「パリ」と一致するもの

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『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー

~ベテラン歴史教師の情熱、歴史を“体感”することが、生徒たちを変えていく~

 
近年、移民を含む多人種の子どもたちが在籍する学校現場を題材にした力強い作品がヨーロッパから誕生している。実話を基にしたマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督のフランス映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』も、その流れの作品であるだけでなく、「歴史の継承」という大きなテーマを内在した作品だ。
 
<ストーリー>
貧困層が多く通うパリ郊外のレオン・ブルム高校に赴任した歴史教師アンヌ・ゲゲン(アリアンヌ・アスカリッド)は、落ちこぼれ学級の担任を任される。「退屈な授業はしない」と生徒たちに真摯に向き合うアンヌに対し、多人種の子どもたちが在籍するクラスでは言い争いが絶えない。歴史の奥にある真実を考えさせようとするアンヌの授業を受け、少しずつ変わってきた生徒たちを前に、アンヌは「アウシュビッツ」のことを発表する全国歴史コンクールへの参加を提案するのだったが……。
 
 

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寛容と威厳を兼ね備えたベテラン教師が、問題児呼ばわりされている生徒の集まったクラスを、「レジスタンスと強制収容についての全国コンクール」出場へ導き、生徒たちの成長を捉えた本作。ホロコーストという悲劇の歴史を、語り部として活動しているホロコーストの生存者、レオン・ズィゲル氏が証言するシーンもあり、観客も歴史の継承を体感できる。フランスの今を、クラス活動を通して描く部分も、非常に興味深く感じられるだろう。
 
フランス映画祭2016のゲストとして来日した本作のマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督の上映後トーク(抜粋)と、インタビューをご紹介したい。
 

<上映後のトークより>
 
―――事実を基にした物語ですが、この題材との出会いは?
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(以降、シャール監督):今回マリック役で出演しているアハメッド・ドゥラメさんは、高校生時代に映画の題材となっているプレテイユという街に住んでおり、映画の世界に入りたいと思い、シナリオを書いていたそうです。プロのアドバイスをもらうため、インターネットで調べ、色々な監督に連絡する中、私にも「脚本を読んでほしい」とメールが届きました。なぜこの脚本を書いたのか会って話を聞いてみると、アハメッドは「抵抗と習慣」に関するコンクールに出たことで、自分の人生が変わったと話してくれました。これは面白いと思い、一緒にシナリオを書くことになったのです。
 
 
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―――ゲゲン先生役にアリアンヌ・アスカリッドさんをキャスティングした理由は?
シャール監督:アハメッドさんと脚本を書いている時、実際にコンクールを指導していた先生に会い、アスカリッドさんと重なる部分がすごくありました。人間性豊かで、教師として皆をまとめて管理する一方、色々なことを伝えていかなくてはいけない。本物の先生はそういう立派さをもっており、それとつながる部分がアスカリッドさんにはありました。またお父様がレジスタンスで活動していたとお聞きしたので、是非ゲゲン先生役をやっていただきたいと思ったのです。
 

<インタビュー>
 
―――冒頭にスカーフを巻いた学生と先生が衝突するシーンがありますが、その意図は?
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(以下、シャール監督): 教育委員会の方や校長先生にお話しを伺うと、毎日一番大変なことはスカーフ着用禁止に関する話し合いだそうです。宗教的なモチーフを学校に持ち込むことは禁止されているにも関わらず、生徒たちは持ち込もうとします。教育の場である学校に、宗教という教育以外のことが入ってしまう現状には、私自身も非常に驚きました。
 
今は人と人の間に宗教という障害物が介入している時代です。例えば日本では制服があり、貧富の差や宗教上の違い、社会的地位の違いなどは感じられず非常にシンプルです。残念ながらフランスの学校ではそのようなことはありませんので、教育を考える場合に、まずそのことを挿入することから始めたかったのです。
 
―――知の継承は本作のテーマの一つですが、記憶の継承で最も困難なこととは?
シャール監督:人に何かを伝える、受け継ぐという行為をするためには、まず理解をすることが必要です。遺産の場合は、家やお金を渡すだけで済むかもしれませんが、歴史の場合、そうはいきません。特にフランスの移民3世の人たちは、親もフランス生まれであるのに自分たちがフランス人だと思っていない人が多いのです。それは、彼らがしっかりとフランスの歴史を相続できていないことに問題があります。つまり移民3世の人たちとフランスの遺産を分かち合えていないのです。そういう意味でも「受け継ぐ」という行為は非常に大事です。
 
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―――子どもたちのクラスでの様子やゲゲン先生とのやりとり、大会に向けてワークショップをする様子などを、ドキュメンタリーのようなタッチで描かれていますね。
シャール監督:この映画の中で唯一ドキュメンタリーと言えるのは、(少年時代、アウシュビッツから奇跡的に生き延びた)レオン・ズィゲル氏が証言をしてくれるシーンです。ズィゲルさんに関しては、演技指導も一切しませんでしたし、台詞もつけていません。ズィゲルさん自身の言葉で語っています。それ以外は全て脚本で台詞をつけています。ただ、ドキュメンタリーのように見える手法をとった理由は、観客がクラスの他の生徒と一緒に参加するような気持ちで、映画を観てもらいたかったからです。そのため、カメラを数台使い、接写だけでなく、引いてクラス全体が見えるシーンを組み合わせ、ドキュメンタリーのような手法を使いました。ドキュメンタリーというより、真実を見せるためという意味で、このように撮影しています。
 

