映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2012年3月アーカイブ

kamisama1.JPG第7回大阪アジアン映画祭で見事グランプリとABC賞をダブル受賞したコンペティション部門出品のインド映画『神さまがくれた娘』。『アイ・アム・サム』にインスピレーションを得たというA.L.ヴィジャイ監督が、インドの名優ヴィクラムとタグを組んで描き出した壮大な父娘物語だ。

6歳の知能しかない主人公クリシュナをヴィクラムが全身全霊で熱演。前半はクリシュナがニラを愛情いっぱいに育てる微笑ましい姿が描かれ、後半は引き離された2人の苦痛と法廷での争いに焦点を当てている。重い題材を盛り込みながらも、自然豊かな村で歌って、踊って、ミュージカルのようなシーンもあり、映画がエンターテイメントであることを存分に心得ているインド映画らしい楽しさにも溢れている。

クリシュナとニラの姿に感動の涙が溢れた上映のあと、ゲストとして来阪したA.L.ヴィジャイ監督、主演のヴィクラムが登壇し、観客とのディスカッションが行われた。


━━━ヴィクラムさんの知的障害者役が素晴らしかったが。
ヴィクラム:過去にも『Pithamaga(ピタメガン)』(03)ではセリフがなかったり、『Sethu(セトゥ)』(99)では事故で少し知恵遅れになった人物の役を演じたことがありますが、今回はセリフが多かったので、それを言うのが難しかったです。色々な障害者施設に行って、動きやセリフの言い方を勉強しました。
(クランクインして)最初の10日間ぐらいが経つと、私もクリシュナのことが好きになって、愛情を分け合うことができました。本作を見終わってから自分の娘に電話をしたというお客さんの声もいただきましたが、そんな優しいメッセージが溢れている作品です。

━━━多重人格や視覚障害など、普通の人とは少し違う役をすることが多いのはなぜか。
ヴィクラム:私は自分と正反対の役をやりたいと思っています。現在、ヴィジャイ監督と撮影中の作品では目が見えない警察官役を演じています。でもクリシュナ役は今までで一番難しかったです。ヴィクラムの中には絶対にない部分を持ち合わせた役ですから。

 kamisamakureta.jpg━━━ニラとクリシュナが手遊びをするシーンはアドリブか。

監督:ニラ役のサラちゃんは以前から知っている子でしたが、「この幸せな子は誰だろう。」というぐらいかわいい子です。レッドカーペットでも抱っこをするとサラちゃんは怒って、一人で立派にポーズをとるしっかりした面もありましたね。サラちゃんは日頃はヒンディー語を話しているのですが、本作ではタミル語で全てのセリフを言っています。全然違う言葉ですから、本当にすごいことです。細かいところも全て指示を出していますが、サラちゃんはそれに足した演技をみせてくれました。

━━━今後タミル語圏映画はどういう方向に向かっていくのか。
監督:私たちの文化習慣や、子守歌からはじまる音楽は映画の要素として外せません。インド映画で歌と音楽は欠かせないものですし、我々は感情表現が激しいので、それらを使って表現しているのです。


kamisama3.JPG観客とのディスカッションに引き続き、A.L.ヴィジャイ監督、ヴィクラム氏に二人が一緒に映画を作ることになったきっかけや、クリシュナの人物像をどうやって作り上げていったのか、さらにインタビューで話を伺った。


━━━ヴィクラムさんとA.L.ヴィジャイ監督が一緒に仕事をすることになったきっかけは?
監督:ヴィクラムさんは超多忙な人気俳優なのですが、3年前、ヴィクラムさんに時間ができたとき、すかさず「あなたがこの映画をやらないなら、私は監督を辞めます。」と強引にオファーしました。素晴らしい役者でないと撮れない映画です。電話でヴィクラムさんから「やりますよ。」と言われたときは奇跡が起こったと思いました。本当に夢が叶いました。

ヴィクラム:ヴィジャイ監督は、映画としてはこれで4本目なのですが、南インドの若手の中では一番実力がある監督です。彼の映画は映像がとても素敵だし、彼自身がとても純粋なので、作品の純粋さは彼のキャラクターからもきているんです。彼の前の作品を見て「若いのにすごいな。」と思っていたので、オファーが来たとき是非一緒にやりたいと思いました。一つ一つが大人っぽいニュアンスのある映像を盛り込まれた作品が作れるのは彼しかいないです。ヴィジャイ監督の次回作も是非やらせてくださいと言いました。役者が一人の監督とずっと組んで仕事をするのは微妙に難しいところがあり、普段はやらないのですが、彼の腕を信じているから、今も二人で撮影しています。


