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『ゾウを撫でる』佐々部清監督、大塚千弘、『昼も夜も』塩田明彦監督、瀬戸康史、吉永淳インタビュー@神戸三宮映画祭

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写真左より『ゾウを撫でる』佐々部清監督、大塚千弘さん、『昼も夜も』瀬戸康史さん、吉永淳さん、塩田明彦監督

『ゾウを撫でる』佐々部清監督、大塚千弘、『昼も夜も』塩田明彦監督、瀬戸康史、吉永淳インタビュー@神戸三宮映画祭
 
5月30日(金)、31日(土)の2日間、OSシネマズミント神戸、神戸芸術センター、カフェ ネスカフェ 三宮、国際会館 会議室の4会場で開催される『神戸三宮映画祭』。
上映作品の「ネスレシアター on YouTube」で公開された作品の中で、長編2作『ゾウを撫でる』の佐々部清監督および出演者の大塚千弘さん、そして『昼も夜も』の塩田明彦監督および主演の瀬戸康史さん、吉永淳さんに、作品の魅力や、映画館より先にWEBで無料配信する「ネスレシアター on YouTube」と映画館上映との相乗効果、オリジナル作品に込めた狙いについてお話を伺った。
 
―作品紹介―

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『ゾウを撫でる』(公開:2013年11月14日)
監督:佐々部清
出演:小市慢太郎/高橋一生/大塚千弘/羽田美智子/菅原大吉/中尾明慶/大杉漣/月影瞳/金児憲史/山田裕貴 他 
15年ぶりに映画を撮る伝説の映画監督神林晋太郎、新作映画のタイトルは『約束の日』。 
その映画製作に携わる人間模様を描く。往年の映画や制作現場へのオマージュを捧げながら、監督から裏方まで個人個人に光を当てた映画愛にあふれる群像劇。
 

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『昼も夜も』(公開:2014年4月10日)
監督:塩田明彦
出演:瀬戸康史/吉永淳/碓井将大/須賀健太/篠原ゆき子/小林実由/栁俊太郎/SAORI/足立理/中村昌也 他
2年前父親を亡くし、若くして父親の中古自動車販売会社を継いだ真野良介。家を出た母親の代わりに小さな妹の世話までする良介の前にある日、ひとりの女が現れる。名前も素性も分からない彼女に振り回される内に、良介は彼女に心を開き自分の話をしていく。2年前父を亡くしたことや、恋人の事故のこと…。どこにも行けない良介と、どこにも居場所がない女の魂が静かに共鳴する、それでも生きる若い2人を感じる詩的な一作。
 

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―――今回「ネスレシアターOn You Tube」で作られた映画は短編が多かったですが、佐々部監督、塩田監督は長編を手掛けておられます。先にWEBで配信し、後から劇場公開という形式を念頭に置いた映画製作で工夫した点は?
佐々部:高岡氏(ネスレ日本株式会社代表取締役兼CEO)を交えての打ち合わせ会合で、一番最初の約束事として映画を作るスパンで「ネスレシアターOn You Tube」作品に取り組むことをお話していたので、長編しか考えていませんでした。You Tubeというコンテンツは理解できるけれど、やはり私は映画監督なので、最終的には劇場で公開することにこだわりました。後はオリジナル作品なので、脚本家と相談し、8分で1つのドラマを完結させるけれど、その8分が積み重なって95分になった時に1つの大きな物語が見える仕掛けしました。そうすれば、You Tubeと映画というコンテンツを両方兼ね備えた作品ができると思ったのです。
塩田:僕は迷いました。1話完結の連作にした方がWEB上では見やすいかもしれませんが、長編として1本の流れを持つ作品を撮りたかったのです。WEBで公開するので、劇場で公開する映画のスタイルとは違った形を模索しました。僕は60分ぐらいの中で、普通の映画では若干説明不足だけれど、全体がポエムやエッセイのような、ある断片がつながって一つの長編になるような話が作れればと考えました。『スパイ特区』(12年放送のテレビドラマ、神戸三宮映画祭で上映あり)で瀬戸康史さんや吉永淳さんと一緒に作ったので、もう一度同じチームで2人の全く違う面を引き出せたらと、それだけを考えながら作っていましたね。
 
―――『ゾウを撫でる』というタイトルの意味は?
佐々部:「群盲、象を撫でる」というインドの慣用句から付けました。象の足を触った盲人は「太くて固い」と言い、耳を触った盲人は「柔らかくて薄っぺらい」、そして鼻を触った盲人は「すごく長い」と言うのです。全部間違ってはいないけれど、全体を俯瞰して見ると象の真の姿が表れます。同様にこの作品も、8分ずつのドラマは、それぞれで完結しているけれど、全体を見ると『ゾウを撫でる』という大きな物語がみえてくるのです。
 

