【京都ヒストリカ国際映画祭】上映作品
★『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』
(Dracula 2012年、イタリア、フランス、スペイン、1時間46分)
監督:ダリオ・アルジェント
脚本:ダリオ・アルジェント、エンリケ・セレッソ、ステファノ・ピアニ、アントニオ・テントリー
原作:ブラム・ストーカー 「ドラキュラ」 音楽:クラウディオ シモネッティ
編集:マーシャル・ハーヴェイ、ダニエレ・カペッリ
主演:トーマス・クレッチマン『ワルキューレ』『キング・コング』
アーシア・アルジェント『サスペリア・テルザ 最後の魔女』
ルトガー・ハウアー『ブレード・ランナー』、ウナクス・ウガルデ『チェ 28歳の革命』
マルタ・ガスティーニ、ミリアム・ジョヴァネッリ
2014年春公開予定
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~悲しみに彩られた美しきドラキュラ~
ブラム・ストーカー原作の「ドラキュラ」は妖怪・魔物の王者、恐怖映画の金字塔だ。過去、何度も映画化され、コッポラ監督、ゲイリー・オールドマン主演作はじめ、何本見たかすらすぐには思い出せない。近年では有名になりすぎて喜劇やパロディにまで登場、少々安っぽくなった感も否めない。
だが、鬼才ダリオ・アルジェントが手がけたドラキュラはやっぱり正統派、保守本流、これほどまでに切ないドラキュラは見た記憶がない。凄惨なスプラッターホラーやフェイク・オカルト全盛の流れに逆らうように、美しさに満ちたゴシックホラーに仕上げた。
物語に大差はない。青年ジョナサン(ウナクス・ウガルデ)が小さな村ハプスブルクへ図書館司書の仕事を求めてドラキュラ伯爵(トーマス・クレッチマン)を訪ねて来る。彼は美しい妻ミナ(マルタ・ガスティーニ)の友人ルーシー(アーシア・アルジェント)にドラキュラ伯爵を紹介されたのだが、遅れて村に着いた彼女は「ジョナサンが数日間戻らない」と聞かされる。それはドラキュラ伯爵がミナを手に入れるための罠だった…。
落ち着いたハプスブルク村のたたずまいに惹かれる。森には不気味な狼が目を光らせ、吸血鬼も早々に登場するが、緑濃い森や村のしっとりとした美しさが印象深い。これは一体、ホラー映画なのか…。だが、これこそが“アルジェント流”と記憶が甦った。
ダリオ・アルジェントが一躍その名を轟かせたのはホラーブーム真っ盛りの70年代。伝説となった恐怖映画『サスペリア』(77年)。先端を切った『エクソシスト』(73年)や『オーメン』『キャリー』(ともに76年)の後、『サスペリア』は魅惑のホラーとしてファンの心をつかんだ。原色を多用した華麗な画面とゴブリンの印象深いサウンドトラックが“美しい恐怖”を盛り上げた。
ドイツのバレエ学校にやって来た女子生徒が、閉ざされた寄宿舎に入り“悪魔がいる”と感知し、奇怪な現象に見舞われる、いかにもホラーらしいシチュエーションだが、ダリオ・アルジェントの美的感覚が出色。原色を多用しためくるめく色彩で酔わせ、クライマックスでは、鏡を使った眩惑効果も満点だった。
公開当時、ある画家は「大きな館にまつわる構造的なホラー」と天才画家キリコと並べて(後に大家になった点も含めて)高く評価した。
その後、ダリオは愛娘アーシアをヒロインに『オペラ座の怪人』(98年)をはじめ、ヨーロッパ怪奇映画大御所になるのだが、本領というべき『インフェルノ』(80年)、『サスペリア・テルザ』(01年)の魔女3部作を完結させ、期待を裏切らなかった。
『ドラキュラ』は後半、もうひとりの主役、宿敵ヴァン・ヘルシングが登場、、懐かしやルトガー・ハウアーがヒロイン、ミナを守ってドラキュラと戦う。ドラキュラは、村の集会で反対されるやすばやいワザで首を切り落としたり、参加者全員を惨殺する。 狂暴な本性をむき出しにするドラキュラそのものなのだが、驚くのは、そのドラキュラがミナを「400年前に死んだ恋人」の墓に誘い「私は交響曲の中で調子の外れた異分子、何百年も苦しんできた」と自己批判しつつ愛を告白する場面。ミナは死んだ妻に瓜二つだった…。この恋するドラキュラもまた確かにアルジェントだった。
恐怖映画は社会不安の反映に違いない。1930年代、『ガリガリ博士』をはじめとする“ドイツ表現主義”の諸作はナチス・ドイツ台頭への不安の表れだったし、70年代のオカルト・ブームはベトナム戦争を抜きには語れない。
21世紀を迎えても、手を変え品を変えてホラー映画の人気は続いている。ショッキングな残酷描写が人気の『ソウ』(04年~)や、日常生活に恐怖が潜むフェイク・ドキュメンタリー『パラノーマル・アクティビティ』(07年~)は言うまでもなく、9・11後のアメリカの恐怖の映像化。『キャリー』のリメイクやイタリア映画『~ドラキュラ』は恐怖の原点を見つめ直す意思の表れかも知れない。
(安永 五郎)
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