「パリ」と一致するもの

hazimarinokioku-s2.jpg『はじまりの記憶 杉本博司』杉本博司×中村佑子監督トークイベント(2012.8.5シアターセブン)
(2011年 日本 1時間21分)
監督:中村佑子
出演:杉本博司、野村萬斎、李禹煥、野村萬斎他 
ナレーション:寺島しのぶ
2012年8月4日(土)~第七藝術劇場、京都シネマ他全国順次公開
公式サイトはコチラ

世界で活躍する現代美術家杉本博司に初めて迫ったドキュメンタリー『はじまりの記憶 杉本博司』。写真家としてキャリアをスタートさせてから、アートを「人間に残された最後のインスタレーション」と表現し、時には世界創造神話にまで想いを馳せ、時にはどこにも存在しない世界や、見えなかったものを可視化する唯一無比の表現を続けている杉本や彼の作品の魅力に迫った上質な作品だ。本作の公開に合わせて、大阪十三シアターセブンにて杉本博司×中村佑子監督トークイベントが開催され、満席の観客の前で時には笑いも巻き起こる濃厚トークが繰り広げられた。その模様をご紹介したい。


杉本:はじめまして、杉本博司です。今日は1時間ぐらい前に着いたので、この辺りを見学したのですが、非常に濃いところですね。活気があって、僕が子供の頃の東京はこういう感じだったんです。懐かしい感じで、僕はキレイになってしまった東京よりも、こういう所の方が性に合うなと、非常に懐かしい思いをしました。今日はありがとうございます。

監督:本日は暑い中、日曜の昼間に集まっていただき、ありがとうございます。
写真家として活動されて、ファインダーを覗くということをやってらっしゃった方なので、こういう形で切り取られて、いかがでしたか。

杉本:なんとなく居心地が悪いというか、本当にそうなのかなと。映画をご覧になって、杉本像がねつ造された訳です。一回「自分で編集させてもらえないか。」と聞いたことがありますよね。絶対イヤだと言われましたから、僕は作品になるための材料として扱われている訳です。長編ドキュメンタリーはアメリカとイギリスで一本ずつ作っているのですが、お国柄やディレクターで全然違います。向こうのドキュメンタリーは本人の発言だけで編集するのが基本です。これは情緒的な日本文化で、寺島さんがいい声で包み込むように語りかけると、なんとなく「この人はこういう人なのかな」と思わせる力はありますよね。

hazimarinokioku-1.jpg 監督:そこに関しては、すごく言いたいことがありまして。テレビ番組が元になっているので、劇場化が決まったときに、ノーナレーションで映像に物を言わせたものを作ろうと思ったときも実はあったんです。私はテレビドキュメンタリーを普段作っている者なので、テレビで培った映像と音楽とナレーションとを緻密に編み上げて言いたいことをいうテレビ的方法論を突き詰めた方がいいのではと。杉本さんのようなコンセプショナルアートの方で、あまりそれまで説明してこず、ポンと投げて感じろと言ってこられた方に対して、ナレーションを書くことは逆にものすごく勇気がいるんですよ。自分としての挑戦をすべきだろうと思って、あえてナレーションをつけ、編み上げました。

杉本博司ファンはある程度好きな訳だから、日本人でこれだけ活躍している杉本さんのことを知らない人にとって、どれだけ深くまで切り込めるかという点です。(テレビは)震災後色々言われて差別される向きがあって、私自身もそういう時もたくさんありますけれど、実は日本的な構成の妙、本当に緻密に編み上げる力、全く知らない人に伝える力はものすごく持っていると改めて思いましたね。

杉本:でも伝える方向や意味付けはかなり自由裁量でね。例えば太平洋戦争で日本が全員で突き進んで行くときに、逆にメディアの方が先に突っ走って、行政機関がそれを追認せざるをえなくなった。大規模な国民的付和雷同みたいなものを形作るメディアの力はものすごく大きいし、怖いと思う。特に戦争に至る経緯は、アメリカに居ながらアメリカ人にどう説明しようかと。非常に良くないですね。

hazimarinokioku-2.jpg監督:今杉本さんは、太平洋戦争にまつわるものすごいコレクションを持たれていますが、今集められていることをどういう形で発表していくのでしょうか。