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―――真実を見せるという部分では、脚本を練る段階で監督自らが高校に足を運び、教育現場の今を取材されたそうですね。今の高校生は、監督ご自身が高校生だった頃と比べてどのような違いがありましたか?
シャール監督:本当に違いますね。生徒たちの話し方や、友達との関係性、男子生徒と女子生徒の関係性も違いますし、それ以上に先生に対する態度が全く違います。かつて先生は威厳のある存在で、先生の言うことは嫌でも聞かざるを得ない部分がありました。でも、今の先生は生徒が言うことを聞かないと悩んでいる人が多く、先生の発言に対して「それは違います」と生徒の反対意見がすぐに返ってきます。その状況に私は大変ショックを受けましたし、それ以上にどうして今の教育現場は先生の威厳が損なわれた状況になっているのか、どうしたら変わるだろうかという部分に自分の注意が向いていきました。その答えを、映画で表したわけです。
 
―――多人種の生徒たちが集まったクラスでのやり取りは、時には人種差別を感じさせるものもありましたが、これも教室での真実なのでしょうか?
シャール監督:子どもたちはいつの時代も残酷なもので、私も小さい頃は赤毛だということでからかわれましたが、成長の過程で起こるものと捉えています。育って成長していくうちに変わっていくでしょう。色々な違いを越えて、一つのまとまりのあるクラスになっていく。それを映画で再現することに努めました。問題を語ることは簡単ですが、それがどうすれば良くなるかを語ることは難しい。私はよく「日常のヒーローは先生だ」と話します。何でもないことでも、きちんと答えを用意してくれる。本作では、そんな先生のことを描いています。
 
―――映画の中でホロコーストの証言をしたレオン・ズィゲル氏は本作をご覧になりましたか?また、語り部として活動されているズィゲル氏は、本作に対しどのような思いを持っておられましたか?
シャール監督:本作を観てくださいました。ズィゲル氏の話をすると、感動しすぎてしまうので、驚かないでくださいね。最初、映画に出演依頼をしたとき、「なぜ録音音源やビデオ映像を使わないのか。なぜ映画に出なくてはいけないのか」と全く理解をしてくださいませんでした。元々映画をご覧にならないそうで、映画に出演する意味を感じられなかったそうです。全く相いれない感じでしたが、時間をかけて説得していきました。映画を通せばもっと多くの人にズィゲル氏が今まで語ってこられた「人生の闘い」を伝えることができる。また若い人に戦争は二度とあってはならないと伝えることもできると、私は説得したのです。
 
結局ズィゲル氏は映画を二度観てくださいました。ズィゲル氏の奥様をはじめ、息子さんやお孫さんも一緒に観てくださったのですが、その息子さんがこの映画をいかに誇らしく思うか態度で示してくださいました。また観客のリアクションからも、なぜその場面でズィゲル氏自身が登場しなくてはならなかったのかを瞬時に理解してくださいました。レオン・ズィゲル氏の体験を受け継ぐことが、この映画の中でできたのだと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』“Les Héritiers”
(2014 フランス 1時間45分)
監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック
2016年8月6日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、8月13日(土)~テアトル梅田、今秋~京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://kisekinokyoshitsu.jp/
(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO
 
 

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ムンバイ同時多発テロ、被害者少女の目線でその恐怖と孤独を映し出す 『パレス・ダウン』ニコラ・サーダ監督インタビュー

今年のフランス映画祭2016で、社会派作品として大きな注目を集めたのが、2008年11月インドのムンバイで勃発した同時多発テロ事件による惨劇の実話を映画化したニコラ・サーダ監督の『パレス・ダウン』だ。  

 

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テロの一部始終を語ることに重点を置くのではなく、標的の一つとなったタージマハル・ホテルでテロの被害者となったフランス人高校生、ルイーズの視点で、彼女が体験した恐怖や孤独、家族との絆を真摯に描き出した。ルイーズ役には、『ニンフォマニアック』でヒロインの少女時代を演じ、話題をさらったステイシー・マーティン。真っ暗な部屋の中、テロリストに包囲され、いつ銃撃されるか分からないサバイバルな状況で両親からの電話だけを頼りに脱出しようとするルイーズの心の動き、事故後彼女を襲う孤独を繊細に表現し、見事な存在感をみせる。父親役には、フランス映画祭2016上映作品『めぐりあう日』にも出演のルイ=ド・ドゥ・ランクザン、母親役にジーナ・マッキー、ホテルのイタリア人客ジョヴァンナ役にアルバ・ロルヴァケルと実力派俳優が脇を固めた。本作の舞台となっているムンバイの街並みや群衆の映像も、独特の雰囲気を醸し出している。  

フランス映画祭2016のゲストとして来日したニコラ・サーダ監督に、テロを題材にした実話をどのような視点で描いたのか、その表現方法についてお話を伺った。


―――この作品は、サーダ監督の友人の姪の実話が基になっているそうですが、その体験を聞いて一番心動かされたことは?

ニコラ・サーダ監督(以下、サーダ監督):一番印象的だったのは、彼女が他から全く孤立してしまい一人であったという事実です。外とのコンタクトがまるっきり途切れ、唯一のつながりは外から聞こえてくる(銃撃などの)音、そして両親との電話のやりとりだけでした。  
 
―――『パレス・ダウン』はテロを題材にはしていますが、実行犯の様子を描写するのではなく、テロに巻き込まれた側からの視点で描かれています。今まで、一個人のテロ被害者に焦点を当てた映画はあまりありませんが、このような手法でテロを描いた理由は?
サーダ監督:私はある特定の分野の映画を模倣するのではなく、自分自身のスタイルで映画を撮ることに関心があります。テロをテーマにした時も、客観的にどんなテロであったかのディテールを描くことにはあまり関心がありません。テロと分からせるために警察官や新聞記者、その他さまざまな登場人物で説明するという手法は、視点を明確に定めているかのようでありながら、実はテロに対する視点をズレさせていると思います。今回私は、 ヒロインのルイーズが体験したのと近い状態を描くことで、観客に彼女の孤立感を感覚的に味わってもらえるような撮り方をしました。私が重要視したのは、音と光です。  
 
