「中国」と一致するもの

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『草原に黄色い花を見つける』ヴィクター・ヴー監督インタビュー
 

~80年代後半ベトナム、瑞々しい映像で紡ぐ子ども時代と初恋の苦い思い出~

 
緑溢れる大地と穏やかな川に囲まれた、牧歌的なベトナムの村が冒頭からスクリーンに広がり、一気に作品の世界に誘われる。1980年代後半のベトナムの村を舞台に、貧しくも家族が揃って暮らすティエウとその弟、そして父親と住む幼馴染のムーンの瑞々しい初恋や村のエピソードを描いた『草原に黄色い花を見つける』。
 

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ベトナム映画界で今やヒットメーカーとなっているアメリカ生まれのヴィクター・ヴー監督が、ベトナムのベストセラー作家グエン・ニャット・アインの原作を映画化、子どもたちの視線で当時のベトナムの人々の暮らしや、子どもたちの世界を繊細に描写し、心に響く感動作を紡ぎ出した。電気もコンピューターもない村での素朴な遊びの風景や、村に出ると噂の幽霊話、弟と仲の良いムーンに嫉妬した主人公ティエウの自己中心的な行動など、懐かしさとほろ苦さが思わず込み上げる。今、勢いが著しいベトナムから生まれた、心の故郷を思い出すような作品だ。
 
大阪アジアン映画祭2015で日本初公開されたときは撮影のため来日が叶わなかったというヴィクター・ヴー監督が、今回はキャンペーンで来阪。本作への思いや、現在準備中の作品についてお話を伺った。
 

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■私のキャリアの中で、人間の気持ちや心の動き等の感情面を深く掘り下げる作品を作る時期が来たと感じた。

―――本作を撮ることになったいきさつは?
何年も前にプロデューサーが脚本を持ちこんでいた企画でしたが、その時は私自身のタイミングが合わず実現せずに終わりました。その後再び脚本が持ち込まれた時に原作を読んでみると、感情描写が繊細で、深く感銘を受けました。私には弟がいるのですが、子どもの頃を思い出し、まるで自分の話のように感じられたので、この話を映画にしたいと思いました。今まで作っていた映画とは全く違う傾向の作品ですが、人間の気持ちや心の動き等の感情面を深く掘り下げるものになると思いましたし、私のキャリアの中で、いよいよそのような作品を作る時期が来たのだと感じたのです。
 
―――それまではエンターテイメント作品が多かったようですね。
私の一番好きなジャンルはスリラーです。その範疇で、コメディーやアクション、ホラーなど作ってきました。どちらかと言えば技術面に凝った作品を作ってきたのですが、今回は心を開放し、人間の思いを描きだすことに魅力を感じた訳です。

 

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■自分が体験できなかったベトナムでの子ども時代や、代々引き継がれてきたベトナムの伝統に近づく。

―――監督はアメリカで生まれ育ったベトナム人ですが、自分の原点に戻る狙いがあったのでしょうか?
多くの映画人が自分たちの故郷に関する映画を撮りたいと思っていますが、ベトナムではプロデューサーがいない、資金調達が難しい、劇場公開しても興行成績が思うように伸びないなどの理由から、なかなか撮れないのが現状です。私自身は幸運にもこの作品を作ることができました。ただ子ども時代をベトナムではなくアメリカで過ごしているので、本で読んだりしながら知っていき、自分が体験できなかったベトナムでの子ども時代や、今まで代々引き継がれてきたベトナムの伝統に近づけた気がします。
 
―――作品の舞台になった80年代後半のベトナムについて、様々なことを調べる必要があったのですね。
とても有名で、ファンの多い作品ですから、それを映画化することにプレッシャーはありました。また外国育ちの私が、真にベトナム的なこの作品を作れるかに不安もありました。ですから、とても細かいところまでこだわりました。衣装やセットだけでなく、音楽もベトナムらしいものを採用しています。
 
 

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■原作のエッセンスは子どもたちの無垢な心、子どもの視点でみた世界。