━━━ヴィクラムさんはA.L.ヴィジャイ監督をかなり評価しているようだが。
ヴィクラム: 彼の作品はそれぞれ全然違います。アクションも撮れば、真面目なものも撮りますし、本作のような映画も撮っています。3本目の映画は時代劇でした。時代劇を撮るのはとても難しいのですが、2ヶ月で撮影し、それが成功したというのも彼の実力を示していると思います。

━━━主人公クリシュナは心底ピュアな人物に仕上がっているか、これは監督のアイデアか、それともヴィクラムさんのアイデアか。
ヴィクラム:ほかにも優秀な監督はいますが、彼らにはこの作品は撮れません。心の底からイノセントでないとこの作品は撮れないんです。小雀のエピソードや、信号が赤になるまで何があっても絶対に待っているとか、これらは本当に監督そのものです。絶対に間違いを犯さない。社会的に全てを考えた上で行動を起こす人なのです。

監督:クリシュナというキャラクターのアイデアはあったけれど、どうやって撮ったらいいのか分からなかったんです。どんな感じで、どういうジェスチャーでクリシュナを演じてもらうかも分からなかった。そんな中、ヴィクラムさん自身がこれらの宿題をもって様々な知的障害者のセンターを訪ねたりしながら、クリシュナの動きを全部自分で作り上げてきたのです。ヴィクラムが初めてクリシュナとしてシーンに出てきたときは、びっくりしました。自分が思い描いていたようなキャラクターそのものだったのです。

 ヴィクラムさんがそうやってクリシュナを演じることで、重ねて次を考えられるようになりました。最初の10日間は私もパニック状態で、セリフをどうしようか迷っていたのです。でもヴィクラム自身がアドリブを言う場面(冒頭の女性弁護士と会話するシーン)を聞いた上で、私もセリフを考えたりしていきました。まさに二人で作ったクリシュナ像ですね。

━━━父と娘の間に流れる愛が本当にうまく描かれているが。
 監督:ニラ役のサラちゃんも、私が撮れたのは50%だけで、残りの50%はキャメラの後ろで起こっていたことなんです。ヴィクラムさんは自分の演技だけでなく、サラにもたくさんのことを教えてあげていました。キャメラの後ろで父親役のヴィクラムとたくさんコミュニケーションをとったからこそ、あんな素晴らしいニラを演じることができたんです。本当の父と娘の気持ちになって二人がキャメラの前に現れていました。

━━━本作では、インドの保護者法についても若干触れているが。
 監督:障害のレベルによってですが、親権について訴えられたら、最終的には法廷で決められてしまいます。クリシュナもチョコレート工場で働いてはいますが、教えられたことはできても、少し違うと対応できなくなってしまいます。この状態で親権を持つのは難しいのが現状です。

━━━今のインド映画業界はどんな動きが起こっているのか。
 監督:インド映画といっても、いろいろな言語で作られているので、民族や習慣に近づいて映画を撮っています。全体でインド映画は年間800本以上作られています。インディー語やタミル語など様々な言語で作られており、技術的にもハリウッドには負けていません。タミル語の映画は内容がインディー語圏の映画よりも深いので、インディー語圏でタミル語映画のリメイクをされることもあります。インド映画産業全体でみても、すぐれた映画音楽家や監督やキャメラマンは、結構タミル語圏から生まれているんですよ。


インド映画界きっての名優ヴィクラム氏がその才能を認める若手注目株のA.L.ヴィジャイ監督とのまさに二人三脚で誕生した『神さまがくれた娘』。本作を経てさらに次回作へと映画を生み出すお二人が、映画のことを通じてお互いの素晴らしい点を次々と挙げる姿に、心底信頼し合っている様子が伺えた。日本語で「おおきに!」と挨拶するなど、サービス精神旺盛ながらもスターの貫録を見せつけたヴィクラム氏の来阪に、グランプリ受賞が大きな華を添えたことは言うまでもない。そして、インドから生まれた新しいゴールデンコンビの次なる作品にも大いに期待したい。(江口 由美)

