「中国」と一致するもの

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台湾ニューシネマの系譜を辿り、デジタルリマスター版で名画の再上映が堪能できる台湾巨匠傑作選2018が、シネ・ヌーヴォで7月14日(土)~817日(金)の約1ヶ月に渡り開催される。今回の目玉となっているのは、オムニバス作品『坊やの人形』の第3話、「りんごの味」で監督デビューを飾った台湾ニューシネマの代表格、ワン・レン監督の劇場初公開作『スーパーシチズン 超級大国民』だ。

 

ワン・レン監督の代表作とも言える本作は、1987年に戒厳令が解除されるまで行われていた白色テロ(国民党政府による反政府勢力に対する政治的弾圧)を題材にし、台湾の負の歴史に切り込んでいる。長年投獄されていた大学教員コーが、ようやく自宅に戻るところから始まる物語は、1950年代、政治的な読書会に参加したことを理由に逮捕、投獄されるまでの家族との幸せな生活と、獄中で拷問に耐えきれず友人タンの名前を明かしてしまったことによる自責の念が交差する。経済発展を遂げる90年代の台湾で、出獄後、時代から取り残されたようなコーが成し遂げようとしたタンの墓を探す旅。そこには、台湾でも文化大革命時の中国のように、国から理不尽な罪を着せられ、人生が奪われた人がいかに多かったか、またその痛みが、当事者以外の人には戦争の記憶のように風化していることにも気付かされる。第8回東京国際映画祭コンペディション部門で上映されて以来となる劇場初公開。台湾の歴史により深く触れることができる傑作だ。

 

 

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そしてデジタルリマスター版で初上映となるのが、グイ・ルンメイとチェン・ボーリンの瑞々しいデビュー作として台湾映画界の永遠の名作青春映画と人気の高い『藍色夏恋』。イー・ツーイェン監督は、新作『コードネームは孫中山』(OAFF2015)でグランプリを受賞した。同作の劇場公開が叶わない中、『藍色夏恋』の再上映は台湾映画ファンにも非常に嬉しいニュースだろう。

 

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さらに、ホウ・シャオシェン監督の青春映画『ナイルの娘』も、デジタルリマスター版で初上映される。現在、大ヒット上映中の『軍中楽園』のニウ・チェンザー監督が主演していることでも話題のシャオシェン監督の青春映画『風櫃の少年』や、初期代表作『童年往事 時の流れ』もラインナップされている。

 

 

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最新作『郊遊 ピクニック』で商業映画からの引退を発表したツァイ・ミンリャン監督作品からは、『青春神話』『愛情萬歳』『河』をラインナップ。

 

 

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世界の巨匠として、ハリウッドでの活躍も目覚ましいアン・リー監督からは、『推手』、第43回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作『ウェディング・バンケット』、そして『恋人たちの食卓』の父親三部作を一気に上映。他にも、昨年劇場公開されたエドワード・ヤン監督の『台北ストーリー』、台湾ニューシネマの足跡と後世に与えた影響を解き明かすドキュメンタリー『台湾新電影時代』が上映される。

最後に、大阪限定として、ウェイ・ダーション監督の代表作『セデック・バレ<第一部・太陽旗>』『セデック・バレ<第二部・虹の橋>』の二部作も連続上映される。是枝監督をはじめ、国内外の多くの映画人に影響を与えた台湾ニューシネマに、この夏、ぜひ浸って欲しい。

 


台湾巨匠傑作選2018(シネ・ヌーヴォ) スケジュールはコチラ

 

yuzuriha-550.jpg『ゆずりは』滝川広志(コロッケ改め) 会見

(2018年6月5日(火)大阪・天王寺アポロシアターにて)


本名・滝川広志に名前を変えて臨んだ映画『ゆずりは』は、(元)コロッケの「芝居をしない芝居」の熱さが滲み出た“注目作”だ。先日、大阪・天王寺のアポロシネマで合同会見に臨んだ役者・滝川は「役の水島は動きの少ない、自分ではあり得ない人、だから役づくりのために(撮入の)1~2日前から3週間、現場近くのホテルに泊まり込んだ」という。


「(コロッケと)バレないように、帽子かぶったりした。読売テレビ系“お笑いスター誕生”から芸人やってきたけど、動きのない“葬儀屋”は自分の対極にある役。選ばれた時に“ボクじゃないんじゃないか”と。どっきりカメラだと思ったもの。ふざけないで、いつどこからカメラが出てくるの、だった。撮影前は怖い思いが先だった」。


yuzuriha-500-2.jpgこの葬儀屋に新入社員・高梨歩(柾木玲弥)入ってきて、滝川演じるベテラン水島から教育を受けるところが見どころに。若い役者との競演になったが、滝川は「新入社員が主役に見えたら、それでいいと思った」という。


――役者コロッケ」について?
「(自分は)よくよく人の前に出るタイプだなあと思う。38年間、それでやってきた。この映画では大きい声も出さない。エキストラが“コロッケさん、どこ?”って聞いたぐらい。これでいいんだ、と」。いつもは偉そうにしている役が多いけど、水島はどこにでもいるおっちゃん。もともと主役やりたい、と思っていないし、3~4番手で十分なんです」。


――役に抵抗はなかった?
  「プロデューサーさんから(この役を)頂いたようです。水島はコロッケさんで、と。最初はやれるかな? でした」。映画見たらハマっている。「舞台と映画は違いますね。舞台では“余計なこと”をするのが仕事。この映画では“部長”と呼ばれて、ただ振り返るだけ。この振り向き方ひとつで(人間が)分かる。ちょっとやってみましょうか。動き過ぎたら“コロッケ”が見えてしまうから。すごく大変でした。面白い水島部長はいくらでもやり方がある。人前で泣かない、笑わない。昔の日本人にはけっこうこんな人が多い」。


yuzuriha-500-1.jpg――役づくりは?
「何もしないこと」が何よりも大変だったという。「役を作り込む時はその役に入り込むから。こんなに“何もしない”のではストレスたまりまくりですよ。役者なら当たり前ですけどね。今回は笑ってない。笑ったら(新入り)高梨を認めたことになる。水島はドキュメンタリーの一種ですね。続編の話は今のところない、けど出来たらやりたい」。

「今回は、まず(テンション高くない)水島の声を決めた。揺れ動く自分がいた。演技ひとつで台無しになったりすることがよく分かった」。「最初に動かなくていい」と言われた。それがよく分からなかったが、芝居をしなくても、出てきただけで存在感十分。こんな映画は珍しい。「水戸黄門で言えば角さんと言ったところですかね。昔の映画ならこういう役者さんはたくさんいました」。


――新たな名前で「新境地」を開いた?
「これから頂く仕事で、“ゆずりは”見て“邪魔にならないんだ”と思ってもらえそう。やっぱり続編やりたいなあ」。


◆滝川広志(コロッケ)
1960年3月13日熊本県生まれ。1980年8月読売テレビ系「お笑いスター誕生」でデビュー。東京・明治座、大阪・新歌舞伎座など大劇場で座長公演を務め、モノマネレパートリーは300種以上に及ぶ。中国、韓国など海外公演でも成功している。2014年文化庁長官表彰、2016年日本芸能大賞など受賞。


『ゆずりは』

yuzuriha-pos.jpg“ゆずりは”1年を通じて緑の葉を絶やさない“常緑樹”、親から子へ、子から孫へと受け継がれていく「命のバトン」のことという。映画の舞台は葬儀社。そこに長年勤めるベテラン職員・水島(コロッケ=滝川広志)が主役という地味な映画だが“お笑いの人”コロッケが本名に変えて出演した映画は、本人の意気込み通り、滝川が一度も笑うことなく、見事な存在感を見せ、「死とは何か」「生きることの意義とは」を感じさせて説得力ある映画になった。役者コロッケを知らない人も、この一作で「映画」で名を残すと思わせる。


葬儀社が主な舞台(新谷亜貴子原作)だから、すべて「死」と葬儀にまつわる物語。だが、映画に登場する葬儀は多くない。いつも沈着冷静な水島が、社長からピアスの若者の採用を依頼される。無神経でがさつな青年・高梨(柾木玲弥)に職場のほとんどが反対したが、水島には感じるものがあり「私が教育する」あえて引き受ける。


彼の最初の仕事は盲目の夫を亡くした妻。なぜか、喪主から「ぜひ高梨さんに」と頼まれる。水島から「葬儀中は絶対泣くな」と言われていたことも忘れておいおい泣く。「亡き夫が好きだった薔薇」が赤だったに違いないと、モノクロ写真をすべて赤い薔薇にして喪主を感動させる。


yuzuriha-500-3.jpg次の仕事は「いじめから飛び降り自殺した」女子高生。実は水島も妻を自殺で亡くして以来、深く傷ついていた。だがプロの葬儀屋・水島は、高梨らの心配をよそに「私がやります」と告げる…。だが高梨は葬儀中、参列者の同級生たちが騒いでいるのにたまりかね、声を荒らげて「出ていけ」とたしなめてしまう。葬儀社人にあってはならない行為だった。だが、高梨の“一喝”は水島にも自分のことのように思ったに違いない。


