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『映画の國 名作選Ⅴ フランス映画未公開傑作選』

 
       

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作品データ
監督 「刑事ベラミー」クロード・シャブロル、「ある秘密」クロード・ミレール、「三重スパイ」クロード・ミレール
公開日、上映劇場 4月21日~渋谷シアター・イメージフォーラム、6月23日(土)~第七藝術劇場、その他京都みなみ会館、神戸アートビレッジセンターにて順次公開

 

「刑事ベラミー」「ある秘密」「三重スパイ」

~歴史に翻弄される人間の運命の悲しさと不可思議さ~

   ハンナがドイツ兵にもう一つのパスポートを見せた時(『ある秘密』)、ベラミーが折角の休暇中、人を殺したかもしれないと告白した男に会いに足繁く通う時(『刑事ベラミー』)……、人間は、必ずしもいつも正しく、理知的な行動をとるわけではない。そういう人間の不可解さ、人生の神秘を描いた、フランス映画の珠玉の名作の公開がついに実現。どれも、見事な演出、構成、会話、テンポで、観る者を魅了してやまない。わかりやすい映画ばかりが量産される昨今、映画を観る歓びは物語だけではない。美術、衣装、カメラ、音楽と、いろんな間口から存分に味わい、楽しめるはず。3作品の物語の背後に脈々と流れているのは、人間の息遣いであり、運命の気まぐれ…。観終わって、わかるようでわからない、どこかつかみきれない、でも妙に気になって忘れられない、という後味こそ、映画の余韻であり、醍醐味かもしれない。ぜひこの機会に、フランス映画の豊かな水脈に触れてほしい。         


france-1.jpg『刑事ベラミー』  (BELLAMY)
 (2009年 フランス 1時間50分)

監督:クロード・シャブロル
出演:ジェラール・ドパルデュー、クロヴィス・コルニアック、ジャック・ガンブラン
(C)Moune Jamet 

 2010年9月にこの世を去ったヌーヴェル・ヴァーグの巨匠クロード・シャブロル監督の遺作。主人公は警視ベラミーを演じるジェラール・ドパルデューであるが、遊び人の弟ジャックもまた強烈な存在感を残す。映画の終わりに、詩人W・H・オーデンの「目に見えぬ別の物語が必ずある」という言葉が引用され、一層感慨深い。

 南フランスで妻フランソワーズと休暇を過ごすベラミー。ジャンティと名乗る男から「人を殺したかも知れない」と助けを求める電話が入り、ベラミーは捜査に熱を上げる。一方、異母弟のジャックがふらりと現われ、妻フランソワーズと仲睦まじく暮らしていた日常は、いやがおうにもかき乱されていく…。

  映画は、捜査の過程を描きながらも、ベラミー夫婦の会話を綿密に描き、ベラミーとジャックとの関係、夫婦関係の深遠さ、ベラミー自身の過去、その内面に迫る。サスペンスという表面上のストーリーの裏側で、まさにひっそりと進行していく物語に気付いた時、この映画の深みに驚かずにはいられない。それはちょうど、裁判所から弁護士が降りてくるすぐ後ろを、ジャンティが足早に歩き去っていくのが画面にさりげなく映っているのと同じだ。核心はむしろ裏側にあるのかもしれない。ベラミーと妻とのやりとりが深い余韻を残す。


france-3.jpg『ある秘密』  (UN SECRET)
 (2007年 フランス 1時間50分)

監督:クロード・ミレール
原作:フィリップ・グランベール『ある秘密』(新潮クレスト・ブックス)
出演:セシル・ドゥ・フランス、リュディヴィーヌ・サニエ、マチュー・アマルリック、ジュリー・ドパルデュー、パトリック・ブリュエル
(C)Thierry Valletoux

 フランソワ・トリュフォーの作品にスタッフとして参加し、少女時代のシャルロット・ゲンズブール主演の『なまいきシャルロット』『小さな泥棒』で知られ、この4月に70歳で亡くなったクロード・ミレール監督による、実話を基にした傑作。ナチス占領下のパリと、現在とを、交錯させて描きながら、少年フランソワが成長していく過程とともに、両親、家族の秘められた悲しい過去の出来事を描く構成が見事。夫婦の間のほんのすれちがい、誤解が、悲劇を招く。

  病弱で内気な少年フランソワは、屋根裏部屋に古いぬいぐるみを見つけ、兄の存在を知る。運動好きで健康的な両親に秘められた過去。それはあまりに悲しい家族の歴史だった。成長したフランソワが両親の哀しみを受け止める姿がいい。ユダヤ人を迫害した、当時のフランスのラヴァル首相への批判が痛切に響く。セシル・ドゥ・フランスが水着姿で登場し、美しいプロポーションを披露。冒頭から彼女のはじけるような美しさに目を奪われるが、リュディヴィーヌ・サニエ、ジュリー・ドパルデューと女優たちが皆すばらしい。


france-2.jpg『三重スパイ』
(2003年 フランス 1時間55分)

監督・脚本:エリック・ロメール
出演:カテリーナ・ディダスカル、セルジュ・レンコ、

エリック・ロメール監督の映画を観ていると、最後、狐につままれたような気分になることがある。本作もそうだ。こんなふうにあっさり終わってしまっていいの?と半ば置き去りにされた気になる。しかし、この不可思議ゆえに、かえって妙に気になり、魅力に思えるところが、ロメール作品の醍醐味でもあり、癖になるおもしろさともなる。

  1936年、スペイン内戦勃発。人民戦線時代のパリで実際に起こったスパイ事件をもとに、フランスに亡命してきた、ロシア帝政軍の将校ヒョードルとギリシャ人の妻アルシノエとの日常が、夫婦の会話劇を中心に描かれる。妻は政治に関心がなく、絵画に熱中している。夫は頻繁に家を留守にするが、妻は夫を信じきって疑わない。ふとしたことがきっかけで、夫はスパイ活動に従事していることを妻に明かすが、具体的に誰のために何をしているかは語らない。映画はもっぱら、夫を待ちながら、隣人と親交を深めていく妻の側から描かれる。当時のニュース映像がふんだんに用いられ、歴史の荒波に巻き込まれてしまう妻の姿が痛々しい。

  二人が暮らす部屋の調度品も美しく、妻のドレスもすてきだ。妻の、夫への一途な愛が可愛らしい。夫は飄々としていながら、誰を裏切り、秘密を隠し、騙そうとしているのか、真意がつかみ難い。それでいながら、冒頭と最後の軽快な音楽といい、深刻な印象は弱く、淡々とした夫婦のコミュニケーションがスリリングに描かれていく。そうして、一つの時代を切り取ってしまおうというおもしろさと大胆さが心地よい。


 3作品を観比べてみると、第二次大戦前という時代背景が重なり合っていたり、夫婦のコミュニケーションが描かれているところが共通していたりして、微妙にからみあい、見事な組み合わせとなっている。互いに触発しあって、一つを観たら、他の作品もまた観直したくなってくるにちがいない。長く公開が待たれていた作品群をこうしてスクリーンで観ることができる機会に感謝して、劇場に足を運びたい。(伊藤久美子)

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