 

carol.jpg  第7回大阪アジアン映画祭のコンペティション部門出品作品、香港映画祭上映作品となったキャロル・ライ監督の『二番目の女』。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2002で審査員特別賞を受賞した『金魚のしずく』、日本で劇場公開されたカリーナ・ラム、リゥ・イエ主演の『恋の風景』と女性監督ならではの繊細な描写に定評があるキャロル・ライ監督の最新作が海外初公開され、大いに会場を沸かせた。

  双子の美人姉妹と二人が愛してしまった男をめぐるラブサスペンスを、現実と劇中劇を交錯させながら美しくもミステリアスに描いた本作。一人二役に加え、舞台劇でも二役をこなしたアジアンビューティー、スー・チーの熱演や、舞台劇もこなしシリアスな演技を披露したショーン・ユーの新しい魅力を堪能できる作品だ。

  第7回大阪アジアン映画祭および香港映画祭のゲストとして来阪したキャロル・ライ監督に本作の着想や、香港映画界の今について話を伺った。


━━━本作の着想はどこから得たのか。
私には双子の友達がいるのですが、お互いの友達が間違えるので、最終的に二人とも間違えられても「そうよ。」と答えるようにしているという話を聞いたのです。その状況が面白いと思い、本作の構想が浮かんできました。

劇中劇を取り入れたのも、舞台の話と現実の話の二つがあって、舞台のストーリーが二人の状況に繋がっているので両者を融合させました。女優が何かを「演じる」ということが主題にもなっています。

 RIMG1108.JPG━━━劇中劇は元々ある作品なのか。
『再世紅梅記』という越劇(広東オペラ)で、香港人なら誰でも知っている有名な作品です。古典作品なので、せりふ回しを現代風にアレンジし、北京語に変えています。

━━━スー・チーの一人二役ぶりが見事だが、出演するにあたってのエピソードは?
脚本を見せた時点で面白そうだと思ってもらえました。山口百恵が双子の姉妹を演じた『古都』(80市川崑監督作品)をスー・チーさんに見せ、こんな感じで演じてみてはどうかと打診したところ快諾してもらいました。

━━━どのようにして双子姉妹のキャラクターを作っていったのか。
もともと細かく姉妹の設定をしていました。姉は優しい性格で妹を大事にしているし、妹は奔放で野心が強い。スー・チーさんはトップクラスの女優で理解力も高いので、設定を読み込んでご自身でキャラクターをしっかり作り込んでいきました。

━━━ラブストーリーでのショーン・ユーのシリアスな演技が新鮮だったが、
ショーン・ユーさんは見た目は現代的ですが、時代劇にもマッチするルックスです。本作では時代物の劇中劇を披露するので、時代物の装束をつけてもかっこいい彼を起用しました。

━━━ 一貫してモノトーンな姉妹や劇中劇の衣装が印象的だが、衣装、美術に関するこだわりは?
本作では美術、衣装にもこだわっています。衣装担当には「シンプルで、かつ華麗な感じ」と指示をしました。キーカラーを赤、黒、ゴールド、白の4色に決め、そこからあまり離れることのないようにしました。

基本的には無地の衣装が多いですが、冒頭で姉が着用する花柄のワンピースが登場します。水中シーンにも使われているのですが、ここでは水の中でも写りのいいワンピースを衣装担当がわざわざ選んでくれました。

━━━今の香港映画界はどんな動きになっているのか。
今の香港映画界は大陸と合作の作品ばかりになっています。香港だけで作っている作品はほとんどない状況です。ジョニー・トー監督やイー・トンシン監督もしかりですが、香港市場が小さくなっているので、合作でないと成り立たないのです。また、大陸では審査があるので、どうしてもそれに合わせた描き方になってしまいます。

━━━大陸ではどんな映画が望まれているのか。
私もまだ模索中です。『2番目の女』は香港に先駆けて大陸で公開したので、すでにネットで評判が出回っており、高尚な趣味の方には受け入れられているようです。大陸の観客の大半は、まだ映画を見る水準が一定のところまで達していません。香港人だと音がいい、映像がきれいといった部分まで見ますが、大陸の人はまだストーリーとセリフに重きを置いていると思っています。