 
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―――ホテルの部屋に閉じ込められ、暗闇の中一人でなんとか逃げようと闘うルイーズを演じるステイシー・マーティンの存在感に惹きこまれました。ルイーズ役を演じるにあたり、監督と二人でどのような準備をしたのですか?
サーダ監督:まずはマーティンさんには、実際に本作のモデルになったルイーズさんに会ってもらい、質問を投げかけ、色々話してもらいました。その後、マーティンさんに恐怖や不安を題材にした本を何冊か読んでもらいました。そこから、そのような極限な状態に置かれた時の人間の反応で典型的なものを拾っていくと、「常に犠牲者の中で女性の反応が顕著に出てくる」ということが分かってきたのです。例えば、叫び声が上がったかと思うと、いきなりその声が途絶える(殺されている)。そういう典型的な反応を書きだし、あえてそのような表現はこの映画の中で使わないようにしました。自分は死んでしまうという恐怖感があり、声を出したい。でも出せない状況にあるのです。たとえばおとぎ話でも、狼がやってきたと言われ、女の子がベッドの下に隠れたとき、狼の姿は見ていないけれど、物音から恐怖感や孤立感に襲われます。そのような感覚をいかに描くのかが重要で、マーティンさんにも理解してもらった上で、演じてもらいました。いわゆる紋切り型の叫びなどを排除し、そうではない部分をどう表現するか。観客の皆さんには、叫び声も出ないような恐怖感を味わってほしいです。  
 
―――監督がおっしゃる通り、部屋の暗闇で一人きりのルイーズが銃撃音や煙に反応し、恐怖感と闘っているシーンは、観客もその怖さを体感します。
サーダ監督:マーティンさんがホテルで一人恐怖の中、脱出を画策するシーンでは、前もって録音技師やエキストラに入ってもらい、実際に聞こえるであろう銃撃音や爆発音、悲鳴などを録音し、録音音源をイヤホンでマーティンさんに聞いてもらいながら、演じてもらいました。  
 
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―――ルイーズが脱出するまでの心の支えになったのは、電話を通じて励まし続けた両親や、同じホテルで取り残されたイタリア人女性ジョヴァンナであり、家族の絆や同じ状況に置かれた者同士の絆の物語でもありますが、どのように撮影を進めたのですか?
サーダ監督:彼たちへの演出は特殊なものが必要でした。それぞれのシーンを断片的に撮り、最後に再構成しているため、基本的に外のシーンはボンベイ、中のシーンはパリのスタジオで撮影しています。テロリストがホテルを攻撃した時、父親とルイーズが電話でやり取りをしますが、父親はムンバイの街を走りながら実際には別のエキストラと話をしている訳です。マーティンさんの撮影はもっと後で、パリで父親と話をしているように演じてもらいました。ジョヴァンナ役のアルバ・ロルヴァケルさんの撮影はマーティンさん同様順撮りでした。だから、ジョヴァンナが登場するシーンまで、ルイーズ演じるマーティンさんはずっと一人で撮影に臨んでいたのです。ルイーズがジョヴァンナと会うシーンで初めて、マーティンさんは自分以外の共演者と演技するという形をとっています。  
 
―――ムンバイならではの風景や人々の営み、文化が本作の背景として非常に重要な役割を果たしています。ムンバイの撮影で苦労はありましたか?
サーダ監督:来日してからムンバイでの撮影について質問されたのは初めてです。少し長くなりますが、いいですか?(笑)27年前、ニューデリー映画祭に参加するために初めてインドを訪れ、タージマハルパレスを観光した時のことです。インドの映画監督、バニー・カウル氏と会う機会があり、カウル氏と仕事をしていた撮影のピュース・カウ氏に出会いました。寒い時期だったのでジャケットを着ていたのですが、そのタグに「タージマハル香港」と偶然書かれており、それを見たカウ氏から「きっと、あなたがまた仕事でインドに来るという何かの啓示かもしれないよ」と言われたのです。以来そのことはすっかり忘れていましたが、今回この映画を作るため初めてムンバイに行き、カウ氏のことを思い出して連絡してみると、彼はまだインドで撮影の仕事を続けていました。25年ぶりに再会し、ムンバイでの撮影を彼にお願いすることができたのです。本当に運命としか考えられませんし、ムンバイでは私の目となって撮ってくれました。ムンバイの映像は彼でなければ撮れなかったし、ムンバイのシーンを観たインドの方は、作り物の映像ではなく、インドそのものを映し出していると評価してくれました。  
 
―――当初、ムンバイという異国ならではの孤独感が常にルイーズを覆っていましたが、テロに巻き込まれた後、パリに戻ったルイーズはそこでも居所のなさを感じているように見えました。監督がパリのシーンで表現したかったことは?
サーダ監督:マーティンさんが、ルイーズさんへ今回の体験で一番強く感じていることを尋ねたところ、すぐに答えることができませんでした。2日間ほど考えてから「この体験を通じて一番感じたのは、人間は本当に孤独だということ」と答えてくれました。その孤独は、誰もがその言葉を聞いてすっと思い浮かぶようなシンプルでわかりやすい感情では決してありません。でも、いつか分かるかもしれないという思いもあります。実際に本作が出来上がった後も、フランスではシャルリーエブド襲撃事件や、同時多発テロが起き、それらを通して色々なことを考え、体験した人がたくさんいます。ムンバイでテロに巻き込まれたルイーズはフランスに戻った後、どこにいても本当に孤独だった。その感情を、この映画で描きたかったのです。
(江口由美)  
 