―――プレッシャーが大きかったとのことですが、その中で特に描きたかった部分や、原作に付けくわえた部分はありますか?
原作者のグエン・ニャット・アインさんにお会いした時、「映画は映画、本は本なので、本と同じような映画にしなくてもいい」とおっしゃって下さり、私もホッとしました。原作から絞る作業をする際には、心の動きや子どもたちの感情面にフォーカスしました。ストーリーを追うだけでなく、この原作のエッセンスに光を当てる作業だったのです。そのエッセンスというのは子どもたちの無垢な心であり、子どもの視点でみた世界です。それを伝えるために俳優たちの演技だけでなく、シンプルだけど伝わる会話や、周りの景観を大事にするようにしました。
 
―――子どもたちの日常描写で、ゴム飛びや凧揚げ、石投げなどの昔懐かしい遊びをする様子が多く描かれているのも本作の見どころですが、監督ご自身はこのような遊びを小さい頃にしたことはあるのですか?
私自身の子ども時代にはどれも体験したことのないものでした。セットを作りながら、昔のベトナムの遊びや生活を学んだ部分が大きかったです。例えば子どもたちが着ているシャツなども、今売られているような新しい素材のものではスクリーンで観たときに感触が違うと感じ、当時のものに見えるように作り直したりもしました。
 
―――作品で重要な役割を果たす詩集は、原作でもあったものですか?
『愛の詩集』は原作でも引用されているとても有名なものです。現物を入手できたので、映画にも登場させました。映画の最後の部分は私たちが創作しました。ティエウが成長して大人になり、改めて詩集を読みなおすことで、ムーンの本当の気持ちが分かるという意味があります。最初読んだときには全然意味が分からず、ムーンと仲の良い弟に嫉妬したり、ムーンを突き放したりしますが、最後に自分のことがずっと好きだった事を知り、にっこりと笑うのです。ムーンの方が詩のことを最初から理解していた訳です。
 
 

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■毎日の生活がより素朴で、人々の生活がより近くに感じられる時代があったことを感じてもらいたい。

―――日本でも昔あったモーターサイクルサーカスが登場し、このサーカスは世界共通なのかと思いましたが。
モーターサイクルはベトナムでも人気がありました。映画に出演しているのはベトナムで最後のモーターサイクルサーカスです。ご夫婦でされていたのですが、この映画の出演を最後に引退されたそうです。
 
―――モーターサイクルサーカスも含めて、時代の終わりを象徴するような狙いもあったのでしょうか?
小説の原作者がどう考えていたか分かりませんが、原作もムーンが引っ越すところで終わります。ムーンは現代に移っていくけれど、兄弟たちは村に取り残される訳で、毎日の生活がより素朴で、人々の生活がより近くに感じられた時代があったことを感じていただけるでしょう。
 
―――全体的にベトナム戦争の影をほとんど感じない中で、ダン叔父さんだけは戦争で負ったと思われる右腕のない姿でした。ダン叔父さんを描くにあたって、どのような思いを込めたのですか?
原作にも戦争の影はありませんし、原作者も意図したことだと思います。ダン叔父さんの存在は、村から疎外されている可哀そうな人のように映るかもしれませんが、ご覧のとおり、とても楽観的に描かれていますし、兄弟の両親よりもポジティブ思考な存在なのです。
 
 

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■自分の民族や文化の映画を作り、世界の観客に観ていただける可能性を日本映画から感じた。

―――日本映画には、どのような印象がありますか?
アメリカで育ったので、アジア映画を観る機会はあまりありませんでしたが、中国と日本の映画は観ていました。私が一番影響を受けた映画監督はヒッチコックですが、黒澤明監督も私の師と言えます。大学でも日本の古典的な映画をたくさん鑑賞しましたので、影響を受けたと言えますし、自分の民族や文化の映画を作り、ベトナムの人たちだけでなく、世界の観客に観ていただける可能性があることを感じました。
 
