◆ゲスト:アナイス・ドゥムースティエ(クレール役)
(2015年6月27日(土)@有楽町朝日ホールにて)
『彼は秘密の女ともだち』
・(Une nouvelle amie 2014年 フランス 1時間47分)
・監督:フランソワ・オゾン
・出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナ
・配給:キノフィルムズ
・2015年8月8日(土)、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、
8月15日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次ロードショー!
・公式サイト⇒ http://girlfriend-cinema.com/
・© 2014 MANDARIN CINEMA – MARS FILM – FRANCE 2 CINEMA – FOZ
~“秘密の女ともだち”に魅せられた、ちょっと変わったラブストーリー~
男性の立場も女性の立場もよく理解できる(?)フランソワ・オゾン監督が仕掛けるラブストーリーは、性を超越した自由な魂に魅せられた女性の成長を通し、真実の愛に導かれていく幸福感にあふれている。
大親友のローラを病気で亡くしたクレールは、ローラの夫ダヴィッド(ロマン・デュリス)と赤ん坊の娘を死ぬまで守ると宣言。その後、ダヴィッドの意外な秘密を共有することで、二人の間に微妙な関係性が生まれる。優しくて誠実な夫のジル(ラファエル・ペルソナ)にも言えず、ダヴィッドを「ヴィルジニア」という女ともだちの名で呼び、クレールは次第にダヴィッドの中の「ヴィルジニア」に惹かれていく。
あのヒゲの濃いロマン・デュリスが本気で女装しているではないか! 立ち居振る舞いからさり気ない仕草、優しい表情やエレガントな着こなしに至るまで、なんと女らしいこと! 特に、細くてセクシーな足にご注目。でも、ロマンの濃い顔からしてニューハーフのような完全な女装ではない。やっぱり男とすぐ分かる女装ゆえに、ダヴィッドに大きな悲しみが襲うことにある。
フランソワ・オゾン監督は、敢えて男性の部分を残した女装「ヴィルジニア」を仕立てたという。「ヴィルジニア」のセクシーさにも、ダヴィッドの男らしさにも、そして亡くなったローラへの恋慕の想いをミックスした感情をクレールに芽生えさせている。その複雑な感情の変化を表情だけで表現したクレール役のアナイス・ドゥムースティエが、《フランス映画祭2015》に際し来日。上映後のトークショーでは、製作現場での様子やオゾン監督の意図や共演者についてなど、どれも興味深いお話を披露してくれた。
――― 最初のご挨拶
皆さんこんにちは!こんなに沢山の方に見に来て頂いて本当にありがとうございます。日本ではフランソワ・オゾン監督はとても愛されている監督だと思っていますので、こうして監督作品を携えて皆さんの前に登場できて光栄です。
――― アナイスさんは去年だけでも5本出演されて超売れっ子でいらっしゃいますが、この映画出演を決めた経緯は?
一つ目のモチベーションは、フランソワ・オゾン監督はフランスでもとても才能のある監督のおひとりですから、オファーを頂けたら女優にとっては大きな喜びでした。しかも女性を描くのが巧みな監督でもあります。
二つ目のモチべーションは、この物語がオリジナルでとても変わったラブストーリーだったことです。私が演じるクレールは、最初から最後までラブストーリーを通じて本来の自分自身に目覚めていくという素晴らしい人物造形に魅力を感じました。
――― アナイスさんはオゾン監督にどうして選ばれたのでしょうか?
オゾン監督は、表現豊かな眼差しを持った女優を探していたということを聞いたことがあります。確かにこのクレールという役は、セリフの少ない分、女優にとっては難しい役柄でした。クレールの目を通して物語を辿っていく役目もありましたから、細やかな表情でシリアスな場面やミステリアスな状況を表現する必要があったのです。クレールがどんな気持ちでいるのかを想像しながら演じるのは、とてもやりがいのある役でした。
――― ヒゲの濃いロマン・デュリスさんを目の前にして吹き出すことはなかったですか?(笑)
この映画はちょっと変わったラブストーリーなので、クレールがそんなにイケメンではない男性に惹かれていくのが解らないかもしれませんが、ダヴィッドが完璧に女性になりきれていない男性の部分を残しているところがオゾン監督の狙いです。だからこそクレールが惹かれていくのが衝撃的で感動的になっていくのです。オーデションではもっと女装の似合う美しい男優さんもいたのですが、敢えてロマン・デュリスのような男っぽい男優を選んだ理由はそこにあります。
クレールがダヴィッドになぜ惹かれていくのか?それは彼のルックスとかフィジカルな部分ではなく、ダヴィッドが持っている自由なエスプリとか魂に惹かれていったのだと思います。クレールは、物語の最初の方では内気で自分の居場所を見出せないような女性でした。それがダヴィッドによって、自分を開放していき、本当の自分自身をダヴィッドを通じて見つけ出していくわけです。
――― 映画館の中でのシーンで、ヴィルジニアに痴漢するのはオゾン監督ですよね?