杉本:物証として色々あります。開戦の12月8日の各新聞トップの見出しとか、終戦の新聞など。その間毎日と朝日が販売部数競争をしているんです。過激な現場報告をすればするほど売れるという状態で、戦争のおかげで発行部数が倍々ゲームになったんですよ。何が目的なのか、事実の報道が目的か、他社との競争かということになり、結局大衆の扇動要素になったのです。世論がどうやって作られるかは日本的な独特の形があるんですよ。

監督:杉本さんが(集められたものを)パッと手にとって、そこからどういうビジョンを描いているのか知りたかったということもありました。

杉本:こういうことが起こったときにどういう風に動くかと、震災のときもそうですが、日本人独特の精神性というかメンタリティー、共同で動く心の原理は、日本人以外の人たちと非常に違うのではないかと外国に住んでいると特に思います。仏教を6世紀半ばに受け入れたときどう思ったかとか、日本人が古来の神々にどう折り合いをつけたのかとか、縄文時代から絶対変わらない心の持ち方があるんです。

hazimarinokioku-s1.jpg監督:皆さん感じていらっしゃると思いますが、杉本さんはしゃべり始めると本当に大学教授のように止まらないのです。映画の中の姿そのものですが、どれだけ私がかなり分かりやすく編集したか分かっていただけるかと思います(笑)。

杉本:一般化していて、濃いところの問題発言はかなりカットされていますから。

監督:杉本さんの問題発言は、本当にすごいレベルなので、それはまたいずれパート2で。

杉本:裏バージョンを作ってもらいたい(笑)。

監督:アメリカで活動され、そして日本にエネルギーを逆に返してくださる杉本さんは日本の希望の星で、ここで一旦杉本さんの終わりなき活動を止めて見せたということで、この先ずっと私を裏切り続けていただきたいです。

杉本:写真はもうだいぶ終わりに近づいてきています。フィルムもなくなるし、紙もなくなるし。今はパフォーマーの方に入ろうとしています。自分でやらないとつまらないというか、脚本を書くのもそうですが、来年はニューヨークのローリー・アンダーソンとの共演で『滝の白糸』という無声映画の弁士をやります。彼女が「私も弁士をやる」と、溝口健二の映画をローリー・アンダーソン流にブチブチに切ってランダムに見せながら、彼女が英語で僕が日本語で弁士をするのです。

あと杉本文楽が橋本政権下で問題になっていますが(会場爆笑)、パリに招かれて10月に行きます。多分その凱旋公演として大阪公演はやろうと思っています(会場拍手)。どこでやるかはまだ決まっていませんが、来年中にはやることになると思います。ご期待ください。

(最後の一言)
監督:今日はお越しいただいてありがとうございました。気に入っていただけたらうれしいです。
杉本:これは杉本のほんの一面だけだと思ってください。『月見座頭』という狂言が私は好きなのですが、人間はいい時も悪い時もあるという狂言なんです。この映画はいい人の面しかなくて、悪い面もいっぱいあるのですが、そこは次の機会に。


異国にいるからこそ感じる日本人の精神性について、史実の出来事や芸術を例に挙げながら解説する杉本氏と、とにかくスケールの大きい類まれな芸術家の魅力を分かりやすく届ける挑戦に挑んだ中村佑子監督とのトークに、満員の観客からも大きな拍手が起こった。本作で杉本博司とその作品の崇高さに触れる至福の時間を、ぜひ体験してほしい。(江口 由美)

sensenfukoku-1.jpg

© WILD BUNCH

シネルフレ旧サイトでもご好評をいただいた「読者の本音でトーク」コーナー。この夏の話題作を中心に、シネルフレサイト、映画館など映画にまつわるご感想をいただいた中から、編集長河田がセレクトした読者レビューをご紹介いたします。(赤字部分は編集長河田によるコメントです。)


 ★「リンカーン弁護士」見てきたのですが、面白かったです。ラジオのオススメコメントを聞いて納得! 「海猿」も、前作見てないし、ナメてかかっていたら泣かされました。あと、最近見て面白かったのは「ハロー!?ゴースト」「プレイ」意外なめっけもんでよかったのが「るろうに剣心」「苦役列車」。「ヘルタースケルター」は何だか訳わかんないまま、圧倒されました。