<作品情報>
 
『パレス・ダウン』
 
・原題:Taj Mahal
・2015年 フランス 1時間31分
・監督:ニコラ・サーダ
・出演:ステイシー・マーティン、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、ジーナ・マッキー、アルバ・ロルヴァケル他
「カリコレ2016」にて上映 7月29日(金) 16:00/8月2日(火) 13:00/8月13日(土) 10:00
 

公式サイト⇒ http://www.vap.co.jp/palace-down/

© 2015 – EX NIHILO – ARTEMIS PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINEMA  

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~様々な“人生”が彩るフランス映画の神髄~

 

新作12本の内『愛と死の谷』以外の11本は既に配給が付いており、今夏から来春にかけて公開が決定している。すべてフランスらしい独特な映像表現や人生そのものを描いた深いテーマの作品が多く、新人のオーディションに6か月も掛けたり緻密な脚本に拘ったりと、強い創作意図が感じられる作品ばかり。テレビ局や俳優プロダクション主導のコミックベースの映画ばかり撮っている日本の映画陣は、もっと大人になってほしいものだ。


french2016-finai-550.jpgさて、順位は付けがたいが何度でも観たいと思った作品は、『The Final Lesson(仮題)』(秋)、『奇跡の教室』(8/13)、『太陽のめざめ』(8月)、『アスファルト』(9月)。尊厳ある最期を迎える自由をテーマに、理解し寄り添う愛のカタチを示した感動作『The Final Lesson(仮題)』。重くなりがちなテーマを、笑いの絶えない軽やかな会話を中心に、柔らかな光に包まれた映像で描いた秀作。


french2016-6-27-kisekino-550.jpg子供の可能性を信じ、忍耐強く見守り指導していくことの尊さを教えてくれた『奇跡の教室』と『太陽のめざめ』。実話を基にした『奇跡の教室』は、移民の多い混沌とした教室の生徒たちに、ナチスのユダヤ人虐殺という歴史に向き合わせることで、真実を知ることの重要性と生きていることの幸せを実感させる感動作。

 


french2016-taiyouno-550.jpg一方、『太陽のめざめ』は、不良少年の更生を通して、だらしない母親や長年忍耐強く指導してきた判事や指導員などの周囲の大人たちの在り様を描いている。カトリーヌ・ドヌーヴやブノワ・マジメルというベテラン演技派に拮抗していたのが、少年役に大抜擢されたロッド・パラドだ。建具師の訓練を受けていた時にスカウトされた17歳の新人(今年20歳)が放つ鋭い眼光の変化は、少年の更生を繊細に物語る。『モン・ロワ』で主演し、昨年のカンヌ国際映画祭でルーニー・マーラーと共に主演女優賞に輝いたエマニュエル・ベルコによる、緻密な脚本と演出が光る感動作。


french2016-6-25-asfalt-550.jpg孤独な心の隙間を埋める真心がもたらす奇跡のような愛情物語を3つのエピソードで綴った『アスファルト』。パリ近郊の古い団地に住む孤独な3人に、イザベル・ユペールやヴァレリア・ブルーニ・テデスキにマイケル・ピットという豪華俳優が、それぞれ“落ちる”をキーワードに絡んでいく。飄々とした単調な流れの中に熱い感情がこみ上げてくる、人間讃歌の物語。個人的には一番好きな作品。


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巨匠クロード・ルルーシュとフランシス・レイによる現代版“男と女”の『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』(9月)。サンクチュアリーな風情のインドを舞台に、大使夫人と自己愛の強い音楽家とのラブストーリー。悠久のガンジスの流れや雑踏のシーンでもルルーシュ監督らしい流麗さが際立つ。エンディングがまたシャレてていい。


同じく、男と女のままならぬ人生を描いた『モン・ロワ』(来春)は、『太陽のめざめ』を監督したエマニュエル・ベルコがヴァンサン・カッセル相手に熱演。時には、過ぎ去った日々を振り返るリハビリの期間が、人生には必要なのかもと思わせる映画。


french2016-aitosino-550.jpg家族の秘密と再生を描いた①『めぐりあう日』(8月)と②『ミモザの島に消えた母』(7/23)、『愛と死の谷』。①と②は母親の不在に心を開放できず他者を愛せないアダルトチルドレンが主人公。大人の都合で封印された過去により子供は深く傷つき、さらに成長後にも影響を及ぼす悲しみが滲む。イザベル・ユペールとジェラール・ドパルデューが14年ぶりの共演となった『愛と悲しみの谷』は、気温50℃という酷暑のデスバレーで撮影された逸品。自殺した息子が引き合わせた元夫婦の再生を描いている。


サーカスの見世物から芸術家として生きようとした初の黒人道化師の人生を描いた実話『ショコラ(仮題)』(来春)。実際に起きたボンベイ同時多発テロ事件に遭遇した少女の恐怖の生還と、その後の心境を静かに描いた『パレス・ダウン』(7月)。そして、無表情な女性たちと少年たちしかいない島での驚愕の秘密を描いたスリラー『エヴォリューション(仮題)』(11月)。フランス映画らしい映像で物語る多彩なラインナップは今年も健在だった。


(河田 真喜子)

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『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督トークショー
 
貧困層が暮らすパリ郊外の高校の問題児クラスが、ベテラン歴史教師に導かれ「アウシュビッツ」という難しいテーマの歴史コンクールに参加し、生まれ変わる様を実話を基に描いた『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』。8月6日からの劇場公開を前に、6月27日フランス映画祭2016で上映が行われ、上映後はマリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督によるトークショーが行われた。日本の観客の皆さんがどう観て下さるのか、感想を聞くのを楽しみにしていたというシャール監督。高校三年生だったアハメッド・ドゥラメさん(本作でもマリック役で出演)が監督に送った自らの体験による脚本が全ての始まりだったという本作のメイキング秘話や、アウシュビッツの生存者として歴史を継承する語りを行っているレオン・ジゲルさんが作品に参加したことにより生徒たちに与えた影響など、たっぷり語ってくださった。その模様をご紹介したい。
 

