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『森に生きる少年 ~カラスの日~』 ジャン=クリストフ・デッサン監督トーク《フランス映画祭2013》

morini-b550.jpg 『森に生きる少年 ~カラスの日~』 ジャン=クリストフ・デッサン監督トーク《フランス 映画祭2013》 


( Le Jour des Corneilles 2012年 フランス 90分)
監督:ジャン=クリストフ・デッサン
原作:ジャン=フランソワ・ボーシュマン
声の出演:ジャン・レノ、ローラン・ドゥーチェ、イザベル・カレ、クロード・シャブロル、シャンタル・ヌーヴィルト 他

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〜父親の愛を探す少年が、森の外でみつけた真実と は〜

 

 

 森の奥深くに住む少年とその父親。少年は父親からは「息子」と呼ばれ、名前はない。彼を成長を見守るのは、動物の顔と人間の手を持つ幽霊(精霊)たちだ。ある日、父親が怪我をして意識を失ったため、少年は助けを求めに人間たちの住む村へと向かう。そこで出会った医師とその娘、マノンとの出会いによって少年は新しい世界を知る。そしてまた、村には少年が初めて知る両親の秘密が眠っていた……世界でも有数のアニメーション映画祭『アヌシー国際アニメーション映画祭』でワールド・プレミア上映され、大きな拍手を浴びた。父親の声は、ジャン・レノが担当。そしてこの作品が完成された2010年、惜しくも世を去ったクロード・シャブロルが村の医師として私たちに声を届けてくれている。絵画的な森の描写、少年の愛らしさに加え、肉体的な「死」が人と人とのつながりを断つものではないという世界観に、心が安らぐ。

(田中 明花)

 


 

  映画上映終了後、ジャン=クリストフ・デッサン監督が登壇。ユニフランスのエマニュエル・ピザーラさんの司会により、観客席とのQ&Aが行われた。

 

 

 

 morini-b1.jpg    ―――(ピザーラ氏より)作品が制作された経緯は?     
  原作はカナダの小説家、ジャン=フランソワ・ボーシュマンの小説です。2004年に出版されました。それを読んだプロデューサーが映画化を考え、私に声をかけてくれました。2008年のことです。プロデューサーにとっても、また脚本家にとってもこれが初めての映画作品でした。原作はありますが、プロデューサー、脚本家、そして監督である私の3人の緊密な共同作業の結果、この作品は出来上がったといえます。「こうするとよいのでは」という話が出ると、すぐに脚本は書き変えられ、私も演出を変えてみたりと、3人で手を取り合って創り上げていったのです。結末も、小説と映画とでは違ったものになっています。

 

 

――― 映画には幽霊たちが登場しますね。彼らが動物の姿をしているのは、フランスの文化的背景からでしょうか? 
フランスの文化的背景とは関係なく、また原作の幽霊も動物の姿では描かれていません。なぜそうしたかというと、主人公は森で育ったため、父親以外の人間を見たことがなく、子供が想像できる生き物の姿は動物ではないかと考えたのです。後になって知りましたが、アジアのある地域では、人間が死後、動物に生まれ変わるという話があるのですね。

――― 私は「幽霊」というより、「精霊」と表現したいです。彼らの手の動きがとても美しく、感動したのですが、どのように作業されたのでしょうか?

morini-2.jpg(ピザーラ氏による補足コメント:精霊たちには台詞がありませんが、彼らの手の表現によって、思いが伝わってきました)
精霊を描くのはとても努力が必要でした。特に、亡くなった母と生きている子の関係を創り上げることが難しかったです。精霊たちにはもともと台詞がないのですが、脚本家には、彼らの台詞を考えてくださいとお願いしました。また、それぞれの職業も考えてもらい、それらに沿って、動きを考えていくことができたのです。

 

――― 現在のフランスのアニメーションでは『スーサイド・ショップ』などのようにCGを駆使した作品もあります。今回あえて手描きにされた狙いは?
私は小さい頃から、自然の中で水彩や油彩を描いてきました。それはとても楽しいひとときでした。アニメーション制作は長時間の作業で、何か楽しみがないと続きません。この長い作業に耐えるには、自分が好きなことをしていかないとやっていけないと思ったのです。また、すべての作業をコンピューターで行うよりも、予算の節約になりました。今回は600万ユーロ程度で完成しましたが、『スーサイド・ショップ』はその2倍ぐらいかかっているのではないかと思います。

 

――― カラスや蝶の登場が印象に残りました。何かの象徴なのでしょうか?
 morini-b2.jpg原作のタイトルも『カラスの日』ですが、この映画ほどには出てきませんし、蝶も登場しません。日本でどう思われているかは知らないのですが、ヨーロッパでカラスと言えば、死を意味する不吉な鳥とされています。そのため、父親が不幸に遭ったとき、カラスが飛んできて恐怖を与えるという設定にしました。また、この映画で伝えたかったことは、自然を愛することであったり、生命そのものを愛することなので、たとえ不幸な意味を持つ動物のカラスであっても、愛情を持つことができるということを表現したかったのです。カラスと男の子の関係が少しずつ変わっていく過程で、愛情が育まれていくことを表してみました。
また、蝶は、隠された父親の愛を探しにいくシーンで登場しますが、海の底のような雰囲気にしたいと考えていました。今までの生活とは違う世界に入る、その移行の手段として蝶を考えてみたのです。作品のクレジットにも蝶が出てきますが、これは生まれた子供への祝福、生命の美しさへの賛美として描きました。

 

――― 映画に軍隊を登場させた理由は?
息子と父親との葛藤という「親子」の関係を、「社会」という場に置き換えて描いてみました。家庭から社会に飛び出してもそこには葛藤がある、人生にはどこでも葛藤があるのだ、その象徴として兵士たちを登場させました。

 morini-3.jpg――― 登場人物がとても素敵に描かれていますが、主人公だけ、髪の毛が1,2本しかない、パッとしない外見に描かれているのはなぜでしょう?
確かに、アニメ—ションの主人公は強く美しく描かれがちですが、私はそれがあまり好きではありませんでした。原作では、主人公は不細工な子という設定になっていて、私は脚本家と話し合い、外面的にはやせっぽちで不細工な子を描きました。しかし性格はとてもしっかりしていて、さまざまな困難を乗り越えられる子という設定にしたのです。結果、映画を見て「自分に似ている」と思ってくれた子供たちもいたようです。

 

 


 

「髪の毛は最初は5本描いていましたが、描くのが大変で、だんだん少なくなっていきました」というデッサン監督のコメントで、会場はほのぼのした笑いの空気に包まれた。質問者は、アニメ制作を手がける大人が多かったが、観客席に座っていた子供たちにも、言語を超えた確かなメッセージが伝わったのではないだろうか。