━━━最後に本作で監督が描きたかったことは?
女性の微妙な心理を描いています。そして常に誰かと比較してしまうような、人間としての微妙な心理を描いているのです。(江口 由美)


nibanme.jpgのサムネイル画像『2番目の女』 (The Second Woman)
~人の心こそ,この世で一番ミステリアス~

(2012年 香港,中国 1時間45分)
監督:キャロル・ライ
出演:スー・チー,ショーン・ユー,チェン・シュー,シー・メイチュアン,チャン・ナイティエン


姉フイシャンと妹フイパオの双子の姉妹を巡る映画だ。スー・チーが一人二役で姉妹に扮した。最初は外見だけでなく性格も2人の違いが明瞭になるように演じているが,次第に区別が曖昧になりミステリアスな色が濃くなる。監督は,イカ墨が流れ広がるシーンに姉の心の暗闇をイメージしていたと言う。イカ墨がどす黒い血のような感触で,何か悪いことが起きそうな予感がする。実際に姉の行為が原因となって姉妹の間に不和が生まれる。

妹は,舞台女優であり,同じ劇団の俳優アナンと付き合っている。ところが,姉がアナンと惹かれ合う気配を感じ,猜疑心に満ちた眼で姉を見る。そのシーンがホラー風で,姉妹の間に流れる不穏な空気を映すようだ。また,姉が体調を崩した妹に成りすまして舞台の代役を務めるが,その後で妹が「別人のようだった」と絶賛の拍手を浴びる。そのときの妹は驚き困惑した様子で,姉との確執を深めていく。なかなかサスペンスフルな展開だ。

広東オペラを舞台劇に改編した「紅梅記」が劇中劇として上演される。3年前に死んだフイシャンが彼女と瓜二つのチャオロンに憑依し,恋しいペイランに会いに来るという話のようだ。劇団の看板女優に扮したチェン・シューが劇中劇で一人二役を演じ優美な所作で魅せる。赤と白の衣装は情熱と清明を感じさせる。ペイラン役のアナンの前で,フイシャンがフイニャンと,チャオロンがフイパオとシンクロし,壮絶とも言える結末を迎える。

フイシャンがフイパオに付いて裏山に行った後,フイパオが戻ってきてフイシャンが行方不明となる。舞台での立ち位置,湖で発見された上着等を用い,もしかしたら逆かも知れないと思わせる。一方が他方に殺されたのではないかという疑問も浮かぶ。母親でさえ区別が付かないミステリアスな展開の中,クライマックスでは戻ってきた方が劇中劇のヒロインを演じる。妹と同じ男を愛した姉の心には暗闇が広がり,自身をも呑み込んでいく。

(河田 充規)

 


 

michi-s5.jpg

 

op-3.jpg  9日19時から大阪市北区の梅田ブルク7で、大阪アジアン映画祭オープニング作品『道~白磁の人~』のワールドプレミア上映とオープニングセレモニーが行われた。最初に台湾からの来日ゲストとしてコンペティション部門『父の子守歌』のチャン・シーハオ監督と特別招待作品部門『星空』のトム・リン監督が登壇。

op-1.jpg  東日本大震災を題材にした作品がワールドプレミア上映されるチャン・シーハオ監督は、「飛行機から降りてそのまま会場に来ました。」とユーモアいっぱいに挨拶した。『九月に降る雪』同様ファンタスティックな青春ストーリーがジャパンプレミア上映されるトム・リン監督も、最新作『星空』が当映画祭に招待されたことへの喜びを語った。

  そして、日本統治時代の朝鮮半島を舞台に、朝鮮工芸の継承に努め、朝鮮の人たちと真の友情を育んだ浅川巧の人生を感動的に描いた『道~白磁の人~』の高橋伴明監督と主人公浅川巧役の吉沢悠が登壇。満席のファンから熱い拍手が沸き起こった。

op-4.jpg  高橋伴明監督は、「映画監督をして40年、結婚して30年の節目の年で、映画監督を辞めたいと思ったときもありましたが、妻(高橋恵子)に『私は映画監督と結婚したのよ。』と言われたんです。今日ここに映画監督として立てたことをうれしく思います。今回の映画は直球を投げました。」と笑顔で挨拶。吉沢悠は「私は33歳になりますが、浅川さんのすらしい功績を知りませんでした。今皆さんもこの映画を観て浅川さんを知るきっかけになってくれれば。」と役柄同様実直な面持ちで挨拶した。

op-5.jpg  本作で韓国語も披露している吉沢悠は、共演者で親友役のペ・スビンと日頃は得意の英語でコミュニケーションを取りながら、時には現場に内緒で夜に共通の趣味である釣りをしていたとプライベートでも微笑ましいエピソードを披露。高橋伴明監督と初タグを組んで、最初は怖いイメージがあったが現場では声を荒立てることもなく、とても自由にやらせてもらったと監督への感想を語った。

