～こんな魔法が使えたなら、あなたは何をする？サエない中年男に訪れたビッグチャンス！～

『オズの魔法使い』の靴はかかとを３回打ち鳴らすと家に帰してくれたけど、現代の靴職人が作る魔法は―― なんと靴の持ち主に大変身できるのだ！

四代続く靴修理屋のマックスは「もう辞めよう」とこぼしながら退屈な日々を送っていたが、ある日偶然見つけた魔法のミシンのお陰で人生の大転換を迎える。嘆いてばかりでは前には進まない。いろんな人に成り済ますことで視野が拡がり、自分自身の可能性にも気付いていく。マックスが街の存続にかかわるような事件に巻き込まれながらも活き活きとしていくのを見ていると、人生を挽回するのに遅すぎることなんてないんだと思えてくる。

初めてニューヨークを訪れた時とても懐かしい気がしたが、それほどなじみ深い街の下町が本作の舞台となっているのが嬉しい。しかも、先祖代々ユダヤ人のコミュニティで圧力勢力に対抗するために使われてきた秘密の力が、現代の悪漢をも撃退して街を守る痛快さがいい。靴修理屋マックスには、トーマス・マッカーシー監督が充て書きしたというアダム・サンドラーが。彼の地味に抑えた演技と、マックスを見守るスティーブ・ブシェミやダスティン・ホフマンや敵役のエレン・バーキンなどベテラン勢の存在感が、ファンタジックな物語を落ち着いた人間ドラマに仕立てている。

 【ＳＴＯＲＹ】
ニューヨークのロウアー・イーストサイドで靴修理屋を営む４代目のマックス（アダム・サンドラー）は、数十年前父親（ダスティン・ホフマン）が突然姿を消して以来、何事にも消去的でいまだに独身。退屈な日々を嘆きながらも年老いた母親の面倒を看ていた。唯一彼を気遣うのは隣りの散髪屋のジミー（スティーヴ・ブシェミ）だけ。世間話したり季節の食べ物を差し入れてくれたりと、マックスにとっては父親代わりのような存在だ。

ある日、ギャングのクリフが靴の修理を依頼するが、あいにくミシンが壊れてしまい、地下倉庫に眠っていた古いミシンを引っ張り出して使う。仕上がりを見ようと試し履きしてみると、どうだろう？自分がクリフに変身しているではないか！驚いたマックスは他の靴でも試してみると、同じように変身できる。そこで、その靴の持ち主に成り済まして街へ繰り出すことに。中国人になってチャイナタウンに繰り出し特別扱いを受けたり、イケメンのエミリアーノ（ダン・スティーヴンス）に変身して彼のアパートへ行くと同棲中のブロンド美人のセクシーモーションを掛けられたり、クラブでは逆ナンパされたりとか、それはそれは刺激的な体験に興奮するマックス。

そこで、年老いた母親のために父親に変身して特別な夜をプレゼントする。ところが、翌朝母親は幸せな寝顔のまま昇天してしまう。その負い目もあり、世の中に役立つことを目指して、以前から気になっていた地域活動家のカーメンの手伝いをすることに。立ち退きを強制されている独居老人を救うため、不動産業界の女王グリーナウォルト（エレン・バーキン）と闘うことになる。勿論、色んな人物に変身して……。

ロウアー・イーストサイドのあちらこちらで撮影されている本作は、同地区にオフィスを構えるトム・マッカーシー監督と共同脚本のポール・サドらしい街への愛着が感じられる。世界中から新しい才能が集まる眠らない街ニューヨークだが、こんな都市伝説のような魔法があっても不思議ではない。『裸足で散歩』や『ニューヨーク恋物語』『マンハッタン』など枚挙に暇がないほど、今まで多くの映画という魔法で私たちを幸せな気分にしてくれたのだから。

（河田 真喜子）

公式サイト⇒　http://kutsushokunin.jp/

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