映画はまるでミステリーのように、数々の“秘密”が散りばめられており、最後の章ですべてが明らかになるという見事な展開を見せる、推理小説風の隠し味も秀逸。そんなテクニックよりも、人間存在の本質に迫った“異色の作品”。久しぶりにじっくり見入ってしまう“感動作”であった。


■2018年 日本 1時間51分
■出演:滝川広志、柾木玲弥、勝部演之、原田佳奈、高林由紀子、島かおり
■監督:加門幾生
■原作:新谷亜貴子
■コピーライト:(C)「ゆずりは」製作委員会
公式サイト: http://eiga-yuzuriha.jp/

公開日:2018年6月16日(土)~第七藝術劇場、神戸国際松竹、他イオンシネマ系など全国順次公開


(安永 五郎)

 

 

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津波が繋いだ縁。全編インドネシアロケの合作映画で描きたかったことは?
『海を駆ける』深田晃司監督インタビュー
 
インドネシア、スマトラ島北端のバンダ・アチェを舞台に、日本・インドネシアのキャストが集結した深田晃司監督最新作『海を駆ける』が、5月26日(土)からテアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都他で全国ロードショーされる。
海辺に突然現れた意識不明の男、ラウ(ディーン・フジオカ)の正体を探る一方、アチェに移住した貴子(鶴田真由)の息子タカシ(太賀)、日本から訪れた親戚のサチコ(阿部純子)、タカシの同級生クリス(アディパティ・ドルケン)、クリスの幼馴染でジャーナリスト志望のイルマ(セカール・サリ)の4人の群像劇が重なる。ラウの周りで起きる不思議な出来事、そして驚愕のラストと、深田流ファンタジーは最後まで目が離せない。
本作の深田晃司監督に着想のきっかけや、インドネシアキャストとの撮影、日本=インドネシア合作映画で描きたかったことについてお話を伺った。
 

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■津波の被害は日本だけではない。受け止め方も違うと気づいたバンダ・アチェのシンポジウム。

――――今回は日本とインドネシアの合作映画ですが、どのようなきっかけで実現したのですか?
深田監督:2011年12月に京都大学とインドネシア バンダ・アチェのシアクアラ大学が共同で、津波と防災に関するシンポジウムを開催しました。バンダ・アチェは2004年に起きたスマトラ沖地震による津波の被害を被った場所で、東日本大震災による津波の知見を共有する目的で行われたのです。京都大学で混成アジア映画研究会を主催されている山本博之先生が、私の作品『歓待』(10)を気に入って下さったことから、声をかけていただき、記録係としてバンダ・アチェに同行しました。
 
2011年に東日本大震災で津波が起こったとき、津波が全てを飲み込むような映像は信じられませんでしたし、多くの日本人が何か足元から覆されるような衝撃を受けたと思います。一方、バンダ・アチェで2004年に地震や津波が起き、その映像をニュースで見た時、きっと自分は驚いてはいたと思うのだけど、外国のたくさんあるニュースの一つとして消費したに過ぎず、日本で起きた津波のようには実感してはいなかったのです。でも、津波の被害は日本だけのものではないし、日本人だけが被害に遭った訳ではない。バンダ・アチェで、そのことに気付かされた経験が、非常に強く心に残りました。もう一つは、津波に対する受け止め方です。津波の被害に遭った日本人とインドネシア人とでは大きな違いがあるように思えた。そのことも、印象に残りました。
 
 

■『ほとりの朔子』の発展形をイメージ。朔子はインドネシアを遠くの地と感じていたが、今度はサチコがインドネシアに行く話にしようと考えた。

――――『ほとりの朔子』(13)で共演した鶴田さんと太賀さんが、本作で再共演しています。特に鶴田さんはインドネシア地域研究家という役柄だったので、本作との繋がりを感じますが、『ほとりの朔子』を作った頃から、いつかはインドネシアで映画を撮りたいという気持ちがあったのですか?
深田監督:(気持ちは)ありましたね。最初は、東日本大震災の経験をした日本人がバンダ・アチェに行くと、どんな景色が見えるのかと空想しました。どちらかといえば『ヒロシマ・モナムール』のような、いわば原爆という歴史的な大惨事が起きた場所にフランス人の女性が訪れ、現地の人と恋に落ちるという物語のインドネシア版ができればと思っていました。そんな妄想を重ねながら、一方で『ほとりの朔子』を制作、公開し、2014年1月に日活のプロデューサーとのミーティングで日本人が外国に行く映画を作りたいという話が持ち上がったので、すかさずインドネシアのバンダ・アチェを候補に挙げ、GOサインが出たのです。既に『ほとりの朔子』を作った後ですから、どこかでその発展形をイメージしはじめていました。朔子にとって、叔母の海希江が訪れていたインドネシアはどこか遠くの地というぼんやりしたイメージでした。今度は阿部純子さん演じる女子大生のサチコがインドネシアに行く話にしようと考えていきました。
 
 
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■ラウのイメージは、マーク・トゥエイン「不思議な少年」の美しい少年44号。

――――本作の鍵となるラウという存在は、自然に宿る神のようにも映りました。最初からファーストシーンが浮かんでいたそうですが、どのようにラウのイメージを膨らませていったのですか?
深田監督:インドネシアの話を書こうと思った時、「海から出てきてバタッと倒れる記憶喪失の男」というシーンからスタートしました。そこに日本からインドネシアに来る若者や、現地の若者が登場し、彼らの恋愛模様と同時並行して描くプランになりました。実はイメージとして、「トム・ソーヤの冒険」などアメリカ的楽天主義の小説で有名なマーク・トゥエインが、人間の存在に対してペシミスト(悲観主義)になる晩年に書いた「不思議な少年」がありました。人間社会に44号と名乗る美しい少年が現れて働き始めるが、最終的には人間の価値観を相対化し、疑念を投げかけて去っていく。ラウも、人間の価値観を相対化する存在と捉えられますし、むしろ自然そのもので、植物のようにニコニコとそこに立っていたり、意図も目的もなく人を助けることもあれば、でたらめに人を殺すこともあるという存在にしようと思いました。
 
 

■世俗離れした美しさと多国籍なプロフィールのディーン・フジオカなら、ラウのミステリアスさを演じられると確信。

――――ラウ役にディーン・フジオカさんのオファーを考えたのは、どの段階ですか?
深田監督:最初は「不思議な少年」のイメージがあったので、20代前後をイメージしていたのですが、なかなかピタリとくる人が見つかりませんでした。少し浮世離れしたような感じが出せる人を探していると、日活のプロデューサーをはじめ、周りの複数の方からディーン・フジオカさんの名前が挙がったのです。ちょうど朝ドラの「あさが来た」でディーンさんがブレイクされていた頃でした。経歴を拝見すると、生まれは日本ですが、香港や台湾でキャリアを重ね、ジャカルタをベースにしながら今は日本で活躍されているという多国籍のプロフィールがラウのミステリアスさを後押ししてくれると思いました。あとは世俗離れした美しさ。この人にお願いしようという気持ちに迷いはありませんでした。
 
――――ディーンさんは日本人キャストの中で、誰よりもインドネシア語が堪能だと思うのですが、そんなディーンさんにインドネシア語をほとんどしゃべらせない脚本にしたのは、ある意味勇気がありますね。
深田監督:ディーンさんはインドネシア語、日本語、中国語、英語がしゃべれますから、とにかくしゃべるシーンを作ろうという誘惑は、すごくありました(笑)でもラウをしゃべらせすぎると、どんどん人間臭くなってしまうので、ぐっとこらえて減らしました。記者会見で、中国語の記者に、中国語でラウが答えるというシーンも考えたのですが、いかにもディーンさんが語学堪能だから入れたシーンに見えそうだったのでボツにしました。
 
――――台詞が少ないことで、ディーンさんが持つ雰囲気と相まって、ラウ独特の存在感が浮かび上がっていますね。
深田監督:若者たちの人間ドラマの中で、だんだんラウという存在が大きくなり、最後一気に別の存在として立ち上がるイメージになればと考えて書きました。最初は全員が主人公のつもりで書いていましたが、やはりディーンさんの存在感は大きいですからね。
 
――――ラウは何者なのかという問題提起の一方で、人種を越えた青春群像劇も見ごたえがありました。インドネシア人キャスト、セカール・サリさん、アディパティ・ドルケンさん(大阪アジアン映画祭2018上映作、『ひとりじめ』主演俳優)について、教えてください。
深田監督:インドネシアのエドウィン監督作品をずっとプロデュースされているメイスケ・タウリシアさんに、現地プロデュースをお願いし、何人か候補を挙げていただいた中セカール・サリさんとアディパディ・ドルケンさんに、シナハンでジャカルタに行くタイミングでお会いし、決めました。それにしても、アディパティ君があんなに人気者とは、撮影を始めるまで知りませんでした。Twitterでもフォロワーが50万人程いますし、Youtubeにアップされている予告編(日本語)のコメント欄も、アディパティ君ファンのインドネシア語コメントで埋まっていますから(笑)。
 