 ★御堂会館でレインボーのアフロヅラをかぶって、水色の画用紙を振ってきました。小学校低学年くらいの男の子たちがかぶってたのが、むちゃ可愛かったっす!「マダガスカル3」めっちゃ楽しかったですね。カラフルでファンキーな世界に子供から大人までどっぷり漬かれちゃいます。 それにしても、御堂会館で本当に3Dが見れるのかと、直前まで疑問に思っていたのですが、ホンマでしたね~、びっくりでした。 終映後は拍手が起こり、私のまわりの家族連れのお客さんたちも「面白かったね~」「久々に映画でめっちゃ笑ったわ~」「帰ったらお父さんに3D凄いって教えてあげんねん」などと楽しそうに話しながら帰っておられました。みんなをハッピーな気持ちにさせてくれる、ステキな映画でした♪

 ★「ネイビーシールズ」。試写会というものは、通常は7割程度は女性客で「ガール」とか「ホタルノヒカリ」などになると9割ぐらい女性客となっているようなパターンが多いですが、これは、5~6割は男性客。それにアーミーヲタぽい人もちらほら。こういうこともめずらしい。ビンラディを襲撃したアメリカ海軍の特殊部隊がモデル。ストーリー以外全部本物ということで、出演者も実際の人らしい。それゆえ迫力がある。最新兵器、確実に任務をこなす特殊作戦。ドンパチも迫力。本物だぜぇ~。ワイルドだろ。

 ★レディースデーにある公開されたばかりの映画を、オンラインで予約してから観に行ったら、私の席に大学生らしき男の子が座って隣の女の子と喋ってる。おかしいな?と思いつつ声をかけてみると、その男の子の席はもう一つ隣の席で、どうやら2席続けて取れなかったから、私の席を真ん中に挟んで取って、代わってもらおうという魂胆だったらしい。 確かにえらく混んでたので、ま、いっか、と思って代わったのだけど、後日、その事を会社の同僚に話したら「〇〇さん(私のこと)が着く前に、その席に座っているのはずうずうしい!来てから、こういう理由で代わってもらえませんか、と言うべきだ!」とご立腹。 確かに、先に座られていたから私から声をかけなければならなかったのは事実。それもそうだなぁと、のんびり屋の私は思いましたが、一般的にはどうなんでしょうね?

――― 会社の同僚の方が仰る通りだと思います。でも、映画を見る前のトラブルはできれば避けたいですね。そんな礼儀を知らずには構わず、映画を楽しむのに集中しましょう♪

 ★「大奥」男女逆転の大奥と聞き、観る前から非常に興味が湧きました。柴咲コウさんが凛々しく、とても役柄に合っていました。二宮さんの演技も表情一つひとつにいろんな感情が込められており、鳥肌が立ちました。非常におもしろい映画でした。

――― 同感です!私も大好きな映画です。でも、あれだけの国宝級の建物で撮影した割には撮影がお粗末でしたね~残念!

 ★「崖の上のラプンツェル」3Dで観ました。ラプンツェルの長い髪が3Dというのもあり迫力がありました。くわえて、ストーリーや映像に夢があって、ディズニーの素晴らしさを体験しました。

 ★「コクリコ坂から」を観たとき、隣の団塊世代のおじさんが「小林あきら」で笑っていて、21歳の私にはそのおもしろさが分からず、ジェネレーションギャップを感じました。でも、昔の文化を知るいい機会となりました。

 ★しばらくぶりにこちらのHPを見たらリニューアルされていてビックリ! フリーペーパーがそろそろ発行されていないかな~と思って映画館を探してはいたのですが。 

――― すみません…9月半ば位には発行できると思いますが… 

 ★ところで今日「崖っぷちの男」を見に行ってきました。あんなところに立つことになった訳がそういうことだったのかと感心させられ、ラストにはすっきりしてとても気持ちのいい映画でした。誰のお葬式だったんだろうと気になりますが。