―――次回作はエンターテイメント作に戻るのでしょうか?
2作品がポストプロダクション中です。私自身の映画作りの姿勢としては、エンターテイメント作品とか商業作品と分けて考えるのではなく、自分にインスピレーションを与えてくれる作品を作るようにしています。1本目は『Lôi Báo(ロイバオー)』というアクションスリラーです。『草原に黄色い花を見つける』が自分の文化的ルーツへの回帰作とすれば、『ロイバオー』は生まれ育ったアメリカ的な作品です。2本目は『The Immortal(ザ・インモータル)』で、超自然的、オカルト的な作品です。ただ単なるスリラーではなく、『草原に黄色い花を見つける』の経験に基づき、ベトナムの歴史や文化を掘り下げる側面もあります。時代設定は百年ほど前のフランスの植民地時代で、撮影はベトナムの北部から南部まで広範囲に渡り、苦労も多かったですが、今まで私が作った中で一番美しい映画になりました。

 

■ベトナムの観客は、物語の中に自分を投影できる作品を待っていた。

―――今までエンターテイメント作品がヒットしていたベトナムで、本作は若い観客たちに受け入れられたそうですが、そのことがベトナム映画界にどんな影響を与えたのでしょうか?
この映画が公開された年、ベトナム映画の中で興行第一位に輝きました。ベトナムの若者たちはエンターテイメント作品に慣れていたので、この結果に皆驚きましたが、ベトナム映画界全体にとって、このように人間の感情を取り上げるような作品、観た人が物語の中に自分を投影できる作品を待っていたことが証明されたと思います。
(江口由美)
 

<作品情報>
『草原に黄色い花を見つける』(2015年 ベトナム 1時間43分)
監督:ヴィクター・ヴー
原作:グエン・ニャット・アイン
出演:ティン・ヴィン、チョン・カン、タイン・ミー、マイ・テー・ヒエップ他
2017年9月16日(土)~シネマート心斎橋、今秋~京都みなみ会館、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://yellow-flowers.jp/  
(C) 2015 Galaxy Media and Entertainment. All rights reserved.
 

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skiptrace-ivent-550.jpg『スキップ・トレース』公開記念イベントin道頓堀
 

道頓堀に突如ジャッキー・チェンが?
 爆買い中の中国人も思わず二度見!

 
『酔拳』『プロジェクトA』『スパルタンX』『ポリス・ストーリー/香港国際警察』『ラッシュアワー』『ベスト・キッド』『ライジング・ドラゴン』など、全てのジャッキー・チェン出演作品を越え、ジャッキー映画史上最高のオープニング記録を樹立(4日間オープニング週末興収約6,000万ドル)し、新たなジャッキーアクションで世界を魅了する、ジャッキー・チェンの最新作『スキップ・トレース』が9月1日(金)に公開を迎えます。公開を迎えるにあたり映画のキャンペーンを下記日程にて実施致しました。ジャッキー・チェンのそっくりさん・モノマネ芸人のジャッキーちゃんを起用してのイベントの模様をご紹介いたします。


【『スキップ・トレース』公開記念イベント 開催概要】

日時:8月9日(水)15:00~    
会場:TSUTAYA EBISUBASHI 6F
ゲスト(敬称略):ジャッキーちゃん


    skiptrace-ivent-500-1.jpgさすが観光地・道頓堀、若い方々からスーツ姿の社会人のお客様にもお越し頂いた会場。ステージに「コンニチハ。アー・・・ドー、トンボリのみなさん、ハジメマシテ!ボクハジャッキーちゃんデス!ドウゾ、ヨロシクオネガイシマス!」とカタコトな日本語の挨拶と共にジャッキーさながらの颯爽とした身のこなしで登壇したのは本作の主演ジャッキー・チェン…ならぬ、ジャッキー・チェンのそっくりさん・モノマネ芸人のジャッキーちゃんだ。

