『ティンブクトゥ』アブデラマン・シサコ監督トークショー@フランス映画祭2015
ゲスト:アブデラマン・シサコ監督(53歳)
2015年6月28日(日)有楽町朝日ホールにて
『ティンブクトゥ』
・(原題:Timbuktu 2014年 フランス、モーリタニア 1時間37分)
・監督:アブデラマン・シサコ
・出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキ、アベル・ジャフリ
・2015年12月 公開予定
・コピーライト:© 2014 Les Films du Worso ©Dune Vision
・【受賞歴】2015年 セザール賞最優秀作品賞・監督賞・脚本賞ほか7部門 受賞
2015年 アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
~美しい映像に秘められた悲劇。
過激派に支配されても、静かな抵抗を続けた人々の勇気を讃えたい!~
アフリカのマリ共和国北部にあるティンブクトゥという世界文化遺産にも登録されている街では、2012年から翌年にかけてイスラム過激派による支配が1年間続いた。この映画は、その支配下にあった時に起こった実際の事件を基に描かれている。狂信的過激派は、聖なる祈りの場所モスクに武器を持って土足で踏み込み、寛大で人情豊かな伝統を踏みにじり、音楽や娯楽を禁止し、女性には外出時の手袋まで強要、未婚の男女の集合を禁止するなど勝手な掟を強いては、違反者には異常なまでの厳罰を科していた。ある遊牧民が引き起こした事件を主軸に、支配下にあった人々の日常生活を淡々と描くことによって、もの言わずとも静かなる抵抗を示した人々の勇気を讃えた力強い作品となっている。
この映画は、いま正に世界各地で起きているイスラム過激派による悲劇の縮図をティンブクトゥという街で表現しているようだ。アブデラマン・シサコ監督の「アフリカの現実を世界に伝えたい」という想いは、国境を越え、時代を超えて人々に訴えかけるものは大きい。マリ共和国出身のシサコ監督は、長年フランスに住んでいたが、5年前からモーリタニアに在住。今回、フランス映画祭での上映のため初来日し、上映後のトークショーに登壇。本作に衝撃と感動を受けた観客から沢山の質問が出て、活発な質疑応答となった。
――― 司会の市山尚三氏からご挨拶。
市山氏:シサコ監督は本作の前に3本の長編劇映画を撮っておられ、私は監督のデビュー作から見続けているひとりです。日常の生活を描きつつも、そこに社会問題や様々な問題が見え隠れするスタイルをずっと貫いて来られた監督です。本作は、それまでのスタイルをキープしつつ、2012年に実際に起こった事件を基に描かれたスケールの大きな感動作となっています。こうしてご紹介できるのをとても嬉しく思います。
――― シサコ監督から最初のご挨拶。
シサコ監督:ご覧頂いてお礼申し上げます。市山尚三さんにプロデュースして頂いて光栄に存じます。アフリカの作品を日本で公開されるのはあまり少ないと思いますが、それを勇気を持って配給して下さった方々に感謝いたします。お客様と直接お話するのは苦手なことですが、こうして私が日本に居るのは皆様と映画を共有するためですので、ご質問があればできるだけお答えしたいと思います。
この映画はとても緊急な状態で作られました。イスラム過激派がマリ北部を1年間占領していました。その間に一組のカップルが石打ちの刑(死ぬまで石を投げ付けられる)にされたことを新聞で知り、とてもショックを受けました。この作品は暴力に反対するための映画です。もうひとつ言いたいのは、イスラム教は決して暴力の宗教ではなく、ただ暴力をふるう人もいるということです。本来宗教は暴力ではなく、愛であり許すことであります。
――― とてもリアル過ぎて驚きましたが、出演されている方々は素人の人ですか?
