「中国」と一致するもの

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『マリキナ』(フィリピン)ミロ・スグエコ監督インタビュー@第10回大阪アジアン映画祭

~父親の真実を探すヒロインに、アイデンティティーを探し続けるフィリピン人の姿を重ねて~

 
昨年に続き、今年もフィリピン映画の勢いが止まらない。第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として日本初上映された『マリキナ』も、クオリティーの高いフィリピン映画から選りすぐられた一作だ。OAFF2014のコンペティション部門に出品された『もしもあの時』のジェロルド・ターログ監督が脚本を担当、フィリピンの靴工業で栄えた街、マリキナを舞台に、靴職人の父とその娘の30年に渡る葛藤と、その人生を辿りながら自分のアイデンティティーを見つめなおす物語を、美しい映像で叙情豊かに綴った。フィリピンでトップ級の実力派俳優たちが出演し、まさしく、暉峻プログラミングディレクターが定義した、「規模はインディーズだが、スター俳優が出演している“メインディーズ”作品」と言えよう。70年代から現代にかけてのフィリピン社会の変遷も丁寧に描かれ、興味深い一作だ。
 
映画祭ゲストとして来阪した本作のミロ・スグエコ監督に、構想のきっかけや、監督が感じているフィリピン人のアイデンティティーについてお話を伺った。
 

 
―――――脚本は昨年のOAFF『いつかあの時』のジェロルド・ターログ監督ですね。
ジェロルドとは友達で、お互いに映画を作るとき手伝うことも多いです。今回は私が書き始めた脚本を、ジェロルドが仕上げてくれました。また音楽も担当してくれています。
最初、80場面を書いてジェロルドに渡し、最終的にはジェロルドが180場面に増やし、物語も書きこんでくれました。台詞も全てジェロルドが書いたものです。物語の流れも、会話も非常に上手いですね。
 
―――――なぜ靴の街、マリキナを舞台にした物語を描こうとしたのですか?
5年ほど前、貧困や汚職など第三世界的な問題を抱えているフィリピンにすごく失望が募った時期がありました。その時に、どうしてフィリピンの国民は自分たちの問題を他人事のように捉えてしまい、自分の事として考えようとしないのかと自問自答したのです。この物語の主人公、イメルダも小さい頃から大人になる過程を通して、自分が何者なのか、自分のアイデンティティーをずっと探し続け、また父が自殺した後、父にぴったりの靴を探すため、彷徨います。過去を振り返ることで前に進もうとしている訳です。このイメルダに、フィリピン人が自分のアイデンティティーを今だに探している姿と重ねています。
 
この作品では、靴産業が停滞し、従事していた人たちが困窮していきますが、世界中がグローバリゼーションの波にさらされている中で、どこの国でも起きていることです。ただ日本は外から様々な文化や資本が流入しても、日本人的アイデンティティーや日本の文化をかなり持っているように感じられます。一方中国の資本が流入してきたときに、フィリピン人はどうしていけばいいのかが掴めずにいます。
 
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―――フィリピン人は、他の国民よりも強くアイデンティティーを探し続けているということでしょうか?
フィリピンの場合は長い間スペインの支配下にあり、アジアの中で唯一カトリック国でもあるため、アメリカの影響を多く受けています。日本の場合は、他の国から影響を受けても、あくまでも日本であり続けてきましたし、外国からのものを取り入れながらも、日本人としてのアイデンティティーをしっかり持っていると思います。フィリピンでは、植民地主義の遺産のような感じで、植民地としてのメンタリティーがまだ残っているのが残念です。愛国心が十分にないということなのかもしれません。庶民に罪がある訳ではなく、政府も頑張っていると思いますが、一方で、自国での稼ぎだけでは生活が成り立たないので、他の国に出稼ぎに行っている人も大勢います。日本にもそのように出稼ぎに来ているフィリピン人はたくさんいますね。
 
―――本作はシネマラヤ映画祭からの助成を受けて作られたそうですね。
一番最初、助成金の1万ドルだけで映画作りをスタートしました。撮影は15日間で済ませました。お金がないのなら、その分周到な準備をし、撮影にとりかかったら、日本人のように効率的に進めていきました。試行錯誤している余裕はありませんね。
 

