『太陽のめざめ』主演ロッド・パラドさんトーク@フランス映画祭2016
フランス映画祭2016でオープニング上映された、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『太陽のめざめ』は、カンヌ国際映画祭でオープニング上映され、同映画祭で女優賞(『モン・ロワ(原題)』)を獲得したエマニュエル・ベルコ監督最新作だ。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる判事が10年に渡って辛抱強く更生に力を尽くした少年役に選ばれたのは、本作が初映画出演となる新星ロッド・パラド。度重なるオーディションで手にした主人公の少年マロニーの危うさ、寂しさ、暴力的感情、愛を求める姿を感受性豊かに演じ、本国フランスでも「アラン・ドロンの再来」と大注目を浴びている。
同じような境遇を経て、今は少年たちに寄り添う保護士、ヤン役のブノワ・マジメルと疑似親子のような信頼関係を築いては、ぶち壊し、指導する方もされる方も揺れ動く姿も心動かされる。愛を知らずに育ったマロニーと同年代の少女テスの不器用で乱暴すぎる愛や、自分の事を優先してしまう母に対して、それでも母に会いたいと願う切ない心情など、生々しい感情をスクリーンに焼き付けた作品だ。
マロニー役のロッド・パラドさんがゲストとして初来日を果たし、上映後のトークで観客からの質問に応えてくれた。俳優業に身を捧げる覚悟をし、今後の活躍が非常に楽しみな新星の初々しい姿をご紹介したい。
―――東京は初めてだそうですが、感想はいかがですか?
ロッド:初めてヨーロッパの外にやってきました。東京だけでなく日本は素敵な国。パリと比べると温かく、人々も落ち着いていて神経質ではありません。心が温かいです。
―――強烈なキャラクターを演じていますが、キャリアの一本目でどうやってこの役に出会ったのですか?
ロッド:映画の中でも木を削るシーンがありますが、僕自身当時は職業訓練課程の高校生でした。ある女性から「あなた映画に出る気はない?」と誘われたのです。高校の教室で演技テストをし、その後オーディションが30回近く重ねられました。エマニュエル・ベルコ監督は主演の男の子を選ぶのはとても重要な選択なので、かなり長い時間をかけました。僕が選ばれ、ようやくブノワさんとテストをすることができたときには、すぐに家族のように演じることができました。仕事は一生懸命やりましたし、疲労困憊するまでやってのけました。この結果にはとても満足していますし、そこまでやらなければこのような結果にはならなかったと思います。ブノワの後に、テス役のサラさんとテストをし、それもうまくいって、ようやくあなたに決めるということで、カトリーヌ・ドヌーヴさんとのテストになったのです。彼女と初めて会ったときは、「どう、初めてなんだってね」と声をかけられ、緊張していましたが、年齢を聞かれた後に「あなたは?」と聞くと、ドヌーヴさんも素直に話してくださり、女優というより彼女自身の内面の愛情を感じました。そこは映画の判事と主人公の関係に現れているのではないでしょうか。
―――感動的な映画を観ることができ、うれしく思います。ロッドさん自身は学校時代どんな生徒でしたか?
ロッド:マロニー役はちょっと複雑な内面ですが、僕自身もルールはあまり得意ではなく、自由が好きですね。学校はどちらかといえば苦手で、活発すぎるぐらいでした。ただ、他人に対するリスペクトがありました。マロニーには欠如感があると思います。生まれつき暴力的ではないと思いますから。
―――マロニー役を演じるにあたり、今までの不良少女や不良少年が重要な役割の映画(『大人は判ってくれない』等)を参考にしたのか、もしくは21世紀の新たな不良少年像を演じようと思ったのでしょうか?
ロッド:とりわけ今までの映画や役割を参考にしたということではなく、本当に努力をし、準備をしました。脚本をコーチにつきながら2か月間、徹底的に読み解きました。現場で台詞が入っていないと、自由に演技ができませんから。そうして本当に自分の感情が出るようにしました。あと現場では、エマニュエル・ベルコ監督の言うことを聞けばいい。その演技指導に従えばよかったのです。暴力もどんどん高めていき、最初に一番高めてから、どんどん下げていくことで演技をコントロールしていきました。
―――ブノワ・マジメル演じるヤンが奥さんと別れたという話をしていたとき、「ジュテーム(愛してる)」という言葉をマロニーが初めて口にしますが、演じたロッドさんはどう感じましたか?
ロッド:あのシーンで、保護士役のヤンとマロニーは全幅の信頼で結びついています。難しいタイプの子どもが保護士に全幅の信任を寄せることは世界中でも難しい中、このような状況はとても珍しいことです。マロニーも、最後「いい人間になりたい」と告げますが、世の中にはそう思っていても失墜していく人もいます。映画のマロニーのように僕自身は世界中の問題のある子どもたちが良い方向に向かっていくことを願っています。
―――ロッドさん演じるマロニーの眼差しや仕草などは、悪いことをするとより美しく魅力があるアラン・ドロンを彷彿とさせますが、ご自身はアラン・ドロンのようになれると思いますか?
ロッド:そんな風に褒めていただいて、ありがとうございます。僕はアラン・ドロンに会ったことがあります。僕自身は映画が好きなので、今後彼の出演作を見ていきたいと思います。ただ、映画を観るだけでなく、本人に会うことで、そのパーソナリティーが分かりますし、とてもいい人だと思いました。僕自身も彼のようにキャリアを積み重ねていければと思います。
―――マロニーを演じるにあたって、一番難しかったことは何でしたか?
ロッド:最初一番危惧していたのは、ラブシーンでした。結局ラブシーンそのものが大変なのではなく、暴力的にセックスをすることに抵抗がありました。プライベートでは自分は社交的で優しい男性だと思っていましたから、そのシーンを演じながらレイプをしているのではないかという思いを感じてしまったのです。映画のすべてのシーンの中で一番打ちのめされ立ち直れなかったのは、お腹の大きな職員にけりを入れ、母親役に怒られるシーンでした。
付け加えるなら、映画界にデビューして一年半、これからたくさんのことを学ばなければいけないし、俳優という職業に全身全霊を捧げたいと思っています。役柄の後ろに自分が隠れることができる職業であることが気に入っていますし、普通の次元を超越した、感動を与えるものです。みなさん、温かいおもてなしをありがとうございました。新作でまた来年もフランス映画祭に訪れることができれば、今回度忘れして言えなかったアラン・ドロンの出演作についてもお話したいと思います。
写真:河田真喜子 文:江口由美
<作品情報>
『太陽のめざめ』(2015 フランス 1時間51分)
<監督>エマニュエル・ベルコ
<出演>カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、サラ・フォレスティエ
2016年8月~シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINÉMA - WILD BUNCH - RHÔNE ALPES CINÉMA – PICTANOVO
フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!