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―――事実を基にした物語ですが、この題材とどうやって出会い、映画化に至ったですか?
マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督(以降、シャール監督):前作で『はじめてのとき“MA PREMIERE FOIS”』という映画を撮りましたが、そこでも若い男の子が出演しています。今回マリック役で出演もしているアハメッド・ドゥラメさんが高校生の時、私の映画を観てくれました。彼は当時高校三年生で映画が大好きでしたが、この映画の題材となっているプレテイユという街に住んでおり、あまり映画文化に触れられない中、自分の中でその思いを高めていたのです。彼は映画の世界に入りたいと思い、実際にシナリオを書いていました。プロに見てもらいアドバイスが欲しいと、インターネットで調べた色々な監督にメールを出したのです。私にも「脚本を読んでほしい」とメールが届いたので、了承し読んでみました。映画で取り上げたのではないコンクールでしたが、それをきっかけに学生がポジティブに生きているという内容でした。そこで、なぜこの脚本を書いたのか会って話を聞いてみたいと思ったのです。アハメッドさんは「抵抗と習慣」に関するコンクールに出たことで、自分の人生が変わったと話してくれました。これは面白いと思い、一緒にシナリオを書くことになったのです。
 

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―――出演者のアンサンブルが素晴らしかったです。主な出演者はどのように選ばれたのですか?
シャール監督:オーディションを2種類行いました。プロの俳優用と、現場に行き学校で声を掛けるという方法のオーディションです。舞台となっている郊外のクレデイユで探しました。結果的に出演者の半分は少し経験のある若い俳優で、半分は高校生です。夏休み中に映画に出てみたいという人が含まれています。オーディションでは全員に会い、特に個々のパーソナリティーをしっかり見ました。シナリオを書いている時は、今の高校2年生を取材したのですが、それと同じ多様性のあるクラス、今の高校と同じようなクラスという形にしたかったので、それぞれのキャラクターが非常に有用でした。
 
 
―――最初にこの映画でアウシュビッツという言葉が字幕に出てきますが、フランス語ではどういう言葉を使っているのでしょうか?
シャール監督:アウシュビッツという言葉はフランス語でもきちんと使っています。今、子どもたちは色々な情報や映画、テレビ番組があるにも関わらず、ショアやアウシュビッツが本当に何なのかよく分からないのです。このコンクール(レジスタンスと強制収容についての全国コンクール)は防衛省が主催しており、毎年5万人の生徒が参加しています。若い世代にアウシュビッツを忘れてもらわないためのものです。
 
 
―――ゲゲン先生役のアリアンヌ・アスカリッドが素晴らしいですが、キャスティングの経緯は?
シャール監督:はじめからアリアンヌ・アスカリッド考えていたわけではありません。アスカリッドさんはロベール・ゲディギャン監督作品ばかりに出ており、私の作品には出てくれないだろうと思っていましたが、たまたま会い、シナリオを読んでもらうことができました。アハメッドと脚本を書いている時、実際にコンクールを指導していた先生に会い、アスカリッドさんと重なる部分がすごくあったのです。人間性豊かで、教師として皆をまとめて管理する一方、色々なことを伝えていかなくてはいけない。本物の先生はそういう立派さをもっており、それとつながる部分がアスカリッドさんにはありました。またお父様がレジスタンスで活動されていたとお聞きしたので、是非ゲゲン先生役をやっていただきたいと思ったのです。
 
 
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―――荒れていた生徒たちが真剣に取り組むようになったのは、先生のすばらしさであり、理性的な判断と学生たちの気持ちを理解する姿勢でした。特に、情緒的な人間関係の大切さを知るという意味で、ショアの生き残りの人たちの話、記念館を見ることに監督の力点があったのでしょうか?
シャール監督:今回、脚本だけでなく本作に出演したアハメッドは両親がマリ出身です。今まではフランスの学校で歴史を知っても、自分の歴史と思えなかったけれど、このコンクールを通して歴史を感じられるようになったと話してくれました。それはアハメッドだけでなく、他の生徒も感じていることです。レオン・ジゲルさんは元々高校で自分の体験を語ってくれていましたが、映画にも出演してほしいとお願いし、当時クラスで聞いたのと同じ話をしてもらいました。それによって、生徒たちが歴史を自分のものと感じることができるようになったのだと思います。
 
アハメッドはまた、コンクールに参加することにより、教室の他の人にも目を向けることができるようになったと言っていました。皆で同じプロジェクトに取り組むことで、周りと話し合い、理解をするようになるのが先生の狙いでした。レオンさんが話をすることで、歴史が本でもドキュメンタリーでもなく人間になったのです。彼は、「私があなたたちの年の頃こんなのだった。生きるとはどういうことか、仲間を大事に知るとはどういうことか。ありふれた人種差別をやめるように。肌の色や宗教で差別することをやめよう」と語ります。その話を聞いた全ての生徒が、歴史を理解することができるようになったのです。
 
 
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―――アハメッドさんとの共同作業や、彼が学んだこと、監督自身が刺激されたことは?
シャール監督:まず、アハメッドをよく知ることから始めました。文化も宗教も皮膚の色も性別、年齢も違いますから。この物語はとても面白いと思ったので、彼が体験したことをそのまま映画にしたいと思い、彼の自宅で何時間も過ごしましたし、彼が何を好きなのか、映画はどういうものを見るのか、質問、観察をし、協力し合いました。私が一つのシーンを思いついて書いたら、彼にアドバイスを求め、今の高校生がそのような言い方をするかどうかチェックしてもらい、ピンポンのようなやり取りをし続けました。アハメッドは俳優希望だったので、大学入学資格試験(バカロレア)で合格したら出演させてあげるという条件をつけました。受かるかどうかドキドキしましたが、無事合格できてよかったです。
 