早速十八番のモノマネである、“セリフを間違えた時のジャッキー・チェンのリアクション”、“拳が痛いジャッキー・チェン”のモノマネを披露し、会場のお客様を沸かす。


 【質疑応答コーナー】
Q先日、映画のPRの企画でジャッキー・チェンご本人と実際にお会いし、インタビューされたとのことですが、その時はどんな話をご本人とされたんですか?また、ご本人に対する印象はどうでしたか?
ジャッキーちゃん:ネタヤッテタ、ソシタラ、ジャッキーガ部屋ハイッテキタ!ジャッキー?アクシュシタ、モウ、超ハッピー! ジャッキーハ「映画ハ映画館デ観テネ!」ッテ言ッテタ。アト、「昔ノ僕ニ似テルネ。」ッテ言ッタ!デモ誰モ(その様子を)撮ッテナイ、証拠ガナイ…マタ会イニ行ッテ、ソノ言葉聞キマス。

Qジャッキー・チェンご本人とお会いした際のインタビューがインターネットやニュースで紹介されたそうですが、周りの方々からの反響はいかがですか?
ジャッキーちゃん:電話・メール、イッパイ来タ。「夢叶えたね。」ッテメールガイッパイ来タ!

Q凄くクオリティの高いパフォーマンスで、ジャッキー・チェンさんのことをよく見ているというのが伝わってきますが、いつからジャッキー・チェンさんのファンなんですか?
ジャッキーちゃん:小学2年ノ時ノ『蛇拳』ノ頃カラ。デモ、自分デハ、ジャッキーニ似テルッテオモッテナイ。周リガ言ウダケ。昔、六本木ト渋谷ヲ歩イテイテ、「おー!ジャッキー?!」ッテ言ワレタ。渋谷、人多イ、怖イネ。

Qジャッキー・チェンさんのパフォーマンスをやっていて、良かった!と思うことは何ですか?逆にもしあれば悪かったことや損したことはありますか?
ジャッキーちゃん:僕ノ(出演している)TV(番組)ヲ観テ、ジャッキー・チェンノ映画ヲ観テクレル人ガ増エタ。ソレガ僕ノ目的、ダカラ、トテモ良カッタ!!嫌ナ事ハ…CM・ドラマ・オーディション、ダメ!全部落チル事!(笑)ジャッキー・チェン役ダケ!


【ジャッキー・チェンにやってほしいこと、代わりにリクエスト】
skiptrace-240-1.jpg会場のお客さんの中で、例えば2ショットでの撮影、握手、ハグなど何でも、ジャッキー・チェンご本人にしてもらいたいことを、今日はジャッキーちゃんさんがやってくれるそうです!何か希望のあるお客様おられますか?」とのMCからの問いかけにジャッキーのファンだという男性から「ジャッキーとアクションをしたい」とのリクエストが。

⇒ジャッキーちゃんは笑顔で男性をステージに上げ、パンチとキックの動作をレクチャー。男性のパンチに合わせてバク宙で吹っ飛び、本物のジャッキー・チェンの如く、思い切った大胆アクションと身のこなしでその場に倒れ込んだ。

ジャッキーちゃん本気の全力ド迫力アクションに会場からは「凄~い!!」という多くの驚きの声と拍手が。リクエストをした男性も大足の様子であった。

そして今回、最新作の『スキップ・トレース』についてのネタも用意して来た!と“ロシアマフィアに追われるジャッキー走り”、“股間を蹴られて痛がるジャッキー”、“エンディングのNGシーンから、アクションをミスしておちゃらけるジャッキー”というモノマネを連発で披露。新作モノマネでも観客を大いに笑わせ「ジャッキーチームデ作ッタスゴイ映画!コノ映画待ッテタ、エンターテインメント、107分ノンストップデ飽キナイ!皆サン、ドウゾ劇場デ観テ下サイネ!」と本作の魅力をたっぷり伝え、ステージを後にした。 

