『エスケープ 暗黒の狩人と逃亡者』@【第5回京都ヒストリカ国際映画祭】にて上映
原題:Flukt
(2012年 ノルウェー 1時間22分)
監督:ローアル・ユートハウグ
撮影:ジョン・クリスティアン・ローゼンルンド
出演:イングリッド・ボルゾ・ベルタル、イザベル・クリスティーネ・アンドレアセン、ミッラ・オリン、ビョルン・モーアン、トビアス・サンテルマン
~急峻なフィヨルドの山々を舞台にした、凶暴な女山賊から逃げる少女の勇気と優しさ~
昨年の《第4回京都ヒストリカ国際映画祭》では、とても珍しい時代劇映画が見られた。中でも、13世紀初頭イングランドのロチェスター城を舞台にしたマグナ・カルタ(大憲章)調印後のジョン王と貴族たちとの攻防戦を描いたイギリス映画『アイアンクラッド』や、ロマノフ王朝誕生直前の1612年、ロシア征服を目論む大国ポーランド軍との迎撃戦を描いたロシア映画『1612』は、知られざる歴史上の激戦をダイナミックな史劇アクションとして大いに楽しめた。
今年の新作の中で特にオススメしたいのはノルウェー映画『エスケープ 暗黒の狩人と逃亡者』である。『ハンガー・ゲーム』のように少女が強敵と戦うストーリーだが、弓矢も射られなかったような少女が無慈悲な山賊から必死で逃げて、逃げて、さらにある約束を守るために復讐するというサバイバル・スリラー・アクション。『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などハリウッド超大作のVFXスタッフが創り出すリアルな映像は、フィヨルドで有名なノルウェーの大自然の冷気を感じさせるほどだ。少女と山賊たちとの手に汗握る死闘に終始圧倒される。
【STORY】
14世紀のノルウェー。ヨーロッパ全土を恐怖に陥れたペスト大流行の10年後。無法地帯となった街を離れ、家族4人で新天地を求めて旅をしていた一家。真新しい墓が点在する高原に差し掛かった時、いきなり母親に矢が突き刺さる。現れた山賊に父親はナタで切り殺され、荷台に隠れていたシグネ(イザベル・クリスティーネ・アンドレアセン)は弟を逃がそうとしたが、弟も射殺される。ドグマ(イングリッド・ボルゾ・ベルタル)という女を頭とする山賊にシグネは囚われの身となり、山奥のねぐらへ連れて行かれる。そこにはフリッグという幼い女の子がいて、ドグマに娘のように可愛がられていたが、どこか不安そうな表情をしていた。
明け方フリッグがシグマの縄を解いている処をドグマに見つかってしまう。シグマはフリッグを連れて逃走する。ドグマは気が狂ったようにフリッグの名を叫びながら、他の山賊たちと追いかけてくる。必死で逃げる、逃げる。ようやく人家を見つけ村人に助けられるが、すぐさま山賊に襲われる。そして、岩山に追い詰められたシグネは深い滝口へと消えて行く……。
かつて村で娘と暮らしていたドグマは、井戸に毒を入れた犯人にされ、娘共々川へ突き落される。娘を殺された恨みから、ドグマは山賊となって村人を襲っているという。ドグマの悲惨な過去は、ヨーロッパ全人口の三分の一か半分が死亡したとされる14世紀のペスト大流行当時、ペスト羅患率が低かったユダヤ人が迫害されてきたことに似ている。人が人を悪魔にしてしまう恐怖が本作には底通しているからか、悠久の大自然の中に生きる人間の悲哀を感じさせる。
(河田 真喜子)