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―――父と娘の繊細な関係が見事に描かれていました。撮影も美しく、端正な映像で、そんなに短期間で撮ったとは思えません。
辛いこともたくさんありますが、登場人物皆が、間違えは犯しながらも、最後はまじめに生きようとしている人間であることを映し出したかったのです。日本はどうか分かりませんが、フィリピンでは女性のキャメラマンが増えています。『マリキナ』のサシャ・パロマレスさんは、フィリピンで最も優秀な女性キャメラマンの一人です。まだ26歳と若いですよ。
 
―――一番好きなシーンを教えてください。
イメルダの卒業式に長年不在の母から電話がかかり、その様子をずっと愛情を注ぎ続けてきた父親が、娘に十分に伝わらない気持ちを抱えながらそっと電話を盗み聞きしているシーン。派手なシーンではありませんが、登場人物の気持ちを考えると心に迫るものがあります。いい父であろうとしていますが、娘にとっては分かりにくい父で、母とは違う形で愛していることを分かってもらえません。そういう父娘の難しい関係がこの場面に凝縮されています。
 
―――父親役のリッキー・ダバオさんの演技が素晴らしかったのですが、フィリピンではどういう立ち位置の役者さんですか?
70~80年代の若い頃からずっと活躍している方で、俳優一家に育っています。監督も手がける、才能豊かな方です。マイリン・ディゾさんもフィリピンの人気女優で、ユージン・ドミンゴさんとは大の仲良しです。
 
―――日本の有名な俳優は、あまりインディーズ作品には出演しませんが、フィリピンでは状況が違うのでしょうか?
若手と仕事をする方が、新しい分野の作品に取り組めるので、皆さん積極的に出演してくださいます。大手映画会社のオファーは大体同じような内容の作品ばかりなので、脚本を気に入って下さったら、インディーズ作品でも積極的に出演してくださいます。
 
―――今後どんな作品を作っていきたいですか?
ラブストーリーを作っていきたいです。ロマンチックコメディーやティーンエイジャー向けの軽いラブストーリーではなく、成熟した大人のラブストーリーに挑戦したい。家族ドラマはもう卒業したいかな。サスペンスやバイオレンス系も興味があります。北野武監督や『バトルロワイヤル』系ですね。
 

インタビューが終わり、上映前の舞台挨拶同様にいつもパッション、パッション(情熱)と言っていることを明かしたミロ・スグエコ監督。フォトグラファーでもあり、ポスターなども自分で手掛けたという。映像のセンスの良さもその才能によるものなのだろう。「自分の映画を実現させるためには、情熱も努力も惜しみません。自分がやっていることが情熱をもって取り組めるなら、単なる仕事ではなくなります」と低予算でも情熱をもって取り組めば映画が撮れると力強く語ってくれた。長編第2作目とは思えない洗練され、深みのあるドラマを撮り上げたミロ・スグエコ監督。今後の活躍も大いに期待したい。
(江口由美)
 
<作品情報>
『マリキナ』“MARIQUINA“
2014年/フィリピン/116分
監督:ミロ・スグエコ 
出演:リッキー・ダバオ、マイリン・ディゾン、ビング・ピメンテル、バルビ・フォルテザ、チェ・ラモス
 

 

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3 月 6 日(金)より、梅田 ブルク7、ABC ホールをはじめとする大阪市内 7会場で開催させた「第10回大阪アジアン映画祭」が15日(日)に閉幕し、クロージング作品『国際市場で逢いましょう』のジャパンプレミア上映前にクロージング・セレモニーが開催された。
 
注目のグランプリは、観客賞とのW受賞となったイー・ツーイェン監督の『コードネームは孫中山』(台湾)。主演ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんと共に登壇したイー・ツーイェン監督は、感動の面持ちで「思いがけない受賞でした、この賞をいただいたからには、今後もう一息がんばって撮ってみたい。できれば今後本作が、日本で公開されればうれしい。本当にありがとうございます」と挨拶し、観客から大きな拍手で祝福された。
 
『コードネームは孫中山』イー・ツーイェン監督、ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんインタビューはコチラ
 

