第19回大阪ヨーロッパ映画祭ヨーロッパ最新映画初上映
『ずっと二人で』ゾフィー・ヘルドマン監督インタビュー
(2010年 ドイツ 1時間25分)
監督:ゾフィー・ヘルドマン
出演:センタ・ベルガー、ブルーノ・ガンツ、バーナビー・メッチュラート他
来日は叶わなかったものの、第19回大阪ヨーロッパ映画祭の名誉委員長として主要作品の特集上映が行われたスイスの名優ブルーノ・ガンツ。そのブルーノ・ガンツ主演で老夫婦の愛と死の迎え方を静かに描いた作品『ずっと二人で』が日本初上映された。本作のゾフィー・ヘルドマン監督が映画祭ゲストとして来日し、自身の初長編作品としてこのような題材を選んだ理由や、ブルーノ・ガンツとの撮影秘話、衝撃的なラストに込められた意図など、お話を伺った。
<ストーリー>
老夫婦のアニタ(センタ・ベルガー)とフレッド(ブルーノ・ガンツ)は経済的にも恵まれ、庭付きの大きな家に暮らしている。子どもが独立したあと二人で変わらぬ日常を送っていたが、アニタは自分に内緒でフレッドがマンションを購入したことを知る。悪性腫瘍を患うフレッドの勝手な決断にアニタは悲しさと裏切りを感じ、フレッドを拒絶するようになるのだったが・・・。
━━━長編初監督作品で、老夫婦の愛や人生の終わり方を取り上げたのはなぜですか?
実話なのですが、私が育ったスイスでご近所に住んでいて、私の姉妹が彼らの息子と結婚し遠戚のような存在のご夫婦がいました。お二人の何が特別だったかといえば、二人は17歳で出会い、初恋同士でそのままずっと一緒に人生を歩んできたのです。ちょうど私が17歳のとき彼らに出会い、ティーンエイジャーの頃からずっと今まで一緒にいるなんて凄いと感動しました。そんな二人を今回は描きたかったのです。
━━━名俳優ブルーノ・ガンツさんにこの役をオファーしたときの状況や、反応についてはいかがでしたか?
脚本を書いた段階でブルーノ・ガンツさんが主人公フレッド役として適役だと思いました。彼にオファーをするのは非常にエキサイティングなことで、まず彼は素晴らしい俳優であり、脚本のキャラクターに何かを与えてくれると思いましたし、実際に脚本を読んで役をすぐに理解してくれました。大スターであることは重要ではなく、私の書いた脚本に彼が加わってくれれば映画が素晴らしいものになると思ったのです。
━━━もう一人の主演であるセンタ・ベルガーさんですが、今までのキャリアや、なぜオファーしたのか教えてください。
ドイツの女性は70歳ぐらいになると、どこかの時点でセクシーであることを諦めて素敵なお婆さんとなってしまいますが、センタ・ベルガーさんは70歳でもとてもセクシーで美しいとドイツのお客さん皆が思っていますし、私も大好きな女優です。50年代後半にはハリウッドで活躍していましたし、ドイツでは政治的な活動もしており、カトリーヌ・ドヌーヴのような大スターです。驚いたことにセンタ・ベルガーさんとブルーノ・ガンツさんとの共演は初めてで、二人の共演が爆発的なエネルギーを映画にもたらしてくれました。
━━━BGMを排除し、シンプルなセットだからこそ、老夫婦二人の心の内面がにじみ出ていましたが、演出をする際に心がけたことは?
最初にそういう意図でこの演出をしたので、分かっていただいてうれしいです。演出の意図としては、できるだけ印になるようなポイントを少なくして、観客のみなさんがどういう話か分かる程度に抑えました。自分でイメージを持ってもらい、この映画を身近に感じて、自分の両親や祖父母や、自分自身のことに引き寄せて考えてもらいたかったのです。
━━━日本では、女性が後に遺されるとタフに余生を生き、男性が後に遺されると憔悴してしまうケースが多いですが、本作は心配してくれる娘や息子がいるにも関わらず妻が余命わずかの夫と人生を終える決意をします。あえてこのエンディングにした意図は?