 
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■インドネシアの菅田将暉こと、アディパティ・ドルケンは人気者だがとても気さく。撮影中もスタッフと俳優の距離が近く、気持ち良かった。

――――インドネシアでもアディパティさんの出演映画最新作として注目されているようですね。
深田監督:そうですね。帰りのタクシーでも若いインドネシア人男子の看板を見て「全部アディパティ君に見えるね~」なんて冗談半分で言うと、実は本当にアディパティ君がイメージキャラクターの携帯電話の広告だったとか。日本で言えば、菅田将暉さん並の人気者です。しかも本当に気さくなんです。日本が見習いたいと思う部分で、今回気持ちよく撮影できた理由の一つが、スタッフと俳優の距離が近いこと。我々スタッフが打合せをしている部屋の隅で、俳優たちが集まって同じ空間にいるんです。インドネシア人の俳優も日本人の俳優もスタッフと一緒にご飯を食べたり、リハーサルをしたりするので、スタッフも俳優たちを芸能人扱いしない。両者の垣根が低くて気持ちよかったです。セカール・サリさんも既に国際的な場で活躍されているので、本当にいいキャストに出演してもらえたと思っています。
 
 

■順応性が高い太賀の演技に、現地の人も「インドネシア人に見える」とお墨付き。

――――タカシ役の太賀さんも、インドネシア語を本当に自然に話し、いつもの飄々とした雰囲気で、アディパティさんともいいコンビぶりでした。
深田監督:太賀君は現地の人が見ても、インドネシア人に見えるとお墨付きをもらいました。現地の方が見て驚くのは、言葉やちょっとした仕草がインドネシアの若者そのものだそうです。一番良かったのは、太賀君と阿部純子さん、セカール・サリさん、アディパティ君が、出会ったその日からすごく仲良くなったことですね。太賀君と阿部さんはリハーサルのために、クランクインの1週間前に現地入りしたのですが、リハーサルの時はもちろん、撮影後もご飯を食べに行ったり、買い物に行ったり、本当にいい雰囲気でした。太賀君は順応性が高いので、こう演じようと凝り固まるのではなく、共演者の演技を受けて、それに反応するのがとても上手い俳優です。今回アディパディ君とは大学のクラスメイトで仲の良い二人という設定でしたが、自然に表現できていたと思います。
 
 
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■日本人として生まれ育ち、インドネシアに向き合う視点で、両国の関わりを提示する。

――――ドキュメンタリー的要素として、占領時に日本兵から教わった歌を歌ったり、津波の傷跡を映し出すなど、インドネシアの歴史と日本の繋がりに気付きを与えるシーンが挿入されているのも印象的です。
深田監督:日本人としてインドネシアに向き合うことになるので、普遍的な映画を作ろうとしてはいても難しい。かといって、普遍的になることが、あたかも自分がインドネシア人のように振る舞うことだとすれば、それは少し違うと思うのです。大事なのは作り手の視点なので、日本人として生まれ育ち、そしてインドネシアに向き合うという視点を絶対踏み外してはいけない。その視点でみると、日本とインドネシアの関わり方には色々な発見がある訳です。戦争中、日本が占領下に置いていた時代があり、ODA(政府開発援助)として支援をしていた一方で、その支援の歪みもある。今は津波で両方が繋がっている。インドネシアは親日国というイメージが強く、実際、現地では日本に親しみを感じてくれています。でも、日本は加害国なので、加害国と被害国という関係は消えません。占領されていた時代に日本軍に強制労働させられ、いまだに日本に対して恐怖感を抱いている人もいるのです。政治的メッセージを発している訳ではないので、親しみを込めて日本の軍歌を歌うおじいさんや、強制労働をさせられたことを歌うおじいさんを並べて描くことで、あとは観客に受け取り方を委ねるようにしています。
 
 

■大きな自然の営み(ラウ)と、たわいもない若者たちの人間らしい営みを対比して描く。

――――深田監督の一貫したテーマと思える不条理を、今回はファンタジーで表現したように見えますが、映画全体を通して描こうとしたことは?
深田監督:全体を通した一番大きなモチーフは自然であり、世界の不条理だと思います。ラウという存在が一番の鍵です。彼はたまたま、人間の恰好をして現れ、気まぐれに散歩をして去っていく存在です。大きな災害があると、人間はそれに意味やメッセージを汲み取ってしまいます。「なぜ自分だけ生き残ってしまったのだろう」とか、「これは天罰だ」等、良し悪しは別として、そのように考えてしまうのはある意味人間らしいことです。でも自然は、それこそ残酷かもしれませんが、何の意図も、目的も、意味もなく、ちょっとした偶然によって人間に恵みをもたらしもすれば、一方で災害を引き起こし、人間を死なせてしまう。ラウもそういう自然と同じ存在にしたかった。大きな自然の営み(ラウ)と、たわいもない若者たちの人間らしい営みを対比して描く。それが『海を駆ける』でやりたかったことです。
 
――――日本=インドネシア合作で、スタッフもキャストもインドネシアの方と混合での映画作りでしたが、今後この経験をどのように活かしていきたいですか?
深田監督:異文化の人と映画を作るのは面白いです。自分の狭い世界観を打ち崩してくれます。単に資金的に合作にするのではなく、多くの異文化の人と映画を作ることを今後もやっていきたいですし、またインドネシアで映画を撮りたいですね。一番良かったのはスタッフです。本当に優秀だし、怒鳴り声の全くない現場というのはとても気持ちよく、日本も見習うべきだと思いました。
(江口由美)
 

<作品情報>
『海を駆ける』(2018年 日本・フランス・インドネシア 1時間47分) 
監督・脚本・編集:深田晃司
出演:ディーン・フジオカ、太賀、阿部純子、アディパティ・ドルケン、セカール・サリ、鶴田真由 他
2018年5月26日(土)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒http://umikake.jp/ 
©︎2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS
 
 

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[中国映画祭「電影2018」の概要]

このたび、東京・大阪・名古屋の3 都市で2018 年公開予定作含む、最新の中国映画10 本を紹介します(すべて日本初公開)。トロント国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、中国でも現在大ヒット公開中の馮小剛(フォン・シャオガン)監督『芳華-Youth-』(中国語タイトル『芳華』)、忻鈺坤(シン・ユークン)監督『無言の激昂』(中国語タイトル『暴裂无声』)など10 作品の上映が決定しました。アクション、コメディ、ミステリーなど様々なジャンルの中国映画をリアルタイムに楽しめる、これまでの中国映画のイメージを覆す映画祭となります。また、中国から俳優や監督を招き、交流も行います。


なかなか日本で見る機会の少ない中国映画を広く紹介することで、映画を通じて日中両国の相互理解が深まることを目指しています。2018 年は日中友好条約締結40 周年記念の年でもあり、この映画祭が日中両国の文化交流の発展の一助となることを期待しております。


【 日中国交正常化45 周年記念 中国映画祭「電影2018」】

(開催地ごとの表記は「電影2018」東京、「電影2018」大阪、「電影2018」名古屋)


【日 時】 2018 年3 月8 日(木)~14 日(水)
東京:2018 年3 月8 日(木)~10 日(土)※オープニングイベント8 日
大阪:2018 年3 月10 日(土)~12 日(月)※オープニングイベント10 日
名古屋:2018 年3 月12 日(月)~14 日(水)

【上映作品】中国映画 計10 本(東京10 本、大阪・名古屋9本)

【主 催】 公益財団法人ユニジャパン、上海国際影視節中心、独立行政法人国際交流基金

【チケット価格】前売、当日1300 円(座席により追加料金あり)劇場の各チケットシステムから購入可能。現在発売中

TOHOシネマズ 六本木ヒルズ…劇場窓口、インターネット予約https://www.tohotheater.jp/

阪急うめだホール…チケットぴあ(P コード:558-163)https://t.pia.jp/

梅田ブルク7…劇場窓口、インターネット窓口KINEZO http://kinezo.jp/pc/t-joy_burg7

109 シネマズ名古屋…劇場窓口、インターネット予約http://109cinemas.net/nagoya/

【特設 HP】 http://www.jpfbj.cn/FilmFestival/

 

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記者会見の模様。写真左より林未来氏(元町映画館 支配人)、越智裕二郎氏(西宮市大谷記念美術館 館長)、下村朝香氏(同館 学芸員)
 
