「中国」と一致するもの

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「心の故郷は台湾」歴史に翻弄された湾生たちに密着したドキュメンタリー
『湾生回家』ホァン・ミンチェン監督インタビュー
 
1895年から50年に渡って続いた日本統治時代には、日本から渡った官僚や企業の駐在員、移民として渡った土地を開拓した農業従業者など、多くの日本人が住んでいた。「湾生」とは、戦前の台湾で生まれ育った約20万人の日本人を称する言葉。11月26日からシネ・リーブル梅田他で順次公開される『湾生回家』は、湾生たちが終戦で日本本土に強制送還された後、どのような人生を歩んできたか、そして彼らが生まれ育った故郷、台湾の地を再び訪れる姿を綴るドキュメンタリーだ。
 
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台湾でドキュメンタリーとしては異例の大ヒットを記録。大阪アジアン映画祭2016ではオープニング上映後スタンディングオベーションが起こり、観客賞にも選ばれた同作。終戦後70年以上経っても、心の故郷台湾にいた頃のことを思い返し、その地に戻りたいと痛切に願う湾生の皆さんの姿や、台湾から湾生の肉親のルーツを辿って日本を訪れる子孫たちの姿など、戦争で引き離された家族や友人たちが長い時を経て再会を果たす「絆」を感じる物語でもある。台湾と日本の、あまり知られることのなかった歴史の一面に光を当て、浮かび上がらせたという点でも必見作。劇中で流れる懐かしいメロディー『ふるさと』が、観る者の心の中にある故郷の記憶を呼び起こしてくれることだろう。
 
本作のホァン・ミンチェン監督に、湾生の皆さんにインタビューをして感じたことや、湾生たちを通して見つめた日本統治時代、そして湾生と台湾人との共通点についてお話を伺った。
 

■初めて知った「湾生」という存在。台湾の記憶も思い起こさせてくれた。

―――台湾はドキュメンタリーとして異例のヒットを記録し、若い観客も多かったそうですが、どんな感想が寄せられましたか? 
ホァン・ミンチェン監督:(以降ホァン監督)「とても感動している」との声が多かったです。言葉にならないという方も多く、自分のアイデンティティの拠り所など、心の奥の柔らかい部分を刺激したのではないでしょうか。 
 
―――本作を撮ることになった経緯は?
ホァン監督:元々、日本にはとても興味がありますし、初めて訪れた海外は25年前の京都でした。2013年にファン・ジェンヨウプロデューサーから電話でオファーされ、そのときに「湾生」という言葉を初めて聞きました。それから湾生の方を探して、取材を重ねた訳ですが、徳島の大学の先生から冨永さんを紹介していただきました。清水さんは早い時期に花蓮に来てくださり、色々とお話を伺うことができました。 
 
―――私も「湾生」という言葉を、この映画で初めて知りました。
ホァン監督:今回たくさんの湾生の方々にお会いし、彼らがこんなにも台湾のことを愛してくださっているのを目の当たりにしました。これは台湾人である我々が注目する点です。日頃そこで暮らしていると、台湾の良さになかなか気づきませんが、台湾の記憶までも思い起こさせてくれました。 
 

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■湾生の人たちが、自らのアイデンティティについて悩む姿は、台湾人も同じ。

―――映画で登場する湾生の方は、官僚として台湾に赴任した家族のご子息もいれば、開拓移民として台湾に行き、何代にも渡って現地で暮らしてきた方もいらっしゃいました。たくさんお会いになった湾生の方の中から映画の6名を選ばれた基準は?
ホァン監督:私を感動させてくれるかどうかが基準となっています。彼らの人生、日本に引き揚げてからどのように暮らしてきたのかについて、私が感動するということは、観客も感動するのではないかと思いました。
 
また、彼らの体験を共有できるかも重要でした。私の人生の中でも、アイデンティティについて考えることがよくあり、その部分は湾生の方と同じなのです。彼らが持っている疑念は共有できますし、人生の大先輩でもある彼らが自らのアイデンティティについて悩んでいる姿を見て、そう思いますね。
 
―――湾生の方は、常に自らのアイデンティティについて問い続けていましたね。
ホァン監督:彼らの持っている悩みは、中国と日本という2つの文化の狭間で、アイデンティティに悩んでいる台湾人が持っている悩みと同じです。文化の狭間で悩む一方、何かを生み出す力もあり、悩む部分も人間を成長させるのに大事な部分ですね。 
 
―――映画で登場された方以外にも、30人近くの湾生の方とお会いになったそうですが、インタビュー中、どのような様子でしたか? 