 

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―――アドリブの部分をどれぐらい入れたのでしょうか?またこの映画を作るのに、どれぐらいの時間をかけたのでしょうか?
シャール監督:オーディションに6カ月、準備に8週間、撮影に8週間かけました。生徒たちが自発的に話し、イキイキした場面が重要でしたので、全くリハーサルをしなかったシーンもありました。ゲゲン先生が「コンクールに参加しましょう」と言ったときに学生たちが矢継ぎ早に質問をし、冗談を交えるシーンは、完全なアドリブです。重いテーマですが、その中にもユーモアがある彼らの様子を、検閲のようにチェックはせず、使っています。また、カメラは常に3台用意し、自発的に出てきたものを捉えるようにしています。レオン・ジゲルさん(アウシュビッツの生存者)の語りのシーンは完全に本当の講演でした。4台のカメラで1回撮りをし、高校生たちの生の反応を捉えたのです。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

<作品情報>
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』“Les Héritiers”
(2014 フランス 1時間45分)
監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック
2016年8月6日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、8月13日(土)~テアトル梅田、今秋~京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://kisekinokyoshitsu.jp/
(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO
 
フランス映画祭2016(東京会場)は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催。以降、大阪、京都、福岡会場にて順次開催
 
 

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『太陽のめざめ』主演ロッド・パラドさんトーク@フランス映画祭2016
 
フランス映画祭2016でオープニング上映された、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『太陽のめざめ』は、カンヌ国際映画祭でオープニング上映され、同映画祭で女優賞(『モン・ロワ(原題)』)を獲得したエマニュエル・ベルコ監督最新作だ。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる判事が10年に渡って辛抱強く更生に力を尽くした少年役に選ばれたのは、本作が初映画出演となる新星ロッド・パラド。度重なるオーディションで手にした主人公の少年マロニーの危うさ、寂しさ、暴力的感情、愛を求める姿を感受性豊かに演じ、本国フランスでも「アラン・ドロンの再来」と大注目を浴びている。
 
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同じような境遇を経て、今は少年たちに寄り添う保護士、ヤン役のブノワ・マジメルと疑似親子のような信頼関係を築いては、ぶち壊し、指導する方もされる方も揺れ動く姿も心動かされる。愛を知らずに育ったマロニーと同年代の少女テスの不器用で乱暴すぎる愛や、自分の事を優先してしまう母に対して、それでも母に会いたいと願う切ない心情など、生々しい感情をスクリーンに焼き付けた作品だ。
 
マロニー役のロッド・パラドさんがゲストとして初来日を果たし、上映後のトークで観客からの質問に応えてくれた。俳優業に身を捧げる覚悟をし、今後の活躍が非常に楽しみな新星の初々しい姿をご紹介したい。
 

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―――東京は初めてだそうですが、感想はいかがですか?
ロッド:初めてヨーロッパの外にやってきました。東京だけでなく日本は素敵な国。パリと比べると温かく、人々も落ち着いていて神経質ではありません。心が温かいです。
 
 
―――強烈なキャラクターを演じていますが、キャリアの一本目でどうやってこの役に出会ったのですか?
ロッド:映画の中でも木を削るシーンがありますが、僕自身当時は職業訓練課程の高校生でした。ある女性から「あなた映画に出る気はない?」と誘われたのです。高校の教室で演技テストをし、その後オーディションが30回近く重ねられました。エマニュエル・ベルコ監督は主演の男の子を選ぶのはとても重要な選択なので、かなり長い時間をかけました。僕が選ばれ、ようやくブノワさんとテストをすることができたときには、すぐに家族のように演じることができました。仕事は一生懸命やりましたし、疲労困憊するまでやってのけました。この結果にはとても満足していますし、そこまでやらなければこのような結果にはならなかったと思います。ブノワの後に、テス役のサラさんとテストをし、それもうまくいって、ようやくあなたに決めるということで、カトリーヌ・ドヌーヴさんとのテストになったのです。彼女と初めて会ったときは、「どう、初めてなんだってね」と声をかけられ、緊張していましたが、年齢を聞かれた後に「あなたは?」と聞くと、ドヌーヴさんも素直に話してくださり、女優というより彼女自身の内面の愛情を感じました。そこは映画の判事と主人公の関係に現れているのではないでしょうか。
 
 
―――感動的な映画を観ることができ、うれしく思います。ロッドさん自身は学校時代どんな生徒でしたか?
ロッド:マロニー役はちょっと複雑な内面ですが、僕自身もルールはあまり得意ではなく、自由が好きですね。学校はどちらかといえば苦手で、活発すぎるぐらいでした。ただ、他人に対するリスペクトがありました。マロニーには欠如感があると思います。生まれつき暴力的ではないと思いますから。
 
 

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―――マロニー役を演じるにあたり、今までの不良少女や不良少年が重要な役割の映画(『大人は判ってくれない』等)を参考にしたのか、もしくは21世紀の新たな不良少年像を演じようと思ったのでしょうか?
ロッド:とりわけ今までの映画や役割を参考にしたということではなく、本当に努力をし、準備をしました。脚本をコーチにつきながら2か月間、徹底的に読み解きました。現場で台詞が入っていないと、自由に演技ができませんから。そうして本当に自分の感情が出るようにしました。あと現場では、エマニュエル・ベルコ監督の言うことを聞けばいい。その演技指導に従えばよかったのです。暴力もどんどん高めていき、最初に一番高めてから、どんどん下げていくことで演技をコントロールしていきました。
 
