原題 | Talentime |
---|---|
制作年・国 | 2009年・マレーシア |
上映時間 | 1時間55分 |
監督 | 監督・脚本:ヤスミン・アフマド |
出演 | パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショール、モハマド・シャフィー・ナスウィップ、ハワード・ホン・カーホウ |
公開日、上映劇場 | 2017年4月15日~シネマート心斎橋 5/13~5/26神戸アートビレッジセンター、近日~京都シネマ |
人と人との思いやり、あたたかさを思い起こさせてくれる名作
マレーシアのヤスミン・アフマド監督の映画を初めて観たのは、2007年の大阪アジアン映画祭。素人の役者を起用し、個性を生かした演出力、深い人生観に裏打ちされた卓抜した人間描写とあたたかな人物像に、心を鷲掴みにされた。インドのタゴールの詩が引用されたり、心に留めておきたいセリフの数々、映像に寄り添うような音楽の使い方も巧みで、関西の多くの映画ファンを魅了した。2007年、次の新作を楽しみにしていた矢先、監督の訃報が入る…。遺作となった本作も、ヤスミン監督らしい、愛と優しさにあふれた作品。完成後8年を経て、ついに待望の劇場公開が実現した。
タレンタイムとは、歌や踊りのパフォーマンスを競う音楽コンクールのことで、出場者に選ばれた高校生とその家族、先生たちの群像劇。ピアノで弾き語りをする女子学生ムルーはマヘシュと恋に落ちるが、二人の間には宗教の違いという高い壁があった…。転校生のハフィズは、自作の歌のギター弾き語りで出場することになるが、母が重い脳腫瘍で入院していた…。二胡を演奏する優等生のカーホウは、成績のことで父親から厳しく叱られ、優秀なハフィズを妬まずにはいられなかった…。いよいよタレンタイム当日となり…。
他民族国家のマレーシアでは、マレー人、中国系、インド系、先住諸族と民族も様々。宗教も、イスラム教を国教としながら、仏教、儒教・道教、ヒンドゥー教、キリスト教と多様。民族や宗教の違いといった壁を乗り越え、人と人とが、心で通じ合う映画をつくってきたのがヤスミン監督。
「人生には、とても楽しい瞬間のそばにいつも悲劇が隣り合っている」と考える監督の映画では、劇中で、何か不幸なことが突然起きる。それでも、打ちひしがれることなく、前を向いて生きて行こうとする姿に心打たれる。とりわけ本作で心に残るのが、ハフィズと、病床にある母との会話。ユーモアのある母の息子への思いがあふれる。
マヘシュが姉や母に気持ちをぶつける場面では、初恋のときめきのあまりのみずみずしさに胸が熱くなる。説明的な描写は抑えられ、最初は人物関係がおぼろげでも、映画が進むにつれ、少しずつわかってくる。主人公とは別の人物たちのさりげない出来事もテーマを担っていたり、そのことに気づくと、より深く味わえる。
美しいピアノ演奏を聴くと、自然に涙があふれてくる…そんな心の琴線に触れる、あたたかくて優しい、宝物にしたいような映画。ぜひスクリーンで、ヤスミン監督の描く、人と人との思いやりと優しさにあふれた、あたたかな世界に触れてほしい。そこには、あなたがなってみたいあなたがいるかもしれない…。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://www.moviola.jp/talentime/
(C)Primeworks Studios Sdn Bhd