 

ホァン監督:子どもの頃カエルを膨らませたりしたイタズラや、些細なことも色々はなしてくださいました。子どもの頃の話は嘘がありませんし、体で覚えている記憶を皆さん、うれしそうに話してくださいましたね。 
 
―――本作の中でも小さい頃から台湾人やタイヤル族の子たちと遊んでいたという冨永さんが、様々なエピソードを語っておられ、非常に印象に残ります。 
ホァン監督:冗談を言うのが大好きなおじいさんといった感じですね。撮影の時はとても喜んでくれましたが、普段はとても孤独な感じを受けました。今回、この映画の撮影を通じて、周囲に人がいることや、多くの湾生の知り合いと出会えたことを本当に喜んでくださっていたようです。 ちなみに冨永さんは元大学教授で台湾原住民の研究をされていたそうです。
 
―――台湾では映画を見て冨永さんのファンになった若いファンもいたそうですね。 
ホァン監督:台湾では冨永さんにサインを求める方もいたそうです。撮影中には「この映画の主役は私」ともおっしゃっていました(笑)。 
 

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■湾生の方が台湾で過ごした一つ一つの経験は、書物でも探すことはできない。

―――70年以上昔の話でありながら、湾生の皆さんは昨日のことのように、時には涙を浮かべながら語っておられました。当時の台湾を知る上でも、非常に貴重な証言です。
ホァン監督:今まで自分たちが経験したことに興味を持って下さった人がいなかったので、このように取材で話を聞いてもらえるということを嬉しいと思っていただいたようです。日本の戦争の記憶は決まりきった部分だけのように感じます。湾生の方の存在という、今まであまり注目されなかったところを今回取材し、時間を共有することに対して、とても協力的。話せることは何でもという気持ちが、伝わってきました。湾生の方が台湾で過ごした一つ一つの経験は、書物でも探すことはできません。多くの台湾人に、日本統治時代の知られざる一面を明らかにすることになったのではないでしょうか。 
 

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■50年の統治を受けた日本をなぜ台湾人が好きなのか。その疑問が映画を作る原動力に。

―――それぞれの個人史を紐解くドキュメンタリーである一方で、日本統治時代の知られざる歴史を湾生たちの語りから綴っています。監督ご自身は日本統治時代をどうとらえていらっしゃいますか? 
ホァン監督:とても複雑ですね。日本はとても好きですが、多くの台湾人が日本を好きだというのは、少し誇張されている気がします。50年も植民地としての統治を受け、私自身も、なぜ台湾人がこんなに日本を好きなのだろうと思いますから。私が知っていることの多くは本やメディアから得たものなので、完全には信じられません。やはり自分が湾生の方たちと直接交流して得たものの方が信じられますね。50年の統治を受けて、なぜ台湾人が好きなのかという疑問がこの映画を作る原動力になりました。
 
―――なるほど。そのような疑問を原動力にした『湾生回家』を撮り終え、ホァン監督の中で何か新しい気付きはありましたか?

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ホァン監督:普段興味があるのは、台湾人が日本人をどう思っているのかという点でしたが、日本人が日本人をどう思っているのかをあまり考えたことがありませんでした。今回撮影で気が付いたのは、日本人の中に、台湾に対して申し訳ないという気持ちがあるということです。松本さんのお嬢さんが「アジアの国は日本のことを嫌っているのに、台湾は日本のことが好きだ」とおっしゃっていたのには、非常に驚きました。今まではその意味を理解することができなかったし、そして今回の撮影で一番困難な部分でした。
 
―――台湾語を話せる湾生の方は、直接監督とお話されたのでしょうか?
ホァン監督:湾生の方が台湾に住んでいた頃からかなり時が経っていたので、そこまで多くはなかったです。ただ、家倉さんと松本さんは、日本が戦争に負けてから本土に帰るまで2年ぐらいかかったので、国民党政権下での学校にも通い、中華民国の国家も歌っていたそうです。それは多くの人が知らなかった事実です。この2年間は私にとっては非常に興味深いのですが、一般的にはあまりそう思われていません。
 