4 月7 日(土)—5 月27 日(日)まで大谷美術館で開催される追悼特別展、「高倉健 Retrospective KEN TAKAKURA —映画俳優、高倉健の全仕事—」と連携し、神戸の元町映画館とCinema Kobeが高倉健の代表作4本を5月に上映する。
関西の美術館で高倉健の追悼特別展が行われるのは初めて。また、美術館が映画館と連携するのも初の試みとなる。大谷美術館で表現者、高倉健の全てを感じとった後は、数多くの出演作の中でも、日本映画界だけでなく、世界の映画人に影響を与えた高倉健主演の傑作、『君よ憤怒の河を渉れ』『飢餓海峡』『新幹線大爆破』『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』を是非スクリーンで堪能してほしい。
 

~元町映画館~

 
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『君よ憤怒の河を渉れ』配給:KADOKAWA
監督:佐藤純弥/1976年/151分
【あらすじ】
西村寿行の同名小説を原作としたサスペンスアクション。東京地検検事の杜丘冬人はある日、新宿で「強盗殺人犯」と騒がれて緊急逮捕される。まるで身に覚えのなかったが、証拠は揃い言い逃れもできない状況だった。ある日、警察の手から逃亡した彼はある陰謀に気づき…。共演に原田芳雄(矢村警部役)、大滝秀治(遠波善紀役)。
【役どころ】
主役の東京地方検察庁検事の杜丘冬人役。ある日、突然犯人に仕立て上げられ逃亡することを余儀なくされる。クマに襲われたり、無免許でセスナを運転して北海道から東京をめざしたりするなどスケールの大きさが見所。文化大革命後の中国では数少ない日本映画の中で本作が第1号で上映された。中国では『追捕』という名で公開された。本作の人気もあり2005年に公開された中国映画『単騎、千里を走る。』でも主演を務めた。本作のリメイク作品でもある『マンハント』(監督:ジョン・ウー/2017、配給:GAGA)も現在公開中。
【上映スケジュール】2018年5月26日(土)〜6月1日(金)
 
『飢餓海峡』配給:東映
監督:内田吐夢/1965年/183分
【あらすじ】
水上勉の同名推理小説を映画化。昭和22年台風により青函連絡船が沈没した。同時期、北海道岩内では大規模火災が起こった。火災では質屋で殺人を犯した犯人による放火と判明。一方で沈没船では二人の身元不明遺体が見つかり…主演には三國連太郎(樽見京一郎役、共演に左幸子(杉戸八重役)。
【役どころ】
味村時雄刑事役。
1時間50分ほどで登場。若い刑事役で証拠をみつけて犯人(三國連太郎)に詰め寄っていくシーンは必見。
映像としては16mmフィルムで撮影され、劇場用の35mmにブロー・アップすることで独特の世界観になっている。
【上映スケジュール】2018年5月19日(土)〜5月25日(金)
 
 

~Cinema KOBE~

 
 
 
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『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』配給:東映
監督:佐伯清/1966年/89分
【あらすじ】
高倉健主演の『昭和残侠伝』シリーズ第2弾(シリーズ全9作品)。栃木県宇都宮市の石切り場を舞台にした任侠娯楽大作。新興勢力となった左右田組から未亡人親子を救うべく、花田秀次郎は単身敵のアジトに乗り込んでいく…。
共演に津川雅彦(清川秀平役、秀さんの弟分)、三田佳子(秋山八重役、榊親分の妻)。
【役どころ】
主役の花田秀次郎役。前作につづき、高倉健が秀次郎役を好演。義理あって人を斬り刑務所に入っていた秀次郎。出所してから出会う親子との仲や、石切り場を舞台にした縄張り争いに巻き込まれていく秀次郎が取った行動とは。主題歌「唐獅子・牡丹」も高倉健がうたう。
【上映スケジュール】2018円5月12日(土)〜5月18日(金)※『新幹線大爆破』と2本立ての上映。
 
『新幹線大爆破』配給:東映
監督:佐藤純弥/1975年/153分
【あらすじ】
新幹線の乗客を人質にとった爆弾脅迫事件が起こった。列車の速度が80キロ以下になると自動的に爆発する仕組みで、極限状態に置かれた乗客と犯人、捜査員たちの人間模様を描く。共演に千葉真一(青木運転士役)や宇津井健(倉持運転指令室長)、丹波哲郎(須永警察庁刑事部長役)など。
【役どころ】
犯人の沖田哲男役。沖田は中小企業の社長でもあり、失業中の若者を雇用し、救済したが、銀行からの融資を受けられず、破産。社会への恨みから犯行におよぶ。社会からはじかれた彼が犯行を計画し、何が彼を変えてしまったか。現代社会の問題でも通じるようなアクション超大作。
【上映スケジュール】2018円5月12日(土)〜5月18日(金)
 

manhunt-bu-550.jpgあの堂島川にも入った!? 福山雅治・桜庭ななみ『マンハント MANHUNT』大ヒット御礼舞台
(2018年2月18日(日)TOHOシネマズ梅田にて)
登壇者:福山雅治・桜庭ななみ



大阪ロケで始まり、大阪の舞台挨拶が最後となる。
ジョン・ウー監督の奇跡のアクション大作、日本列島を爆進中!

 

manhunt-bu-fukuyama-240-1.jpg2月9日(金)よりTOHOシネマズ梅田他にて全国絶賛公開中の映画『マンハント』(ギャガ配給作品)の大ヒット御礼舞台挨拶に、主演の福山雅治桜庭ななみが登壇。夏真っ盛りの暑い大阪でロケが始まったのは2年前。昨年秋の製作本国・中国で公開されてより、数々の舞台挨拶をこなしてきた二人。舞台挨拶最終地となる大阪の映画館に立ち、「ただいま!やっと完成しました。公開までが長かった~!大阪の皆さんと一緒に作った映画です。舞台挨拶も最後だと思うととても名残惜しい」という福山の感慨深そうな言葉に、殆ど福山ファンで埋め尽くされた会場は大歓声をあげた。


本作は、香港フィルムノアールの巨匠ジョン・ウー監督が、高倉健主演でも映画化された原作「君よ憤怒(ふんぬ)の河を渉れ」を、日本映画へのオーマジュを込めて再映画化したもの。『男たちの挽歌』シリーズやトム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』シリーズと、独自のアクションスタイルで世界中の映画ファンを熱狂させてきたジョン・ウー監督が、大阪を舞台に、チャン・ハンユー福山雅治のW主演で奇跡のサスペンス・アクション大作を完成させた。


manhunt-500-3.jpg正義を信じる大阪府警の刑事・矢村聡を演じた福山雅治と、殺人の罪を着せられた弁護士のドウ・チウを演じたチャン・ハンユーとの逃亡劇。警察からも暗殺者からも追われる二人を、矢村の部下で新人刑事の百田里香を演じた桜庭ななみがサポートする。桜庭は本作のために運転免許を取ったが、運転シーンはすべてカットされているらしい。それに対し福山が、「最初は4時間になると聞いて、二部作か~!? と驚きましたが、110分に収めるために編集でカットされる部分も多いという訳です。決してダメだからカットされた訳ではありません」と桜庭の努力が無駄ではなかったとフォローした。


manhunt-500-43.jpg福山自身も水上バイクの免許を取って、水の都・大阪の堂島川や大川でのバトルシーンに挑戦した。「あの濃い緑の川に入りました!」。本作の大きな見どころでもある水上バイクでのバトルシーンで、“あの川”に入ったというのだ。全カットをスタントマンで撮ったのだろうと思っていたので、意外や意外。「勿論、水質検査の結果を調べたら、大丈夫ということだったので…」。さすが福山、抜かりはない。次は船舶二級の免許を取って、ヨットの上で優雅にくつろぎたいが、「肌を焼くことはしません」。――49歳になっても若くてカッコ良い秘訣は、美肌を保つことにあったのかな?

 
manhunt-bu-sakuraba-240-1.jpg男気のある激しいアクションが作風のジョン・ウー監督について、桜庭は「ひとりひとりの俳優の意見を尊重してくれる優しい監督さんです。現場でペットのワンちゃんの写真を見て微笑んでおられましたよ」!? 福山も「元々素朴で穏やかな人」と証言しながら、「現場では“カット!”“OK”しか言わない」と真似ると、「似てる~!」と桜庭を驚かせた。


“ジョン・ウー監督らしい”と思った点については、「鳩ですよ、鳩!鳩と共演するのが夢でしたから!」と興奮気味に語り出す福山。「ハンユーと僕が対決してる時に、2人の間を鳩を飛ばせるんです。香港から呼び寄せた鳩師が鳩を両手でつかんで待機しているんですよ。どんだけ綺麗に飛んでくれるのか気になっていたので、完成品を観て、鳩と一緒に映ってることが本当に嬉しかったです」。ジョン・ウー監督作品を数多く観て来た映画ファンならではの感想だろう。