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受賞理由は、「少年たちのいたずらによる小さな盗難事件が発端のストーリーだが、昨今の台湾社会の一般市民の生活や社会情勢を映し出している。イー・ツーイェン監督は、シンプルなセリフ回しと細やかな表現方法で若手俳優たちの自然な演技を存分に引き出した」。
国際審査委員長のパン・ホーチョン監督から花束や記念の盾を贈られたジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんも笑顔で観客の拍手に応え、まさに大阪から新しいスター誕生を予感させるクロージング・セレモニーとなった。その他の受賞結果は下記のとおり。
 
 
★ グランプリ(最優秀作品賞) 
『コードネームは孫中山』 (Meeting Dr. Sun) (行動代號:孫中山) 台湾/監督:イー・ツーイェン (YEE Chih-Yen) (易智言)
 
★ 来るべき才能賞 
メート・タラートン(Mez THARATORN) タイ/『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』(I Fine..Thank You..Love You)監督 
 
★ スペシャル・メンション
シャーリーン・チョイ(Charlene CHOI)(蔡卓妍) 香港/ 『セーラ』(Sara)(雛妓)主演女優
 
★ ABC賞
『いつかまた』(The Continent)(後会無期) 中国/監督:ハン・ハン(HAN Han)(韓寒)
 
★ 薬師真珠賞
プリーチャヤー・ポンタナーニコン(Preechaya PONGTHANANIKORN) タイ/『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』(I Fine..Thank You..Love You)主演女優
 
★ 観客賞
『コードネームは孫中山』 (Meeting Dr. Sun) 台湾/監督:イー・ツーイェン (YEE Chih-Yen) 
 

『国際市場で逢いましょう』ユン・ジェギュン監督舞台挨拶

 
クロージング作品『国際市場で逢いましょう』(2014年・韓国)上映前に、ユン・ジェギョン監督が舞台挨拶で登壇された。本作は、朝鮮戦争で故郷を離れる際、父、妹と離れ離れになってしまった主人公ドクスが、家長の代わりとして、母と弟と末の妹との家計を支えるため、必死で働き、生き抜く半生を描いた感動作だ。
 

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今の韓国の豊かさというのは、自分達の父母や祖父母の血と汗と涙の結晶の上に成り立っていることを若い人たちに伝えたかったというユン・ジェギョン監督。本作は、韓国で1,330万人の観客動員を超えて、韓国歴代2位の大ヒット。その理由について尋ねられ、監督は、個人的感想ですが、と断った上で、父母の世代にとっては癒しの映画となり、若い世代の人達にとっては、苦労を重ねた世代への感謝の映画として、世代間のコミュニケーションを図るきっかけになったのではないかと話された。観客へのメッセージとしては、早くに亡くした父に捧げる映画で、今日、この映画を観終わったら、ぜひ両親や祖父母に感謝の気持ちを伝える電話を一報してほしいとコメント。
 
映画は、幼いドクスと妹が手に手をとって逃げる最中、別れ別れになってしまうところから始まり、ドクスが西ドイツの炭鉱に出稼ぎに行ったり、ベトナム戦争で技術者として働きに行ったり、生死をさまよう危険な目に何度もあいながらも、ひたむきにまっすぐ生きる姿が心を打つ。若い頃の恋の悩みや喜び、親友ダルグとの強い友情、ドクスが国際市場の店を頑固に守り続けた訳と、ひとつの家族の姿を通して、韓国という国の歩んできた歴史も感じさせ、それは日本にも通じるものがある。
 
ドクス役のファン・ジョンミンが好演、随所にユーモアがあふれ、会場では笑い声が何度も起こるとともに、クライマックスでは、涙を抑える音があちこちから聴こえた。韓国で、こういう映画が大ヒットして、多くの若い人達が観たというのはすごいことだと思う。家族への深い愛情が観る者を深い感動でいっぱいにする期待作。日本では、5月16日から全国順次公開予定。
(伊藤久美子)
 