  韓国人スタッフに囲まれての撮影となった高橋伴明監督は、一番楽しかったことが「みんなで食事に行ったこと。キムチとマッコリさえあれば。」映画人として国を超えても心が通じることを身をもって体験したという。

  最後に高橋伴明監督が「日韓併合時代、日本が朝鮮を強制的に植民地化したことが尾を引いている気がします。表面的ではなく、根本的に分かり合うメッセージとして受け取ってもらえればうれしいです。」と挨拶し、感動のワールドプレミア上映へとバトンタッチした。


第7回大阪アジアン映画祭コンペティション部門上映、特別招待作品部門上映、インディ・フォーラム部門上映は18日までシネ・ヌーヴォ(九条)、梅田ガーデンシネマ(梅田)、HEPホール(梅田)、14日からはABCホール(福島)、プラネット・スタジオ・プラスワン(中津)で上映が行われる。今年は香港返還15周年を記念した特別企画『香港映画祭』も同時開催。香港から監督やプロデューサーを迎え、ジョニー・トー監督最新作の『高海抜の夜』上映&トークイベントが行われるHONG KONG NIGHTなど、最新香港映画を堪能できるプログラムにも注目だ。

他にも、ヴェネチア、ベルリン映画祭で話題沸騰!日本統治下における台湾最大の抗日暴動事件を起こした先住民の物語を壮大な二部作に仕上げた台湾映画『セデック・バレ 太陽旗』、『セデック・バレ 虹の橋』を完全版で上映。アジアのアカデミー賞、アジアン・フィルム・アワードに監督賞、主演男優賞で堂々ノミネートされたインドネシア映画『ラブリー・マン』、ウォン・カーウァイ監督最新作の武術顧問を担当しているシュー・ハオフェン監督の斬新な武侠映画『刀のアイデンティティー』など期待と興奮の話題作が目白押しだ。

今年から創設されたインディー・フォーラム部門では、CO2助成監督作品のワールドプレミア上映をはじめ、イン・リャン監督がワンカットで撮影した四川省バス事故の遺族を描いた『慰問』などの海外インディペンデント作品も上映される。多彩なゲストを迎えたアジアンミーティングも見逃せない。

 

チケットは指定席1回券前売、当日共に1300円、共通自由席前売1100円、当日1300円

共通自由席3回券前売3000円、当日3600円

詳細は大阪アジアン映画祭運営事務局まで

TEL 06-6373-1225 http://www.oaff.jp/

 

T-3.jpg 
 hamamura-1.jpgのサムネイル画像  浪花の春恒例の「おおさかシネマフェスティバル2012」が3月4日(日曜)、大阪・谷町四丁目の大阪歴史博物館4階講堂で行われ、主演女優賞・浅丘ルリ子、主演男優賞の豊川悦司ら受賞者が一堂に勢ぞろい。浪花の名物司会者・浜村淳の名調子とともに満員のファンを沸かせた。


日本映画 個人賞は以下のとおり。


※敬称略
監督賞:阪本順治(『大鹿村騒動記』)
主演女優賞:浅丘ルリ子(『デンデラ』)
主演男優賞:豊川悦司(『一枚のハガキ』)
助演女優賞:神楽坂恵(『冷たい熱帯魚』『恋の罪』)
助演男優賞:片岡愛之助(『小川の辺』)
新人女優賞:杉野希妃(『歓待』)
新人男優賞:まえだまえだ(『奇跡』)
脚本賞:新藤兼人(『一枚のハガキ』)
撮影賞:北信康(『一命』)
音楽賞:安川午朗(『八日目の蝉』『大鹿村騒動記』)
新人監督賞:三宅喜重(『阪急電車 片道15分の奇跡』)
特別賞:原田芳雄、森田芳光


