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『団地』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本
上映時間 1時間43分
監督 脚本・監督:阪本順治
出演 藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工 ほか
公開日、上映劇場 2016年6月4日(土)~有楽町スバル座、シネ・リーブル梅田、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー

 

★阪本順治&藤山直美の“ぶっ飛び”団地宇宙


気の合う仲間たちが寄り集まって作った“団地ワールド”は軽やかなリラックス感覚が楽しめる。大阪・堺出身の阪本順治監督と上方随一のコメディエンヌ藤山直美が傑作『顔』('00年)以来、16年ぶりにタッグを組んだ映画。「馴れ合い」懸念は無用だった。藤山直美側から阪本監督にオファーがあり実現した。『座頭市 THE LAST』('10年東宝)『北のカナリアたち』('12年東映)『人類資金』('13年松竹)と立て続けのメジャー作品で気合い入りすぎた感ある阪本監督が一転、肩の力が抜け、キレのいい“笑いの速球”が蘇った。


藤山直美の他「阪本組」常連の岸部一徳、石橋蓮司、女優も大楠道代という“おなじみアンサンブル”が期待に違わぬ快演を見せる。


danchi-500-1.jpg舞台は大阪近郊の小さな団地。昭和の面影が残り、今や空室も目立つ。平凡な主婦・ヒナ子(直美)は夫清治(岸部一徳)とともに半年前に引っ越してきた。夫婦で営んでいた漢方薬局を「ある事情」から畳んだ。そこへ、以前のお得意さん・真城(斎藤工)がやって来るが、この青年、日本語や立ち居振舞いが何やらあやしい。彼は体に変調をきたし「こちらの漢方薬でないと治らない」と必死に訴える。商売道具と薬草を保存していた清治は彼の要求に応える…。


大阪のどこにでもある団地の、どこにでもある風景。直美と岸部の息の合った大阪弁の会話が絶妙だ。スーパーでレジ打ちするヒナ子が話し込み過ぎて「鈍くさい」と怒られ、自治会長選で会長(石橋)と清治が争うのがささやかな地域の騒動に。ところが、団地の奥さん連中には「清治の姿が2カ月間見えない」ことが大事件。清治は一体どこへ消えたのか、にもかかわらずヒナ子はなぜ平然としていられるのか…。「とっくに殺されてる」という憶測まで飛び交い、テレビ・リポーターもやって来る…。


danchi-500-2.jpg喜劇の大御所・直美がすっかり“普通の団地妻”なのがケッサク。彼女にはこれも“演技”に違いないが、岸部とのやりとりはさながら熟練の夫婦漫才。『王手』で随所に見せた“4文字熟語”同様、細かいワザで笑わせる阪本順治流だ。  監督からかつて聞いた。「俳優は人に非ず、人を憂うと書く」。漢字の成り立ちは確かに「人偏に非、人偏に憂う」。「阪本組」の俳優起用はこれが基準、と思いあたった。念願かなった原田芳雄さんの主演作『大鹿村騒動記』('10年)は無念にも遺作になってしまったが、岸部一徳、石橋蓮司、大楠道代らひとクセもふたクセもある“常連さん”はいずれも年末に原田芳雄邸で行われる恒例の“餅つき大会”の常連さん。“人に非ず”はともかく“人を憂う”情にあふれる顔ぶれぞろいに違いない。


こうした傾向から「阪本劇団」とか「なかよしクラブ」と言われもしたが、作品の質の高さから「真剣な思いで起用した」ことがうなずける。直美とは2本目だが“常連候補”だったに違いない。人情喜劇の申し子は“人を憂う役者”そのものなのだから。


danchi-500-3.jpg団地内の狭い世界の“艶笑小噺”は終盤、とんでもなく雄大なスケールへと発展する。この常識破り、破天荒な物語世界こそ阪本順治流ではないか。清治、ヒナ子夫妻は一人息子を事故で亡くし、そのために漢方薬局をやめた。欠損家族の空虚感が漫才夫妻をソッと包み「息子に会いたい」という叶わぬ望みを、変な青年・真城が叶えようとする。「変な奴」だった彼の正体とは?