またイベント終了時には道頓堀のグリコの前でポーズを取り、本作のPRを実施。さすがジャッキー本人お墨付きというだけあり、本人さながらのビジュアルや一挙手一投足。大阪・ミナミを行く観光客からはシャッターの嵐!大変な注目を浴た。大阪らしいとても賑やかで笑いの絶えない明るいイベントとなった。


 【ジャッキーちゃん…本名:栄島 智(えいしま さとし)】

skiptrace-240-2.jpg<主要出演実績>
■2017年
映画宣伝『レイルロード・タイガー』ジャッキー・チェン主演
映画宣伝『スキップトレース』ジャッキー・チェン主演
バラエティ『ウチのガヤがすみません!』日本テレビ

■2016年
バラエティ『しゃべくり007 新春特番』日本テレビ
バラエティ『ものまねグランプリ』日本テレビ


7月25日にジャッキー・チェンの最新主演映画「スキップ・トレース」のPR動画撮影のために、ものまねネタを披露していたジャッキーちゃんの前に、本人が登場するというサプライズ企画で、初めてジャッキー・チェン本人と対面したと話題に。2人の対談の模様は7月29日よりTOHOシネマズアプリにて公開中。また2人が対面した時の映像を全国のTOHOシネマズ「スキップ・トレース」上映劇場のスクリーンにて公開日の9月1日まで上映中です。


 skiptrace-logo.jpg『スキップ・トレース』
■Skiptrace 2016年/アメリカ・中国・香港合作/107分
■監督:レニー・ハーリン  
■出演:ジャッキー・チェン、ジョニー・ノックスヴィル、ファン・ビンビン
■提供:カルチュア・パブリッシャーズ KADOKAWA  配給:KADOKAWA  
■(C) 2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD. & DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト⇒ http://skiptrace-movie.jp


   2017年9月1日(金)~全国ロードショー


 (オフィシャル・レポートより) 

『逆行』 - 映画レビュー

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~二人が語り尽すラトビアロケの舞台裏と、オリジナリティーに満ちた作品の魅力~

 
神戸と北欧ラトビアの首都、リガの2都市を舞台に、桃井かおりとイッセー尾形がアレクサンドル・ソクーロフ作品『太陽』(05)以来久々の共演を果たす『ふたりの旅路』が、6月24日(土)からユーロスペース、丸の内TOEI他、7月15日(土)から神戸国際松竹、第七藝術劇場他で順次公開される。
 
監督はラトビア出身のマーリス・マルティンソーンス監督。大阪アジアン映画祭2011のコンペティション部門作品として紹介された『雨夜 香港コンフィデンシャル』で初タッグを組んだ桃井かおりが、『OKI-In the middle of the ocean』に続き3作目となる本作で、イッセー尾形に出演を打診。結婚直前の娘を事故で、ほどなく震災で夫を亡くし、一人神戸の街で生きてきた主人公クミコの夫役として羽織袴で登場する。おとぎの国のように美しい街並みの中、着物ショーに出演するためにラトビア・リガを訪れたクミコに訪れる夢のような出来事に思わず惹きこまれる人生讃歌。異国の地で止まっていた時が動き出すかのように、自らの体験を語るクミコや、夫との思わぬ”夫婦喧嘩“など、桃井かおりとイッセー尾形だからこその名シーンの数々も見逃せない。
 
神戸でのプレミア上映前に神戸市役所で行われた記者会見では、ラトビアでのプレミア上映を終えて戻ったばかりという主演の桃井かおりさん、イッセー尾形さんが、劇中の黒留袖と羽織袴姿で登場。映画の中の夫婦さながらの和気藹々とした雰囲気の中、次から次へと撮影での思い出が沸き上がってくる、温かい時間となった。マーリス・マルティンソーンス監督と3作目になる本作で、初めて日本との合作が実現。名優たちも参加し、意気込み十分のお二人が熱い思いを語った記者会見の模様をご紹介したい。
 

■ラトビア・リガの街を挙げての撮影に感慨。震災の被害に遭った主人公の心がどうやって立ち直るのか、失くしてしまった愛しい人の思い出は進化しないのかを伝える上質な映画になった。(桃井)