一方桜庭も監督について、「アクションは勿論カッコイイのですが、発想が素晴らしいですね。私が被害者の気持ちになってシンクロさせるシーンがあるのですが、意外なその演出方法に驚きました」。「突然やって来て、ムチャぶりさせるんですよ。でもそれに応えられた桜庭さんも素晴らしい」と、桜庭を褒める福山。観客と呼応するように語っては笑いや拍手が沸き起こる。ここでも共演者や観客への気遣いに抜かりはない。


manhunt-bu-fukuyama-240-2.jpg撮影時、エキストラ2000人にアイスを提供したという“伝説の福山アイス”については、大阪での撮影中はかなりの暑さだったようで、だんじりのシーンは2日の予定を1か月もかかってしまったとか。会場にはエキストラとして参加されたお客様も来られ、「その節は大変お世話になりました。製作者に成り代わりましてお礼申し上げます」と福山からの謝辞を延べられると、会場はわれんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。桜庭はそのシーンでは3日間も現場で待機していたが、1回も出番もなく、福山から差し入れられたアイスだけを食べて帰ったという。


大阪ロケでの楽しい思い出は、「撮影は日中に行われたので、帰り「松屋」へ寄って牛サラとビール飲むのが楽しみでした」。福山雅治が庶民的な「松屋」通いをしていたとは!? 意外過ぎる話にびっくり。勿論、東京では行かないらしい、ロケ先限定とのことだ。


manhunt-bu-500-1.jpg最後に、最終舞台挨拶ということで、名残惜しい気持ちを胸に、「1日も長く皆様に愛されますように」と桜庭が述べると、「大阪あっての作品です。大阪の街が、人情が、人柄も映っています。今後世界中で観られる映画ですから、そんな作品に参加できたことを光栄に思っております」また、「確かに若干ツッコミたくなる部分もあると思います。たとえば斎藤工の出番が少ないとか…。ジョン・ウー監督が30~40億かけて日本でオールロケして撮った奇跡の大作です。末永く愛してやって下さい」。殆ど福山ファンで埋め尽くされた劇場は、終始大歓声と拍手が響いていた。

 
(河田 真喜子)


『マンハント』

【STORY】
manhunt-pos.jpg酒井社長(國村隼)率いる天神製薬の顧問弁護士であるドゥ・チウ(チャン・ハンユー)がパーティの翌朝、ベッドで目を覚ますと、社長秘書・希子の死体が横たわっていた。現場には自身の指紋が付いたナイフが置かれるなど、突如として殺人事件の被疑者となった彼は、何者かにハメられたことに気づき、その場から逃走。そんなドゥ・チウを大阪府警の敏腕刑事・矢村(福山雅治)は、新人の部下・里香とともに独自の捜査で追っていく。

カギとなるのは、天神製薬研究員だった婚約者を3年前に失った謎の美女・真由美(チー・ウェイ)。次々と警察の包囲網を潜り抜けていく被疑者に近づくほどに、この事件に違和感を覚え始め、次第に見解を変えていく矢村だったが、ついに真由美の実家である牧場にいるドゥ・チウを捕らえることに成功。だが、手錠をかけた彼とともに、女殺し屋・レイン(ハ・ジウォン)たちからの襲撃に立ち向かった矢村は、彼の無実を確信する。何者かによって捜査が妨害されるなか、身分や国籍を超えた“強く熱い絆”が芽生えた2人はともに手を組み、事件の真相に立ち向かうことを決意する。だが、そこには恐ろしくも、巨大な陰謀が待ち受けていた――。


監督:ジョン・ウー
主演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン 友情出演:國村隼  
特別出演:竹中直人、倉田保昭、斎藤工 
共演:アンジェルス・ウー、桜庭ななみ、池内博之、TAO、トクナガクニハル、矢島健一、田中圭、ジョーナカムラ、吉沢悠
原作:西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』/徳間書店刊 および 株式会社KADOKAWAの同名映画

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『マンハント』完成報告会 あべのハルカス展望フロア 
2018年1月31日(水) 17:40~


manhunt-pos.jpg日本映画を愛してやまないジョン・ウー監督が3か月以上に及ぶ日本オールロケを敢行!
故・高倉健主演の伝説的名作『君よ憤怒の河を渉れ』(76)の再映画化に挑んだ!
二丁拳銃アクション、白い鳩、スローモーションとカット割り…確立されたアクション流儀はそのままに、W主演の福山雅治、チャン・ハンユーの他、チー・ウェイ、ハ・ジウォンなどアジア各国から、そして日本からも國村隼、竹中直人、倉田保昭、桜庭ななみ、斎藤工など実力派俳優が集結し、スクリーン上で躍動する。
今40年の時を経て、ウー監督により進化を遂げて甦る、衝撃と圧巻のサスペンス・アクション超大作、いよいよ日本上陸!


 


2月9日(金)の公開を前に、ジョン・ウー監督が松井大阪府知事と吉村大阪市長と共に、あべのハルカスでのイベントに参加。その模様を下記に紹介いたします。


松井大阪府知事:まずジョン・ウー監督に心よりお礼を申し上げたいと思います。大阪を舞台に、世界に大阪の景色を発信できる素晴らしい映画を作っていただきましたこと、大変感謝いたします。

私も観ましたが、スリルとサスペンスがあって、本当にドキドキしながらあっという間に最後まで見ました。この作品が日本で公開されることを大勢の日本の皆さんも楽しみにしていると思います。これからも、我々も出来る限りのサポートをさせていただきます。

また大阪の景色が取り上げられる・大阪でロケをしていただける映画をまた作ってください。よろしくお願いします。


ジョン・ウー監督:感謝の気持ちでまた大阪の地に戻って参りました。そして松井知事や吉村市長にも感謝申し上げたいと思います。撮影期間中は多大なるサポートをしていただきまして、心から感謝申し上げます。

ロケで大阪に来た時、大阪(の街)は美しいだけでなく、大阪の方々は人情があって、優しく、隣人を大切にする所が印象的でした。ストーリーやキャラクターに関しても大阪風にアレンジし、主演の福山さんにも大阪人として演じてくださいと注文したほどです。

正義感があって、親しみやすく、しかも人情、友情を大切にする大阪の方の印象をこの映画の中に盛り込みました。本当に感動の連続でした。

大阪は国際的な大都市(という側面)だけではなく、魅力に満ちております。このあべのハルカスにてスケールの大きなシーンを撮っただけでなく、大阪の方々にエキストラで出演していただきました。しかもみなさんボランティアで出演してくださったことに感謝します。

また地元の鉄道会社にいろんな便宜を図っていただいたことにも感謝申し上げます。あべのハルカスの他にも上本町や、水上バイクのシーンを川で撮らせていただきました。ありがとうございました。


吉村大阪市長:私も映画を拝見しました。あべのハルカスのシーンも水上バイクのシーンも「大阪ってこんなに綺麗やったかな!」と思うくらい、そのぐらい印象に残っています。

あべのハルカスのシーンも水上バイクのシーンも、大阪の行政で(大阪を)世界に広げることに使わせていただきたいくらい素晴らしいシーンでした。

水上バイクのアクションシーンは固唾をのむようなシーンで、あのようなことができるんだな、と感激しました。多くの日本の皆さんや世界のみなさんに大阪を発信できる素晴らしい機会いをいただいたことに感謝申し上げたいと思います。


ジョン・ウー:水上バイクのシーンは大阪ならではの「活力」や「エネルギッシュ」を表現できたと思います。改めて撮影許可をしてくださったことに感謝いたします。

水上バイクのシーンはこの映画の魅力の一つです。おそらく桜満開のシーンも川以上に美しいと思うので、また機会があったら四季折々の大阪を表現できたらと思います。


【ジョン・ウー監督から大阪の皆さんへメッセージ】
大阪のみなさん、無事にこの映画が完成できたことはみなさんのご協力のおかげです。

撮影期間中はご迷惑やご不便をおかけしたと思いますが、こうやって大阪の美しい所や魅力のある所をこの映画の中で表現できたことは大変良かったと思います。

この映画で大阪を世界にアピールしたいと思っておりますし、大阪で撮影したことも自分にとって一生忘れがたい経験となりました。ありがとうございました。


【STORY】

真実を、狩れ。運命を、撃て。

manhunt-500-1.jpgのサムネイル画像酒井社長(國村隼)率いる天神製薬の顧問弁護士であるドゥ・チウ(チャン・ハンユー)がパーティの翌朝、ベッドで目を覚ますと、社長秘書・希子の死体が横たわっていた。現場には自身の指紋が付いたナイフが置かれるなど、突如として殺人事件の被疑者となった彼は、何者かにハメられたことに気づき、その場から逃走。そんなドゥ・チウを大阪府警の敏腕刑事・矢村(福山雅治)は、新人の部下・里香とともに独自の捜査で追っていく。


manhunt-500-2.jpgカギとなるのは、天神製薬研究員だった婚約者を3年前に失った謎の美女・真由美(チー・ウェイ)。次々と警察の包囲網を潜り抜けていく被疑者に近づくほどに、この事件に違和感を覚え始め、次第に見解を変えていく矢村だったが、ついに真由美の実家である牧場にいるドゥ・チウを捕らえることに成功。だが、手錠をかけた彼とともに、女殺し屋・レイン(ハ・ジウォン)たちからの襲撃に立ち向かった矢村は、彼の無実を確信する。何者かによって捜査が妨害されるなか、身分や国籍を超えた“強く熱い絆”が芽生えた2人はともに手を組み、事件の真相に立ち向かうことを決意する。だが、そこには恐ろしくも、巨大な陰謀が待ち受けていた――。


■監督:ジョン・ウー
■CAST:チャン・ハンユー/福山雅治/チー・ウェイ/ハ・ジウォン/友情出演:國村隼 特別出演/竹中直人/倉田保昭/斎藤工/共演:アンジェルス・ウー/桜庭ななみ/池内博之/TAO/トクナガクニハル/矢島健一/田中圭/ジョーナカムラ/吉沢悠
■2017年 中国 110分 ギャガ
公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/manhunt/
■© 2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved.

