「朔子は割と自分に近いものがある」二階堂ふみ、鶴田真由、杉野希妃、深田晃司監督が『ほとりの朔子』ワールドプレミアで登壇! @TIFF2013
『ほとりの朔子』(2013年 日本=アメリカ 2時間5分)
監督・脚本:深田晃司
出演:二階堂ふみ、鶴田真由、太賀、古舘寛治、杉野希妃、大竹直、小篠恵奈
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~歩いて、しゃべって、キュンとして。大人の世界を覗き見るひと夏の避暑地青春物語~
東京下町の印刷所を舞台に、日本の家族やコミュニティー特有の問題を散りばめた“グローバル喜劇” 『歓待』(10)で、東京国際映画祭「ある視点」部門作品賞をはじめ世界の映画祭で高い評価を得た深田晃司監督。今回は園子音監督、三池崇監督作品他で活躍著しい二階堂ふみを迎え、山や川など自然溢れるシチュエーションで自身初となる青春映画を作り上げ、2014年新春劇場公開される。記者会見で「私はロメールに狂っていると言っていい」と公言するぐらいエリック・ロメール監督に心酔している深田監督らしいセリフの妙に加え、70年代を思わせるレトロでオシャレなファッションや、朔子が着こなしている避暑地の少女風ワンピースの数々も日本版ロメールといった趣を感じさせる。避暑地で出会う福島から避難してきた青年との淡い恋や、朔子の周りの大人たちの様々な“事情”が次第に露わになり、ほんの少し大人になって東京に帰っていく朔子。朔子演じる二階堂ふみ(撮影当時17歳)が、川で水をすくったり、海辺を歩くさりげないシーンからなんともいえない瑞々しい感覚が溢れ出て、癒され効果も満点だ。
10月20日に行われたワールドプレミア上映では、大スクリーンでの上映後に、深田晃司監督、二階堂ふみ、鶴田真由、杉野希妃プロデューサーを迎えてのQ&Aが行われ、観客と共にワールドプレミア上映を鑑賞したゲストたちがその感想や、撮影秘話を語った。また、Q&A後の記者会見では、深田晃司監督、二階堂ふみ、杉野希妃プロデューサーが登壇。深田監督より台詞をつくるときに意識していることや、映画づくりの姿勢についてその想いを明かしてくれた。
<10月20日ワールドプレミア上映後Q&A>
登壇者:深田晃司監督、二階堂ふみ、鶴田真由、杉野希妃プロデューサー
―――今日がワールドプレミアですが、スクリーンでご覧になった感想は?
二階堂:今日初めて出来上がった作品を大スクリーンで見て、「映画を観ているな」という気持ちになってよかったです。映画が好きな理由の一つでもありますから。
鶴田:深田監督は人間に愛があるなと思います。伝え方の温度がすごくて、とてもいい映画だなと思いました。
―――『歓待』の次に、この映画を作ろうと思ったいきさつや経緯は?
深田:僕の中では『歓待』とそんなに大きな違いはありません。ドラマチックに何かを語るというよりは、「いつ人が出会い、いつ人が別れ、いつ誰が一人でいるか」という人間のコミュニケーションの中で何か描きたいということは自分の中で一貫しています。今回はその延長線上で、『ほとりの朔子』を作りました。
―――二階堂ふみさんは主演ですが、作品ではあまり前に出てきません。キャラクター的には芯がしっかりしている印象を受けましたが、演じたご本人は朔子をどう考えて演じたのですか?
二階堂:私は毎回作品に参加させていただくとき、あまり自分のキャラクターについて考えをがっちり決めず、現場でその空気を感じたり、ほかの役者さんとコミュニケーションしながら自分のキャラクターを作っていくことが多いです。今回は特に「大人の中に混じっている、大人になりかけの子ども」という立ち位置だったので、あまり(キャラクターづくりを)しっかりしていなくていいかなと思い、周りに身をゆだねながら、川に流れていくように現場を楽しんでいました。割と今回の朔子は自分にすごく近いものがあります。今日作品を観て、リラックスしてできたお芝居だったなと思いました。ありがとうございます。
深田:演技の指示としては特になかったと思います。脚本の関係性の中に、そういうものは込められていると思っていますから。演出という点では、二階堂さんや鶴田さんをはじめ、できるだけ役者さんがリラックスして演じる環境を作るのが監督の最初の仕事だと考えています。後は、役者さん自身が放つ面白さが作品に出ているのだと思います。
―――深田監督や杉野さんの、海外への独特な眼差しというのは、『歓待』やその他の作品から得られた経験や体験をもとにして形成されたものですか?