そうです!(笑)
――― アナイスさんがクレールと同じ立場になったらどうしますか?
勿論女装したいという人がいたら一緒に過ごしますよ。私はそうしたことに反対の意見は持っていません。この映画の素晴らしいのは、クレールの接し方が理解できるように仕向けているところです。時折クスクスッと笑ったり大笑いしたりすることもありますが、それは決してバカにして笑っているのではありません。ヴィルジニアに寄り添いながら楽しんでいる笑いなのです。オゾン監督は、このように遊び心のある軽やかなトーンでこの深刻になりがちなテーマを描きたいと思われたんだと思います。私もそう思って演じました。
――― ロマン・デュリスさんも役作りが大変だったと思いますが、アナイスさんから見て如何でしたか?
ロマン・デュリスとの共演は素晴らしい体験でした。以前から女装する役をやりたい!と思っていたらしく、カツラを着けたりハイヒールを履いたりすると、子供のようにキラキラっと目を輝かせていました。私にとってもいい刺激になりました。
普通は女優の方が化粧に時間が掛かるのですが、ロマンは2時間位かけて化粧していましたから、私の方が男優待ちをしていました。
――― 彼の喜び様は素顔の時から伝わってきましたね?
だからオゾン監督はロマン・デュリスを選んだんだと思います。
――― クレールは、ダヴィッドの中の女性の部分に恋をしていたのか、それとも男性の部分なのか、あるいは亡くなった親友へのレズビアンのような恋情なのか、3つの想いが交差していたように感じたが?
クレールが恋したのはヴィルジニアです。ダヴィッドのことはどうでもいいと思っていたのです。確かに複雑なラブストーリーなので、親友のローラのような完璧な女性をヴィルジニアにも感じていました。また、ダヴィッドが創造したヴィルジニアにもセクシーさを感じていたのです。この撮影はとても微妙で不思議な感覚で過ごしました。他の映画で見るようなロマン・デュリスの視線を感じながら、女装した時にはダヴィッドの創造物であるヴィルジニアの視線にも対面しなければならない、というとても心が動揺するような撮影でした。
――― クレールのファッションがとても素敵でした。ロマン・デュリスとラファエル・ペルソナという二人の人気俳優に愛されるお気持ちは?
本当に幸せでした。ラファエルとは2回共演したことがあってよく知っているのですが、今回ちょっと可愛そうな役でしたが、本当にいい人なんだなあと思わせる演技をしていたと思います。ロマン・デュリスは子供の頃から憧れていたので、今回共演できてとても嬉しかったです。
衣裳については監督と相談して、ストーリーの進行によってクレールが変化していくので、それに合せて衣裳もマニッシュで目立たないものから女性らしいフェミニンなものへと変化して行きました。自分の女性っぽいところを受け入れていく訳です。
――― オゾン監督が他の監督と違うところは?
とてもスピーディーに仕事をする方です。彼が1年に1本映画を撮っていて、現場でも彼のパッションを強く感じられます。子供ようにエキサイティングして、いつも楽しんで映画を作っています。技術上でも他の監督とは違う点があります。それは彼自身がカメラを覗いていることです。俳優との距離が近くなり、俳優にとっても見られているという快感があり、気持ちのいい関係です。
――― 7年後だという最後のシーンの意味は?
(アナイスさんから観客に質問)
皆さんはどう思いましたか? クレールが妊娠していましたが、相手がヴィルジニアだと思う人は?ジルだと思う人は?
不思議なラストシーンです。わざと疑惑を残した監督の狙いです。私も監督もヴィルジニアの子供だと解釈しています。ジルは捨てられてということです。親子3人のシルエットが夕焼けの向こうに映ることは監督が示す家族のアイロニーです。
――― 最後にご挨拶を。
今日は見に来て下さいまして本当にありがとうございました。もし気に入って頂けましたら、他の方にも勧めて下さい。
映画の中では、フランス人女優にしては控えめなお胸のボーイッシュな感じでしたが、実際のアナイス・ドゥムースティエさんは、ふっくらホッペとくりくりっとしたお目々が可愛い女優さんでした。どんな質問にも正直にユーモアたっぷりに答えてくれて、その明るく親しみやすい人柄に益々魅了されてしまいました。覚えにくい名前ですが、これから彼女の出演作が続くと思われますので、頑張って覚えましょう。ドゥムースティエ、ドゥムースティエ・・・。
(河田 真喜子)
2015年8月8日(土)~シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、
8月15日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次ロードショー!
◆フランス映画祭2015
◆6月26日(金)~29日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場) にて開催・・・(終了しました)
◆フランス映画祭公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2015/