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3月6日19時から大阪市北区の梅田ブルク7、オープニング作品『白河夜船』の世界初上映で幕が開けた第10回大阪アジアン映画祭。オープニングに先駆け、大阪・道頓堀で行われたリバーカーペットイベント「アジアン・スター・フェスティバル」では、大阪府の松井知事をはじめ、副知事のゆるキャラ「もずやん」が駆け付けた他、『白河夜船』の若木信吾監督、安藤サクラ、井浦新、インドネシア映画『武士道スピリット』のエグゼクティブ・プロデューサー、バーティアル・ラフマン氏、アソシエイト・プロデューサーのヨーク・ザキア氏、リュウケン・ライッサ監督、そして、同作に出演し、今回国際審査員を務める武田梨奈、初映画出演を果たした川畑要、香港映画『点対点』のアモス・ウィー監督、アンガス・タイ撮影監督、第1回オーサカ Asia スター★アワード受賞の台湾人気俳優チャン・シャオチュアンらが参加した。また、特別ゲストとして『セデック・バレ』(OAFF2012)の監督で、昨年のOAFFオープニング上映で感動のスタンディングオベーションを巻き起こし、現在絶賛公開中の『KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』プロデューサーのウェイ・ダーション氏が登場。台湾等から大阪への更なるインバウンド誘客にも寄与したことに対し、大阪観光局から感謝状が贈呈された。やや肌寒い天候ながら、多くのファンが集まり、歓声がかかるたびにゲストも笑顔で手を振り応える野外イベントならではの盛り上がりをみせたリバーカーペット。ゲストの挨拶から主なコメントを紹介したい。
 
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『KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』
 
ウェイ・ダーションプロデューサー:「この映画で多くの観光客が日本を伺ったと聞き、うれしいです。映画を観た皆さんには、ぜひ台湾に来てほしいです。そして、ぜひマー・ジーシアン監督に会ってほしいと思います」
 
 
 
 
 
 

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『武士道スピリッツ』

武田梨奈:「インドネシア映画に日本人代表キャストとして選ばれ光栄です。国際審査員ということで、映画祭を盛り上げたいと思います」
川畑要:「映画初出演ということで、インドネシアと日本の懸け橋になればと思います」
 
 
 

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『白河夜船』
 
安藤サクラ:「今日はここに来られてとてもうれしいです。今日は本当に初めてのお披露目の日なのでワクワクしています。ちなみに私は20歳の誕生日に一人で大阪に来て、ドン・キホーテのところで20歳になる瞬間を迎えた思い出の場所です。今日観られる方も、これから観られる方も、『白河夜船』をよろしくお願いします」
 
井浦新:「『白河夜船』は5日間で撮影した映画です。それでも、スタッフやキャストが情熱を持って取り組めば、映画は作れますし、このような素敵な場所に呼んでいただき、皆さんに観ていただくことが情熱さえあればできます。『白河夜船』のように日本の情緒を映して、日本人にしか描けない映画がもっとこれからも増えていけばいいなと思っています。ぜひ皆さんも、映画をたくさん観てください。(周りの風景や通り過ぎるクルーズ船に目をやりながら)情報がありすぎて・・・さすが大阪です。『白河夜船』をぜひ観てください。よろしくお願いします」
 
若木信吾監督:「はじめてでちょっと足が震えています。本当にこの映画は安藤さんと井浦さんの映画で、心がちょっとざわざわするような体験をしていただければ。サクラさんが本当に美しく映っています。二人に目が釘づけになると思いますので、ぜひご覧いただければと思います」
 

 

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オープニング上映前に行われたオープニングイベントでは、第1回オーサカ Asia スター★アワード受賞の台湾人気俳優チャン・シャオチュアンが「大阪アジアン映画祭にお招きいただき、ありがとうございます。アワードもいただき光栄です」と挨拶。そして4度目のOAFFの舞台となるウェイ・ダーションプロデューサーが「世界では各国で色々なことが起きていますが、映画を通して我々は様々な異なった文化を理解できます。映画によって世界に温かみがもたらされるのではないでしょうか」と挨拶し、感動的な幕開けとなった。(江口由美)
 

 
第10回大阪アジアン映画祭は3月15日まで梅田ブルク7(梅田)、シネ・リーブル梅田(梅田)、ABCホール(福島)、シネ・ヌーヴォ(九条)、プラネット・スタジオ・プラスワン(中津)で中国、香港、台湾、韓国、ベトナム、タイ、バングラデシュ、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、フィリ ピン、インド、トルコ、ハンガリー、フランス、アメリカ、日本の17の国、地域から世界初上映11本を含む全48本を上映する。クロージング作品はファン・ジョンミン主演、昨年末公開から韓国で現在も空前の大ヒットを続けるユン・ジェギュン監督の感動大作『国際市場で逢いましょう』。1950年代朝鮮戦争により家族離散、貧しい避難民生活、西ドイツへの出稼ぎ、ベトナム戦争従軍といった激動の時代を家族のためだけに働き、生き抜いてきた名もなき父親を、ファン・ジョンミンが熱演。韓国版『Always 三丁目の夕日』と呼ばれるほど見事な各時代のセットも見どころだ。
 