深田:この作品では、国際的に活躍している海希江(鶴田真由)が出てくるわけですが、「人も国も同じ」というセリフがあるように、「自分のことは自分が一番分かっている」というのは嘘だということが語られています。大きな話で表現すれば、21世紀の現代の話だと思っています。例えば日本という国を日本人が一番よく知っているのかといえば、そうではありません。常に他者と接することで、自分の価値を再発見することの繰り返しが「生きる」ことだと思います。「自分を知るには他人の視点がないと分からない」という気持ちを込めて、この脚本を書きました。「共同体と排除」をテーマに『歓待』の脚本を書いた当時よりもヘイトスピーチなど他者を排除する傾向が強くなっています。この経験が『ほとりの朔子』の脚本に反映されたと思います。大げさに「世界平和」を唱えるのではなく、国際関係のことも人間関係として考えていきたいという気持ちが反映されています。
杉野:鶴田真由さんに演じていただいた海希江は地域研究者の役です。私はマレーシアの監督と組んで仕事をしていた時期があり、そのとき地域研究者の方々と知り合い、ここ数年は一緒にシンポジウムをさせていただく機会が多かったので、よりアジアについて知ることができました。日本以外で知る機会があると、世界が非常に広がり、自分自身や日本という国についても気付かされることが多々あります。ドメスティックだけではなく、外部の視点のある作品にしたいという気持ちは常にありますし、これからもそういう作品を作っていきたいと思っております。
―――お誕生日パーティー(飲み会)のシーンはアドリブが効いているように思いますが、撮影ではどんな感じでしたか?
深田:辰子(杉野希妃)のお誕生日のシーンは、この映画で一番即興に近いところです。即興で緩く会話を投げ込むところを一カ所作りたいと思い、私から俳優のみなさんに「こちらの議題について議論してほしい。そのとき気持ちはいったん役から離れて、自分自身の言葉で考えてしゃべってほしい。ただ、自分自身と役柄の境界の薄皮一枚ぐらいのところを狙ってほしい」とお願いし、話してもらいました。即興のおもしろさというのは、「クオリティーが保証できない」ことで、必ずしも面白い会話になるか分からないし、映画として面白い会話になるかも分かりません。でも、そこも含めて登場人物の個性になるのが面白いと思い、今回は挿入しました。
鶴田:大人の嫌らしさが満載のシーンになったのではないかと思います。改めて見ても、「鎧をかぶっているのに、鎧をかぶっていないようにふるまっているのが全面にバレている」風な大人の嫌らしさが出ています。鼻で笑っている感じが出ていますね。
二階堂:「大人は大変だな」とずっと考えていましたね。話を聞いている分には楽しくて、今日スクリーンで完成版を観て、思った以上にニヤニヤしていました。
―――孝史(大賀)と朔子がカフェで夜中を過ごすシーンの赤い風船が印象的でしたが、どんな意図があるのですか?
深田:一番最初の脚本では、山奥のカフェに行った二人が、何か突然不思議なものに遭遇するといった形で、大道芸人が登場するか、誰かミュージシャンの音楽を聴くということを考えていました。最終的には大道芸人の知念大地さんにお願いし、現在のシーンになっています。何か不思議なことに遭遇し、考える余白を作りたいという意図ですね。できれば朔子や孝史の目を通して、お客さん自身が不意に何かに遭遇する体験を共有できる時間になればと思います。
(最後のご挨拶)
杉野:本当に魅力的な役者の方に出ていただきました。二階堂ふみさんは17歳最後となる作品でとても素敵な姿を残してくださいましたし、鶴田さんはとてもナチュラルに演じていただき、本当に感謝しています。この作品を気に入ってくださったら、是非宣伝していただきたいですし、気に入らなければ、胸にそっとしまっていてください。よろしくお願いいたします。
<記者会見>
登壇者:深田晃司監督、二階堂ふみ、杉野希妃プロデューサー
(最初のご挨拶)
深田:(コンペティション部門に)選んでいただいた後もギリギリまでブラッシュアップしましたので、キャストのみなさんにも今日初めて見ていただくことになりましたし、私自身もずっと自分の小さいスクリーンで観ただけだったので、今回最高の形でワールドプレミアを飾ることができ、大きなスクリーンで観ることができて、満足しています。
二階堂:大きい映画館が好きで、映画が好きになったので、自分が出ている作品をああいう大きなスクリーンで観ることができて、とても光栄だなと思いました。ものすごくリラックスして取りかかれた作品でしたので、それが作品にもにじみ出ていて、他の人も観てほっとしていただけるのではないかと思います。
―――今回は3年前の『歓待』に続くTIFFで、しかもコンペティション部門での選出ですが、いかがですか?