<授賞式でのコメント>

asaoka-2.jpgのサムネイル画像●主演女優賞・浅丘ルリ子『デンデラ』
東映『デンデラ』(天願大介監督)で主役を務めた元日活の大女優・浅丘は晴舞台にも悠然、授賞式では大トリとして登壇し「(他の)受賞者の皆さんはもう1時間半も待ってらっしゃるから」と他を気遣う余裕を見せながら、浜村氏としばし思い出話。

松竹の看板『寅さん』シリーズにマドンナ「リリー」役で最多4度も出演したことについて「最初は北海道の酪農のおかみさん役だったんだけど(山田監督に)こんなに手足が細くては無理なのでは、伝えますと、監督も“そうですねえ”とおっしゃって」と裏話。結果、山田監督がとあるキャバレーの前を通りかかった時に「リリー」が出演していたことから「流れ者の踊り子リリー」が誕生した、という知られざるエピソードも披露。「寅さんが一番愛してくれたマドンナでしたね」としんみり。

受賞作『デンデラ』については「(雪山ロケは)とても寒かったんですが、カットの声がかかると、みんなで温めて下さった。寒いですけど温かかったですね」。
「私はこれまでに158本、映画に出演しましたが、女ばかり50人、一番下が70歳の私。こんな役ないですよね。出させてもらってよかった」。


toyoetu.jpgのサムネイル画像●主演男優賞・豊川悦司「一枚のハガキ」
新藤兼人監督の前作「『石打尋常高等小学校 花は散れども』に出させてもらい、2度目に呼んでいただいてもう一度“新藤作品に出させてもらえる”ことが何よりうれしかった。戦友の未亡人役の大竹(しのぶ)さんとも前作から一緒でした。戦争体験はなく“戦争ってどういうものなんだろう”と考えながらだったんですが、監督がご自身の実体験を書かれたもので、監督がボクのモデルだったのがラッキーでした。だから、現場では恐ろしいほどの緊張感でした」。 「ビジュアル的には『~花は散れども』と正反対だったんですが見ていた頂いた方に“新藤さんに見える”と言われるならうれしいことです」。
 

kagurazaka-2.jpg ●助演女優賞・神楽坂恵『冷たい熱帯魚』『恋の罪』
園子温監督作品で女優開眼した神楽坂は「大阪にはしょっちゅう来ていて大好きな街。自分の人生の大事な2本で受賞なんてこの上ない喜びです」と感無量の面持ち。「グラビアアイドルではインパクトない、と思っていて、自分で何がしたいのか、分からなかった。女優なら自分を発言できる場所がある、と思った。園監督に厳しくしごかれて追い詰められて、辛かったけど、全否定されてよかったと思う」。

 前夜、郷里の岡山に帰り、この日は父親ら3人の親戚と車に同乗して会場入りした。父親は浜村氏からステージに上がるよう促され、テレながら壇上へ。「娘が女優になるなんて今でも信じられない。(娘の)映画は見てません」。
神楽坂は「父はシャイな人で、私の結婚式でもしゃべらなかったのに…。この席で親孝行も出来ました」とうれしそうだった。

 kataoka-1.jpg●助演男優賞・片岡愛之助『小川の辺』
愛之助は現在、京都・南座公演に出演中。午前の部終了後、タクシー→新幹線→ハイヤー、車中で着替え、という強行スケジュールで会場へ文字通り駆け付けた。メイク10分で慌ただしくステージに上がった愛之助は「藤沢周平作品の大ファンで舞台で“蝉しぐれ”もやっている。(『小川の辺』には)喜んで出させてもらいました。(主演の)東山紀之さんは何でも出来る方なので、セリフなくても会話しているような感じでしたね。監督はカット割りを少なくしたいという要望だったんですが、私は(カットを)長くやっていただく方がいいのでありがたかった」と歌舞伎役者ならではの強みも披露した。

