第25回東京国際映画祭 コンペティション部門『イエロー』脚本兼主演ヘザー・ウォールクィストさん単独インタビュー
~観終わって“Happy”と感じるなら、作品を理解しているわ~
年々応募数が増加し、今年は1500本あまりもの作品から選ばれた第25回東京国際映画祭コンペティション部門の15作品。アメリカ、ヨーロッパをはじめ、アジアから南アフリカ、チリまで多様な地域の今や革命の歴史を映し出す作品の中から、本年度の審査委員長であるロジャー・コーマン監督をはじめとした国際審査員により、東京さくらグランプリをはじめとする各賞が決定する。
今年のコンペティション部門作品の中でもひときわ注目を集めたのが、アメリカインディペンデント映画の生みの親、ジョン・カサヴェテスを父に持つニック・カサヴェテス監督最新作『イエロー』(12)だ。久々にインディペンデント映画に回帰し、パートナーで本作の主演を務めるヘザー・ウォールクィストと共同で書き上げたオリジナル脚本をもとに、目が覚めるような驚きに満ちたヒューマンドラマを生み出した。母親の女優ジーナ・ローランズをはじめ、シエナ・ミラー、メラニー・グリフィスなど油ののった女優たちの競演も見どころの本作を、単独インタビューを交えながら紹介したい。
『イエロー』(2012年 アメリカ 1時間45分)
監督:ニック・カサヴェテス
脚本:ニック・カサヴェテス、ヘザー・ウォールクィスト
出演:ヘザー・ウォールクィスト、シエナ・ミラー、メラニー・グリフィス、ジーナ・ローランズ
重い過去や職場での居心地の悪さを抱え、安定剤に依存する主人公メアリー。彼女の精神的な不安定さや、幻想、心象風景を、時にはポップに、時にはシルク・ドゥ・ソレイユ・サーカス奇人たちの晩餐会風に、時にはファンタジー色をちりばめ、そしてミュージカルのようなシーンも交えて描写。重いテーマを扱いながらも、観終わって爽快な気分になるエッジの効いた快作だ。
メアリーの苦悩を全身で表現した脚本兼主演のヘザー・ウォールクィストさんに、脚本を書くにあたってのエピソードやメアリーの役作りについてお話を伺った。
━━━主人公メアリーをはじめ、姉妹や母、祖母など様々な葛藤を持つ女性が登場しますが、脚本を書くに当たってどのようにキャラクターを作り上げていったのですか?
ヘザー・ウォールクィストさん(以下ウォールクィスト):私の好きな言葉に「簡単な読み物は非常に書くのが難しい」というのがあります。ニック(ニック・カサヴェテス監督)と私は色々な女性に囲まれています。娘に姉、母それに叔母が何人もいるのです。だから私の知っている女性たちを描きました。女性が多く描かれていることは指摘されるまであまり考えたことはなかったのですが、色々な問題を抱えている女性やその女性のエネルギーを吸収しているんですね。ニックは私のことを理解しているし、私もニックのことを理解しているので、一緒に脚本を書く作業はとてもやりやすかったです。
━━━登場人物たちには、皆過酷な現実が降りかかってきますが、その意図は?
ウォールクィスト:ニックはあまり弱さや脆さを見せない、強い女性が好きなのです。色んな問題があって、でもそれを乗り越えていかなければならない。乗り越えられない問題はないし、(観終わって)本当に幸せを感じてほしかったのです。人生は浮き沈みがあるので、できるだけHappyな瞬間を見つけていくものです。問題は解決していなくてもHappyになれますし、本作を観てHappyと思ったなら、作品のことを理解して下さっていると思います。一つのものだけではなく、色々なことを感じていただきたいです。
━━━ミュージカルやファンタジーのようなシーンがメアリーの心象風景として度々挿入され、強烈な印象を残しますが、脚本段階からこのアイデアはあったのですか?
ウォールクィスト:脚本の段階でニックと二人で決めたのですが、私はミュージカルは大嫌いなの(笑)。芝居で急に歌い出すのも嫌いで、あれはミュージカルを揶揄するために書いたんです。突然「お母さん、嫌い~」なんて子どもが歌い始めたら、ぞっとしません?(笑)
━━━メアリーは非常に魅力的なキャラクターで、そのファッションも目を惹きますが、演じるにあたって心がけたことは?
ウォールクィスト:なんとか自分を保とうとしているキャラクターなので、外見は全然内面とマッチしていません。外見で心の痛みを隠しているのです。女性が朝起きて化粧をしたり、着飾ったりするのも、内面の弱さを隠す一面があると思います。
また、アメリカは何でも薬を処方します。頭が痛いとか、目が痛いというたびに、次々薬を処方するので、色んな薬を飲む人はご飯が食べられないのです。トロント映画祭で「ワークアウトをして見栄を張っているのではないか」と質問されたのですが、全くワークアウトはしていません。食べないと、ああいうガリガリの体型になってしまうのです。だから、かなりリアルな状態で演じています。むしろ男っぽいぐらいですね。
━━━パートナーのニック・カサヴェテス監督と共同脚本を担当し、主演もされましたが、気持ちの切り替えなどで難しい点はありましたか?
ウォールクィスト:一緒に脚本を書いているときはパートナーですが、撮影現場に着いたときは女優に徹しました。全部監督に委ねるので非常にシンプルで、やりやすかったです。ニックはすごくこだわり屋なので、議論になることもありましたが、最終的には私が折れました。二人とも完璧主義なので、99%は意見が一致していても、残りの1%で喧嘩になったり。(笑)
━━━誰しも現実と向き合うのは難しく、メアリーをはじめとする女性たちは自分と闘うことを多様に表現していましたが、本作で伝えたいメッセージをお聞かせください。
ウォールクィスト:いつも自分の行動に言い訳をしたり、自分の弱さや若いとき起きたことを口実にする大人は嫌いで、許せないのです。これが一つのメッセージで、もう一つは、皆痛みを抱えていますが、それにどう立ち向かい、どう対処するかが大事だと思います。それは食べることだったり、遊ぶことだったり人それぞれで、他人が善悪を判断してはいけません。周りの雑音はシャットアウトしていいのです。ウブかもしれませんが、私は人は基本的に善だと信じたいのです。(江口由美)