―――今回密着した湾生の皆さんの存在を、どのように捉えていますか?
ホァン監督:人類の歴史の中の、一つの証明と言えるのではないでしょうか。人はある時期愚かであり、興奮しすぎたこともありましたが、戦争は二度と起こしてはいけません。

 
―――湾生に密着することで、日本と台湾の歴史に触れる作品を撮られましたが、今後、また別の切り口での構想はありますか?
ホァン監督:私は『湾生回家』を撮るずっと以前から、どのような題材がいいか考えています。感情的に日本が好きという部分もありますが、やはり台湾の歴史の中で日本がもたらしたことの重みはとても大きい。ドキュメンタリーにせよ、劇映画にせよ、感動できるかを念頭に置いて、取り組んでいきたいですね。
 
―――最後に、メッセージをお願いします。
ホァン監督:日本と台湾の交流だけではなく、人間の普遍的なテーマを描いています。自分の心を失ってしまうと、自分が住んでいる社会に溶け込めず、孤独に陥ってしまいますから。『湾生回家』を通して、日本と台湾で心の交流や絆があることを感じていただけるでしょう。それは、私にとって非常に光栄なことなのです。
(江口由美)
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<作品情報>
『湾生回家』
(2015年 台湾 1時間51分)
監督:ホァン・ミンチェン
出演:冨永勝、家倉多恵子、清水一也、松本治盛、竹中信子、片山清子他
2016年11月26日(土)~シネ・リーブル梅田、ユナイテッド・シネマ橿原、12月17日(土)~京都シネマ、今冬~元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.wansei.com/
(C) 田澤文化有限公司
※11月27日(日)シネ・リーブル梅田にて、出演者冨永勝さん、家倉多恵子さん、松本治盛さんの舞台挨拶あり
 

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creepy-di-550.jpg『クリーピー  偽りの隣人』 黒沢清監督インタビュー

(2016年6月8日(水)堂島ホテルにて)



『クリーピー  偽りの隣人』
creepy-550.jpg■2016年 日本 2時間10分
■原作:前川裕(『クリーピー 偽りの隣人』光文社文庫刊)
■監督・脚本:黒沢清  共同脚本:池田千尋
■出演:西島秀俊 竹内結子 川口春奈 東出昌大 香川照之 / 藤野涼子 戸田昌宏 馬場徹 最所美咲 笹野高史
■公開:2016年6月18日(土)~全国ロードショー
■コピーライト:(C)2016「クリーピー」製作委員会

■作品紹介:http://cineref.com/review/2016/05/post-668.html
■舞台挨拶:http://cineref.com/report/2016/06/creepy.html
■公式サイト:http://creepy-movie.com



黒沢清監督の話題のサスペンス・スリラー『クリーピー 偽りの隣人』が完成、6月18日公開を前に8日、監督が大阪・北区のホテルでPR会見を行った。

 
――― 前川裕氏の原作だが、かなり脚色している?
creepy-di-240-2.jpg原作読んでとても面白かった。だけど、長くて複雑で、このままやると5時間ぐらいの映画になってしまう。前半部分の“隣が怪しい”という本筋をもとに脚色しました。(原作の)前川さんも映画好きな方で、脚色に賛成してもらいました。都市と郊外の境目辺りに邪悪な何かが棲息している、そこだけに絞った。

――― ご近所関係の希薄さという社会現象?
神戸市内の生まれなので都会は知っている。普通に挨拶はして顔見知りだが、それ以上は何も分からない。たいがい、それで問題ないけれど、 よく考えると、邪悪なことが人知れず起ってもおかしくない。近年も、いくつか似たような事件が本当にあった。原作も実際の事件を元に書かれている。

――― キャラクターも変えている?
creepy-500-1.jpg無理やり変える意図はなかったが、物語を作り直していく過程でボク好みになったかな。香川(照之)さんとはこの映画でチャレンジすることを約束した。分かりやすい悪ではない。悪の象徴でもない。モラルや法律に縛られない自由奔放な男。昔で言えば織田信長みたいな、映画なら適当に自由に生きている植木等かな。うまくやれば世間で大成功するタイプ。香川さんも“よく分かる。そういう人、いる”、と言ってくれました。

