戒厳令と共に青春時代を過ごした若者たちの恋模様を瑞々しく綴る『スナップ』(タイ)記者会見@TIFF2015
登壇者:左より、コンデート・ジャトゥランラッサミー氏(監督/脚本)、ワラントーン・パオニンさん(女優)、ティシャー・ウォンティプカノンさん(女優) 、ソーロス・スクム氏(プロデューサー)
~現在のInstagram写真と、8年前のフィルム写真が映し出す、タイの現在・過去・そして未来~
10月22日より開催中の第28回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のコンデート・ジャトゥランラッサミー監督(タイ)最新作『スナップ』がワールドプレミア上映された。大阪アジアン映画祭では『手あつく、ハグして』(08)、『P047』(11)の2作品が、また昨年のTIFFでは『タン・ウォン 願掛けのダンス』(13)が上映され、新作が出るたびに日本で注目を集めてきたコンデート監督。その魅力は瑞々しい映像と、等身大の若者たちの恋や人生を絶妙のトーンで描く脚本にある。
動画投稿サイト、Instagramの写真から始まる物語は、『スナップ』というタイトル同様、常にスマホを片手に今を切り取ってはInstagram にアップし、友達と共有していく主人公プンと、一瞬を切り取ることを仕事にしているカメラマン、ボーイの現在と8年前をたどるラブストーリーだ。前作の『タン・ウォン 願掛けのダンス』で、デモのシーンを盛り込み、青春ストーリーだけではないタイの“今”を捉えたコンデート監督は、本作でも2014年に再び戒厳令が発令されたタイの“今”を体感する伏線を散りばめた。
10月25日に行われた記者会見では、監督、脚本のコンデート・ジャトゥランラッサミー氏、プロデューサーのソーロス・スクム氏、主演女優のワラントーン・パオニンさん、友人役のティシャー・ウォンティプカノンさんが登壇。「私が初めて主演した映画がTIFFに迎えられて、ワクワクしている」(ワラントーン)、「私がこの映画を好きなように、皆さんもこの映画を好きになってくれたらうれしい」(ティシャー)とキュートな二人の女優の挨拶から始まった記者会見の内容をご紹介したい。
―――かわいらしい映画をつくっていただき、ありがとうございます。『スナップ』というタイトルの通り、本作はスチール写真でイメージがフレームのように形どられ、思い出に言及していくという形をとっています。主人公は現在の思い出と過去の思い出の間で揺れているようでしたし、政治的な背景も描かれていました。タイという国も過去と現在の狭間で苦悶している時期だと思いますが、それを頭に入れてこの脚本を書かれたのですか?
コンデート監督:この映画は現代に生きるタイ人の思いについて描きました。昔はフィルムで静止画を撮り、そのまま時間が経たないと写真は古くなりませんが、今はデジタルカメラでフィルターをかければあっという間に、写真は古いもののように見せられます。フィルターのプログラムが「ノスタルジー」という名前なぐらいですから。そういう現在と過去の思いについて描きました。同時に、現代のタイの政治的状況の中にいるタイ人の気持ちも記憶したのです。
タイではたったの8年の間にクーデターが2回も起きました。実は過去に何度もクーデターは起こっていますが、以前は軍と一般民衆は反対の立場にあり、軍が支持されることはありませんでした。ですが、現在は一部の民衆は軍事クーデターを支持していますし、もちろん反対している人もいます。個人レベルで見れば、違う政治的見解を持っている人々が対立し、仲間割れする現象も見られています。友人付き合いや家族の仲が悪くなるということが起きているのが、今のタイの状況です。そのような時代風景の中で、若い人たちがどのような恋愛や人間関係を築いていくのかを、この映画にも込めました。
―――タイの若い世代の人は、クーデターが起きていても意外と普通に暮らしていると聞いたことがありますが、実際はどのような感じですか?
ワラントーン:私は、タイでクーデターやデモが起こっている市の中心部の大学に通っています。クーデターが起こった時は、静まるまで学校は休校になります。そういったことは私の学業には影響しています。実際、私自身はそんなに情報を収集していませんが、母が一生懸命収集をし、早く家に帰るように促していますね。
―――美しい映画をありがとうございます。わざわざTOKYOに来た甲斐がありました。この作品は自伝的なものですか?完全にフィクションですか?
コンデート監督:私の人生は写真との関わりが深いです。私は自分自身が写真を撮る一瞬を捉えられない、人生や恋愛のタイミングも合わないと思っていますが、多分一般の方々もそのような思いを抱いているのではないでしょうか。本作のキャラクターを考えたときに主人公は女性だと考えていました。その中には私のパーソナリティーも入っています。ボーイ役には私だけではなく、今は傍にいない私の友人のパーソナリティーも入っています。
―――なぜ、主人公は女性と決めていたのですか?
コンデート監督:SNSを見て、女性の考え方に興味を持ちました。例えばInstagramに投稿する人の女性がほとんどです。彼女たちが自分の人生から他の人に見せたいと思う写真は、どんなものを選んでいるのか。そのように自分の人生を見せようとする女性たちの実生活はどんなものだろうと疑問を抱いたのが、この作品のもとになりました。
―――本作に出演されたワラントーンさんとティシャーさんは、なぜ監督はこんなに女性の気持ちが分かるの!と感じましたか?それともずれていると思いましたか?
ワラントーン:コンデート監督は女性を良く理解していると思います。映画の中で使っている静止画はほとんど私がInstagramに投稿した写真です。それは、私の性格が主人公のプーに似ているからかもしれません。昨日初めて、できあがった作品を観て、少しチクリとしました。
ティア:私自身も毎日Instagramに写真を投稿しています。ワラントーン監督は、私よりも私をよく理解しているし、私って本当にこんなことをしていたかしらと気付かされたこともありました。
―――ラストの曲はオリジナルですか?既存の曲ですか?
コンデート監督:この歌はこの10年ぐらいに発表されたもので、『スナップ』の脚本をかき始めたときに、この曲が常に頭の中にあり、インスピレーションを受けたのです。
(江口由美)
<作品情報>
『スナップ』
(2015年 タイ 1時間33分)
監督:コンデート・ジャトゥランラッサミー
出演:トーニー・ラークケーン、ワラントーン・パオニン、ティシャー・ウォンティプカノン
第28回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ新宿、新宿バルト9、新宿ピカデリー他で開催中。
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