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―――役者の立場からみて、映画を先にWEBで無料配信する企画はどんなメリットを感じましたか?また、周りの反響はいかがでしたか?
大塚:ネット社会なので、たくさんの方に「観たよ」と言っていただけたことがうれしかったです。脚本を読み、本当に面白かったので、「この作品をスクリーンで観たい」と思いましたし、You Tubeでは最後の部分を見せないというサプライズがある(『ゾウを撫でる』)のも素敵ですね。
瀬戸:映画を観ることに対しての今の若い世代のハードルが少し下がったのかなと思います。本当に映画を身近に感じてもらえるような企画ですね。CMが入ると、思わずつなげてみたくなりますし(You Tubeでは6章に分けて配信)、つなげてみる方が作品の魅力が伝わると思いますので、ぜひ多くの方に全編をつないだ形で観ていただけたらと思います。
吉永:私も映画を観ることが好きなので、例えば小津監督の作品や相米監督の作品をWEB上で観るのかと言われれば、それはもったいない気がします。でも、今回の塩田監督作品や、佐々部監督作品のようにこだわりがあり、作り込まれているいい作品を身近に私たち世代に届けるツールとしてWEBが使われ、神戸三宮映画祭で全編が上映されます。いいものに触れる機会が増えたと私は感じています。
 

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―――瀬戸さんは『スパイ特区』で2役され、さらに『昼から夜まで』でもまた違った雰囲気の役柄を演じましたが、塩田監督の魅力は?
瀬戸:塩田監督の世界観は本当に独特で、脚本を一度読んだだけでは全てを理解できません。でも何度も読むことで、謎を解きながら脚本を読めるところが塩田監督の魅力だと思います。
 
―――大塚さんは記者会見でのご挨拶で「佐々部組で再びやれるのがうれしい」とおっしゃっていましたが、その魅力は?
大塚:私は『東京難民』(14)で佐々部監督とご一緒し、本作で2本目となるのですが、佐々部組は本当に家族みたいで暖かく、すごくお芝居がしやすいです。私は第4章の奇跡を聞く女を演じているのですが、台詞はないけれど、緊張感を保ちながらお芝居ができました。本当に大好きな現場ですね。
 
―――『昼も夜も』で吉永さん演じるヒロイン、しおりが何度も「海は腐った魚の臭い」と言うのが非常に印象的で、東日本大震災の情景を想起させました。出身地はあえて語られていませんが、意図的に挿入しているのですか?
塩田:作る側としては言葉で確定させたくない部分はあります。これまでと違った2人のイメージをどうやって出そうかと考えながら、居場所を失った女性の話を書いていました。なぜ居場所を失ったのかと考えるうちに、海の光景が浮かんできました。脚本を作っているうちにここ数年で僕の周りであまりにも多くの人が亡くなってしまったことが、無意識の僕の作品の中に入ってきたんです。どこかで色々なことをまとめて追悼したくなりました。そういうことは撮影前に瀬戸さんと吉永さんに伝えましたね。
 
―――『ゾウを撫でる』で大塚さんが演じる女性も、震災ボランティア体験者という設定でした。
佐々部:おそらく映画監督をやっていると、3.11をどこかで伝える、風化させないという想いがあると思います。『ゾウを撫でる』でも、奇跡の木の話が出てきますが、54本の苗木というのは日本の原発の数と同じです。塩田監督がおっしゃるように、(震災のことを)声高に伝えようとしなくても、どこかに入れなければ、表現者として物を作ることに携わっていけなくなってしまう気がします。
 

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―――最後に作品の見どころをお聞かせください。

佐々部:最終章をWEBでは見せないと言い切ってしまったので、Facebookや私のHPでも『ゾウを撫でる 完全版』として告知宣伝しています。You Tubeでの配信が終了する今秋以降に劇場公開を考えていますので、明日オープニング上映としていち早く観ていただける機会に、ぜひご覧いただければと思います。
大塚:『ゾウを撫でる』は大好きな作品です。今回は声だけの出演もあり、色々なことをやらせていただきました。たくさんの方に観ていただきたいです。
塩田:『昼も夜も』はWEBを意識して作っていますが、僕も不器用ながら映画監督として作っている部分があり、大きい画面で観れば観るほど、細やかな感情な揺れや登場人物が抱えているものの深さが伝わるような気がします。滅多にない機会なので、ぜひ大スクリーンで観ていただきたいと思います。
瀬戸:『昼も夜も』で僕が演じた自動車工場の良介は、本当に何気ない毎日を送っていて、突然変な女が表れるところから始まります。3.11も何気ない日常を送っていたところに突然地震や津波が襲ってきて、失うものもたくさんありましたが、そこから得るものも少なからずあったと思います。3.11を風化させないメッセージも込められているので、観た方が何か感じ取っていただければうれしいです。
吉永:阪神大震災で三宮が被災したことを小さい頃から見てきていたので、神戸三宮映画祭で上映できるというのは、土地と映画がつながるという部分でも、観客の方と映画をつなぐという部分でも、つながりが深くなり、うれしいです。作品は観た方のものだと思っています。『昼も夜も』は、塩田監督や瀬戸さんと一緒に頑張ったので、色々な方に観ていただきたいと思います。
(江口由美)

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