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塚本晋也監督も絶賛!厳格な映画づくりから生まれる映像美 『エコール』上映&ルシール・アザリロヴィック監督×塚本晋也監督トーク@フランス映画祭2016

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塚本晋也監督も絶賛!厳格な映画づくりから生まれる映像美『エヴォリューション』 ルシール・アザリロヴィック監督×塚本晋也監督トーク@フランス映画祭2016 マスタークラス
 
フランス映画祭2016で27日に最新作『エヴォリューション』が上映されるルシール・アザリロヴィック監督。マスタークラス第2弾として26日アンスティチュ・フランセ東京にて、04年にサン・セバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞した『エコール』が上映され、アザリロヴィック監督と親交の深い塚本晋也監督(『鉄男』『野火』)を招いてのトークショーが行われた。
 
塚本監督との出会いは、現在パートナーのギャスパー・ノエ監督と訪れたアヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭(フランス)だったというアザリロヴィック監督。その時の様子を「『鉄男』を初めて見て、絶対に会いに行かなくてはと思い迫って行ったので、塚本監督は怖かったと思う。当時はまだ英語を話せなかったけれど、心はつながった」と語ると、塚本監督も、「映画祭で最初に会ってから、こんなに長く(付き合いが)続くのはびっくり。ギャスパー・ノエの隣にいたのがルシール。『ミミ』の前作の短編も見せてもらい、すごく暗い作品だが「ダークビューティフル」というと喜んでくれた」と当時の思い出を語った。
 
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塚本監督作品については「新しいものを発明する実験的作品で、楽しさも感動も呼び、とても自由に作っている」と評したアザリロヴィック監督は、更に「監督も、俳優も、ライトも編集も制作もやってしまうオーケストラマン。『野火』は配給までやっているなんて信じられない」とその多彩さを絶賛。また『野火』についても、「戦争を語っていながら、メンタルや精神的なもの、現代的なものも含まれており、とても好き」と感想を語った。
 
一方、アザリロヴィック監督の『エコール』について、「ルシールがそのまま映画になったような感じ」と表現した塚本監督は、「ほとんど幼女のような少女の物語を俯瞰ではなく、ルシールがそこにいてそのまま撮っているように見える。少女たちに色々な年齢の層が垣間見え、この雰囲気は何なんだろうと思って観ていく。特殊な空間にあるように見えるが、少女が大人になっていく姿をシンボライズするとこうなるのかと思った」。森の中、少女だけの寄宿舎を舞台にした物語である『エコール』を「少女の視線で捉えた世界を見せたかった」としたアザリロヴィック監督は、「かなり自伝的な部分を含めた映画。10代の観客は自分たちが生きている世界と捉えてくれた一方、大人の観客からは変な世界と言われ、感想が分かれたのは面白かった」と映画の反応も含めた狙いを語った。
 

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また塚本監督は、「僕はもっと頑張らなければと励まされる」とアザリロヴィック監督の映画作りの厳格さを絶賛し、そのモチベーションを保つ秘訣を思わず質問。それに対し、アザリロヴィック監督は、「映画作りは自分を守り導くため、自分なりのルールを作っている。ストーリーボードを作らない。なるべく固定で長回しで撮るなど、自分に禁止事項を課し、そぎ落として映画作りをしている。照明のプロジェクターや、音響効果も使わないので映画自体もミニマリストの作品ができる」と持論を展開した。
 
『エコール』はスーパー16で撮影し、「私にとっては映画=フィルム。その方がイキイキし、カメラワークが流れるようになる。特にメンタルな世界なので、抽象的な世界にはスーパー16の方が感じをだせる」と作品世界を表現するためフィルムを選択したというアザリロヴィック監督。『エヴォリューション(仮)』はデジタルで撮影しているが、塚本監督曰く「最初の海の映像があまりにもきれいなので、35ミリで撮ったのかと思った」と絶賛するほどの出来栄え。「撮影監督は素材感があり、有機的な映像を作りたいと考えており、カナリア諸島で撮影した。水中のシーンはいつもドキュメンタリーで鮮明な映像を撮っている水中専門カメラマンだったので、今回は汚い感じにとお願いした。わざわざ海底の砂をかき上げて撮影している。魚を撮らないでとお願いしたので、変に思われていたかも」と独特の風合いを出すためのエピソードを披露し、会場の笑いを誘った。
 

fff2016master3.jpgフィルムからデジタルに移行することで編集の仕方も変わったという塚本監督は、「編集している間に傷が入ってがっかりすることもあった。書道のような気分で一発勝負だった」と8ミリ時代の編集の苦労を身振り手振りで披露すると、アザリロヴィック監督は「フィルムの編集は物理的に流れが感じられるが、デジタルに変わったときの編集が難しかった。前はよく考えてからカットしていたが、今はまずカットしてから考える」とフィルムとデジタルの違いを編集面から改めて語った。

 
フィルムであろうが、デジタルであろうが、映像美が圧倒的な力を持って、観客に伝えられることがある。時代を越えて様々な方法を模索しながら、強烈な個性を放ち続けるルシール・アザリロヴィック監督×塚本晋也監督トークに、最後は観客から大きな拍手が送られた。
 
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ルシール・アザリロヴィック監督『エヴォリューション(仮)』上映&トークは、27日(月)14:00から。
(江口由美)
 

フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!