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『めぐりあう日』ウニー・ルコント監督トークショー@フランス映画祭2016

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『めぐりあう日』ウニー・ルコント監督トーク@フランス映画祭2016
 
長編デビュー作『冬の小鳥』で孤児となった9歳の少女の“旅立ち”を繊細なタッチで描いたウニー・ルコント監督。その最新作『めぐりあう日』では、フランスの港街ダンケルクを舞台に、生みの親を知らずに育った主人公エリザと実母アネットが運命の糸に手繰り寄せられる物語を、詩情豊かに描いている。二人の接点となるエリザの息子、ノエの存在や、理学療法士として働くエリザのもと患者として訪れたアネットに施術を施す際の親子のスキンシップを思わせるゆったりとした描写など、手掛かりや象徴的なことがらを忍ばせながら、豊かな映像が観る者を包み込む。親を知ること、親になること、そして親と触れ合うことの意味を静かに語りかける秀作だ。
 
本作の上映後、ウニー・ルコント監督が登壇し、作品の設定や音楽について語ってくれた。その模様をご紹介したい。
 
 
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―――どのようなところからストーリーが生まれたのでしょうか。
ルコント監督:元々この映画を作ろうと思ったのは、実母と捨てられた娘が再会したときどうするかという発想から生まれました。前作『冬の小鳥』の30年後を想定し、(子どもを)捨てた側と捨てられた側がどうなるのかを描きたかったのです。再会とはいっても、お互い母と娘と知らずに再会させることで、ドラマチックな部分が加えられます。お互い認知しあう映画にしたいと思い、実の母には巡り合ったものの、彼女は子どもを産んだことを否定しているところから始めました。脚本はアニエス・ドゥ・サシ―さんと一緒に仕上げましたが、どういう枠組みで再会させるのかを話し合いました。最初アネットがエルザを施術するとき、腕の中に抱くシーンは、私自身が接骨院の患者として施術されて体験したことです。実際に、体も心も穏やかになれたので、この設定を使いたいと思いました。
 
―――ヒロインを理学療法士という職業に設定した理由は?
ルコント監督:実際に私が施術してもらったのは接骨院ですが、(フランスでは)あまりポピュラーではないので、アネットのような人物はむしろ理学療法士にかかるのではと思い、設定を変えました。このように職業を設定し、後になって様々な意味が生まれてくることが分かりました。主人公のエリザは乳児で捨てられてしまったので言語を話す前に捨てられたショックを味わっており、実母以外の様々な人を介して今がある。大人になってからトラウマのようになっていますが、職業で人と肌を触れ合っているのです。患者を施術しながらも、自分自身のトラウマを癒している意味合いが含まれると思いました。
また、個室で施術するという特殊な職業なので、親密な場で母が娘の前に体をさらけだし、母が本来なら子どもを抱えたように、この職業のおかげで娘が母を抱いて施術をするのが面白いと思いました。もう一つ理学療法士という設定にして含ませることができたのは、母の裸体を施術するときに、子どもが母のお腹の中にいた記憶で何かが分かるのではないかというサスペンス的な意味合いも持たせました。それぞれの体の記憶が呼び覚まされるようなハラハラする部分を感じられるかと思います。
 
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―――主演のセリーヌ・サレットさんが素晴らしいですが、彼女を起用した経緯は?
ルコント監督:セリーヌ・サレットさんはフランスでは有名で、今、非常に力を発揮されています。起用の理由としては、ビジュアル的なインパクトが一番大きいです。いくつかの作品を拝見し、スクリーンでの存在感を考えてエリザは最初から彼女と決め、脚本を送りました。カメラテストもなく私からオファーしたのです。今まであまり演じたことのないような抑え気味で控えめだが存在感が光る、アジア的な演技をしてくれたと思います。
 
―――何度も繰り返されるピアノの音色が印象的でした。どういう意図で音楽を作ったのでしょうか?
ルコント監督:シナリオを書いている時から、音楽は絶対必要である一方、BGMではなく重要な役割を持たせたいと考えていました。イブラヒム・マーロフさんの「ベイルート」という音楽が素晴らしく、彼は映画的に映える音楽を作る人だと思いました。作品の登場する人物は、それぞれ人に言えないことを抱え、沈黙の中生きている人が多いので、その内面を表現し、登場人物に寄り添う音楽を使いました。イブラヒムさんとこの映画の音楽を作るにあたり、オーガニックミュージックを念頭に置きました。ダンケルクが舞台なので、海や赤レンガなどのイメージや、エレクトロニックの要素も加えましたし、設定や映像のことを話しながらディスカッションを重ねました。音楽はキーとなる役割で、血液のように不可欠なものです。1度目の編集が終わった時点でスタジオに持っていき、映像を見ながらピアノで作曲をしてくれました。ある程度構想はしていたようですが、しっかりと掘り下げて作ってくれたのです。
 
 
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―――ダンケルクは第二次世界大戦後半の戦場となった場所ですが、この場所を舞台にした理由は?
ルコント監督:この映画を撮影するまで、私自身はダンケルクを知りませんでした。第二次世界大戦で破壊された後、再建された街です。以降も衰退と再建を続けてきたところが気に入りました。また海があるのも景色的に必要で、人のいない浜辺や広い空が心象風景として効果的だと思い選びました。映画でナレーションはしていませんが、80年代に産業が栄えた後オイルショックで衰退し、移民労働者が増えたりという部分も社会的背景として感じてもらうのに効果的な街です。
 
―――原題は“Je vous souhaite d'être follement aimée”と長いですが、このタイトルが意図したことは何ですか?
ルコント監督:原題のタイトルは「狂おしいほどあなたが愛されることを私は祈っている」という長いものですが、これはアンドレ・ブルトンの『狂気の愛』に出てくる父が娘にあてた手紙に出てくる最後の文章を抜粋し、ポエトリーリーディングとして登場させています。このタイトルや劇中のポエトリーリーディングはメッセージという意図はありません。エリザの父がエリザに語っているという訳でもありません。これは映画自体が発する言葉と捉えています。最後にエリザの人生に寄り添い、新しく問いかける特殊な存在なのです。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

<作品情報>
『めぐりあう日』“Je vous souhaite d'être follement aimée”
(2015 フランス 1時間44分)
<監督>ウニー・ルコント
<出演>セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、フランソワーズ・ルブラン、エリエス・アギス
2016年7月30日(土)~岩波ホールほか全国順次公開
©2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO
 
フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!