 
 
 

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―――ブノワ・マジメル演じるヤンが奥さんと別れたという話をしていたとき、「ジュテーム(愛してる)」という言葉をマロニーが初めて口にしますが、演じたロッドさんはどう感じましたか?
ロッド:あのシーンで、保護士役のヤンとマロニーは全幅の信頼で結びついています。難しいタイプの子どもが保護士に全幅の信任を寄せることは世界中でも難しい中、このような状況はとても珍しいことです。マロニーも、最後「いい人間になりたい」と告げますが、世の中にはそう思っていても失墜していく人もいます。映画のマロニーのように僕自身は世界中の問題のある子どもたちが良い方向に向かっていくことを願っています。
 
 

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―――ロッドさん演じるマロニーの眼差しや仕草などは、悪いことをするとより美しく魅力があるアラン・ドロンを彷彿とさせますが、ご自身はアラン・ドロンのようになれると思いますか?
ロッド:そんな風に褒めていただいて、ありがとうございます。僕はアラン・ドロンに会ったことがあります。僕自身は映画が好きなので、今後彼の出演作を見ていきたいと思います。ただ、映画を観るだけでなく、本人に会うことで、そのパーソナリティーが分かりますし、とてもいい人だと思いました。僕自身も彼のようにキャリアを積み重ねていければと思います。
 
 
 

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―――マロニーを演じるにあたって、一番難しかったことは何でしたか?
ロッド:最初一番危惧していたのは、ラブシーンでした。結局ラブシーンそのものが大変なのではなく、暴力的にセックスをすることに抵抗がありました。プライベートでは自分は社交的で優しい男性だと思っていましたから、そのシーンを演じながらレイプをしているのではないかという思いを感じてしまったのです。映画のすべてのシーンの中で一番打ちのめされ立ち直れなかったのは、お腹の大きな職員にけりを入れ、母親役に怒られるシーンでした。
 
付け加えるなら、映画界にデビューして一年半、これからたくさんのことを学ばなければいけないし、俳優という職業に全身全霊を捧げたいと思っています。役柄の後ろに自分が隠れることができる職業であることが気に入っていますし、普通の次元を超越した、感動を与えるものです。みなさん、温かいおもてなしをありがとうございました。新作でまた来年もフランス映画祭に訪れることができれば、今回度忘れして言えなかったアラン・ドロンの出演作についてもお話したいと思います。
 
写真:河田真喜子 文:江口由美

<作品情報>
『太陽のめざめ』(2015 フランス 1時間51分)
<監督>エマニュエル・ベルコ
<出演>カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッド・パラド、ブノワ・マジメル、サラ・フォレスティエ
2016年8月~シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINÉMA - WILD BUNCH - RHÔNE ALPES CINÉMA – PICTANOVO
 
フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 

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danchi-kai-550.jpg「阪本」と「藤山」で“SF映画”です!?『団地』爆笑記者会見

ゲスト:阪本順治監督、藤山直美(2016年5月19日(木) ホテル日航大阪にて)



『団地』
■(2016年 日本 1時間43分)
■脚本・監督:阪本順治
danchi-550.jpg■出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工 ほか
■公開情報:2016年6月4日(土)~有楽町スバル座、シネ・リーブル梅田、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー
■作品紹介⇒ こちら
■公式サイト⇒ http://danchi-movie.com/
■コピーライト: (C)2016「団地」製作委員会

ベストワンに輝いた傑作『顔』以来、16年ぶりに阪本順治監督と日本を代表する舞台女優・藤山直美がタッグを組んだ下町喜劇。直美のために阪本監督が書き下ろした絶妙の会話劇。さまざまな人間模様が織り成す団地で、平凡な夫婦が“普通じゃない”日常を描く。共演は岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工ほか。
 



公開(6月4日)を前に阪本順治監督と藤山直美が大阪・市内でPR会見を行い、映画顔負けの面白話を披露した。
 

――― まずお二人からご挨拶。
danchi-kai-240-s-1.jpg阪本順治監督:表現は悪いですが、長年たまりたまったものを排泄してスッキリした気分です。16年ぶりですが、16年経ったから出来たと思う。『顔』の直後では出来なかった。『顔』は直美さんとは最初で最後のつもりだった。年月が経ってもう一度出来るようになった。

藤山直美: 『顔』の時は40歳でした。17年経ってあと3年で還暦を迎える。人生後半になり、阪本監督にまた撮って頂くことが出来た。月日の流れは大事やなあと思います。

阪本監督: 『顔』の後、(直美の)舞台見たり、楽屋に行ったり、食事に行くなど普通にお付き合いさせてもらいましたが、もう一度映画を撮ることは予定してなかった。去年、スケジュールが空いている、と聞いて急いで脚本書きました。

藤山: (映画の予定は)まったくなかった。監督はお芝居を見に来てくれたけど、声かけてもらえなかったら、ズーっと映画に出ないままだった。

――― SFを撮りたかったということだが?
阪本監督:阪本と藤山でSFですよ。SMではありません(笑)。まあ、子供のころから、空想や妄想で宇宙のこと考えたり、そこに人の死も入ってくる。実家が仏具屋で人の死と向き合うことが自分なりの宿題と思っていて、答えを出してみたかった。人は死んだらどこへ行くのか、宇宙空間に行く。人の死の疑念をどこまでシリアスにやるのか?あるいはユーモラスに描くのか? 直美さんが主演だからやれた。藤山直美の「団地」だからやれたと思う。

danchi-kai-240-f-2.jpg藤山:仕事断るのに、「日程的に無理」というのと「作品が合わん」というのがあるけど、阪本監督やから“あんなんイヤヤからよすわ”とは言えん。頭おかしいのがマックスに来たんかなとおもた(笑)。監督に任さな仕方ないなあ、と…。

