映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

『イタリア映画祭2014』作品紹介(河田充規)

『イタリア映画祭2014』作品紹介(河田充規)

(2014.4.26~29,5.3~5 東京有楽町朝日ホール) (5.10・11 大阪ABCホール)

 

~いま世界で最も輝いているイタリア映画~

 

F フェデリコという不思議な存在-1.jpg エットレ・スコーラ監督は,フェデリコ・フェリーニに対するオマージュフェデリコという不思議な存在』で,2人の出会いや交友を描き,フェリーニの着想の原点に触れ,自分の葬儀の場から抜け出したフェリーニと共にその作品を振り返る。映画は”動くだまし絵”であり,騙される楽しみの中から監督の人生観が立ち上ってくる。以下の10作品には,人々がどのような状況に置かれようと,必ず希望はあるという人生観が共通している。

B 自由に乾杯-1 - コピー.jpg 最大野党の書記長エンリコは,党大会で野次を浴び,昔の恋人ダニエルの下に逃避し,若かった頃の自分を見つめ直す。一方,瓜二つの双子の弟ジョヴァンニは,書記長の影武者を務め,見事に部下や妻の心を掴み,政治の表舞台に躍り出る。兄は,弟から本当の自分でいた試しがないと言われるが,過去に立ち戻ることで自分を取り戻し,見失っていた未来を再び見出したようだ。『自由に乾杯』では,イタリアの将来への希望が感じられる。

C ようこそ、大統領-1 - コピー.jpg 同じく政治を題材にしたファンタジー『ようこそ,大統領!』では,選挙によりジュゼッペ・ガリバルディが大統領に選ばれる。政治家だというだけで生卵を投げつけられる世相の中で,国民はイタリア統一の英雄の再来を期待したのだろう。その男は,50歳になる臨時の図書館員だったが,大統領に就任すると,支持率が70%を超え,外交でも勝利をもたらす。イタリア式喜劇のパワーがあれば,苦境を乗り越えて希望を見出すことができる。

K 存在しない南-1.jpg イタリア南部カラブリアを舞台とする『存在しない南』は,旧来の状況を変えたいという若い世代の欲求を描いた,低予算の初監督作品だ。グラツィアは,海の底から上がってくる兄ピエトロと会った夢を見て,兄の失踪(死の真相)を語らない父に反発を覚える。その沈黙がもたらす悲しみや怒り,不安や恐怖のため,閉塞感に包まれるが,ラストではグラツィアが初めて笑顔を見せる。暗がりの中で光が点灯したような感動が広がっていく。

H 南部のささやかな商売-1 - コピー.jpg 人生はやり直せることを描いた『南部のささやかな商売』は,楽しい群像劇で,音楽も聞き逃せない。50歳のコスタンティーノは,恋に落ちて神父を辞め,故郷に戻って古びた灯台で暮らし始める。そこには,幼馴染みのアルトゥーロ,彼と形だけの結婚をした妹ローザ・マリア,その愛人ヴァルボーナ,その姉の40歳で売春婦を辞めたマニョーリアらが集まる。そして,灯台はホテルに生まれ変わり,人生は新たな出発の時を迎えるのだった。

G 初雪-1.jpg イタリア北部の村を舞台とする『初雪』では,リビアの内戦を逃れてきたダニが人生を見つめ直す。妊娠中だった妻ライラは,イタリアに着くと,娘ファトゥを残して26歳で亡くなった。娘を見ると妻を思い出すダニは,娘を残して一人でパリに行こうと決意する。彼は,世話になっているピエトロの孫ミケーレとの交流を深めていた。父を亡くしたミケーレがその悲しみを乗り越えたとき,ダニも妻を亡くした悲しみを乗り越えたに違いない。

L 多様な目-1.jpg 目の不自由な人々の日常を捉えたドキュメンタリー『多様な目』を見ると,目から鱗が落ちる。手で彫ったり磨いたりして生み出される彫刻は,目で見るだけでは決して理解できず,手で触れて鑑賞しなければならない。目が見えないからこそ目の見える人には見えない光景が見えていることが,目の見えない人の世界に視点を据えることによって見えてくる。身体の一部を失ってもポジティブに生きる人々の姿から見えてくるのもまた希望だ。

A いつか行くべき時が来る-1.jpg 子と夫を失ったアウグスタ30歳は,喪失感を埋め,自分自身を見つめ直すため,ブラジルに赴く。『いつか行くべき時が来る』で描かれる旅の行程は,出口の見えない闇の中を手探りで進むようなものだ。だが,アウグスタは,ラストの浜辺でたまたま出会った男の子とはしゃぎ回る。親子3人は舟で去っていくが,浜辺ではアウグスタの笑顔が弾けるように輝いている。ここでも,絶望や苦難を乗り越えた先に希望があると信じさせてくれる。

D ミエーレ-1 - コピー.jpg イレーネは,医学部を2年で中退し,不治の病の人々に死の手助けをしている。仕事上は⑨『ミエーレ』 (蜂蜜)と名乗り,自らの苦しさを紛らわすように海で泳ぐ。彼女の心境や日常をコラージュするようなカットが重ねられる。音楽もユニークだ。忌まわしい職業だと言われたこともある。健康なのに死を望む技師グリマルディに心を開いていく。彼が去った後,その言葉のとおりモスクで風が舞い上がる,イレーネの転機を祝福するように。