――― 対照的に高倉(西島秀俊)は地味で受け身タイプ?
大学教授は頭はいいけどあまり行動的ではない。それだと物語を引っ張ってくれないので元刑事にした。ただ、一直線で脇が甘いので隣の西野につけこまれる。信頼出来るように見えるけど、穴だらけで危うい。そこが面白い。ハリウッドならハリソン・フォードですね。

creepy-500-2.jpg――― 高倉の妻・康子がずいぶん重要になるが? 
脚本を書いてるうちに康子がどんどん大きくなってきた。物語の要になるのは康子ですね。ダメもとで竹内結子さんに頼んだら、引き受けてもらえて助かりました。

――― これまではオリジナルものが多くて原作ものは少なかったが?
確かに…。実は『トウキョウソナタ』(08年)のあと仕事が来なくなった。自分では中国の歴史ものなどを企画していたが、ちょっと映画化しにくく、ものにならずで、もう撮れなくなるかと思った。そんな時にWOWOWの連続ドラマ『贖罪』の話がきた。テレビだから軽い気持ちでやったらこれが案外うまくいき、原作ものも意外にいいな、と思った。

――― 黒沢監督と言えばホラー、代名詞にもなっている。映画で怖がらせるコツは企業秘密?
creepy-di-240.jpgコツはあります。“怖いですよ”と分かりやすくすると怖くなくなる。怖いか、怖くないか、どっちか、ギリギリまで引っ張っていくのが本当に怖いんですよ。『クリーピー~』ではお隣が怪しい、と普通の家をだんだん怖くしていく。玄関開けて、廊下が見えて、しかし特に何も起こらない。そんなはずはないと観客が身構えてくれれば成功です。スリラーは好きですが、ユーレイや化け物が出て脅かす訳じゃない。犯罪が発覚していく過程が怖いんです。

――― 黒沢監督は早くから海外に進出して、非常に評価が高い。それは方針だったのか?
私の場合は『CURE』('97年)からですね。この頃、北野武監督や塚本晋也監督たちが認められて、日本ブームが起こった。大島渚監督や今村昌平監督らに続く日本映画の新しい世代が出てきた、という感じで注目された。私もその流れの中に乗った、というところでしょうか。海外メディアでは今の世界の映画は、ジャンル的な映画か、作家的な映画に分かれる。自分で言うのも何ですが『両方を兼ね備えるのは珍しい』と評価して頂いています。

――― となると、次の映画が注目されるが?
ええ、次の映画は『クリーピー ~ 』より前に撮った映画でフランス、ベルギー、日本合作の『ダゲレオタイプの女』で、すでに出来上がってます。オール外国人キャストで、全編フランス語の異色作です。


 
◆『クリーピー  偽りの隣人』
creepy-500-4.jpg日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の原作小説を、名匠・黒沢清監督が映画化したサスペンス・スリラー。犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)が、刑事の野上(東出昌大)から6年前に起きた一家失踪事件の分析を頼まれる。だが、事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春名)の記憶は頼りない。一方、高倉の妻・康子(竹内結子)は引っ越し先の隣人・西野(香川照之)の奇妙な言動に翻弄され、その中学生の娘・澪(藤野涼子)の言葉に驚く。それは異常な事件の幕開けだった…。

■公開:2016年6月18日(土)~全国ロードショー


◆黒沢清監督プロフィール 
1955年7月19日、兵庫県生まれ。立教大学在学中から8㍉映画を撮り始め、88年『スウィートホーム』で商業映画デビュー。97年『CURE』で世界的な注目を集め、以後『人間合格』(98年)、『大いなる幻影』(99年)、『カリスマ』(99年)が国内外で高く評価される。『回路』(00年)はカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。日本、オランダ、香港合作『トウキョウソナタ』(08年)ではカンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞とアジア・フィルム・アワード作品賞を受賞した。近年は『リアル~完全なる首長竜の日~』(13年)、『Seventh Code』(13年)、『岸辺の旅』(14年)などでも海外映画祭で受賞している。


     (安永 五郎)

 

