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『アクトレス~女たちの舞台~』オリヴィエ・アサイヤス監督トークショー@フランス映画祭2015

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『アクトレス~女たちの舞台~』オリヴィエ・アサイヤス監督トークショー@フランス映画祭2015
 
『アクトレス~女たちの舞台~』“Sils Maria”
(2014年 フランス=スイス=ドイツ=アメリカ=ベルギー 2時間4分)
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ
配給:トランスフォーマー
2015年10月24日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次公開
© 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
 

~大女優が対峙する、自分の中の若さへの畏れ~

 
大女優マリアと、若手マネージャーのヴァレンティン、そしてマリアの出世作の役を演じることとなった人気ハリウッド女優。フランスを代表する女優、ジュリエット・ビノシュの最新作は、女優であればだれもが通る道ともいえる、若き頃の自分との対峙であり、また勢いのある新進女優を前にしての葛藤、そして永遠に輝き続けることをドキュメンタリータッチで描いた渾身の“女優物語”だ。
 
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スイスの大自然の中で繰り広げられるマリアとヴァレンティーノとの役作り合宿での稽古や議論は、雄大な自然の中で年代も映画キャリアも違う二人が、女優とマネージャーの枠を超えてお互いの意見を闘わせる。ヒリヒリするような臨場感で演じるジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートは必見だ。また、スキャンダルまみれの奔放なハリウッド若手女優を演じたクロエ・グレース・モレッツも、本人の勢いがそのまま役柄に反映され、ベテラン女優マリアとのやり取りは、勢いがもたらす残酷さを突きつける。
 
本作の上映後、オリヴィエ・アサイヤス監督の登壇に、大きな拍手が送られ、監督のファンの多さを肌で感じたトークショー。「今までも私の作品は日本に紹介され、日本の方々に愛していただきました。今回こうして朝早くからお越しいただけたことを本当にうれしく思って、感謝しています」と冒頭に挨拶した後、一つ一つの質問に、深く丁寧な返事を寄せて下さった。ジュリエット・ビノシュやクリステン・スチュワートとのエピソードなど、興味深い内容が語られたトークの模様をご紹介したい。
 

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―――2010年に1970年代のテロリストを描いた『カルロス』、2012年の青春映画『5月のあと』など、監督のフィルモグラフィの豊かさには驚かされてばかりだが、今回このような女性映画を作ろうとしたきっかけは?
オリヴィエ・アサイヤス監督(以下監督):『カルロス』と『5月のあと』は違った形ですが、どちらも1970年代を語る作品です。『カルロス』は広い意味での歴史を語りました。それに対して『5月のあと』はより内密で私的かつ詩的なものを投げかけるものでした。この2本で1970年代での言いたいことを言い終えました。そしてその2本を撮った後、自分自身を新しくしたい、新しいものを作りたいという欲求があったのでしょう。ジュリエット・ビノシュさんとは昔から一緒に仕事をしたいという話をしていました。実際に準備し、実行するためにはこれぐらい長い時間がかかりましたが、私とジュリエットとの両方の「やりたい」という気持ちから生まれた映画です。
 
 
―――脚本はジュリエットさんの意見も反映されたのか?
監督:一緒に脚本を書くつもりは全くありませんでした。ある日、ジュリエットから「お互いに知り合ってから長いのに、なぜ一緒に仕事をしなかったのか。私たち二人の間で交わされた話や、二人の関係を映画にしてみてはどうか」という電話があったのです。私も少し考えてみましたが、彼女の言うことは正しいと思いました。ジュリエット・ビノシュのフィルモグラフィー、そして私のフィルモグラフィーにジュリエットが主演の映画という一本が欠けているという感じだったのです。
 
古くからお互いに良く知っていますし、共通点も多い。まさにそのことに映画の材料があるのではないか。過ぎた長い時間がいかに私たちの中に沁み込んでいくか、私たちを変えていくかという「時間」についての映画を作れるのではないかと思いました。私からジュリエットに「最後まで脚本を書けるかどうかわからないけれど、やってみるよ」と返事をしました。ジュリエットには執筆中にも話を定期的に聞きましたが、何をテーマにした脚本を書いているのかは全く教えませんでした。ですから、ジュリエットは私が脚本を書き終わってから、はじめて作品の内容を知ったのです。
 
 
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―――本作でセザール賞助演女優賞を米国人女優で初めて受賞したクリステン・スチュワートさんですが、起用した理由は?
監督:クリステンは、確かにトワイライトシリーズの成功とメディアによって有名になったイメージがありますが、私は映画において独特の存在感がある稀有な女優だと思っていました。彼女を見たのは、ショーン・ペン監督作の『イントゥ・ザ・ワイルド』で、5分間しか映らなかった端役でしたが、映画館を出ても忘れられないぐらいの存在感を示していました。また、素晴らしいカメラ映りの良さで、映像の中の彼女はとても強みや深みがある存在です。いずれにしてもアメリカ女優には珍しい特異な存在だと思っていました。ですから、今回オファーを受けてくれたことをとても幸福に感じています。
 