常設のコンペティション部門では世界初上映となるデレク・クォク監督最新作のバドミントンコメディー『全力スマッシュ』(香港)や、波多野結衣主演の『サシミ』(台湾)をはじめ、OAFF初となるハンガリー映画『牝狐リザ』、北村一輝主演の傑作ミステリー『マンフロムリノ』(アメリカ)、今勢いのあるフィリピン映画から『マリキナ』、『運命というもの』など、アジア映画のパワーを感じる全12作品がラインナップ。
さらに、インディ・フォーラム部門では、第11回CO2助成作品3作の世界初上映をはじめとした全10作品を上映。東日本大震災からちょうど4年が経つ3月11日には、東日本大震災により公開延期を余儀なくされた『唐山大地震』を4年越しの劇場公開に先駆けて上映する他、「震災と映画」というテーマのトークセッションを盛り込んだ《東日本大震災から4年「メモリアル3.11」》を開催する。
 
チケットはチケットぴあでの前売終了後は、各劇場にて順次販売。詳細は大阪アジアン映画祭ホームページ参照。
お問い合わせ:大阪アジアン映画祭運営事務局
TEL 06-6374-1236 http://www.oaff.jp/
 
 

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~日本に生まれて良かったと思える、「食」とその奥の「命」を感じるドキュメンタリー~

 
2013年12月、無形世界文化遺産に登録された和食。その中でもだし、しょうゆは和食の核となる存在だ。そのだしとしょうゆを、ネイチャードキュメンタリーのように美しい映像で、その素材や思想まで掘り下げ、和食を守る人たちの仕事ぶりにも目を向けたドキュメンタリー、『千年の一滴 だし しょうゆ』が関西でいよいよ公開される。

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4人の高校生が、森の生活の名人に直接インタビューし、名人の生き方や仕事に対する姿勢などを「聞き書き」する様子を紡いだ柴田昌平監督の前作『森聞き』と通じる、鰹節名人、椎茸名人、醤油名人…と和食を守る名人たちの仕事ぶりを丹念に追い、それらが集結してできあがった黄金色のだしがポトリとしたたる音、椎茸が発育し花のように開いていく様子、海中でダンスするかのように優雅にゆらめく昆布など、美しい映像と研ぎ澄まされた音で和食の魅力が静かに伝わってくる。観終わって、「鰹節を削りたい!」と思う人は私だけではないだろう。
 
その一方で、動物、植物関係なく「命をいただく」という考え方や、禅寺のシーンでは食事の最後の一粒ずつを差しだし、鳥たちに分け与えることで、地球上に生きる者が常に他人を想い、共生しているのだと実感する。
 
インタビューで、柴田監督が「映画そのものはそんなにインパクトのあるストーリーではないし、声高に何かを訴える訳ではないけれど、おだしのような映画ですよね」とさらりと口にされ、私は思わず唸ってしまった。目に耳に沁み込んでくるようなこのドキュメンタリーが、でも見終わったときに自分の食生活を見つめ直したくなったり、真の和食に触れたくなり、さらには六味の一つと言われる「淡味」の役割に深く共感したりする。本当に色々な気付きを与えてくれ、最後に「ああ、日本に生まれて良かった」と思えた。
 
撮影当時以上に今は和食離れが進み、和食を守る職人たちが廃業せざるをえない状況を招いているという話も含めて、柴田監督に、持ち込み企画からスタートした本作の狙いや、撮影や調査を通じて得た気付き、和食の原点のお話を伺った。
 

 

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━━━前半のだし編はネイチャードキュメンタリー、後半のしょうゆ編は科学ドキュメンタリーのようでしたね。
春日井康夫カメラマンは、このプロジェクトで初めて一緒に仕事をしたのですが、前作の『森聞き』を見てくれ、すごくいいから一緒に仕事をしたいと連絡をくれた人なのです。普段は自然を撮ることが多い人なので、面白いコラボレーションになったと思います。ベーシックにはネイチャードキュメンタリーですね。この撮影のときは最後の7,8ヶ月は京都に家を借りて撮影していたのですが、食を扱いながら、その向こうにある自然をどう撮ろうかと、ずっと考えていました。
 