実際の話でも相反する感情(アンビバレンス)が存在するので、映画そのものにも残しておきたかったのです。この映画を色々な角度から観てほしいと思っています。すごくロマンチックなラブストーリーと思う人もいれば、ジェネレーションギャップを感じて批判的に見る人もいるでしょう。あるいは女が犠牲になることに対してや、夫にすべてを捧げるだけで人生を送ってしまう世代の女性に対する批判もあるでしょう。最後の行為も、勇気ある行動と見る人もいれば、エゴイスティックな行為と思う人もいます。できればこの映画を観た後でディスカッションに繋がればいいなと思います。つまり、社会のタブーを表面に浮かび上がらせています。人生をどうやって終えるか、どういう風に死ぬかということから、どういう風に生きるかといった哲学的な問題に発展するかもしれません。
━━━ドイツやスイスで既に公開されているそうですが、観客からどんな反応や反響がありましたか?
スイスとドイツで公開され、どちらも大成功を収めました。大スターが出演してくれたにもかかわらず非常に低予算だったので、この映画が成功を収めたというのは映画業界でも大きな驚きとして受け止められました。出て下さった俳優の皆さんやスタッフの皆さんのためにも成功してよかったですし、この映画に心を込めて何かをしてくれたみなさんにとってもうれしい結果となりました。
スイスでは、よりオープンに色々ディスカッションできました。要するに、自分の人生をどう終えるか、いつ終えるか決める自由がスイスにはあります。終末期で助かる見込みがない時に、二人の医者が「治る見込みがない」と同意すれば、安楽死することがスイスとアメリカのオレゴン州だけは法的に認められています。だから、スイスではモラルタブーがないのです。スイスではエンディングのスキャンダラスさを取り上げるのではなく、ストーリー面でこれだけ長年連れ添った夫婦でも心の摩擦があるという部分を見てもらえました。
ドイツでは、「驚いた、あんな終わり方は予想していなかった」と私が望んだように非常に論議が起きました。映画を観て感動はしてもらい、観客の半分は理解を示してくれましたが、残りの半分は「道徳的に許せない。どうしてそういう風な結末にしたのか説明してほしい」といった反応でした。実話ですから、私自身が「彼らがどうして誰にも言わずにそういう道を選んだのか」、その答えを見つけたいと思っていたので、自分自身の疑問を出したつもりです。
━━━夫婦の話として、若い世代にはセンセーショナルに映ったかもしれませんね。
年老いた夫婦の話なので、古い世代の結婚の物語とも言えるし、我々と違う世代の話です。彼らは保守的な行動をするけれど、我々はそういうところには戻らず、夫婦が一緒にいてもより自由でありたいと思っています。エンディングの部分だけでなく、この映画を通してそういう(夫婦の)部分も描いています。
━━━ブルーノ・ガンツさんや、センタ・ベルガーさんと一緒に仕事をして学んだことがあれば教えてください。
まず彼らは本当にプロフェッショナルで、スタミナがすごいです。撮影チームが疲れきっていても、「週末は何をしてたの~」といった風にすごく元気でした。そしてお二人とも集中力が素晴らしかったです。そういう風に仕事をしているからこそ、自分の目指すところに行けると分かっていらっしゃるのです。決して印象を与えようとするのではなく、俳優として脚本の中身をしっかりと表現する準備もきちんとしてこられます。
また、監督の私がセットでどうするかをじっくり観察しておられました。今になって分かったのですが、私がたくさんミスをしていてもそれに気付く素振りを全く見せなかったです。お二人のフォーカスの仕方や集中の仕方は勉強になりましたし、とてもオープンで、繊細で、優しくて親切です。だからこそ今のお二人があるのだと思います。
(江口 由美)
『ずっと二人で』作品紹介(第19回大阪ヨーロッパ映画祭)はコチラ