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ユージン・ドミンゴ、コメディー路線からの転機となったメンドーサ監督作品出演秘話を語る『フォスター・チャイルド』(フィリピン)Q&A@TIFF2015

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ユージン・ドミンゴ、コメディー路線からの転機となったメンドーサ監督作品出演秘話を語る『フォスター・チャイルド』(フィリピン)Q&A@TIFF2015
登壇者:ブリランテ・メンドーサ氏(監督)、ユージン・ドミンゴさん(女優) 
 

~ドキュメンタリータッチで活写する、里子一時預かり母とフォスターチャイルドの日々~

 
10月22日より開催中の第28回東京国際映画祭で、CROSSCUT ASIA #02 熱風!フィリピン部門より、ブリランテ・メンドーサ監督特集の一本として上映された『フォスター・チャイルド』(07)。フィリピンにおける里子の養育制度を扱ったメンドーサ監督の長編4作目だ。
 
出演は、大阪アジアン映画祭では『100』(OAFF2009)、『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』(OAFF2013)、『インスタント・マミー』(OAFF2014)が紹介され、東京国際映画祭では『浄化槽の貴婦人』(TIFF2011)、そして最優秀女優賞に輝いた『ある理髪師の物語』(TIFF2013)と実力を証明した、フィリピンの人気女優ユージン・ドミンゴ。
 
 
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本作では、主人公テルマ(チェリー・パイ・ピカチェ)に里子一時預かりの仕事を斡旋し、里子希望の家族と対象となる子どもの仲介やケアを行う基金職員、ビアンカを大阪のおばちゃんのようなチャキチャキと面倒見のよい、親近感の湧くキャラクターとして演じている。スラム街で生きる家族が、生活は決して楽ではない中で自身の子どもだけでなく、いずれは里子にもらわれていく身寄りのない子どもを愛情をかけて育てていく様子や、スラム街で生きる人々、子どもたちの息遣いが映像の端々から生々しい生活音と共に伝わってくる。
 
若くして子を産む少女たちや、母親が育児放棄をし育てる人のいない赤ちゃんなど、里子の養育制度の裏にある根本的な問題にも思いを巡らせたくなる、この機会に是非観ていただきたい作品だ。
 
<上映予定>
10月30日(金)10:20~ TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
登壇ゲスト(予定): Q&A: ブリランテ・メンドーサ(監督)、ユージン・ドミンゴ(女優)
 
10月28日の上映後に行われたQ&Aでは、監督のブリランテ・メンドーサ氏と、主演のユージン・ドミンゴさんが登壇。いつもQ&Aでサービス精神旺盛な楽しいトークを繰り広げてくれるユージンさんは、フィリピンでもなかなか出会えないメンドーサ氏と東京で出会えたことに感無量の様子で、自身にとってほぼ初のインディーズ作品出演となった本作について語ってくれた。その内容をご紹介したい。
 

(最初のご挨拶)
ユージン・ドミンゴさん(以下ユージン):ここにいられることにワクワクしています。そしてこの東京国際映画祭は、いつも私の中で特別の位置を占めている映画祭です。今回は、ブリランテ・メンドーサ特集ということで、とてもうれしく思います。8年も前の作品ですし、私にとってほぼ初めてのインディペンデント映画出演経験でした。当時は自分でも若かったと思いながら見ていますが、実際、今の方がきれいでしょ?メンドーサ監督には海外でしかお会いしたことがないので、今回このような機会を与えてくれ、メンドーサ監督と招いていだいたことを本当に感謝しています。
 
ブリランテ・メンドーサ監督(以下メンドーサ監督):今回の特集上映では5本目の作品になります。ユージン・ドミンゴさんがまさか来てくださるとは思いませんでした。仕事が忙しくないなんてことはないと思います。とても忙しい方です。そうでなければ個人的に忙しいのでしょう。
 

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―――ユージンさんは、『キミドラ(Kimmy Dora)』などのコメディー映画に出演しているイメージが強く、メンドーサ監督作品に出るのは意外でしたが、どういう意図でオファーしたのでしょうか
メンドーサ監督:8年前にオファーした頃、ユージンさんは舞台女優をされており、コメディーもしていましたが、シリアスな役はこれが初めてかもしれません。この役は当初からユージンさんを想定していました。題材がシリアスですから、彼女の明るさで少し軽い感じになることを狙いました。
 
ユージン:2007年頃に撮った時、監督に出演を依頼されただけでなく、主演のチェリー・パイ・ピカチェさんからも「自分も出演するから是非」と言われ驚きました。既に連ドラやコメディーに出演していたし、あまりにもギャラが安かったですから(笑)。
 
本当の話をいえば、色々なことを学びました。話は横道にそれますが、三輪車から降りるシーンでドライバーを演じていたのは、今や大スターのココ・マーティンでした。もし当時知っていたらと思っていても・・・。ともあれ、三輪車から降りて歩いていくところはワンショットワンテイクで撮っています。つまり、俳優として非常に違う感覚を覚えました。顔だけでなく、首や背中など、顔でない部分が映るんです。私にとってチャレンジでしたが、顔が映るのが大事ではなく、メッセージを伝えることが大事なのです。メンドーサ監督にとってストーリーが全てで、日常を描いている。私も8年経ってやっとわかりました。私はついサービス精神を発揮してし、楽しい風に演じてしまうのですが、監督は「楽しませなくてもいい。ただビアンカの役を演じればいいんだよ」と言われました。そのあと3年たって、『浄化槽の貴婦人』では、メンドーサ作品のパロディーを演じてます。
 

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―――フィリピンでの里親ビジネスはどれぐらい認知度があるのでしょうか。また、この映画に対するフィリピンの現地の人の反応は?

メンドーサ監督:リサーチで分かった事ですが、80年代末からフィリピンではこのような里親制度がありました。実はこういう制度は途上国では無理だと思っていました。貧しい人がさらに他の子を育てるなんてと思いましたが、大事なことは裕福な環境ではなく、家庭で育つということを知ったのです。養子に行くまで、親や兄弟がいる環境に身を置くことが大事なのです。お客さんの反応で皆さん驚いていたのが、母親が無条件に愛情を与えていることです。サラリーをもらっているシーンもありましたが、それは子ども一人育てるのに十分な金額ではありません。

 
―――修道院も出てきましたが、宗教と密接に関係しているのですか?
メンドーサ監督:二つの施設が出てきます。一つは尼さんが運営している、子どもをケアする孤児院のような施設で、もう一つは子どもとフォスターペアレントを結びつける施設です。
 
―――主人公のテルマは病気の子どもたちも育てていましたが、もし養子のもらい手がないときはどうなるのですか?
メンドーサ監督:全ての子ども(フォスターチャイルド)が養子先を見つけてもらえるとは限りません。その場合は施設で働くことになります。通常は0歳代で養子に行くので、子どもが9歳、10才ぐらいになると施設は心配になるわけです。
 
(ユージンさんよりラストメッセージ)
本当に東京国際映画祭にご招待いただき、ありがとうございます。今年はコンペ部門に選ばれていませんが、十分に名誉です。またフィリピン映画を呼んでいただきたいということと、メンドーサ監督には是非また一緒に仕事をさせてください。
(江口由美)
 

<作品紹介>
『フォスター・チャイルド』
(2007年 フィリピン 1時間38分)
監督:ブリランテ・メンドーサ 
出演:チェリー・パイ・ピカチェ、ユージン・ドミンゴ 
第28回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ新宿、新宿バルト9、新宿ピカデリー他で開催中。
第28回東京国際映画祭公式サイトはコチラ