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~岡山・牛窓の牡蠣工場から、

         日本の構造的な問題が見えてくる~

 
事前リサーチなし、台本なし、ナレーションなしの観察映画を自ら実践し、作品を撮り続けているニューヨーク在住の映像作家、想田和弘監督の最新作『牡蠣工場』。実生活のパートナーであり、プロデューサーの柏木規与子氏の故郷、岡山・牛窓の牡蠣工場に密着し、工場で働く人々の仕事ぶりや、海で牡蠣を引き揚げるダイナミックな作業を活写する。同時に、今牡蠣工場で問題となっている後継者問題や、労働者不足の対策についても話が及んでいく。中国人労働者を初めて受け入れる工場や従業員家族たちの緊張ぶり、一生懸命仕事を覚えようとする中国の若者たちなど、今海辺の漁師町で起こっている出来事は、日本の未来を示唆しているようにも見えるのだ。
 
インタビューでは、想田和弘監督と柏木規与子プロデューサーから、牡蠣工場を撮影して感じたことや、親戚のいた地元だからこそ感じたエピソード、そして観察映画を撮り続けた10年を振り返っての感想などを伺った。
 

 

<日本の職人技は、文化の根の部分に染みついている>

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―――前半、海中から牡蠣を引き揚げ、工場で牡蠣の殻むき作業をする工程は非常にダイナミックで、知らない世界をじっくり味わえました。
想田監督:僕は職人技に強く惹かれるので、牡蠣工場の作業を魅力的に感じました。作業の手順や工夫、手さばきなど、一つも無駄がないのです。僕の中では、「さすがトヨタの国だな」という印象を受けましたね。よく第一次産業は日本では効率が悪いので、他国の農水産物より高くなり、競争に負けてしまうという話を聞いたりするのですが、この牡蠣工場を見ている限り、それは嘘ではないかと思いました。やはり工業製品を作る効率性や技術、職人技は、おそらく第一次産業の中でも同様に生きていて、我々の文化の根っこの部分にあり、染みついているものです。それを目の当たりにして納得しました。
 
―――この牛窓は柏木プロデューサーのご親戚が住んでいらっしゃる場所だそうですが、昔懐かしい風景が広がる地域ですね。
想田監督:地域のつながり、横のつながりがすごく強い場所です。元々漁業というのは一緒に行わないと成立しない産業です。牡蠣のいかだも6軒の牡蠣工場みんなで管理しています。運命共同体のような側面があるので、とても緊密な関係を維持しながら成り立たない職業でもあります。
柏木プロデューサー:元々牡蠣は、クレーンではなく手で引き揚げていたので、大変だったそうです。母の家系には漁師が多かったのですが、それもあって、漁師さんたちが信頼して撮影させてくださったのだと思いますし、いい映画を撮らなければというプレッシャーもありました。
 
 

<自分のルーツを知る撮影|柏木プロデューサー> 

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―――確かに、完全に地域と関係のない人だったら、工場内の作業までずっと密着して撮ることは難しかったかもしれません。
想田監督:完全なアウトサイダーではなく、撮影をしていても柏木が自己紹介をすると「○○さん知ってる?」とか「○○さんの親戚じゃないか」と声をかけられましたね。スペシャルサンクスに入れている木下新輔さんも柏木の親戚で最後の穴子漁の名士ですが「新ちゃんの、はとこか!」と声をかけられましたし、牛窓に住んでいた規与子の祖母・牛窓ばあちゃん(木下秀子)も撮影の時には亡くなっていましたが、「おおっ、秀さんのお孫さんか」と親しみを持ってもらえて、すごく助けられたこともありスペシャルサンクスに入れています。
柏木プロデューサー:私にとって、自分のルーツを知っていくという、すごく感動的な撮影でした。大叔父が漁師だったということは知っていましたが、実は牛窓で牡蠣の養殖業にも携わってたそうなんですね。牡蠣の引き上げは本当に危険な作業で、皆、命綱をつけながら正に命を預けてやっていたわけです。ですから、私もそれを知った時はうわっという感覚がこみ上げました。そのように大叔父も一緒にやってきた牡蠣工場が、今や作業する地元の人が減ってしまい、新たに中国からの労働者を受け入れながら存続している。今回はその変化も感じましたね。
 
 

