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タリバン勢力下の男女の愛を描く社会派アニメーション『カブールのツバメ』ザブー・ブライトマン監督、エレア・ゴべ・メヴェレック監督インタビュー

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『カブールのツバメ』ザブー・ブライトマン監督、エレア・ゴべ・メヴェレック監督インタビュー
 
 1998年、タリバン勢力下にあるアフガニスタンのカブールを舞台に、女性の人権が徹底的に奪われた環境に抗い、国外脱出を夢見るカップル、ズナイラ、モーゼンと、女性死刑囚の看守アディク、病床の妻ムラサトの運命が絡み合う社会派アニメーション『カブールのツバメ』が、6月21日、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2019 横浜で日本初上映された。
 
 監督は『ラ・ブーム2』他に出演し、女優として活躍する他、映画監督やオペラ演出も手がけているザブー・ブライトマンと、初監督作の短編「MADAME」(06)がアヌシー国際アニメーション映画祭に出品され、本作が初の長編作品となるエレア・ゴべ・メヴェレック。フランス在住のアルジェリア人作家、ヤスミナ・カドラによる「カブールの燕たち」を原作に、非常に重たいテーマをアニメーションの水彩画のタッチとシンプルな線で描写し、想像の余地を残したヒューマンドラマになっている。
 
 ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバスら声の出演者も名優揃いで、キャラクターデザインは演じた俳優たちから描かれているので、劇映画のような味わいもある。イスラム原理主義に基づくタリバンの指揮下で、女性を虐げることが当然のような空気の中、ある出来事がきっかけで、自分の中の良心に問いかけ、人として正しいことをしようと格闘する登場人物たちの姿は、辛い現実を超えて、ささやかでも確かな希望の火を灯す。日本ではなかなか見ることのできない社会派アニメーションは、まさに必見だ。
 
 本作のザブー・ブライトマン監督とエレア・ゴべ・メヴェレック監督に、お話を伺った。
 

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■アニメで描くことで残酷なシーンも想像の余地を残し、和らげることができる(ブライトマン監督)

―――ヤスミナ・カドラさんの原作と出会ったのはいつ頃ですか?また本作をアニメーションで映画化した狙いについて教えてください。
ブライトマン監督:映画の第一稿を先に読んでから、ヤスミナ・カドラさんの原作を読み、もう一度シナリオを読み込みました。それから作画を誰にするかを決めるために、アニメーション作家の作品を見て、エレアさんを選ぶという手順で進めていきました。
 
実際は重いテーマの原作をアニメにするという企画をいただき、それはいい提案だと思いました。実写で同じ題材を扱うのは、とても厳しかったでしょう。今回アニメで描くのは理想的だったと思います。実写で描いていれば、一つの決められたイメージ、想像上ではない実写のイメージを観客に上から押し付ける形になってしまいます。アニメで描くことで公開処刑のシーンも想像の余地を残し、残酷さを別の意味で和らげています。
 
―――本作が初長編となるエレア・ゴベ・メヴェレック監督を抜擢した理由は?
ブライトマン監督:この作品を制作するにあたり、現実を見せる部分も必要です。この映画をアニメで制作する前に役者たちに演じてもらいました。狙いとしては、人間関係における真実を描きたかったということでした。エレアさんの水彩画はあまりリアリスティック過ぎずに、少し距離を保ち、遠くから見ているようなビジョンで描いていました。水彩画は遠くから見た方がより現実的、俯瞰的になりますし、彼女の絵からは抽象性も表れていました。観客に想像性を与えるという点でも、エレアの絵は理想的だったのです。

 

■ストーリーが言わんとしていることをどれだけ絵で表現できるか、難しかったがいい挑戦に(メヴェレック監督)

―――この作品は社会派アニメーションという点でも意欲作ですし、初長編ということで、非常にチャレンジングすることが多かったと思いますが、このプロジェクトに参加した感想を教えてください。
メヴェレック監督:初めての経験だったので、発見も日々ありました。この映画は絵で表現した方が良いということから、デッサンが非常に大事で、絵が語っている部分があったと思います。ストーリーが言わんとしていることを、どれだけ絵で表現できるかが私に求められたことでした。難しかったけれど、いい挑戦になりました。この映画特有の求められているものを、技術スタッフがチームとなって作り上げたということが、とても面白かったです。
 