――― 厳しい反応だが…?
阪本監督:いやいや、これでもすごく手加減してくれている(笑)。『顔』は直美さんに“何これ?”と言われたくて書いた。今度は直美さんを出来るだけ遠くへ連れて行きたいと思った。キテレツな部分をどこまで見せるか。どこで寸止めにするかが大事でした。撮った直後は分からない。あとは映画館のお客さんにお任せします。久々のオリジナル(脚本)でハダカになれたんで(公開を)楽しみにしています。

藤山:先ほど、ラジオにも行って来ましたけど、宣伝は苦手です。撮影が無事済んでよかった、と思ってます。あとはお客さんがジャッジしてくれるでしょう。野田阪神あたりのおばちゃんが見て、どうか、チケット買うて来てもらってどうかです。その辺は舞台と変わりませんね。

――― やはり舞台と映画は違い、苦労が多かった?
藤山:舞台は午前11時から午後8時過ぎまでやけど、映画は終わって帰って2時間ぐらい寝て“次の日”というのが普通らしいですね。今回の撮影は真夏だったので、45度ぐらいになったことがありました。

阪本監督:暑い日がありました。監督や俳優さんは日陰に入ることも出来るけど、スタッフには水分補給のタイミングがなく、『闇の子どもたち』のタイでの撮影ではスタッフが倒れたこともありました。直美さんはスタッフをとても気遣っていました。

danchi-kai-240-s-2.jpg――― 直美さんの他は“阪本組”の常連さんですが、ひとり若手の斎藤工さんはいかがでした?
阪本監督:直美さんに台本渡した時、「この“サイトウ・エ”って誰?」 と聞かれました(笑)。でも斎藤君は同年の俳優に比べて気配りも出来、ひとりの人間としてやっていける人。演技力よりも考え方が出来る人。過去の先達俳優をリスペクトしている。直美さんにも可愛がられていた。

藤山:最初は印刷ミスかと思った(笑)。詳しく注目してなかったので知らなかった。いろいろナンバーワンになった人でしょう。“あんた凄いねえ”と言いました。映画が好きなので私は感心しました。

阪本監督:藤山さんが決まった時に常連の3人(岸部、大楠、石橋)を想定して脚本書いた。『大鹿村騒動記』みたいな熱を帯びた現場。こうあってほしいという思い通りの現場になった。岸部さんは「明日、脚本届くから」と電話したら「俺明日からパリ行くわ」だし、石橋さんは「阪本が何か企んでる」と知ってて、ちゃんと来てくれた。ただ石橋さんは入る前に「最後は逃げにならないよう気をつけろよ」と言ってくれて、それが生きましたね。

danchi-kai-240-f-1.jpg藤山:岸部さんには私が19歳の時から恋愛相談とかいろいろ相談に乗ってもらってますし、大楠さんとは子供時代、7つか8つの時に大映で勝さんの『座頭市』で共演しています。「その時は安田道代さんでしたが、それ以来です」とあいさつしました。最後に、石橋蓮司さんと一緒にやりたいと希望しました。

――― 監督が最初に言った、たまったものとは何か?
阪本監督:最近は日本映画が元気だと言うが、ちょっといびつになっているように思う。私の『どついたるねん』も『顔』もインディーズで、みんな自分でお金集めて作ったり、(作るのを)断念したりしている。今、すそ野は広がっているかも知れないが、こういう状況が続くと「もうこんな業界に自分はいなくていいか」というところまで来ている。万人に愛されなくてもいいが、一石投じることが出来るとすれば、こんなおっさんが奇妙奇天烈なことやった、とアピールすることかな。この後は居酒屋で言います(笑)。

藤山:おばちゃんに“見に来いや”とはよう言いませんが、長いことやってきて、かなり世間が五体で分かってくる。この映画は大人がまじめに作ってるんで、おっちゃんおばちゃんが喜んで来てくれるか、パンフレット投げつけるか、ですね。

――― 大阪で初日を迎える感想は?
阪本監督:怖いですよ。大阪は娯楽に対して厳しいところですからね。『顔』の時は、「梅田で立ち見出てる」と聞いて見に行ったら、受付で何かもめてるんですよ。聞いたら、「立ち見やったら300円まけて!」とお客さんがクレームをつけてる。黙って帰りましたよ(笑)。

藤山:お客さんが怖いから役者は育つんですよ。舞台で初日なんかは団体の招待客がいっぱいいます。その人たちは最初は座席にもたれて座ってはる。だけど、最後には身を乗り出させる。そうしないとアカンのや、とうちの父親(藤山寛美さん)が言ってました。大阪のお客さんは一番親切です。
 


 


danchi-kai-240-s-3.jpg◆阪本順治監督
1958年、大阪府生まれ。井筒和幸、川島透ら各監督の現場にスタッフとして参加。89年、赤井英和主演『どついたるねん』で監督デビュー。日本映画監督協会新人賞、ブルーリボン賞最優秀作品賞など多数受賞。以後『王手』『ビリケン』の“新世界三部作”で名を上げる。藤山直美を主演に迎えた『顔』(00年)は日本アカデミー賞最優秀監督賞など賞を総なめした。ほかに『KT』(02年)『魂萌え』(07年)『闇の子供たち』(08年)『座頭市THELAST』(10年)『大鹿村騒動記』(11年)『北のカナリアたち』(12年)など。

 

 



danchi-kai-240-f-3.jpg◆藤山直美
1958年京都府生まれ。初舞台は64年、坂本九主演「見上げてごらん夜の星を」。以後、舞台、テレビに多数出演。00年、初主演した阪本順治監督作品『顔』でキネマ旬報主演女優賞など多数受賞。

 



(安永 五郎)

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