■ 2018年2月9日(金)全国ロードショー


 (オフィシャル・レポートより) 

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チェン・ユーシュン監督、ダークコメディー『健忘村』に込めた思いを語る。@第9回京都ヒストリカ国際映画祭
登壇者:チェン・ユーシュン氏(監督) 
    飯星恵子氏(作家・タレント+ヒストリカ・ナビゲーター)
 

~権力を手にすると人はどうなるのか。

支配する側とされる側が記憶操作で入れ替わる、示唆深いダークコメディー~

 
10月28日から開催中の第9回京都ヒストリカ国際映画祭。7日目となる11月4日は、ヒストリカワールド作品として、『健忘村』(17台湾・中国)が上映された。中華民国設立直後の山村を舞台に、スー・チー、ワン・チエンユエン、 ジョセフ・チャン、リン・メイシュウ、トニー・ヤン、エリック・ツァンと豪華出演陣が繰り広げるブラックコメディー。とりわけ、記憶を消すことができるマシン「憂い忘れ」の造形や仕組みのユニークさは、衝撃的だ。記憶を消去するたびに変わる村人たちの態度や、支配者の入れ替わる姿が非常に示唆深い作品だ。上映後は、ヒストリカ・ナビゲーターの飯星恵子氏が聞き手となり、『ラブゴーゴー』(97)以来の来京を果たしたチェン・ユーシュン監督のトークショーが行われた。
 
 
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『祝宴!シェフ』(13)の前に、既に脳の記憶に関する短編を撮っていたというユーシェン監督。元々それを長編にしたいという思いがある中、台湾の社会的問題がネットで話題になっても1週間で忘れられてしまう状況に、人の記憶の忘れやすさを痛感し『健忘村』を撮影したと制作の経緯を明かした。辛い記憶を忘れさせるツールとしてマシン(「憂い忘れ」)を使うことで、別の意図が発生すると指摘したユーチェン氏。飯星氏から「忘れることができていいなと思う一方で、恐怖を覚えるホラーのように感じた人もいるようです」と話を振られると、「元来コメディーが得意ですが、ここ数年、推理モノやホラーも加えることを考えました。記憶を喪失するのは嬉しいことなのか、怖いことなのかは場合によると思います」と色々な意味が内在していることを示した。
 
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飯星氏からマシンのデザインのこだわりについて話が及ぶと、「マシンのデザインは長期間練りに練り、何度も修正しながらデザインを考えました。昔の時代のものやドイツのナチスが処刑に使ったもの、第二次世界大戦中実際に使っていたものなど、色々参考にしました」。さらに、頭に載せることができる固定式であまり動かないバージョンと、3層になり頭に載せられないバージョンの2種類を用意。とても精巧なものなので、現場で俳優陣も丁寧に扱ってもらっても壊れることが多く、美術部は大変だったとの裏話もユーチェン監督は披露した。
 
個性豊かなキャラクターが多いのもユーチェン監督作品ならでは。『祝宴!シェフ』よりキャストが多く、「それぞれの役割で個性を変えているのに加え、「憂い忘れ」の兜をかぶると個性が変わるので、多い人は3種類も個性を演じなければならない。ジョセフ・チャンも2種類の個性を演じましたし、本当に大変。毎日ホテルで自分が、「憂い忘れ」をかぶり、忘れてしまいたいと思いました」と演出面の苦労は相当のものだったようだ。
 

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秋蓉演じるスーチーが足に鎖をつながれた姿で登場したことに、監督作品らしくないと驚いた飯星氏。ユーチェン監督は、「100年前、特に女性は不自由な時代。夫婦でも男性が女性を牛耳り、役人は手下を牛耳る。スーチーが演じる、虐げられていた女性が最後は権利を奪い取る展開になっています。支配する側とされる側。愛情のある夫婦の間にも上下関係があります。寓意的な意味での政治的なことが、あらゆる場面に隠れているのです。政治的なことは本来恐ろしいことですが、それをラブコメディーでオブラートに包んでいます」と今までにない深い意味が込めた作品であることを示唆した。
 
スーチー演じるヒロインが村長になり「ここが桃源郷なのね」と呟くラストシーンがスカッとしたという飯星氏の意見に、「元々は虐げられていた女性が村長にのしあがり、権力を手にする。そうなると、どんなに善意がある人でもまた悪行をしでかしてしまう。当初はスーチーを独裁者のようなふるまいをするヒロインにしようとしたのですが、お正月映画だったのでブラックユーモアではなく明るい結末にしました」と試行錯誤をしたことも明かした。そのスーチーは、キャスティング時に村の女性役だったリン・メイシュウを「同じような役ばかり」と監督にアドバイス。その結果、盗賊団の長である郵便局員という重要な役どころになり、作品中でも初めての配達用自転車に上手く乗れないシーンで、見事な転倒ぷりを披露。ユーチェン監督も「男性の長を女性の長に変えました。スーチーさんの一言のおかげ」と感謝した。
 

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ユーチェン監督作品は、音楽のユニークさが作品のゆるく楽しい雰囲気に反映されているのも特徴の一つ。『健忘村』でも常にアカペラ(ボイスパーカッション)の盗賊団が笑いを誘う。その発想については、「7人いればバンドを組むことができる。楽器を持ちながらだと(アクションに)不便なので口で楽器替わりをし、殺人をするときに音楽を流したら面白いと考えました。俳優が7人もいると上手な人もいれば、リズム感ゼロ、音感ゼロ、歌詞が覚えられないと大変でしたが、殺人の場面を撮るため、音楽の授業、体育の授業に何カ月もかけてやっと撮れたのです」。また時代物ならではの苦労もあったようで、「何十年も台湾では時代物を撮っていないので、香港や大陸から美術の方を招き、お金もかけました。貧しい村なので馬だと高貴すぎると、ロバを用意しましたが、台湾にはほとんどいないのでアメリカから輸入しました。ロバはなかなか演じてくれず、叱りたいけれど、英語しか分からないのでそれは大変でした」。
 
最後にこれからの映画制作について飯星氏に聞かれたユーチェン監督。体力的にあと数本ぐらいとしながら、「撮りたいストーリーを持ってはいるが、映画を撮るのは大変。私の映画制作が(十何年も)時間がかかったのもそのせいです。観客がそれを望んだり、肯定してくれたり、賞を受賞することで自信が持てると思いますが、自分の個性を活かせる映画を撮り続けていけたらと思います」と、培ってきた個性を大事に、映画を撮り続けることを表明しトークショーは終了した。終了後もサインや写真撮影の依頼に快く応え、大パネルの前で、大勢のファンと交流したチェン・ユーシュン監督。台湾映画らしいふわりとした緩さと、記憶を操作された人間の滑稽さが怖さにも映るダークぶりが癖になる。そこに秘められた狙いに思いを馳せると、また別の味わいが出てくるだろう。ユーシュン監督の新境地ともいえる作品だ。
(江口由美)
 
第9回京都ヒストリカ国際映画祭はコチラ 
 

ernesto-inta-di-550.jpg『エルネスト』阪本順治監督インタビュー

■2017年 日本=キューバ合作 2時間4分 
■【脚本・監督】:阪本順治 (『顔』、『闇の子供たち』、『大鹿村騒動記』、『団地』)
■【出演】:オダギリ ジョー、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、永山絢斗
■2017年10月6日(金)~TOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショー!
公式サイト⇒ http://www.ernesto.jp
■(C)2017“ERNESTO”FILM PARTNERS

★作品紹介⇒こちら
★舞台挨拶レポート(9/21)⇒こちら



~見果てぬ夢に生きる男たち…阪本順治監督の初挑戦。~

 

チェ・ゲバラといえばキューバ革命で知られる歴史的英雄。それ以上に、学生運動に一度は情熱を燃やした日本の多くの学生たちの“究極の目標”にして反体制の象徴でもある。そんなカリスマと行動をともにし、戦った日系人がいた…、ほとんど誰にも知られていない、その男の名はフレディ前村ウルタード。“歴史に埋もれた男”を主役に据えて阪本順治監督が撮りあげたのが『キューバの恋人』(69年)以来48年ぶり日本・キューバ合作の『エルネスト』だ。


ernesto-550.jpgデビュー作『どついたるねん』(89年)や『顔』(00年)など型破りな映画を作り続けて評価が高い阪本監督が、長編映画として初めて“実在の人物”を主人公にした画期的な「阪本作品」でもある。主演はオダギリジョー。