―――水彩の色合いであったり、描きすぎることなく、シンプルな線で表現する手法は普通のアニメーションとは違う余韻を感じさせました。今までに、インスピレーションを受けた作家は?
メヴェレック監督:あまりにもたくさんいるので、ここで全てを挙げることはできませんが、水彩画の手法は水彩画のアニメーション作家、ユーゴ・プラットから影響を受けています。
 
 
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■アディクとムラサトは、中東出身の役者が演じることが重要だった(ブライトマン監督)

―――先ほどブライトマン監督が作画の前に俳優たちに演じさせたとおっしゃっていましたが、この作品はキャスティングが非常に重要だと思います。主要キャストのキャスティング理由について教えてください。
ブライトマン監督:この作品でキャスティングは本当に重要でした。私は多くの映画と共に演劇も演出したことがあるので、役者がどれだけ重要な役割を占めているかも知っていますし、役者と仕事をするのが大好きなのです。それぞれの人物はそれぞれの役者をまさに反映しています。例えば主役のアディクを演じたシモン・アブカリアンはレバノン出身です。レバノン人の役者を使うことで日々の振る舞いやお祈りなどの慣習の所作が身についているので、実際に演じてもらうときにも非常に役立ったと思います。モーゼン役のスワン・アルローは、『ブラッディ・ミルク』で大ブレイクし、さらに素晴らしい役者になりましたよね。ズナイラ役のジタ・アンロさんは、後から参加したのですが、私から何も言うことがないほど素晴らしい演技を見せてくれました。ナディッシュ(町の長老)役のジャン・クロード・デレは私の父です。撮影当時は93歳で今は亡くなってしまったのですが、この作品に出演できたことは私にとって非常に大きな意味を持っています。そして、アディクの病床の妻、ムラサト役のヒアム・アッバスさんは、中東において偉大な女優さんで、中東の方に演じていただくことが非常に重要でした。
 

■作画はディテールを落とし込まないことがポイント(ブライトマン監督)

―――モーゼンはまさにスワン・アルローさんの雰囲気が出ていましたが、どのような手法でキャラクターを描いていったのですか?
メヴェレック監督:人物のデッサンにおける作り込みは非常に時間がかかりました。より客観性や距離を保ちながら描く必要がありました。先に演じてもらった役者さんを絵に落とし込むのですが、あまりディテールを落とし込まないことがポイントでした。シワまで細かく描いてしまうとリアルになりすぎてしまうので、例えばスワンさんだと分かるぐらいの頃合いで描くというのは手間がかかっているのです。
 
―――アニメーションでこういう手法は珍しいのでしょうか?
ブライトマン監督:あまりよく使われる手法ではありませんね。水彩画のイメージを選んだのは動きや演技をより表現できるということと、水彩画の微妙なタッチによって、「スワン・アルローに見えるけど、そうなのかな?」と観客が想像するような抽象性が表現できるという2点ですね。
 
―――相当繊細な作業ですが、ブライトマン監督の細かいチェックがあったのですか?
ブライトマン監督:数えるほどですが(笑)。例えばある人物が何かを飲む演技をして、飲み込む音もしているのに、絵が先にいっていたことがあり、音を調整するのではなく、絵を合わせるように頼んだことがありますね。
 
―――本作ではほとんど音楽が流れませんが、途中、アティクが木の下でタバコを吸う時に唯一歌が流れています。この歌について教えてください。
ブライトマン監督:タリバンの指揮下で音楽が禁止される前に歌われていた歌で、ソ連のアフガニスタン侵攻以前からあった古い歌です。まだ自由があった時代のカブールの雰囲気を伝えている歌ですよね。愛について歌った、アフガニスタンの人なら誰もが知っているぐらい人気のある曲です。
メヴェレック監督:女性が歌っているのですが、中東を代表するような曲を何か入れたいと思い起用しました。
(江口由美)
 

<作品情報>
『カブールのツバメ』(2019年 フランス 82分)
監督:ザブー・ブライトマン、エレア・ゴべ・メヴェレック 
出演:ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバス 
 
フランス映画祭2019 横浜 
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス