―――ユペールさんとのラストシーンもそうですが、劇中劇をはじめ、作品中には演劇的な要素を含むシーンが多数登場します。そのような構成にした狙いは?
フォンティーヌ監督:演劇を通して、マルヴィンがどう変わっていくかを見せたかったのです。最初の演劇ワークショップでは学校で行き場がなく、どうしたらいいか分からない時に、自分が夢中になれるものを見つけます。次に、自分が家族と交わした会話を演劇の台詞として使い、作品として昇華させ、彼は俳優だけでなく作家にもなる訳です。実はその部分は原作とは違う部分で、原作では芸術家になりますが、俳優ではなく作家でした。ただ俳優の方が映画向きだと思って変更しています。
 
―――マルヴィンが自分の生い立ちを演じる劇では、水が張られた上で演じているのがとても印象的でした。この舞台デザインも監督のアイデアですか?
フォンティーヌ監督:もちろんそうです。水は美的なものであり、象徴的なものでもあります。舞台で母親を演じているイザベル・ユペールが中絶に言及していますが、大きなバスルーム(トイレ)を表していますし、自分が反射して映るものなので、自分を見つめ直すという意味も込めています。
 
―――本作のタイトルには「マルヴィン」だけでなく、「素晴らしい教育」となっています。そこに込めた思いは?
フォンティーヌ監督:まずは「素晴らしい教育」というのは文学的な表現だということ。そして、教育というものは人生に時には決定的なインパクトを与えるという意味を込めています。つまり、自分が生まれた家庭環境や社会階層はフランスではなかなか変えることは難しいのです。農家や労働階級に生まれた子どもは文化に接しようと思っても、かなり苦労しなければそれも叶いません。しかし、教育があれば、生まれ育った環境とは違う希望が持てます。そのような意味を込めて「素晴らしい教育」と付けました。
 
―――最後に、フォンティーヌ監督がこれだけコンスタントに映画を作り続けることができる秘訣は?
フォンティーヌ監督:確かに私は長編を15本ほど撮っていますし、かなり幸運なことだと思います。最初の1本を撮った後に、今後どのような作品を撮ろうかと考え、次の作品を撮るまでに少し時間がかかりました。でもその後はプロデューサーから本やアイデアなどの企画を持ちかけてくれる幸運に恵まれています。ちょうど今も次回作の撮影が終わったばかりなのですが、ルー・ドゥ・ラージュやイザベル・ユペールが出演しています。私が、今まで出会ったことのない未知の世界に立ち向かっていくという性格なので、これだけコンスタントに作り続けていられるのだと思います。
 

 
<作品情報>
『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』(2017年 フランス 115分)
監督:アンヌ・フォンティーヌ
出演:フィネガン・オールドフィールド、グレゴリー・ガドボワ、ヴァンサン・マケーニュ、イザベル・ユペール他
 
 
フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)〜~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/