<グローバリズムを縦糸に> 

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―――中国からの労働者を受け入れているという側面を見ると、グローバリズムがここにもと思わされますね。

 

想田監督:牛窓は国際化やグローバリズムというキーワードとは無縁な感じがしていたので、すごく意外でした。でも過疎が進んでいる町だからこそ、グローバル化の最前線になる訳で、そこが映画の一つの縦糸になる予感がしていました。「うちの中国人が5日で辞めちゃって」という話は、みなさんの作業を撮っている時偶然始まった会話です。あの話が偶然撮れた時に、僕自身もぐいぐいその縦糸にシフトしていきました。出来上がった映画を見ると、いわゆる実習生問題に関心を持ち、そこから現場を探しに行ったと思われがちなのですが、違うんです。本当に偶然でしたね。もう一つ偶然だったのは、牡蠣工場を継ぐことになっている漁師さんが宮城出身で、震災後一家で移住された方だったことです。
 

<横糸は「牡蠣工場」に絞ること>

―――牛窓の過疎化から来るグローバリズムを縦糸としたとき、横糸はどのように見つけ、編集していったのですか?
想田監督:横糸は、牡蠣工場に流れる何気ない日常を積み重ねていくことで構築していきました。ただ、牡蠣工場では一週間撮影させていただいたころに「そろそろ撮影をやめてほしい」と言われたので、正味一週間しか撮っていません。でも3週間牛窓にいる予定だったので、カメラを持ちウロウロしていたら、86歳の漁師、ワイちゃんに出会ったのです。70年間ずっと漁をしている一匹狼のワイちゃんと、その他のキャラクターを撮りました。編集するときは牡蠣工場と、ワイちゃん、その他の人たちを入れて今回は作ろうかと漠然と考えていたのですが、全部観ていると牡蠣工場だけで独立させた方が強い映画になる気がしたのです。牡蠣工場を描くだけで2時間半かかるので、ワイちゃんの分は別の映画にしようと、編集しながら決断していきました。
 
 
―――想田監督といえば、最近は隠れ猫映画でもありますが、今回も冒頭から猫のシーンでしたね。家の中のプライベートな場面が映されているのも今回特別な感じがしました。
想田監督:猫のシロに対してあんなに無防備な声で「入っちゃダメ」と言っても、猫には「入っておいで」と言っているようにしか聞こえないと思うよね。
柏木プロデューサー:個人的なシーンですよね。(撮られていて)なんだか嫌だなとは思っていましたけれど、使われるとは思いませんでした。
想田監督:でも、発見もありました。かみさんがシロに餌をあげる時、僕が「餌をあげるからくるんでしょ」と言っても全然意に介さない。僕にとっては気にも留めないことだったのですが、映画を観た人から「奥さん、全然想田さんの言うことを聞いてないよね」と指摘され、ああそうかと(笑)
 

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<自分自身も含めた「観察」が板についてきた10年>

―――想田監督が観察映画を撮りはじめてから10年以上経ちますが、ずっと続けてくることで見えてきたことや、周りからの反響など、感じるところはありますか?
想田監督:観察映画の「観察」を「自分自身も含めた観察」であると捉えることが、だんだん板についてきた感じがします。第一作の『選挙』のときは、無色透明になろう、自分自身を消そう、みんながカメラを意識しないような映画を作ろうとしたのですが、『精神』のときから、そうではなく自分も含めた観察でいいのだという風に方向転換をしました。テレビドキュメンタリーを作っていたときから「自分を消す」ということが染みついていたので、最初は慣れなかったですが、だんだん自分も入れていいということが体に馴染んできました。今回はかみさん(柏木プロデューサー)まで出ています。それも全然抵抗がなかったですからね(笑)。
 
あと10年やってきて最近感じるのは、インタビューを受ける時も、最初から観察映画の方法論を語る必要がなくなり、観察映画という前提で観て下さる方が記者の方にも、一般の観客の方にも増え、根付いてきた感じがあります。海外でもずっと同じ方針でフィルモグラフィーをビルドアップしてきていることが、少しずつ批評家や観客の中に定着してきているので、特集上映される機会も増えてきました。じわじわと浸透してきたという手ごたえはあります。長く続けるものだと思いますね。
(江口 由美)

<作品情報>
『牡蠣工場』(2015年 日本・アメリカ 2時間25分)
監督:想田和弘 
2016年2月27日(土)~第七藝術劇場、3月12日(土)~神戸アートビレッジセンター他全国順次公開
※第七藝術劇場2月27日(土)15:35回 上映後、想田和弘監督トークショー開催
公式サイト⇒http://www.kaki-kouba.com/
 (C) Laboratory X,Inc.
 