━━━そもそも柴田監督がだしやしょうゆに興味を持ったきっかけは?
一番自分が興味を持っていたのは椎茸だったんです。『森聞き』を撮った後、クニ子おばあちゃんのもとに1年間住み込みながら、クニ子おばあちゃんのテレビドキュメンタリーを作りました。焼き畑は元々やりたかったテーマで、環境破壊だと悪者扱いされていますが、実際にどういう知恵があるのかを見たいと思ったのです。僕の映画の師匠は姫田忠義さんなのですが、姫田さんも「焼き畑は大事だと」おっしゃるし。森の一年を撮る中で、森の循環はキノコなのだと気がついたんです。キノコがあるからこそ、森の中で次の10年、20年があるというサイクルが面白いじゃないですか。
 
 
━━━今回椎茸の話も出てきますが、そこに一番興味を持っていらしたのは意外でした。
椎茸は400年前までは滅多に取れないものだったらしく、椎茸は超貴重で見つけたらお代官様に献上しなければいけないものだったのが、たまたま焼き畑をやったり、杉焼きをやっている作業の中で鉈に芽が入っているのに気づいた人がいた。そこにどんどん工夫を重ねていった訳です。あの方法が発見されたのは江戸時代初期なんですよ。きちんとそういうことを発明した人がいたということを膨らませたかった。今まで焼き畑とキノコを一緒に語った人は誰もいなかったと思います。
 

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━━━だしとしょうゆのドキュメンタリーというのは、監督の持ち込み企画だったのですか?
日本のドキュメンタリーはなかなか海外で見てもらえない現状があります。小川紳助さんは別格ですが、NHKのドキュメンタリーでも全く相手にされませんし、僕が作ったドキュメンタリーをヨーロッパで見てもらえることがほとんどない状況でした。2011年12月にインディペンデントの制作者集団が、世界のプロデューサーたちを30人ぐらい招致し、企画をプレゼンテーションを行う東京TVフォーラム(2013年12月から東京DOCSに改名)を始めたのです。ヨーロッパはテレビと映画の敷居が低いので、フランスやサンダンスの財団の方等助成金を出す人の前で私もプレゼンテーションを行った結果、助成対象に選ばれました。
 
 
━━━海外のプロデューサーに評価されてスタートした企画とのことですが、日本のプロデューサーと違う部分や、やりやすさはいかがでしたか?
そのときに面白いと評価してくれたのがフランス人だったのですが、すごく地味なテーマなので、日本のお祭りの映像とか、エキゾチックな映像を入れた方がいいのかと思い、そのフランス人のプロデューサーに一度聞いたことがありました。すると「エキゾチズムはいらない」と明快に言ってくれたんです。「例えば整備された風景がきれいだというのは、みんな自然を支配しているのだ。君がやろうとしていうのは、それとは違う自然感だろう?人間と自然の境目がないものを撮ろうとしているのだったら、そこに踏み込んでやるべきだ」。なかなかこういう風に言ってくれるプロデューサーは日本ではいないです。とても本質的なことを言われたので、そこに集中することができました。迷わず専念できる環境だったです。
 
 

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━━━京都の旧家で泊まり込んでの撮影だったそうですね。
しょうゆ編を主に京都で撮影したのですが、カビを撮るのは結構大変なので、京都大学の先生にセカンドハウスを貸していただいて、一室は真っ暗のまま28度にして、カビを生やしながら、隣にベッドを置いて常に撮影しました。
 
 
━━━種麹屋さんの代々菌を守ってきた努力に目を見張りました。
助野さんたちはものすごく研究をしていて、お米のレントゲン写真も持っています。同じ麹菌アスペルギルスオリゼもいろいろな種類や性質があり、それを持っているわけです。遺伝子情報だらけのものを売って、商売あがったりにならないのかとよく聞いたのですが、性質を守るのが大変だから、大丈夫だとおっしゃっていました。日本酒屋が健全で、しょうゆ屋がいきいきとしている限りは大丈夫だと。一番問題なのは、日本酒を飲む人が減っているし、化学調味料がでてきていることですね。そういうことが一番種麹屋さんを厳しい状況に追い込むのです。
 