実は、クリステン自身も多大なリスクを冒しています。ヨーロッパのインディペンデント映画ですし、普段彼女が慣れているような製作状況も報酬も居心地の良さもまったくありません。しかし、その代わりに、これまで彼女が出演した映画がもたらさなかったものを与えることができると思いました。それは映画の登場人物ではなく、彼女自身になるということ。彼女自身を発揮する空間を与え、人工的に作り出した登場人物ではなく、彼女の自発的なところを重視してあげることができると考えたのです。ですから、そうした演技をすることで、キャリアのある時点で自分自身を理解することが、今後の助けになるのではないか。自分の想像以上に自分のキャリアをより遠くに伸ばしていけるだろうと考えたのです。
 
 
―――ジュリエット・ビノシュさんと、クリステン・スチュワートさんの相性はすぐに上手くいったのか?
監督:この二人の関係がうまくいくことは、この作品にとって本質的に重要なポイントでした。二人は撮影が始まったときに初めて出会いました。二人の気が合わなかったら、二人の間に緊張が起きてしまったら映画がダメになってしまうぐらい、二人の関係に依存した作品を作ろうとしていることを意識していました。出来上がった映画は、最初の脚本と全く異なる性質のものになったのは、この二人の関係性のおかげです。二人はお互いに評価し、敬意を持っていました。クリステンにとってジュリエットは、いつもそのキャリア全体を通じて、自由と独立の精神を保ち続けていた女優と思っていました。ですから、ジュリエットが辿ってきたようなキャリアを歩むには、そのメカニズムをを理解し、彼女のようにするにはどうしたらいいかを直接学びたいと考えていたようです。ジュリエットがクリステンから見て取ったのは、若い女性だけれど自分と同じように映画に対する情熱と 芸術的な要求が高い女優だということでした。ですからとてもバランスが取れていて、お互いを刺激し合い、いい意味での競争心が働きました。この二人の関係がこの作品を支えてくれ、私はそばにいて二人の関係性が進展していくのをドキュメンタリーのように撮影しただけです。
 
 

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―――本作は、長年監督作品を撮ってきたエリック・ゴーティエ撮影監督ではなく、ヨリック・ル・ソーさんを撮影に起用しているが、その理由は?
監督:様々な撮影監督と一緒に仕事をしました。一番最初に仕事をし、一番多くの仕事を共にしているのはドニ・ルノワールです。私の初長編から『カルロス』の半分まで、ドニ・ルノワールが撮影を務めています。『カルロス』の時はとても長い映画なので、撮影監督も2名置き、録音技師も2名置いて、スタッフの引き継ぎで撮っていきました。二人目がエリック・ゴーティエで、’96年の『イルマ・ヴェップ』、そして’12年の『5月のあと』まで彼と仕事をしてきました。
 
そして3人目がヨリック・ル・ソーで、彼はまだキャリアは新しく、最初は二人目のカメラマンとして私の撮影に参加していました。初めて撮影監督となったのは、’07年の『レディ アサシン』で、その後『カルロス』、そして今回の『アクトレス~女たちの舞台~』での起用となりました。おそらく直感的に撮影監督を選んでいますが、おそらく今回はドキュメンタリー的トーンを入れたかったのが理由だと思います。ヨリック・ル・ソーが持っている実写のスピード感を重視しました。エリック・ゴーティエとは、次回作で一緒に撮ろうと言っています。
 
 
―――全体的に暗いトーンで、雪山など雲のシーンが重い灰色の色合いだと感じたが、作品のトーンに関する考え方は?
監督:どういう条件で上映されたか分かりませんが、私はこの映画を暗い色調にするつもりは全くなかったです。最初は夜のシーンなので暗いのは当然ですし、室内では温かく濃い色調になっているかもしれません。けれども、第一部のチューリッヒの部分が終わり、第二部の山荘に行った途端に、私は映像を明るく光溢れるものにしようと思っていました。もちろん私たちの撮影条件で太陽が思ったように輝いてくれるのを待つことが必ずしもできるわけではありません。けれども、最近の私の映画全てに共通しますが、薄暗がりよりも、むしろ明るさを求めています。映像がはっきりと読み取れるように心がけています。特に自然を撮るときはそうです。
 
 
―――監督の作品は、いつも音楽に注目しているが、プライマル・スクリームの『コワルスキー』を使った訳は?
監督:今回は他の作品とは全く違った音楽の使い方をしました。全くロックは出てきませんし、この映画のためにバロック音楽のトーンが必要だと思いました。『コワルスキー』を使ったのは、この映画の窓が開いて、ヴァレンティンの別人生が覗かれるようなもの、カメラのフレームの外のシーンが突然見え、単に女優マリア・エンダースのアシスタントだけではない、別の人生を持っており、映画では語られないストーリーを持っていることが垣間見られるシーンになっています。いわば、この映画の中で一瞬当惑してめまいがする瞬間にもなっています。最初の頃から、この曲が必要だと思っていたのです。
(江口由美)

フランス映画祭2015
6月26日(金)~29日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!