シサコ監督:プロの俳優と素人が混ざっています。主人公のキダンはギター演奏者で、キダンの妻は歌手で、映画出演は初めてです。過激派のリーダーも、踊っていた過激派幹部もチュニジア出身のフランスの俳優です。魚売りの女性はマリの女優で、歌を歌って処罰された女性はマリの歌手、他の人達は全くの素人で、現地で撮影の手伝いをしてくれた人々や私の友人たちです。我々の国では映画産業が発展していないので、現地でプロの俳優を見つけるのはとても難しいことなのです。プロではない人たちと仕事をするのには慣れていますので、お互いの信頼だけで撮影していました。
――― 川でキダンが漁師を殺してしまった直後のシーンはとても美しく印象的でしたが、何か意味が込められているのですか?
シサコ監督:そのシーンはとても重要なシーンです。映像には必ず意味が込められているものです。このシーンは人間の脆さと弱さを表現しています。死んでしまった人と、これから死ぬ人の対比でもあります。このシーンについては頻繁に話題になりますが、その度に撮影した時のことを思い出します。夕日が沈もうとしていましたので大急ぎで撮らなくてはなりませんでしたが、1回のテイクで成功しました。
――― 過激派を単に極悪非道な人間としてではなく、一人の人間として描いていたように感じましたが、その理由は?
シサコ監督:確かに過激派を単に暴力をふるう人としては描いていません。なぜなら、そうすると冷たい存在になり、まるで見世物のようになってしまうからです。それより静かな暴力として描く方が重みを増し、もっと危険な存在に映るからです。重要なのは、野蛮な行為や暴力はすべて人間の行為であり、人間がどこまで残酷になれるのか、その恐ろしさを示したかったのです。単に暴力だけを描いたバイオレンスは避けたかった。人が死ぬということを描くのに必ずしも流血を見せる必要はないのです。
――― 「ティンブクトゥ」というタイトルが意味するものは?
シサコ監督: 「ティンブクトゥ」は、「ティン=井戸」「ブクトゥ=女性」を意味しています。歴史的オアシスの街の名前ですが、過去にあった辛くて悲しいことを覚えておくべき象徴的な名称なのです。
――― 遊牧民が事故で漁師を死なせてしまったという過激派とは無関係の事件を主軸にした理由は?
シサコ監督:過激派が居なかったら死刑にはならなかったことです。この事件は実際にあった事件ですが、48時間後には死刑にされました。正義とは名ばかりの暴力的で悲しい物語が展開されます。それを最後に持ってきたのは、それがひとつ象徴的なシーンだからです。最後に妻が夫の所に駆け付けたのは、過激派への必死の抵抗を示したかったのです。
――― アフリカにおける宗教について教えて下さい?
シサコ監督:とても難しい質問ですね。元々アフリカには土着のアニミズムのような信仰がありましたが、イスラム教やキリスト教が後から伝来してき、その度に暴力が生まれました。強制的に改宗させるという暴力行為が繰り返されてきたのです。私にとっての宗教は、人間に対する「尊重」と「愛」です。人間はすべて平等であって、同じ価値観を持ち、ひとつの世界に住んでいます。それは宗教が変わっても同じことなのです。
――― 過激派に支配されている人々が日常を楽しむシーンが印象的でしたが、あれらは想像で描かれたのですか?
シサコ監督:シナリオはマリ北部が占領されている時に書き始めて、解放後にマリの人々に話を聞いた内容にインスピレーションを受けて書き上げました。現地で会った人々は平和的抵抗をしていたのです。ボールなしでサッカーをしたり、鞭打たれながらも歌い続けたりとか、特に女性たちの抵抗が目立ったので、彼女らの勇気を示したいと思いました。そのためにもこの映画の成功はとても重要になります。私と同じ価値観でこの映画を製作して下さったフランスの関係者や、この映画を選んで下さったユニフランスの方々にお礼を申し上げます。多くの方にこの映画を見て頂きたいと思います。
(河田 真喜子)
◆フランス映画祭2015
◆6月26日(金)~29日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場) にて開催・・・(終了しました)
◆フランス映画祭公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2015/