 
━━━鰹節作りの職人、今給黎さんのところも足しげく通われたのですか。
そうですね。ただすごく残念なことに、今はあの本枯節を作れなくなってしまいました。原料が値上がりをするけれど、売値は変わらず、それだけでは生活が成り立たなくなってしまったので、本枯節は少量しか作らず、もう少し手間がかからない鰹節にシフトしてしまっています。
 
 
━━━是非、手間暇かけた琥珀色の本枯節を削ってみたかったのに、残念です。
問屋さんからも情報を得ていたのですが、よく「和食が世界遺産だと言うけれど、過去の遺産だ」と言われていました。しょうゆ屋さんも小さなその土地ごとの味を大切にしているところは、本当に経営的な部分でギリギリのところで踏ん張っていらっしゃいます。澤井さんも、廃業しようと思っておられたところで、機械がなにもなく、本当に昔ながらの作り方しかできないところに出会った訳です。
 

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━━━お寺のエピソードで紹介されている「淡味」は人にも国の姿勢にも当てはまると思いました。この淡味を含めた「六味」を紹介しようと思ったのはなぜですか?
道玄が1237年に記した「典座教訓」で、食事はとても大事だと説いています。最初は食なんて大したことがないと思っていた道元が、学問を極めようと中国に留学したところ、道元が持参した、当時は貴重品の椎茸をきちんと調理したいと現地の名僧に言われたそうです。なぜそんなに椎茸が大事なのかと道元が聞くと、「食は日常の様々な物事の中でもっとも大事なことの一つ。食をおろそかにして何で頭でっかちの思想を唱えられるのか」と言われ、その中にでしゃばらない、そのものはすごく主張はしないけれど、すべてのほかの要素のものを調和させていく「淡味」というものがあったのです。ドキュメンタリーづくりも、人から聞く一方、こちらはベースを作っていくわけで、淡味的な要素がありますね。
 
 
━━━なるほど、曹洞宗大本山總持寺での食の修業は、和食の思想の原点を見た気がします。
禅寺の話がなかったら単なる食材の話になってしまいます。人が自然を利用しているという話はできますが、その奥にある理念を伝えたい。常に自己主張したがるヨーロッパの人たちに向けて、そうではない発想の人たちが生み出したということも伝えたかったですよね。最初から、これはやりたかったことでした。
 
 
━━━最後に、お母さんが自分で削った鰹節からだしをとって、赤ちゃんの初めての離乳食を食べさせているシーンは、自分がそこまでこだわれなかった分すごく驚いたし、希望が見えましたね。
築地の鰹節問屋さんが教えてくれたのは、「鰹節の売れ行きはあまりよくないけれど、たまに和食に興味のあるお母さんが買いに来てくれるんだよ」と。今多くの子どもは朝がパン食、昼の給食がパン、夜にはパスタみたいな食生活で、煮物なんて食べない子どももいるそうです。このままでは、鰹節屋さんもしょうゆ屋さんも、椎茸づくりも減ってしまいます。椎茸づくりをやめてしまうと広葉樹がなくなってしまいますから。そういう状況の中で、食に関心の高い若いお母さんは、まさに作り手にとって希望なのです。(江口由美)
 


 
<作品情報>
『千年の一滴 だし しょうゆ』
(2014年 日本・フランス 1時間40分)
監督:柴田昌平 
出演:藤本ユリ、三浦利勝さん一家、今給黎秀作、坪川民主、椎葉クニ子、澤井久晃、大野考俊、助野彰彦、福知太郎、加藤宏幸他
語り:木村多江(「だし」)、奥貫 薫(「しょうゆ」)
2015年2月21日(土)~第七藝術劇場、2月28日(土)~神戸アートビレッジセンター他全国順次公開。
※2月21日(土)10:30 / 12:40ともに柴田監督、澤井久晃さん(本作出演者・京都の醬油職人)トークイベント 「枯れ木に花を咲かせましょう!」 
 2月22日(日) 10:30 / 12:40ともに柴田監督+山中政彦さん(鰹節問屋・大阪鰹節類商工業協同組合) トークイベント「さまざまな鰹節の違い」試食あり
 
 
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