J マフィアは夏にしか殺らない-1.jpg パレルモが舞台の⑩『マフィアは夏にしか殺らない』は,アルトゥーロの成長の背景にマフィアとの闘争を通観するコメディだ。彼の命は,ラツィオ通りの虐殺があった1969年12月に芽生えた。彼は,少年期に恋するフローラとの出会いと別れを経験し,青年期に再会して彼女の歓心を得ようとする。色々あって結婚し息子が生まれ,21世紀になってマフィアに暗殺された人々の記念碑を訪ねて回る。新たな時代が過去の経験の上に築かれていく。

I 無用のエルネスト-1.jpg エルネストは,1967年10月父から役立たずと言われた。だが,主に運送業を営んで妻アンジェラとの家庭を守り,社会の波に乗る親友ジャチントとの交友も続ける。社会の出来事と同様,彼の人生にも明暗があった。肺癌の宣告を跳ね返し,2013年5月には宝くじで50万ユーロが当たった幸運を噛みしめる。ローマが舞台の⑪『無用のエルネスト』は,イタリアの変転する社会状況の中で慎ましく生きる市民の姿をコミカルなタッチで描いていた。

 以上の11本のほか,特別上映作品2本を除き,映画祭では⑫『サルヴォ』も上映された。未見だが,舞台はパレルモで,タイトルロールは殺し屋だという。彼は,ターゲットの家に忍び込み,その妹で目の見えないリタと遭遇するが,相手を仕留めたとき,リタの目に光が宿り,彼女を救おうと組織から逃げる,という展開のようだ。寡黙でユニークな表現がカンヌ国際映画祭で評価されたらしいが,2人の逃避行の先には救済があるのだろうか。

(河田 充規)


 ①『フェデリコという不思議な存在』 
2013年/93分 原題:Che strano chiamarsi Federico
監督:エットレ・スコーラ Ettore Scola
出演:トンマーゾ・ラゾッテ(フェリーニ)、マウリッツォ・デ・サンティス(老年期のフェリーニ)、ジュリオ・フォルジェス・ダヴァンツァーノ(エットレ・スコーラ)

②『自由に乾杯』
2013年/94分 原題:Viva la libertà
監督:ロベルト・アンドー監督 Roberto Andò
出演:トニ・セルヴィッロ(エンリコ・オリヴェーリ/ジョヴァンニ・エルナーニ)、ヴァレリオ・マスタンドレア(アンドレア・ボッチーニ)、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(ダニエル)

③『ようこそ、大統領!』
2013年/100分 原題:Benvenuto Presidente!
監督:リッカルド・ミラーニ Riccardo Milani出演:クラウディオ・ビジオ(ペッピーノ)、カシャ・スムトニャク(ジャニス)、ジュゼッペ・フィオレ(白髭の政治家)

④『存在しない南』
2013年/90分 原題:Il sud è niente
監督:ファビオ・モッロ Fabio Mollo
出演:ヴィニーチェ・マルキョーニ(クリスティアーノ)、ミリアム・カールクヴィスト(グラツィア)

⑤『南部のささやかな商売』
2013年/103分 原題:Una piccola impresa meridionale
監督:ロッコ・パパレオ Rocco Papaleo
出演:リッカルド・スカマルチョ(アルトゥーロ)、バルバラ・ボブローヴァ(マニューリア)、ロッコ・パパレオ(コンスタンティーノ)

⑥『初雪』
2013年/105分 原題:La prima neve
監督:アンドレア・セグレ Andrea Segre
出演:ジャン=クリストフ・フォリー(ダニ)、マッテオ・マルケル(ミケーレ)、アニタ・カプリオーリ(エリーザ)

⑦『多様な目』
2013年/94分 原題:Altri occhi
監督:シルヴィオ・ソルディーニ、ジョルジョ・ガリーニ Silvio Soldini,Giorgio Garini
出演:エンリコ・ソージオ、マリサ・サントーニ ほか

⑧『いつか行くべき時が来る』
2012年/110分 原題:Un giorno devi andare
監督:ジョルジョ・ディリッティ Giorgio Diritti
出演:ジャスミン・トリンカ(アウグスタ)、アンヌ・アルヴァーロ(アンナ)、ピア・エングレベルト

⑨『ミエーレ』
2013年/96分 原題:Miele
監督:ヴァレリア・ゴリーノ Valeria Golino
出演:ジャスミン・トリンカ(イレーネ「ミエーレ」)、カルロ・チェッキ(カルロ・グリマルディ)、リベロ・ディ・エンツォ(ロッコ)

⑩『マフィアは夏にしか殺らない』 
2013年/90分 原題:La mafia uccide solo d'estate
監督・原案・脚本・出演:ピエルフランチェスコ・ディリベルト Pierfrancesco Diliberto
出演:クリティアーナ・カポトンデ(フローラ)、ピフ(アルトゥーロ)

⑪『無用のエルネスト』
2013年/113分 原題:L'ultima ruota del carro
監督:ジョヴァンニ・ヴェロネージ Giovanni Veronesi
出演:エリオ・ジェルマーノ(エルネスト)、リッキー・メンフィス(ジャチント)、アレッサンドラ・マストロナルディ(アンジェラ)

⑫『サルヴォ』
2013年/104分 原題:Salvo
監督:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ Fabio Grassadonia,Antonio Piazza
出演:サーレフ・バクリ(サルヴォ)、サラ・セッラヨッコ(リタ)、ルイージ・ロカーショ(エンツォ・ブレオ)