主人公のエルネストはゲバラ本人からファーストネームを授けられ、戦士名「エルネスト・メディコ(医師)」と呼ばれたが、ボリビアの山中で25歳の若さで散った。先ごろキャンペーンで大阪にやって来た阪本順治監督にこの“異色作”について聞いた。



――大変に生真面目な作品。これまでの作風とはかなり違うが、ズバリ製作動機は?
阪本監督「これは私の初めての青春映画です。こんな日系人がいた、ということを誰も知らない。私も若いときに“監督になりたい”と思って、それからはわき目も振らずに一途に監督になるために邁進してきた。自分で大義を掲げたら悩まない、そういう生き方は分かるし、共感も出来ます。エルネストは実直でナイーブ、デリケート。こんなにまじめな映画はほかにない、といろんな人に言われました」。


ernesto-500-2.jpg――はじまりは?
阪本監督「4年前、ポシャった映画の主人公の一人に日系移民がいた。そのために調べていたら、ブラジル、ペルー、ボリビアあたりで有名な日系移民でフレディ前村という人がいたことを知った。医師になるためにハバナ大学に留学し、チェ・ゲバラと行動をともにしたという。興味を牽かれて、まずご家族に会い、ご家族が書かれた著書『革命の侍』という本を読み、キューバ留学してからの学友の方々と会って、内容を固めていきました」。


――何度か現地にも行くなど、撮影には苦労が多かったのでは?
阪本監督「最初は合作が可能かどうか、でしたね。相手は社会主義国ですから。あちらではまずテレビと映画の2本のラインがあって、どちらにするか考えるところから始まった。最終的にテレビの方になりました。ゲバラご家族のカミーロさんに会って(映画化の)許可をもらい。姉のマリーさんにも会いました。50年前のキューバの事情など、調べるのはもちろん大変でしたが…」。


ernesto-500-1.jpg――クランクインは広島からだった。
阪本監督「ゲバラは日本に来て、広島を訪問して、原爆慰霊碑に献花している。日本人としてぜひ、このシークエンスから映画をスタートさせたかった」これが監督のこだわりだった。この場面で登場するのが中国新聞の林記者(永山絢斗)。監督は林記者の娘さんから記事と取材メモを提供してもらい、実ゲバラに迫った。この記者役を演じたのは「阪本作品出演を熱望していた永山絢人」。彼は撮影1週間前に単身広島入り、平和記念公園でお祈りをして本番に臨んだ。映画エルネストには、こうした内面の力が働いているようだ。原爆慰霊碑に献花するゲバラ…極めてインパクトの強いこの写真も、林記者の取材がもたらした“奇跡”の写真だった。


主人公・フレディ前村ウルタードは阪本作品3度目のオダギリジョー。原作の『革命の侍』や脚本から「自分と似ている部分を探すことから始めた」そうだが、監督から“オダギリのままでいい”と言われた、という。監督はフレディ前村と似ている、と感じていたのだろう。」自分であり続けたオダギリは、全編スペイン語、それもボリビア・ベニ州の方言という至難の役作りに多くの時間を費やした。


ernesto-500-3.jpgフレディ前村=オダギリに阪本監督は深い信頼を寄せていた。面倒な外国語を当然のようにマスターし、12㎏も減量するような“苦行”をやって当たり前、それを自慢など絶対しない、それこそが役者である、ということが身体に染み込んでいる。それこそゲバラと接点がある、と思う。


映画『エルネスト』の冒頭、チェ・ゲバラのゲリラへの定義が字幕で流れる。  「もし我々を空想家のようだと言うなら、救いがたい理想主義者だと言うなら、できもしない事を考えていると言うなら、我々は何千回でも答えよう。その通りだと」。この定義か、はたまた“宣言”こそがこの映画『エルネスト』の骨子ではないか。


“夢見る男たち”はキューバで大仕事を成し遂げ、それは世界中に伝播した。多少でも近づくべく、エルネスト・チェ・ゲバラの書『ゲリラ戦争  武装闘争の戦術』を繙いた。そこには半世紀以前の革命戦術、ゲリラのあり方が極めて具体的に、極めて生々しく書かれていた。キューバ革命を例にあげ、今にも世界中で武装闘争がぼっ発しそうな熱がこもっていた。革命を志すゲリラたちは「救いがたい理想主義者、夢に生きる男」に違いない。彼らは今もまだ“夢の中”にいて、“夢の続き”を見ているのかも知れない。


(安永 五郎)

 

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太地町という小宇宙から世界で起きている対立を映し出す。
『おクジラさま ふたつの正義の物語』佐々木芽生監督インタビュー
 
第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作『ザ・コーヴ』で取り上げられ、一気に非難の的となった和歌山県太地町の捕鯨問題。前々作『ハーブ&ドロシー アートの世界の小さな巨人』(2010)の公開前から太地町で撮影を始めた佐々木芽生監督が、東日本大震災等で一時中断を余儀なくされながらも、2014年から撮影を再開。2016年釜山国際映画祭にて世界初上映された最新作『おクジラさま ふたつの正義の物語』が、いよいよ9月 30日から第七藝術劇場、今秋より京都シネマ、豊岡劇場にて順次公開される。
 
南国の香りが漂い、町中にクジラのモニュメントがある太地町の捕鯨の歴史は江戸時代まで遡る。国の制限のもと、今も伝統の追い込み漁を続けている太地町に訪れ、捕鯨反対運動を展開するシーシェパードのメンバーたちにもマイクを向け、長くアメリカに住み、ドキュメンタリーに携わってきた佐々木監督ならではの視点で、太地町に住む人たち、訪れる人たちの意見や暮らしぶりを丁寧に追っていく。佐々木監督の代弁者のような存在として、長年日本に住みながらAP通信記者活動をしてきたジェイ・アラバスター氏の太地町移住にも密着。太地の人々を取材するには、彼らと同じ場所に住み、話し合える関係性を作り上げようとするアラバスター氏の考えや行動の結果は、映画にもしっかりと映し出されている。対立から相互理解へ。文化や習慣の違いを超えることはできるのか。国レベルでは無理なことでも、個人レベルでは成し遂げることができるのではないか。捕鯨問題からはじまる本作から想起するものはあまりにも多く、そしてその問題について考えることが、道は長くても「他社との共存」に繋がるかもしれない。そんな希望を抱かせてくれる、意義深い作品だ。
 
本作の佐々木芽生監督に、世界と日本の動物愛護に関する認識のズレや、太地町から見える様々な対立が意味することについて、お話を伺った。
 

 


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■捕鯨の是非を問うのではなく、太地町を通して見える世界を見ていただきたい。

━━━奥が深い、凝縮されたテーマになっていますね。
色々な国際関係の縮図であり、会社や友人関係、夫婦関係の縮図にも見えます。太地町という小宇宙から、世界で起きている色々な問題、衝突や対立が映し出されるのではないかという思いがありました。捕鯨の是非を問うのではなく、太地町を通して見える世界を見ていただければと思っています。
 
━━━日本に長く滞在し、記者活動を続けてきたジェイ・アラバスターさんの存在が、作品のバランスを取る役目を果たしています。
どなたかが、アラバスターさんと私は合わせ鏡だと指摘されて、なるほどと思ったのですが、彼はアメリカ人でありながら日本に長く住んでいます。私は日本人でありながらアメリカに長く住んでいる訳で、二人ともこの捕鯨問題に関しては少し引いた目線で、同じような考えを持っています。色々話し合いましたし、同じような考え方を持っている人で、お互い共感する部分も大きかったので、この映画にも出演していただきました。
 
━━━初めてアラバスターさんとお会いになったのは、いつ頃ですか?
2014年の暮れごろだと思います。2010年から撮影を始めたものの、中断を余儀なくされ、再び撮影を再開すべく太地町に戻った時に出会ったのが、アラバスターさんでした。あの映画の中では主人公がいない、つまり寄り添える人がいなかったのです。でも、アラバスターさんのように、アメリカ人だけど太地町に引っ越し、町の人たちを理解しようとする人がいると、捕鯨賛成派、反対派とどちら側の人も彼に寄り添えます。主人公というよりは、映画のガイドであり、特に後半は彼に寄り添って物語が進んでいくので、その存在は大きかったです。
 
