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『ファイナル・カット』ジョルジ・パールフィ監督夫妻インタビュー

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第19回大阪ヨーロッパ映画祭ヨーロッパ最新映画初上映
『ファイナル・カット』ジョルジ・パールフィ監督、ジョーフィア・ルットカイさん(脚本)Q&A 、単独インタビュー

  (2012年 ハンガリー 1時間24分)
監督:ジョルジュ・パールフィ 
脚本:ジョルジュ・パールフィ、ジョーフィア・ルットカイ
出演:ブリジット・バルドー、リタ・ヘイワース、マルチェロ・マストロヤンニ、ジャンヌ・モロー他

finalcut-1.jpg  450にも及ぶ古今東西の珠玉の映画たちの名シーンだけで一本の映画を作るという夢のような映画『ファイナル・カット』。カンヌ映画祭を皮切りに、世界の映画祭でシネフィルたちを圧倒的熱狂に巻き込んだ超話題作が第19回大阪ヨーロッパ映画祭にて日本初上映された。男と女の出逢い、恋の予感からメイクラブ、結婚、すれ違い・・・と普遍的な男と女の物語を絶妙のカットをつないで紡ぐ映画愛に溢れる作品を作り上げたハンガリーのジョルジ・パールフィ監督、ジョーフィア・ルットカイさん(脚本)が大阪ヨーロッパ映画祭のゲストとして来日、インタビューと上映後のQ&Aで本作誕生のきっかけや、作品選び、編集について語ってくれた。


『ファイナル・カット』上映後Q&A


━━━どうやってこの作品を作っていったのですか?
ジョルジ・パールフィ監督(以下パールフィ):男と女の物語を作りたいと思ったので、500本のDVDを観ました。その後実際に作業をはじめるにあたり、その中から100本を選び小さなシーンから観ていきました。男性が映っているシーン、女性が映っているシーン、男女が映っているシーンを選び、カットしていきました。
ジョーフィア・ルットカイさん(以下ルットカイ):小さなシーンをたくさん作り、男性が歩いているところや手を伸ばすところなど、いろんなシーンをカットしてストーリーに合わせて並べ直し、通常の映画のように編集していきました。
パールフィ:驚いたのは、人間の行動は大体30~35種類ぐらいで食べたり、しゃべたりというシンプルなことに集約されることにびっくりしました。 そこから、全く新しいストーリーを作っていくのですから、非常に実験的なやり方で作った映画です。

finalcut-s1.jpg━━━日本映画で唯一黒沢明の『羅生門』を用いたのはなぜですか?また、後半電話のシーンを繰り返しているのはなぜですか?
パールフィ:日本の映画は『羅生門』だけではなく、北野武監督やアニメーションも使っています。映画を作っていき、作業が終わりに近づいた頃にどうしても自分の好きな俳優を入れたい。そうするとジャッキー・チェンを入れてとか妻の好きな俳優を入れるともうそれで一杯にになりました。450本といっても映画の歴史はもっとたくさんありますので、全部入れられなかったのです。
ルットカイ:ストーリーの中で一旦死んだけど、もう一度生まれ変わるとか、色々なストーリー展開があるので、意図して同じ人が同じ動作をするシーンを使いました。
 
━━━著作権の問題はどうされたのでしょうか?
パールフィ:映画祭なのでみなさんにお見せできましたが、教育目的のみ上映が許可されています。大学や映画祭といった限られた方に対してのみ上映できるのが現状です。(映画館など)どなたにでも観ていただけるように、今も努力しています。
 
━━━何人の方が編集に携わったのですか?
パールフィ4人の編集と6人のアシスタント、合計10人でやりました。

━━━『ファイナル・カット2』を今後制作される可能性はありますか?
パールフィ:資金があればやりたいと思います。この映画を作るのに3年かかりました。いろんなストーリーが浮かんできています。まず普通の映画をちゃんと撮影して作りたいと思っています。