――― 父親のお葬式です。肉親のお葬式だと一時出所可能で、それに乗じて脱走を謀ったのです。

 ★「おおかみこどもの雨と雪」花が運命ともいえる出会いを受け入れる潔さ、その後に続く困難にもブレない強さに感動! そして、子供たちが様々な体験・転機を経て、最初の性格からは思いもよらない人生を選び取っていく様子を母親目線で見れたのが、すごく新鮮でした。きっと、誰にでも大なり小なりあることなんだろうけど、子供本人にはわからない変化や成長をとても上手く描かれていたんだと思います。 渓流や滝のしぶきなど、水が美しく涼しげだったのもよかったです。

 ★「おおかみこどもの雨と雪」を観ました。子供向けの映画だと思っていましたが、どちらかというと大人、特に親が考えさせられるような内容で、親と子、家族のあり方、他の人たちとのかかわり、自然と人間、都会生活と田舎暮らし、たくさんの大切なテーマが織り込まれていながらも重すぎず、楽しく見ることができました。雨、雪をはじめ一人一人のキャラクターもとても魅力的で、可愛らしかったです。観てない人にぜひおすすめしたい作品です。

★ここで見つけた普段見ない違ったジャンルの映画を見て、友人に勧めています。 これからも、マイナー作品も多く紹介をお願いします。

★映画レビュー 注目映画レビューをいち早く読むのが楽しみ 「わたしたちの宣戦布告」は今秋公開が楽しみです。最新映画レビューリストは新着レビューから見る映画を探すのに使っています。内容も良くわかって安心して選べます。

★少し前になりますが「ガール」を見ました。もともと奥田英朗のファンで、小説は読んでいました。短編小説が1つの作品としてどのような描き方をされるのかとても興味深かったです。映画は、ガール(女性)が自分自身に置き換えて見れる、共感できるもので、彼女たちの頑張りが、とても励みになりました。また頑張ろう!って思えました。ファッションを見ているだけでもとても楽しくて、今までで一番好きな映画といっても過言ではありません!!「阪急電車」も原作、映画ともにとても大好きですが。

 ★「ガール」を映画館で観ました。DVDを待ってもよさそうな内容でしたが、女子力UPするためには映画館に足を運ぶことからスタートだった気がします♪

 ★「GIRL」を見ました。女性の心理や考えが描かれていて、色んな場面で私も共感できるなと思う場面が多くて、なかなか面白かったです。いつの年代になっても、同じような悩みを抱えて生きているんだと考えさせられた映画でした。

 ★「ホタルのヒカリ」を見ました!ホタルがすごくかわいくて、アタシもあんな人のために一生懸命になれるような人になりたい!好きな人のために一生懸命に生きたいって思いました。やっぱり映画っていいですね!これからもいろんな映画をたくさん見たいと思います。

 ★「幸せへのキセキ」を観ました。マット・デイモンがすっかりパパなのと、スカーレット・ヨハンソンのセクシーさ封印は見ごたえありましたね☆

 ★最近見た映画では「幸せへのキセキ」がよかった。妻に先立たれ仕事も失い、息子も父と溝が深まるばかり。投げ出しそうだけど、近年ではどこにでもありそうな話。買った家が動物園付きというのは(実話にしろ)普通はあり得ない話だけど、一見マイナスとも見られる動物園経営に、失いかけていた本当の愛を見つけたのではないだろうか。本当の幸せが名声や表向きの成功といったものでなく、「愛」にあるんだということを感じさせてくれた作品だった。

 ★「星の旅人たち」エミリオ・エステベス監督が父親のマーチン・シーンを主演に、息子を突然に失った父親が息子が旅しようとしていた800キロにわたる旅をする映画。離別の寂しさ虚しさ、喪失感を時間をかけ歩く旅で、癒し、自らの人生を歩み始める準備になっていく過程や、新たに父親自身の旅を始めるラストがよかった。 時にともに生き、時間を過ごすが、それぞれがそれぞれの人生をしっかり歩む勇気を与えてくれるいい映画に出会えて嬉しかったです。

 ★最近見た映画で面白かったのが「愛と誠」です。 ポスターからかっこいい妻夫木くんを想像していたけど、実際は、少女漫画の中のストーリーを大真面目に演技していて、心の中で大笑いです。それと同時に、共演者の人も含め、さすが役者さんだなぁと感心しました。いろんな面で印象に残る映画が見れて良かった作品でした。

