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『アスファルト』

 
       

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作品データ
原題 Asphalte 
制作年・国 2015年 フランス 
上映時間 1時間40分
監督 監督・脚本・原案:サミュエル・ベンシェトリ
出演 イザベル・ユペール、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、マイケル・ピット、ジュール・ベンシェトリ、ギュスタヴ・ケルヴァン、タサディット・マンディ
公開日、上映劇場 2016年9月3日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、9月10日(土)~シネ・リーブル梅田、10月8日(土)~シネ・リーブル神戸、10月22日(土)~京都シネマ、他全国順次公開

 

~アスファルト・ジャングルの中に咲くたんぽぽのような映画~ 

 

パリ郊外の古い団地を舞台に、3人の住民それぞれの出会いを“落ちる”をキーワードに描いた、孤独の中に愛と温もりを感じさせてくれるヒューマンコメディドラマ。今年の《フランス映画祭2016》で上映され、可笑しみが滲み出るような風変りな味わい深さが印象的だった。曇よりとした空の下、荒廃したアスファルト・ジャングルが拡がる世界でも、決して世の中捨てたもんじゃない。きっと心を癒す何かがあるはずだ、と人間愛への希望を感じさせてくれた。『クリスマスのその夜に』のベント・ハーメル監督の作風に似ていると感じた。


french2016-6-25-asfalt-500-2.jpg2階に住むスタンコヴィッチ(ギュスタヴ・ケルヴァン)は、古くて危険になったエレベーターの付替え工事費用の分担をめぐり、「使わないから」と言って一人だけ負担を拒む。ところが、皮肉にも病気で車椅子の生活になってしまい、エレベーターが必要不可欠に。こっそりと夜中に出掛けるがスーパーも閉店してしまい、仕方なく近くの病院の自動販売機を利用することに。そこで夜勤の看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と出会う。家で映画『マディソン郡の橋』を観たばかりのスタンコヴィッチは、メリル・ストリープのように立ち姿の美しい彼女と恋に落ちる。職業を聞かれ、ついクリント・イーストウッドを気取って“カメラマン”と答えてしまう……。


french2016-6-25-asfalt-500-3.jpg忙しい母親と中々会えない高校生のシャリル(ジュール・ベンシェトリ)は、隣に越してきた中年女性・ジャンヌ(イザベル・ユペール)に興味を持つ。お礼もろくに言わない無愛想なジャンヌは女優だという。彼女が昔主演した映画を観て、今でこそ落ちぶれているが彼女の女優としての実力を知る。シャリルは、一緒にDVDを観たり彼女のトラブルを解消してあげたりと、一緒に過ごす時間を楽しみにするようになる。ある日、昔出演したことのある芝居のオーデションに出掛けたジャンヌが泥酔して帰宅。15歳の娘役を希望したところ、惨敗。(そりゃそうだろう!) そこでシャリルは、「今の自分に合った役柄を自然体で演じるべきだ」と演出家へのビデオメッセージ作りに協力し、落ちぶれた女優・ジャンヌの再生を図ろうとする。


french2016-6-25-asfalt-500-1.jpgひとり息子が刑務所に入っている初老のマダム・ハミダ(タサディット・マンディ)は、面会できなくてもにこやかに笑って差し入れをする。ある日、団地の屋上に宇宙船が不時着!? NASAの宇宙ステーションから、想定外の地に不時着した宇宙飛行士・ジョン(マイケル・ピット)は電話を借りようとマダム・ハミダの部屋へ。不手際で予定よりも早く帰還してしまったため、しばらくマダムの家に泊めてもらうことに。ジョンに息子の服を貸し息子のベッドを使わせたり、自慢料理のクスクスを振る舞ったりと、嬉々として世話をやくマダム。チュニジア出身のイスラム系移民のマダムとアメリカ人のジョン。言葉の通じない二人だが、不肖な息子を持つマダムは優しい目をしたジョンを愛おしく思うようになり、ジョンもまた母親のような慈愛に満ちたマダムに郷愁を感じる。


不思議なことに、団地の住人は宇宙船が落ちてきても呆然と見ているだけで騒ぎもしない。時折、どこからともなく不思議な金属音が響き渡る。シュールだが、アスファルト・ジャングルに愛すべき人々の温かい息吹が感じられる一篇だ。


俳優としても活躍しているサミュエル・ベンシェトリ監督は、名優ジャン=ルイ・トランティニャンの娘で女優のマリー・トランティニャンの“最後の夫”として知られている。孤独な高校生シャリルを演じたジュール・ベンシェトリはマリーとの間の息子で、深い想いを秘めたナイーブな眼差しには祖父の面影がある。離婚後マリーが不幸な死を遂げた後は、父親違いの3人の息子を引取り、再婚した女優のアンナ・ムグラリスとの間には娘一人がいる。父親としての寛大さからも感じられるが、荒廃した負のイメージの団地に、たんぽぽのような花を咲かせる優しさを持った監督のようだ。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.asphalte-film.com/

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