映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

アニエス・ヴァルダにも「ガラスの天井」はあった。プロデューサー、ジュリー・ガイエが語る『顔たち、ところどころ』

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622日にフランス映画祭2018にて日本初上映されたアニエス・ヴァルダ監督最新作『顔たち、ところどころ』(今秋より劇場公開)。上映後に開催されたゲストによるQAでは、本作のプロデューサーである女優ジュリー・ガイエさんが登壇。「今フィクションがどんどん写実的になり、ドキュメンタリーとの垣根がなくなってきている。実験的動きが生まれているところに、興味がある」と本作の魅力を表現しながら、プロデュースするに至った経緯や、ヴァルダ流ドキュメンタリーの作り方について語った。

 

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アニエス・ヴァルダ監督との出会い~映画への旅に誘われて

私がまだ20歳ぐらい、映画デビューしてから2作目の頃に、アニエス・ヴァルダ監督(以降アニエス)がミシェル・ピコリのベビーシッターを探しており、私に声がかかりました。『百一夜』では映画への旅に誘ってくれ、偉大な人たちに出会わせてくれました。この作品は映画発明100年を祝って作られた作品だったからです。

 

フランス映画界におけるアニエス・ヴァルダの存在感~一貫してフェミニズムを主張~

映画界の母であり、祖母です。『5時から7時までのクレオ』でフェミニストとしての女性監督の主張を初めてはっきり表現しています。それからずっと、アニエスは女性の目から描いた世界を描き、フェミニズムを主張しておられる。ドキュメンタリーにおいても家族や旅を題材にしています。

 

 

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本作のプロデュースをするきっかけ~恩返しの意味も込めて

アニエスの娘、ロザリーは、若い頃私が出演した映画で衣装を担当してくれました。その後、アニエスさんとジャック・ドゥミさんの映画を修理する仕事を始めました。その前にアニエスとロザリーが、プロダクションを始めたけれどまだ十分に資金が集まらないので、加して欲しいと誘われました。この映画がどうなっていくのか最初は分からなかったので資金集めは難しかったですのですが、私も恩返しの意味も込めて参加しました。アニエスさんは家族と一緒に仕事をするのを大事にしており、その部分もフェミニズムですね。私自身は家族と仕事をしてしっかり分けていますが、ヴァルダさんはとても職人的で、素晴らしい仕事のやり方だと思います。

 

 

プロデユーサーとして心がけたこと~監督の「外の目」になる

映画が、きちんと監督の映画になるように心がけました。アニエスは、「映画の裏に監督がいる」と常に言っています。私が関心を持っているのは、「監督の目を通して、違う世界を見せることを映画でやる」ということ。シナリオを作るところから参加し、何がこの映画の中で重要なのかをアニエスたちと話し合いながら決めていきます。そして編集がとても大事です。監督の「外の目」がプロデューサーで、作家と編集者という関係なのです。

 

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難航した資金集め~アニエスにもあった「ガラスの天井」

映画はシナリオを見た段階では、実際にどんな映画になるか分からない不安要素があります。ただ、アニエスのように素晴らしい映画をたくさん作っている巨匠でも、なかなか資金が集まらなかったことに私も驚きました。編集の段階でトレーラーを作ったり、資金集めは本当に大変でした。女性監督だからうまくいかないという点で「ガラスの天井」はあると思います。例えば、小規模な予算の時は女性監督でも資金を出してもらえますが、大規模な予算の時は女性監督では無理だと判断され、なかなか資金集めができません。ちなみに、ハリウッドの女性監督の割合は3%ぐらいですが、フランスでは25%ぐらいになっています。それでも男性と比べて給料は4割減なのが、現状です。アニエスは、女性監督としては初めてのアカデミー名誉賞を受賞し、最優秀ドキュメンタリー賞も受賞しています。

 

ストリートアーティストJRと共同監督をする狙い~次の世代への伝承がテーマ

『顔たち、ところどころ』は、次の世代への伝承をテーマにしています。JRが参加したことについても次の世代へ引き継ぐという意味があるのです。JRは写真家であり、ストリートアーティストで街に(拡大してプリントアウトした)写真を貼っていきますが、アニエスも写真家としてキャリアを始めた人です。彼女はドキュメンタリストとしてで知られていますが、70年代は写真も撮っており、写真に対する情熱を持っています。彼女の作品ですは、とても懐広く、心の広いものです。ほかにも、ユーモアとファンタジーがとても重要な要素で、人々に近づき、相互作用を生み出す必要がありました。JRは最初はミステリアスで距離感があるのですが、彼の祖母が登場することでアニエスと距離感が近づきます。アニエスは先祖たちの関係、それを伝える”伝承”を映画に取り入れ、語り継ぐことができる監督なのです。

 

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元ボタ山(炭鉱)の労働者用集合住宅に一人住み続ける女性を炭鉱労働者ポートレートを貼って勇気付けたり、田舎の寂れた廃墟を老若男女たちの「顔」でいっぱいにしたり、アニエス・ヴァルダとJRの年の差54歳のデコボココンビが、町の人たちと出会い、交流し、彼らのライフヒストリーを紐解いていく。時には海辺でそれぞれの人生について語ることもある。そして、アニエス・ヴァルダの盟友、ジャン=リュック・ゴダールとのエピソードも登場。ピクチャーアートとしても見ごたえあると同時に、アニエス・ヴァルダが映画として後世に残したい全てが詰まった珠玉の名作だ。

(江口由美)

 


 

フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)~~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
■公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2018/