 ★最近見たものである意味で凄いのは「愛と誠」です。 西城秀樹さん版も見ていますが、当時から結構アナクロだった作品を今映像にしようと思ったらセルフパロディ的なこれしかないのかな?とは思います。(しかし、まんま「クローズZERO」ですね。)妻夫木・武井の主演お二人には失礼ですが、10年後にはカルト映画になるかと思います。

 ★「臨場」を見ました。精神障害者の通り魔事件をきっかけに、いろんな人物の心情が絡み合うストーリーで、命の大事さとはかなさを感じる作品だった。内野さんの演じる倉石のキャラクターも濃く、ドラマを見てない私でも入り込むことができた。

 ★先週末、ウディ・アレン監督の 「ミッドナイト・イン・パリ」 を観てきました。いきなりタイムトリップして、ファンタジー嫌いの私は一瞬ひきましたが、さすがウディ・アレン。有名な芸術家たちのキャラクターにひきつけられ、あっという間にラストシーンまでもっていかれていました。

 ★「ミッドナイト・イン・パリ」を観ました。ウディ・アレンのくすっと笑えるコメディが楽しくて、時間の経つのがあっという間でした。コメディの中にも人生で大切なことが描かれていて、自分の信じた道を歩んでいけば良いんだなと、背中を押してもらえた作品でした。

 ★「僕等がいた」をみました。わたしは、青春真っ只中の前編が大好きでした。

 ★先日「臨場劇場版」の試写会に行ってきました。映画は大好きでよく見に行くのですが、正直あまり邦画に期待してなかったんです。でも「臨場」を見て、イメージが覆った。映像の迫力や俳優さんの演技はもちろん、シナリオも十分映画として満足できるレベルで、これからは邦画もどんどんチェックしなければと思いました。「天地明察」は原作を読みましたが、岡田君がどんな春海を演じてくれるのか、すごく楽しみです。

 ★先日『ファミリーツリー』を見てきました。ジョージ・クルー二―のダメ親父ぶりがとても新鮮な魅力で、素敵でした。内容もシリアスなのに暗くなく面白く、久しぶりのおすすめ作品でした。

 ★首都圏偏重の世の中で、数少ない関西発信の映画サイトだと思います。
 サイトの作りもシンプルだし、偉そうな映画論もブッていないし、いつもとても親近感が持てます。映画批評ではなく、見る人の立場に立った暖かいレビューがとてもいい。これからも映画鑑賞の参考にさせていただきますので、ぜひぜひ頑張って関西より発信し続けていただきたいと思います。

 ★初めてこのサイトを知りました。こんなサイトがあるのをもっと早く知っていたらと思います。今年もこれまでにたくさんの映画を鑑賞しました。それぞれに感心する点、引きつけられる見どころがありましたが、やはりもっとも印象に残っているのは、『戦火の馬』の気高い不屈の精神、『ザ・アーティスト』の変わらぬ愛、見守る愛、そして謎の中に置き去りにされた感のある『わたしが生きる、肌』でしょうか。いい映画を見ると心が高揚しますね。

yaneura-1.jpg

CH-1.jpg

(C)2011 – IDÉALE AUDIENCE – ZIPPORAH FILMS, INC.TOUS DROITS RÉSERVÉS – ALL RIGHTS RESERVED.

mesoddo-p.jpg

(C)2010 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURES - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - Tous Droits Reserves
 

予告編⇒ http://www.youtube.com/watch?v=YjU7RlBrSuM
【DVD】 3,990円(税込価格)
発売元【セル・レンタル】:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元【セル】:ハピネット/【レンタル】:カルチュア・パブリッシャーズ
 

play-1.jpg

(C)2011 / BRIO FILMS - STUDIOCANAL - TF1 FILMS PRODUCTIONS - Tous Droits Reserves

 

france-4.jpg

mip-1.jpg

Photo by Roger Arpajou -(C) 2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

mugon3.jpg(2010年 香港=フランス=ベルギー 1時間49分)
監督:ワン・ビン
出演:ルウ・イエ、シュー・ツェンツー、ヤン・ハオユー、リー・シャンニェン他
2011年12月17日~ヒューマントラストシネマ有楽町、12月24日~テアトル梅田、2012年1月7日~第七藝術劇場、京都シネマ、1月神戸アートビレッジセンター他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.mugonka.com/