『ファイナル・カット』ジョルジ・パールフィ監督、ジョーフィア・ルットカイさん(脚本)、単独インタビュー

finalcut-s2.jpg━━━本作を作ろうとした動機、きっかけは?
ジョルジ・パールフィ監督(以下パールフィ):1895年12月リュミエール兄弟によるシネマトグラフィが誕生してから、1995年で映画が100年を迎え、ハンガリーの月刊誌が100周年を祝うのに一番いいアイデアを募集し、今までの映画をまとめて新しい映画を作るという案が出ました。ただ、その時点では技術面の問題があり、コンピューターの動きは遅いし、ハードディスクの容量は小さく、DVDの品質も悪かったので、誰もその案を実行することはできませんでした。そのまま時が経ち、4年前に4本目となる映画を作りたいと思ったのですが、資金が足りなかったのです。資金をかけずに映画を作ることを考えたとき、95年に出たアイデアを思いだし、チャレンジしてみようと思いました。

━━━国の文化振興の一環として作ったのですか?
パールフィ:ハンガリーでは映画を作って映画祭や国内上映で成功を収めると、次回作への資金の一部を提供してくれる制度があります。前作『タクシデルミア』の成功でハンガリー政府より700万円の資金をもらったのですが、それだけでは新しい映画は撮れません。映画の歴史から新しい映画を作ることでポストプロダクションができました。

━━━これだけの登場人物やシーンを交えながら、一つのラブストーリーのようにみせる構成にするのに脚本の力も非常に大きかったと思いますが、どのように脚本を組み立てていったのですか?
ジョーフィア・ルットカイさん(以下ルットカイ):今回男性と女性の登場人物がおり、男性に関しては毎分変わる300人の俳優の顔を一つのキャラクターとして組み立てている訳ですが、それが本当に成り立つかどうか不安でした。最初に編集が1年をかけて準備をし、実際にシーンを繋げてみて、それがストーリーとして成り立つのか見ました。私たちにとってもゲームのようなもので、第三、第四の人物が登場させることができるのか分からなかったのです。

━━━これで映画として成立すると思ったのはいつ頃ですか?
パールフィ:編集をはじめて1年かかりましたが、このやり方で映画が成立するならもっと大きなストーリーを組み立てられると確信できました。

━━━膨大な映画の中からどういうプロセスで作品やシーンを選んでいったのですか?
パールフィ:最初に作品を作るためのデジタル素材が必要だったので、オフィス隣のDVDストアで2000~3000本の映画リストから500本選びました。男と女が登場するロマンチックな作品にしたかったので、まずその中からロマンチックな映画を選び、次に映画の長い歴史の中で重要な作品を選び、そして自分の好きな映画を選びました。
ルットカイ:大体作品が出来上がった後で、特別なシーンが映っている作品を選んでいきました。例えば女性が電話で「私、妊娠したの」と言おうとするシーンでは、作品にこだわらず、そのセリフがある映画を選びました。

━━━編集の妙に驚かされましたが、どれぐらい時間がかかりましたか?また、どういった点を重視したのでしょうか?
ルットカイ:普通の映画だと感情移入は簡単ですが、本作は登場人物の顔がコロコロ変わるので、観客がどういう風にすれば悲しみや喜びへの感情移入がしやすいかに気を配りました。
パールフィ:私にとってこういう編集方法で何かを伝えることが重要でした。今まで作られた、ただ単に旧作をコラージュした短編映画のような作品にはしたくなかったのです。映画として一つの物語であること、感情を持った作品になるよう意識して作っていきました。一番最初は、たくさんの顔で一つの人格を描くことができるかどうかが重要で、それができると分かると、次には小さな一つの物語が成り立つか、そして一つの映画全体が成り立つかを重要視しました。更には新しい登場人物を持ってきて、観客が理解できるかと物語の枠を広げていきました。全てができるまで3年かかりましたね。

━━━2002年の『ハックル』よりご夫婦で監督・脚本をてがけておられますが、お二人が10年にも渡って一緒に創作活動を続けていられる秘訣は?
パールフィ:私たち二人の性格が一致していることが第一です。
ルットカイ:私たちにとって大きなキャリアや、いい家族であることよりも、今みたいに自由に仕事に打ち込める状況がいいのだと思います。
パールフィ:僕は大きなキャリアも必要だけどね(笑)。
(江口 由美)


『ファイナル・カット』作品紹介(第19回大阪ヨーロッパ映画祭)はコチラ