杉野:3年前の「ある視点部門」もすばらしい部門で、賞がいただけてとてもうれしかったのですが、横目でコンペティション部門の作品を見ながら「いつかコンペティション部門に入選したらいいな」と思っていましたので、今回(コンペティション部門で)戻ってくることができ、とてもうれしかったです。大きいスクリーンでこの作品を見るのは私も初めてでしたが、『歓待』の延長線上にあるような、よりパワーアップした作品になり、とてもうれしかったです。
―――今回オマージュを捧げているエリック・ロメール監督の『海辺のポーリーヌ』では白い服、白い水着が登場しますが、本作は最初は淡い色からカラフルな服になっていくのはどういった意図ですか?
深田:私はこれまでの作品も全てエリック・ロメールを意識しており、今回特別にロメール監督にオマージュを捧げているつもりはありません。『海辺のポーリーヌ』は、ビジュアルではあまり色彩変化はありませんが、本質的に色彩豊かな作品だと思うので、そういう点に少しでも近づければと、衣装担当とも相談し、色彩豊かな衣装にするという方向性になりました。
―――会話に厚みがありましたが、どのように台詞を紡いでいったのですか?
深田:この映画は台詞が多く、通常の映画の2~3倍の英語字幕をつけなければならなかったので、とても大変でした。台詞を作るときに意識していることは3つ挙げられます。1つ目は、関係性の中から作り上げる言葉を大事にすること。2つ目は、名台詞を書かない。3つ目は本音を語らせない。これらを念頭に置いて、私は脚本を書いています。本音を語らせないのはとても重要で、人はそんなに簡単に本音は話さないと思うのです。家族や友達と話をしていても、皆その場の関係性の中で、目的を持って話をするのが人間なので、簡単には本音を話しません。脚本の方向性に合わせて恣意的な台詞を書いてしまいがちですが、そこには陥らないように意識をしています。
―――監督から台詞に関して、何か指導はありましたか?
二階堂:特に何も言われていません。現場では、自由にやらせていただいている印象でした。今監督のお話を聞いていて、本音を話させないとか、大人のうわべが映画の中で垣間見えていたので、それは台詞や会話のテンポではなく、むしろそれを取り繕うために行っている行動だと思っていました。だから、台詞が多くて大変という印象は持っていなかったですね。
杉野:具体的な指示はなく、本当に自由にやらせていただきました。語尾も自由に自分の言葉にして発せられるような感覚で演じさせていただきました。
―――『こんにちは赤ちゃん』の曲が流れた時は、選曲が絶妙すぎて爆笑しました。映画の中で津波や福島からの避難者、脱原発集会などが組み込まれ、東日本大震災を意識して見ることになると思いますが、脚本を書く際に何か参考にしたエピソードがあれば、教えてください。
深田:『こんにちは赤ちゃん』は10年前からやりたいと思っていたネタなので、笑っていただけてうれしいです。
震災、原発、津波などが盛り込まれていた点については、なるべく自然に世界観の一部として組み入れたいと思っていました。今、私たちが日本のどこかの土地で撮影しようとする以上、絶対に原発の問題とは地続きです。それをあたかもその問題と断絶されているかのように撮る方が不自然です。今回は福島の避難者が登場人物として出てきますが、もし出てこなくても地震の問題と地続きだと思っています。
刺激になったエピソードとしては、脚本をかく半年ぐらい前に、インドネシアのアチェという場所で震災関係のシンポジウムの撮影をしていたのですが、そこは2004年のスマトラ島沖地震で15人の方が亡くなった場所でした。私たちは日本に住んでいて津波の被害は世界の終末が来たかのような大きなインパクトをもって受け止めていたのですが、実は同時に世界のいろいろなところでも起こっていて、世界はどこかで悲劇をもってつながっている部分があると感じたのです。津波の部分をどこかで相対化しながら描くことも必要だと感じて盛り込みました。
―――映画を作るとき、お客さんの質を想定していますか?
深田:とても大事な質問です。私自身は映画を作るときにお客さんの質を想定して作ることはありません。もし質というものがあるとすれば、それは映画自身が作っていくものだと思っています。もし質問者の方が、今映画を観るお客さんの質が落ちていると想定されているのなら、それはお客さんの映画に対する関心が薄れてきているのだと思います。そういう状況があるとすれば、私たち映画人に責任があると思うので、お客さんの好みに合わせて映画を作っていくというより、私たちが「自分が正しい」と思う映画を作って、お客さんをそこに引きつけていくことが大事だと思います。
(江口由美)