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―――まずは、一言ずつご挨拶をお願いします。
桃井:マーリス・マルティンソーンス監督とは本作で3作目ですが、やるたびによく分からない台本で、よく分からないまま終わります。でも、出来上がると「こういう映画は言葉で打合せをしても何も分からないのは当たり前。やってみないと分からない作品を作る監督だな」と納得し、今回は特にその思いが強かったです。日本の俳優で出演するのが私ばかりではつまらないし、そろそろもっといい俳優を(ラトビアに)紹介しなければと思い、イッセー尾形さんに出ていただこうと無理やり引きずりこみました。
 
ラトビア・リガという街をフルに活用させていただき、ストーンブリッジという一番大きな橋も撮影のため閉鎖しましたし、夜中市庁前を貸し切ったり、旧市街は自由に使えました。私が出演したハリウッド映画よりも大規模で、国中が動いているような素晴らしい撮影をさせていただけました。私も昨日初めて出来上がった作品を観て、非常に面白かったです。イッセーさんとも同じぐらいのレベル感でいい映画だねと話をしたところです。記者会見の時にちょっと気に入っていない映画だと本当に辛いのですが、良かったよねと。
 
本当に品の良い上質な映画ですし、笑えますし、私は神戸の震災に遭った女性を演じているので、そのあたりの心境もきちんと伝えたいという気持ちもありました。福島や津波の被害に遭われた方もそうですが、ちゃんと生活は立ち直っても、心はどうやって立ち直るのかという問題。失くしてしまった愛しい人の思い出も失くしてしまわなければいけないのか。思い出は進化しないのか。お化けと一緒に思い出を作る話でもありますから、本当にオススメできる映画になりました。
 

■かおりさんと二人さえいれば、どこでも世界を繰り広げられるという確信があった。(尾形)

尾形:桃井かおりさんとは、30代の頃から舞台で共演しており、日本、ドイツ、イギリスでもやりましたし、映画もロシア・ペテルブルグで『太陽』を撮りましたし、言うなれば、「二人さえいれば、どこでも世界を繰り広げられる」という確信がありました。台湾で『沈黙』を撮影していた時に、かおりさんから「映画をやらないか」と連絡が来て、すごいタイミングだな、縁だな、戦友だなと色々なことを思いました。そのときストーリーはまだ聞いていませんでしたが、何であれ大丈夫だろうと。リガは夢のような、ファンタスティックな街で、羽織袴(イッセー尾形さん演じるクミコの夫の衣装)を着て歩くだけで本当に気分がいいんですよ。「お前は誰?誰でもない!」みたいな感じで、あんな自由を味わったのは生まれて初めてです。
 
台本はあるけれど、それを横に置いて好きにやってもいいと言ってくださる太っ腹な監督で、本当に好きにやったんですよ。それがほぼノーカットで映っていたので、監督の太っ腹さと、根性にビックリしました。その部分がこの映画の柱になっていましたね、自画自賛ですが(笑)。この映画は本当にオリジナルな世界が出来ており、「このような映画です」と例えられるものではない。震災の話や、その思い出という話も出てきますが、僕とかおりさんが出てくると、一つのカップルの日常が作れる。「日常に勝るドラマチックなものはないな」というのが一番の感想ですね。

 

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■イッセーさんは演じながら戯曲が出来ていく天才的な俳優。現場の力を信じている。(桃井)

意味ではなく、イメージ、感覚、五感が大事な映画。かおりさんは、この映画で人生の選択の可能性のドアを全て少しずつ開けていく。(尾形)

―――何度も共演されている桃井かおりさんとイッセー尾形さんですが、お互いにここが素晴らしい、もしくは個性的と感じる点は?
桃井:イッセーさんは、自作のお芝居(二人芝居など)をされるとき、最初は台本がなくやりながら戯曲が出来ていくのですが、それがとても哲学的かつ即興的で、ちょっと天才的なところがあります。そういう俳優さんは日本でも海外でもいらっしゃらない。そのセンスの高さと、現場の力を信じているところや、監督がなんと言おうと、出ないものは出ないと言える。俳優が作っていく力をイッセーさんと一緒にいると味わえるのです。だから海外の作品に出演しても大丈夫なのは、私が一番良く知っています。
 