 

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ジャッキー・チェン×ジョン・キューザック×エイドリアン・ブロディと今やアジアのみならず世界のトップスターとして君臨するジャッキー・チェンが、ハリウッド屈指の名優陣と共に顔を揃えた『ドラゴン・ブレイド』。本作の映画ビジュアこれまで世界統一ビジュアルしか許されなかった中、日本公開に際して新たに製作された、世界初日本独自の新ビジュアルが完成!ジャッキー自ら「素晴らしい!」と太鼓判を押したというそのビジュアルに挑んだのは・・・。
 

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なんと、大阪府広報担当副知事もずやん!
大阪府政の主要課題や施策、予算、イベントなどを府民にわかりやすく紹介する「府政だより」をもっと多くの方にご覧いただきたいと一念発起、映画『ドラゴン・ブレイド』との奇跡のコラボレーションが実現した。
 
映画のキャッチコピー「戦え、勇者たち。愛と友情のために。」になぞらえ、「見てな、府政だより。愛と情報のために。」と呼びかけ、三人の映画スターさながら剣を携え、一羽三役で勇ましい姿を魅せている。
 
映画ともずやんの共通の想いはひとつ。「映画も府政だよりも見てな!」
1月下旬から、大阪府の出先機関や図書館、市町村関係など府内公共施設で掲示されているので、ぜひチェックして!
 
さらに…大阪のみなさんに、ジャッキーから素敵なメッセージが届きました!
「ジャッキーからのメッセージも見てな!」
映画「ドラゴン・ブレイド」×府政だより~もずやんが超大物スターに抱っこしてもらった!
 
 

『ドラゴン・ブレイド』

戦え、勇者たち。愛と友情のために。
遥か遠い昔、シルクロードで…。今、映画で初めて描かれる中国史最大の謎。

<ストーリー>
DB-500-1.jpg紀元前50年、36の部族が紛争を繰り広げるシルクロード。前漢西域警備隊でその地の平和を守る司令官フォ・アン(ジャッキー・チェン)は、陰謀によって反逆者の汚名を着せられ、部下と共に西域辺境の関所・雁門関に送られる。その一方、ローマ帝国の将軍ルシウス(ジョン・キューザック)は、執政官の息子ティベリウス(エイドリアン・ブロディ)から命を狙われているティベリウスの弟プブリウスを守り西域に連れてくる。雁門関で出会い、国の違いを越えて友情を深め合うフォ・アンとルシウス。ルシウスはローマの先進的な建築技術を用いて雁門関の修復工事を成し遂げる。だが、そこに中国侵略を目論むティベリウス率いるローマ帝国最強の大軍勢が攻め込んでくる。フォ・アンは、一致団結してローマと戦おうと、抗争を続ける各部族に共闘を提案するが…。
 
<見どころ>
DB-500-3.jpg2000年前、シルクロードでローマ帝国と中国が戦ったという映画で初めて描かれる史実をもとに、ジャッキー・チェンが映画人生のすべてをかけた国際的プロジェクト『ドラゴン・ブレイド』。ハリウッド屈指の名優陣ジョン・キューザック、エイドリアン・ブロディを迎え、韓国からSUPER JUNIORのチェ・シウォンらが参加。中国映画史上最大の総製作費6500万ドル(約80億円)をかけた、空前のスケール、圧倒的な興奮と感動で贈る、前人未到の歴史スペクタル巨編!
 
<作品情報>
監督・脚本:ダニエル・リー 
製作・アクション監督:ジャッキー・チェン 
出演:ジャッキー・チェン/ジョン・キューザック/エイドリアン・ブロディ/チェ・シウォン(SUPER JUNIOR)/リン・ポン/ミカ・ウォン  
【2014/中国・香港映画/103分/PG12  配給:ツイン】
 2/12(金) TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんばほか全国ロードショー!
  
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