『アナタの子供』ジャック・ドワイヨン監督&ルー・ドワイヨン トーク<フランス映画祭2013>
(Un enfant de toi 2 012年 フランス 136分)
監督:ジャック・ドワイヨン
出演:ルー・ドワイヨン、サミュエル・ベンシェトリ、マリック・ジディ、オルガ・ミシュタン 他
2012年 ローマ国際映画祭コンペティション部門 正式出品作品
〜大人のたわいない戯れ言も、子供の生命力で一掃される〜
アヤ(ルー・ドワイヨン)は、7歳の娘リナ(オルガ・ミシュタン)との二人暮らし。歯科医の恋人・ヴィクトール(マリック・ジディ)との関係もうまくいっていたが、前夫でありリナの父親でもあるルイ(サミュエル・ベンシェトリ)と久々に再会、心が揺れ始める。「君との子供がほしい」と宣言するヴィクトールに、嫉妬の思いを隠せないルイ。ルイの若い恋人・ガエルも巻き込み、恋の糸はどんどんもつれていく……ジャック・ドワイヨン監督が、愛娘のルーを主演に迎えた恋愛コメディ。前半は、アヤとルイが交わす長い言葉の戯れにひたすら振り回される。もう疲れた…と席を立ちたくなる頃に、子供のリナが目覚ましい活躍を始め、物語は急展開。子供の純粋で現実的な思考に拍手を送りたくなる。恋敵のルイとヴィクトールが共に過ごす一夜も見逃さないで。
(田中 明花)
映画上映終了後、ジャック・ドワイヨン監督と、主演女優であり監督の愛娘であるルー・ドワイヨンさんが登壇。東京国際映画祭プログラミング・ディレクター、矢田部吉彦氏の進行により、観客席とのQ&Aが行われた。
――― (矢田部氏から)ルーが主演となった経緯は?
ルー:当初、脚本は私でなく他の俳優のために書かれましたが、その方が出演されなかったため、私に話がきました。私たちは風変わりな父娘ですが、それでも自分から父に「出演したい」と頼むのは大それたことで言い出せず、父から電話をもらったときはとても嬉しかったです。父の作品に出演したのはずっと若い頃で、仕事というより、父娘の関係の中で演じていたように思います。その後、父以外の監督と仕事をするようになり、また以前よりも大人になったこともあり、今回は純粋に「仕事」として父と関わることができた気がします。アヤは素晴らしい役ですし、共演者たちも素晴らしかった!とても楽しく撮影できました。
( 観客席からも、次々に質問が寄せられた。)
――― 映画でほとんど音楽が流れませんでしたが。
ジャック:果たして映画に音楽は必要か……私は、俳優たちそのものが音楽ではないかと考えています。優れたテイクというのは、そのシーンを耳で聞いただけでわかります。俳優たちの台詞や所作が、既に素晴らしい音楽を創り上げていると思うのです。
――― ルーさんへ。お父さんとの仕事は他の監督と比べてどう違いますか?
ルー:ジャックは、妥協のない監督です。最良の演技ができるまで、私を許してくれない、簡単に満足をしないのです。それは、私を信じてくれているからだと思います。父のように要求の高い監督のおかげで、そうでない他の監督と仕事するのは難しいものでした。1テイク、2テイクでOKを出されてしまうことが苦手だったのです。私は父をとても愛しているから父以外の監督とは仕事をできないのだろうかと悩んだこともありました。でも、25歳頃から、父と同じように要求の高い監督や演出家と出会い、これからもそんな出会いがあるのではと期待が持てるようになりました。
――― 以前は1台のカメラしか用いなかった監督が、近作ではマルチカメラを導入されていると伺いましたが。
ジャック:はい、かなり前から2台のカメラを使うようになりました。視点は1つであるべきと長い間考えていたのですが、カメラが2台でも、俳優のすべてをとらえるという意味での視点は変わっていないと感じました。また、カメラが2台になると、俳優と同じように、それぞれのカメラの振り付けを考える必要があるということに気づきました。カメラが2台になって何より大きく変わったのは、撮影期間が1週間短縮できるということです。昨今では映画を撮る予算も厳しく、10年ほど前から私の作品は3〜5週間で撮影されています。1台のカメラを2台にすることは、撮影期間を1週間延長できるに等しい効果があるとわかったのです。
――― 俳優の演技には、どんな演出を?
ジャック:撮影に入るときはまったく白紙の状態です。俳優が台詞を覚えてくれている、それだけの状態から、俳優と一緒にシーンを創り上げていきます。そして、その日に出した指示を忘れた状態で1日が終わります。私が多くを要求するのは、俳優にその力があるからです。だからこそ厳しく求める。俳優たちの演技によって脚本に命が吹き込まれ、具体的なかたちになるまで、平均して以前は15—25テイクは必要でした(2台のカメラを使うようになってテイク数は減りましたが)。モンテーニュの随想録にも書かれていますが、人間は波打つ存在だと思います。だから、まっすぐな直線ではなく、うそがない揺れ動く人物像を撮りたいと思っています。
――― 子役について?
ジャック:私は子供たち(ティーンエイジャーも含めて)の映画を10本程撮っていますが、演技のノウハウを持っていない子供たちは演出がしやすく、才能ある子供にはよい驚きがたくさんあります。「ポネット」で主演したヴィクトワールは当時4歳でしたが、自分が想像も期待もしなかったような演技をしてくれました。
――― ルーさんへ。演じていていちばん辛かったシーンは?(矢田部氏より)
ルー:ルイが自分のアパートにやってくるシーンです。子供がいて、ルイがいて、体だけでなく感情的にも動きがありました。手持ちカメラの長回しで、私も疲れていましたが、そのときカメラマンの息切れが聞こえてきたのです。このときのジャックの指示は、「なるべく長く延ばすように」ということでした。時間を長く引き延ばしてくれと。2人のカメラマンたちはきっとはやく終わってほしい!と思っていたことでしょう。
私は俳優だけでなく音楽の道に進みましたが、それは家族にミュージシャンがいたというより、(筆者注:ルーの母はジェーン・バーキン)父であるジャックの影響ではないかと思います。ジャックは指揮者のように演出します。このシーンでも、最後の音符を長く長く引き延ばすように、時間を引き延ばすことを求めました。このシーンのおかげで、体は心地よく疲れ、ぐっすりと眠ることができました。
壇上のジャック・ドワイヨン監督は、終始茶目っ気たっぷりだった。「父を愛しているから」とルーが語るとき「うんうん」と目尻を下げてうなずき、若い青年の挙手に「可愛い青年だから、娘に質問するかと思ったよ」と言った後に、「私の作品を熱心に観てくださっているあなたの肖像を飾らなくては!」と自虐ギャグを飛ばすなど、観客を大いに笑わせてくれた。