この作品の現場でも、ただ道を歩くシーンで、台詞は一応作ってあるけれど尺が足りないんですよ。ある時「(台詞を)言っても、言わなくてもいいんだよ」と言われて、私も思わず「言わなくてもいいんですか?」と聞き返すと、「言いたくなったら言えばいいんじゃない?」と。夜のシーンでしたから、影や寒さを全部感じている中、ただ歩いていてもいいかなと思う。そういう判断も入れながら撮っていきました。監督から「ここでしゃべっていてください」と言われたら、即興でしゃべっていきますし。クミコがリガのお料理番組で出演するシーンで、私は一生懸命おにぎりのエピソードを長々としゃべっているのですが、監督は私が何をしゃべっているか分からなかったんですよ(笑)。
 

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尾形:意味ではなく、イメージであったり、感覚であったり、五感であったり、それが大事な映画なのです。言葉が分からないから監督抜きで、二人で作っていったのではなく、監督がいないと出来ない。というのも、僕たちは監督に観てもらいたくて芝居をしていたり、カメラマンにこの即興を投げかけて、彼らがそれを意味ではなく別のセンサーで感じとり、もう1テイク撮ったり、別の動きをしてみたり、様々なアイデアが出てくる。そうやってキャッチボールをしながら作っていくのです。
 
リガはとても不思議な街で、おとぎ話に出てくるようなお城があり、昼間はカッと照るのですが、闇とのコントラストがくっきりしており、夜になると真っ暗な中に店の照明が幻想的に浮かび上がる。「ここをこうしてやろうか」という演技上の邪な考えが消え、浄化されていく中でかおりさんと出会う訳です。かおりさんもそうですが、僕も自分で思ってもみないようなものが出ていました。
 
桃井さんの素敵なところについて一つ例え話をすると、生きている時は色々な選択肢があり、一つ一つ選択しながら皆人生を過ごしていく訳ですが、かおりさんはこの映画で可能性のドアを全部少しずつ開けていくんですよ。ちょっとずつ顔を覗かせて、その表情が万華鏡のように変化するところが素敵だなと思いました。

 

■ラトビアの人の強さにハッとさせられ、神戸と二つの都市で撮る映画は、いい大人のおとぎ話を作れる気がした。(桃井)

―――震災を経験した女性を演じるにあたり、どのような役作りをしたのですか?
桃井:以前の映画もそうですが、ずっと気になっていたことでした。例えば「4年経って、やっと涙が出た」とか、現実的な時間を止めて、元気になるためならどんなことでもしようと、やっと元気になったのだけど、どうしても喪失感が消えない。時間は止まっているけれど、生活は続いていくことを感じながら演じていこうと思いました。ところが、撮影を始めると時間は止まっているだけど、場所は移動して、距離はどこにでも飛んでいける女性になっていたのです。そうすると、嘘でも本当でも(亡くなった夫が)いてくれればいいとか、イメージさえあればいいとか、色々なことを撮りながら体験していきました。
 
ラトビアという国は独立してから20年強。神戸の震災と同じぐらいの時間しか経っていません。独立するまで色々な国に占領されてきた小国ですが、最後にはバルト三国は国境で、パン屋からおじいさん、子どもまでが手をつなぎ、戦車が迫ってきても、手をつなぎ続けたのです。結局戦車もひき殺すことが辛くなって引き揚げ、独立を勝ち取ったという無抵抗の勝利を収めた人々がいる国です。不条理な歴史を抱えており、ドイツに侵攻されればドイツ語を話せるようにし、ロシア語も話せるようになっています。マーリス監督と最初に香港で仕事をしたとき、中国語が全然分からないのに、全く困っていなかった。辛抱強い面も含めて、何だろうこの強さはと感じました。ちょうど、日本が地震など自然と闘わなければならなかった時に、ラトビア人の強さを見ていると何か生き延びることができるのではないかと強く思わされたので、ラトビアと神戸の二つの都市で撮る映画は、いい大人のおとぎ話を作れる気がしました。