全3部545分に及ぶ、衰退する軍需工場と街や労働者を描いた『鉄西区』で山形ドキュメンタリー映画祭最高賞をはじめ世界の映画賞を獲得し、その存在を知らしめた中国のワン・ビン監督。初の劇映画となる『無言歌』全国順次公開、および全作一挙上映企画に合わせて初来阪し、未だ中国のタブーである反右派運動をテーマにした『無言歌』のインタビューに応えてくれた。

━━━『無言歌』のテーマである反右派闘争は監督が生まれる10年ぐらい前の話ですが、かなり以前から興味を持っていたのですか?

この映画を撮る決定的な動機となったのが、ヤン・シエンホイさんの小説『夾辺溝の記録』を読んだことです。この小説で書かれていた様々な人物や運命に大変感動を覚えました。実は小説を読む以前にも反右派闘争について知っていました。自分の身の周りにも、1970年末から1980年初頭にかけての文化革命時の右派が存在しています。

そして、この映画を撮るきっかけが立ち上がってから様々な準備を始めました。主に夾辺溝事件と呼ばれるこのときの事件について、様々な資料集めをし、数多くの人にインタビューしていきました。生き残った人たち、家族の人や当時の収容所の看守の人たちのインタビューを通じてより具体的に当時の事件を知ったのです。

反右派闘争のプロセスについては、90年代はじめから約10年間にわたって、右派分子と呼ばれた人が、当時の反右派闘争を振り返って書いた本が多数出版されました。映画の準備に入ってからこれらの書籍を読み、だんだんと反右派闘争の映画が撮れると自信を持ったわけです。

━━━.今回ドキュメンタリーではなく、劇映画として撮った意図は何ですか?

劇映画とドキュメンタリーに分かれてはいますが、学校ではほとんどフィクションを勉強しました。撮り方もフィクションの勉強をしたのですが、卒業してからフィクションを撮るような資金はなかなかなかったので、比較的資金がなくても撮りやすいドキュメンタリーに入っていきました。03年ぐらいですが『鉄西区』を撮ったあとで、『無言歌』ではない別の劇映画を撮る企画があり、その脚本を書くつもりでパリに飛ぶ飛行機でこの『夾辺溝の記録』を読んだのです。小説にとても感動したので、前の企画は置いて、この『無言歌』を撮ろうと決めました。

━━━反右派闘争は中国でタブー視されているようですが、原作の『夾辺溝の記録』の出版時の状況はどうだったのですか?

原作『夾辺溝の記録』は、出版されたとき苦難に見舞われました。短編集ではなく、短編をポツリポツリと時間を置いて一作ずつ文学雑誌に発表する方法をとりました。19の短編を集めて出版されたときは発禁になりましたが、出版社を変えてまた出版したのです。このテーマについて中国政府は、70年代末から80年代初頭にかけて「反右派闘争は拡大化されすぎた」という歴史的な結論を出しました。反右派闘争を何らかの芸術的方法で描くことについて完全に禁止はしないが、あまり歓迎はしないという態度をとっています。

━━━映画化や撮影に関して苦労されることはなかったですか?

『無言歌』の出資は香港・フランス・ベルギーで中国の制作会社は入っていません。このテーマで中国の映画館で公開されることはありえないのです。その反面、中国の映画館で公開されることを念頭に置かないために自由度がかなり高まり、あまり制限をつけないで済むので、自分たちの好きなように計画して撮ることができました。

中華人民共和国ができて最初の30年の間に様々な芸術作品の中で当時の状態をリアルに反映させることはなかなかできない時代でした。まだその最中にあった、歴史的には空白の時代です。今の時代は完全な自由ではないけれど、一定の自由度はあります。昔と比べると自由度がある分、描けなかった過去のことを描くということです。

撮影については、期間は長かったのですが、スタッフやキャストを絞って、具体的に何が行われているかを知られないように、決して宣伝せず密かに進めていきました。撮影の途中に面倒なことはなかったです。

━━━現状は、『無言歌』を中国の人に見てもらえないのでしょうか?