平和そのものに見えた団地上空に『インデペンデンス・デイ』も真っ青の物凄い光景が現出する。これは一体何事?  阪本順治監督は「影響を受けた監督」としてイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニを挙げているが、『団地』のイマジネーションはフェリーニにひけを取らない域に達したと言える。




★“ポスト撮影所世代”阪本組の手作り感覚


阪本順治監督と言えば赤井英和主演のボクシング映画『どついたるねん』('89年)でさっそうデビュー。タイトルの大阪弁とともにファンの度肝を抜いた。以後、通天閣を舞台に“賭け将棋に生きる”真剣師を描く『王手』('91年)、通天閣の神様が生きて動く『ビリケン』('96年)と“新世界三部作”を作って「大阪代表監督」の座に。その後、様々なジャンルで多才な監督と広く認められる。阪本監督が起用した俳優を振り返ると「本物志向と大物好み」ということになろうか。『どついたるねん』の赤井英和は「頭の負傷で再起不能」と言われたボクサー役。まるで赤井のドキュメンタリーのような設定だった。


第2作『鉄拳』('90年)では菅原文太を起用。新世界2作目の『王手』には若山富三郎。3作目『ビリケン』は杉本哲太主演だったが、当初は勝新太郎にビリケン役を打診して「オレの柄じゃないな」と断られたと聞いた。この映画には名アナウンサー、浜村淳が“やくざのボス”役で本物っぽい演技を見せた。『新・仁義なき戦い』('00年)はロッカー・布袋寅泰がフレッシュなやくざ役。『亡国のイージス』('05年)では寺尾聰がベテランの味わいを出し、この映画にも出ていた原田芳夫さんとは『大鹿村騒動記』でがっちりタッグを組んだ。この映画の完成披露試写会に原田さんが出席したのは“奇跡”に違いなかった。


極めつけの本物志向は今年公開されたドキュメンタリー映画『ジョーのあした  辰吉丈一郎との20年』だろう。タイトル通り、浪速の人気ボクサー辰吉を、阪本監督がデビュー作を撮った年('89年)から追いかけ、インタビューをフィルムに焼き付けてきた労作。赤井英和主演で2本撮り、同じ年からもう一人の本物、ジョーを撮り続ける。'95年には辰吉丈一郎主演でドキュメンタリー・ドラマ『BOXER  JOE』を撮っているが「不完全燃焼だった」と撮り続ける、これが阪本監督のあくなき執念だった。


タイでの臓器密売と幼児売買春を描いた問題作『闇の子供たち』('08年)では、宮崎あおいや妻夫木聡ら人気スターを伴って現地ロケを敢行、地元民でも危ないと危惧するホテルに泊まって撮影した、という。劇映画と思えないリアリティーが高く評価されたのは記憶に新しい。自ら「『大鹿村騒動記』を撮って解脱した、と言われた」と笑っていた阪本監督だが、メジャーでの3本はいささか不本意だったようだ。横浜国立大学在学中から石井聰互(現岳龍)、井筒和幸監督らの現場スタッフとして参加して映画に入り込んだ「ポスト撮影所」監督には、撮影所システムは合わなかった、としか思えない。


danchi-500-4.jpg“自主映画”と言える『ジョーのあした~』をもっぱらジョーの地元・守口で撮ったのに続いて“大阪の団地”を舞台にしたこの映画でホームグラウンドに帰ってきた“浪速の阪本順治”は、これからどこへ向かって突っ走るのだろうか。

(安永 五郎)

★阪本順治監督と藤山直美の爆笑記者会見⇒ こちら
★公式サイト⇒ http://danchi-movie.com/
 (C)2016「団地」製作委員会

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