 

■ケイコの場合はそういう風に立ち直る予感があると、個人的に優しく手を差し伸べた映画(尾形)

思い出にも未来がある感じがいいなと思う(桃井)

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―――震災の事に触れている作品ですが、神戸の皆さんに伝えたいことは?
尾形:僕が映画を観た時最初に感じたことですが、カオリはラトビアに異邦人として行くけれど、もう一人の異邦人を自分の中に抱えていることに気が付くのです。その異邦人とは時を止めてしまった見知らぬ自分で、夫らしき人に出会うことにより、どういう態度に出ようかと迷う訳です。夫と声をかけ、もし違っていれば、夢が醒めてしまうのが怖いと、ずっと他人のふりをして近づいていく。その近寄り方は彼女が過ごしていた、失くしてしまった日常の延長線上で、その異邦人がもう一度日常を繰り返すのです。そのことにケイコ自身が気付き、もう一度止めた時を自分の時に戻して生き直す。神戸の皆さんにこうですよと投げかけるのではなく、ケイコの場合はそういう風にして立ち直る予感があると、個人的に優しく手を差し伸べた映画だという気がしました。
 
桃井:震災のことを利用していない映画です。実は、ヘルシンキからリガに行くときに日本のご夫婦ばかり乗っていたツアーで、お一人で乗っていらっしゃるお客さんがいらっしゃったので話を聞くと、ご主人とバルト三国ツアーにずっと一緒に行っていたのが、ご主人が亡くなってしまったそうです。お一人での参加でしたが「二人で思い出を作るんです」とおっしゃっていたのが、すごく良かった。失くしただけではなく、それでもやれることがある。思い出が育つ、思い出にも未来があるという感じがいいなと思ったのです。
 
―――引退を決意されたとの噂もありますが、今後の活動について教えてください。
桃井:もう半分リタイアしているんですよ。老後を楽しみにしようかなと思って。私の大好きな叔母さんが「夫婦っていうのは、老後がいいのよ」とおっしゃったのだけど、そう?
 
尾形:俺、今老後だもん。
 
桃井:そうでしょ、いいなぁと思って。仕事もして、老後もしてと。ずっと働くとかは…。だからテレビ局のプロデューサーにも全然媚びないですよ。要らないの、私たちは。
 
尾形:「働く」と「休む」の間の、新しい日本語が欲しいよね。「安らぐ」とか。
 
桃井:でも、非常に清純に仕事ができるいい時間なんですよ。この年頃って。
 
尾形:ご褒美だよね。
 
桃井:多分、前よりも野心がなく、清純に監督と仕事が出来ていると思います。あまりに賞とかくれないから、ちょっと辞めたくはあります(笑)。こんなに頑張っているのに。海外では賞をくれるのに、(日本では)えっくれないのという、ちょっと拗ねる気持ちはありますが。ただ、おととしは『ふたりの旅路』を入れて、一年で5本の映画に出演し、桃井かおり史上最多。そういう意味では、60歳を過ぎてからの方が活気づいていますよ。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ふたりの旅路』“Magic Kimono”(2016年 ラトビア=日本 1時間45分)
監督:マーリス・マルティンソーンス
出演:桃井かおり、イッセー尾形、アルトゥールス・スクラスティンス、マールテインシス・シルマイシュ、アリセ・ボラチェンコ、木内みどり、石倉三郎他
2017年6月24日(土)~ユーロスペース、丸の内TOEI他、7月15日(土)~神戸国際松竹、第七藝術劇場他順次公開
公式サイト⇒https://www.futarimovie.com/
(C) Krukfilms / Loaded Films
 

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