この日はちょうど40歳の誕生日。スタッフが用意したケーキにナイフを入れるポーズで「2度目の成人式」の喜びを表した。「芸歴30年で40歳の節目の日に映画で初めての賞をいただくなんて、忘れられない門出になりました。歌舞伎大好きで歌舞伎あっての私だと思っていますが、歌舞伎以外の仕事もやっていきたい」と新たな門出を誓っていた。
 

 sugino.jpg●新人女優賞・杉野希妃『歓待』
アジアン・インディーズのミューズ的存在の杉野希妃は「“歓待”で何回か大阪で舞台あいさつさせてもらった。人生で一度しかもらえない新人賞を第二の故郷の大阪でいただけたことがうれしい。この映画は企画から公開まで立ち会ったので感激もひとしお。個人賞ですが、作品にいただいた作品賞だと思っている」。
杉野は慶応大在学中に韓国・ソウルに留学、06年に韓国映画『まぶし一日』で映画デビュー。女優だけでなく、プロデューサー業も兼ね、昨年公開の『マジック&ロス』で(リム・カーワイ監督)では、韓国映画『息もできない』のヤン・イクチュンとキム・コッビとの共演を実現させた。昨年の東京国際映画祭では「アジアの風」部門で特集上映されるなど“新人”離れした活躍ぶり。広島市出身だが、すっかり気に入った大阪で「いつかこの場所で映画を撮りたい」と語っていた。


 sakamoto.jpg●監督賞・阪本順治監督『大鹿村騒動記』
作品賞に加え監督賞にも輝いた大阪・堺市出身の阪本順治監督は晴れの凱旋受賞。特別賞(故原田芳雄氏)、音楽賞(安川午朗氏)と合わせ4冠獲得の快挙に「原田(芳雄)さんの思いの強さがこの作品に結晶した」とまずは偉大な主演俳優に感謝の気持ちを表した。
「原田さんに“あなたとは初めてだなあ”とまず言われた。それまでに6本やってるんですけどね。主演と監督としては確かに初めてだった。私のデビュー作“どついたるねん”に出ていただいてから23年、最後にご一緒できたことに強い縁を感じます。作品を皆さんに愛していただいてありがとうの気持ちでいっぱいです」。

阪本監督は現在、吉永小百合主演の新作『北のカナリアたち』の撮影中で、2月に北海道ロケを終えたばかり。今後、春、夏にも撮影の予定。これ以外にもロシアなどでロケを行う国際的な新作にも着手する。おおさかシネマフェスティバル“2連覇”も有望とあって自信と余裕を感じさせた。
 

 harada.jpg●特別賞・故原田芳雄 『大鹿村騒動記』(代理・長女原田麻由)
“原田一家”の一員だった阪本順治監督と東京から同行して会場入りした原田麻由は、2日の日本アカデミー賞授賞式で原田芳雄「主演男優賞」の代理受賞してきたばかり。
 大阪では「芳雄に代わりまして参りました。(芳雄も)この場で皆さんにお会いしたかったと思います。先日、芳雄の遺品を整理してまして大阪で賞を頂いた時の写真が出て来ました。その時のうれしそうな様子を見て私もうれしかった。素敵な賞をありがとうございました」。


kita.jpg ●撮影賞・北信康『一命』
3Dで初時代劇での受賞に「3Dはキャメラが大きいんですが、2Dで上映する劇場もあるので、両方出来るように考えた。(市川)海老蔵さん、役所広司さんら芸達者な人ばかりなので、芝居の邪魔にならないように、と」。 『一命』は小林正樹監督の世界的名作『切腹』のリメイクで比較対照されることについて「意識してもかなわないことなので。3Dは映画表現の幅を広げる意味があると思う」と話していた。


shindou.jpg ●脚本賞・新藤兼人(代理:新藤次郎)
『一枚のハガキ』代理・新藤次郎近代映画協会社長(兼人氏長男)
次郎氏「(兼人監督は)がんこじじいで、今は映画のこと以外は何もしたくない、という生活ですね。“一枚のハガキ”を撮る前から車椅子になりまして“これが最後になるね”と言ってました。“何が良いかね”とあれこれ探して“これだったら最後にふさわしい”と選んだ。監督は家族全部を映画にしてますからね」。懸念される監督の状態については「体力は落ちているが、先生は元気です」。とは言うものの、期待の声が大きい「もう一本」については「インディーズでやってると、撮影中にひとり倒れたりすると会社がつぶれたり大変なことになるので…」と否定的だった。


yasukawa.jpg ●音楽賞・安川午朗『大鹿村騒動記』『八日目の蝉』
「去年1月、同時期に依頼された。2人の監督(阪本順治、成島出)から“大丈夫か”と心配されたが、2本の内容が極端に違うのでやりやすかった。代表作を聞かれて「うーん“君に届け”“どろろ”“感染列島”」と自作を並べていた。

 (安永 五郎)