『鉄西区』以降の自分の作品は、国内では正式に上映されていません。この『無言歌』も中国で上映されることはないのですが、そういう状況をどうしても変えなければいけないとは思っていません。インターネットの時代となり、マスメディアの状況は変わっています。様々な方法によって多くの中国人が僕の作品を見てくれます。『鉄西区』のDVDは、海賊版が正規のDVDよりよく売れています。また『無言歌』もフランスのTVで放映されたのをDVDにコピーした海賊版が出ていて、これも売れ行きがいいそうです。営業的な観点から見ると全く利益がなく困ることなのですが、映画自体にとっては多くの観客が見てくれる、観客が数多くいるということが重要です。

━━━実際に反右派闘争の生存者や遺族の方にインタビューされて、監督が感じたこと、また作品にどのように反映されようとしたのでしょうか?

原作となった小説は19の短編からできていますから、それをどういう風に映画に撮っていくかを考えなければなりませんでした。数ヶ月の間さまざまな角度から考えたのですが、例えば資金面の問題やどれだけ自由に撮れるかといったことを考えた末に、夾辺溝事件で収容所に送られた右派の人たちの3年間から最後の3ヶ月だけを残すことにしたのです。教育農場にいた人たちが明水(ミンシェイ)に移された後の3ヶ月、解放され家に帰れるまでの3ヶ月に焦点を当てて撮ることにしました。そうなると、ヤン・シェンホイさんの小説の中のディテールだけでは足りないことが非常に多く。その部分をもっと詳しくインタビューする必要があったわけです。インタビューをすることで、様々なことが明らかになり、一次資料を手に入れることができました。例えば、ペニンシュルという場所に着いたばかりの2枚のスナップ写真。それから右派のある人が死ぬ前に家族にあてて書いた手紙(映画ではその一部が名前を変えて使用)も見つかりました。

━━━作品を作る過程やインタビューの中で、監督が心がけたことは何ですか?

重要だったのは、この物語をどういう方法で撮るかということでした。歴史に対する物語をどう語るのかを探っていったわけです。普通の歴史映画と違うものを目指していたので、それは突き詰めれば監督である自分がどう歴史に向き合うか、また自分が向き合った歴史を観客がどう捉えるか、そこを考えていました。普通の歴史物にあるようなある一人の人物を川の流れのように語るやり方ではなく、この映画では様々な人の記憶の断片、その瞬間、その場所を描くこと。いろいろな人の体験を集めて、その断片を重ね合わせて物語を構成するスタイルにしました。

多くの人にインタビューをする中で、既に50年前の話ですから鮮明に覚えているわけではないけれど、彼らが何について忘れないで覚えているか、何が彼らにとって強い記憶として残っているか、それがカギになると思いました。彼らにとって強力なものを取り出してきて、未だ解けない謎だと思っているようなことを掴む、それで映画のスタイルができあがってくるのではないかと。そこを重要視してインタビューを進めていきました。

━━━監督にとって、一番印象に残ったインタビューを教えてください。

ラストシーンとも関係あることですが、インタビューする中で最初から多くを語ってくれない人がいました。一ヶ月後再訪して一緒にご飯を食べたりしていると、突然シーンとなって彼の感情を制御できない雰囲気で僕に訴えてきたのです。それは「初めて死体を埋めたときの自分の感覚が君に分かるか。」と。当時死体を埋める役目を担っていたわけですが、ある人が亡くなると布団から取り出し、布団も衣服も剥いで裸体のまま運び、谷間に埋めるのです。二人組で裸体を運んで埋めるとき、鳥の声にはっとして自分たちが運んでいるのは人なんだと、これは決して羊や他の動物ではないのだと、その感覚は忘れられないのだと語ってくれました。


「中国では上映されないことで制限なく自由に撮れる。」と逆転の発想で、反右派闘争の歴史に向かい合ったというワン・ビン監督。「政治映画ではない」と言い切り、今だから光を当てることができる歴史に監督自身が向き合った作品を、我々がどう捉えるのか。110人ものインタビューから忘れざる瞬間を明らかにし、時を経て甦った「生きた証」の記憶を見逃すわけにはいくまい。 (江口 由美)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25