 
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■世界の流れは環境保護、動物愛護から動物の権利の問題へ

━━━佐々木監督ご自身は、捕鯨に対してどのような考え方をお持ちですか?
日本人だから捕鯨に賛成という訳ではなく、日本も悪いところがあります。情報発信のまずさは、伝統や文化を傘に、我らVS彼らのような二項対立の構図を作ってしまっています。映画の中にもありますが、鯨を全然食べないのに、「自分たちの文化を攻撃された」という見せ方をするので、それはけしからんという流れになってしまう訳です。今の世界の動きというのは、太地町で起きているイルカ漁の問題は環境保護ではなく、動物愛護、動物の権利の問題の象徴なのです。映画『ザ・コーヴ』によって、問題が大きな鯨からイルカにシフトしました。その後に太地町で起きていることは氷山の一角で、韓国での犬食やスペインの闘牛、フランスのフォアグラやイギリスの狐狩りなど、動物の問題だけでも世界中で色々な反対運動が起きています。特にアメリカでは、動物に残虐な扱いをしてはいけないという動物愛護や動物福祉の問題が、今は一歩踏み出して、動物の権利が問題になっています。つまり動物の本来の姿ではないような、動物園の檻に入れたり、芸をさせたりすることは動物の意思に反しているという考え方なのです。
 
━━━アメリカでは、水族館にイルカはいないそうですね。
アメリカもそうですし、ヨーロッパはもっと前からと聞いています。水族館でイルカのショーをやっているのは、世界中でも日本、中国、途上国、中東ぐらいで、先進国ではほぼやっていませんね。日本だけがその認識がなく、非常に遅れています。そういう色々な問題を踏まえた上で捕鯨の是非を議論するべきなのに、伝統だからと議論が進まない。捕鯨といっても、調査捕鯨もあれば、太地町のような小型鯨類を獲る沿岸捕鯨もありますが、それらも全部一緒に議論されていることにも疑問を感じます。
 
━━━撮りながら、両方の意見を聞いていると、作品の落としどころが難しくなってきたのでは?
何が真実か分からなくなってきます。もちろん、あんな小さな町が世界の批判のターゲットになってしまったという不運さに対し、私が太地町の人たちに同情的であることは変わらないです。ただ、イルカ漁存続の是非については、日本の法律で保障されていることなので、太地町の漁師を攻めることではありません。それを太地町だけに背負わせるのは、フェアじゃないと思います。

 

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■捕鯨問題で中立的と言いながら非常に偏っている日本のメディア

━━━そういう点では、この映画は中立的ですが、どういうお考えで作られたのでしょうか?
捕鯨の問題に関して、日本のメディアは中立的と言いながらも、非常に偏っています。「シーシェパードは悪だ」「お金儲けでやっている」「悪のシーシェパードがやってきて、日本の伝統を壊そうとしている」という描き方で、どちら側も偏っています。誰かを悪に仕立て上げ、善悪を付けても説得力がありません。私の中でもイルカ漁に関してどちらが良いのか判断しづらいです。海外の人たちの価値観と日本人の価値観は全然違いますから。
 
━━━「違う」ということを認識するという線引きがされている映画ですね。
そこが大事です。ただ中立という言葉は、私の中ではいかがわしい感じがして、使わないようにしています。その人の立ち位置によって中間地点はズレてしまいますから。シーシェパードにとっての中間地点と、太地町の人たちにとっての中間地点は全然違うので、あまり意味がありません。私は「バランスが取れた」という言い方をしています。
 
━━━『ザ・コーヴ』公開から7年経ちますが、シーシェパードの活動は依然として活発なのですか?
日本に抗議活動に来る人たちはいなくなりました。国内からはいなくなっている、活動家の人たちが入れなくなってはいますが、ネット上ではその勢いは衰えていません。保護活動家のリック・オルバリーさんは、日本に入国できないので9月1日の追い込み漁解禁日にはロンドンの日本大使館の前にいました。世界中の日本大使館や領事館前で抗議活動を行われています。オリンピックボイコットの話も出ていますし、本気で各国が抗議行動に出れば、大変なことになるのではないでしょうか。また、シー・シェパードは2014年からフェロー諸島で抗議活動を行っていました。ただ、相当地元で反発され、2年で活動できなくなったんです。フェロー諸島の人たちは英語で猛然とシーシェパードに反論しますから、シーシェパード側も地元の人の生の声を聞いて、このまま抗議し続けるのは難しいと判断したようですね。
 
━━━反論するという意味では、佐々木監督は撮影で訪れた際に、太地町の人たちとシーシェパードの人たちの間に入って、通訳する立場となっています。お互いの言い分を一心に受ける稀有な体験をした訳ですが。
こちらはドキュメンタリーを撮っている側なので当事者になってはいけないのですが、太地町の現場で日本語と英語両方を話せる人が本当に誰もいなかったので、必然的に当事者として引きずり込まれた状況でした。
 
━━━今回の取材で実際に騒動の最中にある太地町を訪れた感想は?
本当に風光明媚な町です。熊野の自然が豊かで、温暖な気候ですし、町の人たちは玄関に鍵もかけず、ピンポンを鳴らすこともなく、お家に入っていくような、とてもおおらかな町なのです。そこに外国人活動家やシーシェパードの人たちが来て、町がギスギスしてしまったのは本当に気の毒です。映画で黄色い帽子を被ったアラバスターさんが毎朝漁師さんに向かって「おはようございます」と挨拶するシーンが出てきますが、あの撮影の最中にアラバスターさんが帽子をなくしてしまったと言うのです。そして「きっと誰かが届けてくれる」と。驚いたのですが、案の定次の日に、彼の家の玄関奥の土間に黄色い帽子がぽんと置かれていました。何のメモ書きもないので、誰が届けてくれたか分からないのですが。また、アラバスターさんが帰宅した後冷蔵庫を開けると、大きな魚が入っていたこともあったそうです。そういう暖かさが太地町にはあるんですよね。

 

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■グローバルVSローカルという構図は世界共通。ネットにアクセスできないローカルの人の声はメディアに上らない。

―――本作を編集される頃はアメリカそういう雰囲気を感じながら、編集していたのですか?
昨年編集し終わる頃、アメリカではちょうど大統領選の最中でした。ブレグジット(イギリスのEU離脱)の国民投票を支えたのは、地方でグローバリズムに生活を脅かされている人たちです。トランプ氏に投票した人も、グローバリズムや移民は嫌だという地方の生活者が多かった訳で、グローバルVSローカルという構図は本当に世界共通なのだと痛感しました。昨年6月にブレグジットがあったとき、「本当に太地町で起きていることと同じだ」と思いました。なぜかと言えばローカルの人たちはSNSやYouTubeなどネットを使った発信をほとんどしません。ですから、彼らの声はメディアに上ってきづらいのです。彼らは情報弱者ですし、世界で何が起きているのか、そこに対して彼らの生活がどのような影響を受けるのか。また、その影響に対する意見や不安などをSNSにアクセスできない人たちは伝えることができない。太地町の人たちもそうですが、地方でネットやSNSにアクセスできない人たちの声はかき消されてしまう。国内でも届かないし、国境を越えて世界にもまず届きません。
 
―――映画でもアラバスターさんが町の人にネットでの発信方法を教えているシーンがありましたが、シーシェパードの動画も駆使したリアルタイムの発信力、拡散力の凄さ、それがために声を上げられない側が不利な状況に追い込まれている様もよく理解できました。情報発信力の向上がここまで切実な問題になっているんですね。
その危機感が日本には全然ないのかという気がします。特に英語での発信ですね。太地町では外国人を見ると受け入れがたい気持ちになってしまいますし、警察はパスポート番号を控えたりもするのですが、逆にこんな時だからこそ外国人を歓迎する方法はないかと思います。個人レベルの交流ができれば、太地町の味方をする外国人も増えるでしょうし、状況は変わるのではないでしょうか。
 
 
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■動物愛護の視点に立つ人、太地町の人、両方の世界観を表す『おクジラさま』

―――タイトルの『おクジラさま』には、どんな意味が込められていますか?
生類憐みの令で「お犬様」という言い方があったのですが、それに象徴されるように、日本では17世紀の終わりに犬や動物たちを人間もしくはそれ以上に愛護し、大切にすることを定めた法令が出されました。実はこの生類憐みの令は人類史上初めて動物愛護を定めた法律で、当時では世界最先端だった訳です。動物愛護の視点に立つ人からすれば、クジラは一つの象徴であり、1970年代以降は環境保護問題の象徴にもなっている神格化された「おクジラさま」ですし、太地町の人たちにとっては命を繋ぐための犠牲になってくれる、大事な「おクジラさま」で、感謝と畏敬の念を持っています。この二つの世界観が『おクジラさま』というタイトルに込められているのです。
 
―――『ハーブ&ドロシー』同様、本作も根底に流れているのは「人間賛歌」だそうですね。
「なぜ、わざわざこんなに違うものを作ったのですか?」と聞かれることもありますが、私の中ではそうでもないんです。テーマは捕鯨とアートと違うように見えますが、本当の根底にあるものは同じだと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『おクジラさま ふたつの正義の物語』
(2017年 日本・アメリカ 1時間36分)
監督:佐々木芽生
2017年9月 30日(土)~第七藝術劇場、10月28日(土)~豊岡劇場、今秋~京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://okujirasama.com/
(c)「おクジラさま」プロジェクトチーム
 
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