「中国」と一致するもの

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 8月24日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開されるミッシェル・オスロ監督(『キリクと魔女』)の最新作『ディリリとパリの時間旅行』が、6月22日にフランス映画祭2019 横浜で上映された。
 
 ベル・エポック時代のパリを舞台に、ニューカレドニアから伯爵夫人の助けを借りて船でパリにやってきたカナック族の少女ディリリと、パリの案内人のような顔が広く誠実な配達人の青年、オレルが、地下で暗躍している謎の集団、男性支配団と少女失踪事件の関係を突き止め、少女たちを救う冒険物語だ。ディリリとオレルが行く先々で出会うベルエポック時代の画家や作家をはじめとした実在の有名人が次々と登場。またオペラ座やムーラン・ルージュをはじめ、パリの名所の舞台裏も映し出す。当時の女性や女優たちの美しい衣装や、オペラの歌声にも注目したい。ベル・エポック時代を覗き見るかのような芳醇な体験に胸がワクワクする、宝物のような作品だ。
 
 上映後に登壇したミッシェル・オスロ監督は、開口一番「ベル・エポック時代のパリ散歩を楽しみましたか?」と観客に呼びかけ、女性が初めて社会進出をした時代であり、ロングドレスを着た最後の時代であるベル・エポック時代を舞台に、散策あり、冒険あり、救出劇あり、オペラありと盛りだくさんで、とにかく美しく楽しい物語の発想の源を明かしてくれた。その内容をご紹介したい。
 

 

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■日本のアニメ映画で好きな監督について〜高畑勲監督のことを思いながら作品を作った

高畑勲監督と宮崎駿監督のお二人とは面識があります。ここに高畑監督がいらっしゃらないのは本当に悲しく思いますし、彼のことを思いながら、この作品を作っていました。生きていればこの作品の日本語字幕をつけてくださったと思います。高畑監督がいない中、出来上がったこの作品は「家なき子」のようなものではないでしょうか。
 

■主人公ディリリの設定について〜人種の多様性を描くために、ニューカレドニアのカナック族のハーフに

ディリリと配達人のオレル、オペラ歌手エマ・カルヴェの運転手ルブフの3人は僕の創造物ですが、他の登場人物は全て実在の人物で、今も私たちを楽しくさせてくれています。小さな女の子たちの誘拐事件を題材にしたのは、小さい女の子たちを守りたいという思いがあったからで、主人公も自然とそのようになりました。
 
今回のテーマである男性が支配し、女性や小さな女の子を虐げるものの対抗として文明を取り上げようとしたとき、ベル・エポック時代はまさにパーフェクトな時代ですが、一つだけ問題だったのは、その時代は白人ばかりであったということ。僕の過去作品は世界の各地を舞台に出てくるキャラクターたちも肌の色がとりどりの多様性を描いていたのに、白人だけでは作品が退行してしまう。ですからディリリはニューカレドニアのカナック族に設定しました。当時、公共の公園に「原住民の村」を復元して原住民の生活ぶりをみることが流行っていたのです。さらに加えた要素はディリリがフランス人とのハーフであるということ。ハーフは母国が二つあるので、どちらの国でも排除されるという運命になりがちです。ディリリだけではなく、カフェで踊っているサーカス座の黒人、ショコラやアイリッシュ・アメリカンバーのバーテンダーの中国人、北アフリカチェニジアの詩人も登場します。
 
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■アニメの世界で表現されるフェミニズム〜女性に対する虐待は至るところに見られる

生まれた時から母も姉も素晴らしい女性だったので、僕が男だからといって彼女たちより優れていると感じたことはありませんでした。僕が少しずつ成長し、社会がわかってくるようになると、多くの男性が、女性が劣っていると感じていることを知ったのです。
 
とりわけ宗教は女性蔑視の傾向が強く、それは本当に愚かで良くないことです。家庭内暴力になると、夫婦の間では女性の方が命を落とすことが多い。階級を問わず女性に対する虐待は至るところに見られます。
 
僕自身は人間的、論理的な人間なので、愚かなこと、意地の悪いことを見ると「どうして?」と怒りがこみ上げてくるのです。例えば戦争で命を落とす人の数に比べて、女性や少女たちの死者の方が多い。そういう問題を取り上げなければいけないと思ったので、今回の作品のテーマにしました。
 

■色使いと背景について〜アニメのキャラクターと僕自身が撮った実写の写真を融合

僕自身が今のパリの写真を撮り、それを使うことで、単に夢を作品にするのではなく、人間たちが作った現実のパリを作品にしています。そういうものを人間が作れるということをアピールできたのではないかと思います。
 
背景については、アニメのキャラクターと僕自身がとった実写の写真をとてもシンプルな形で融合しただけ、難しい技法は使っていません。平面的な写真が背景で、そこに人物たちをアニメで載せているだけです。2箇所だけ、もう少し小さい写真をいくつかおいて、カメラが巡回し、風景に一貫性が生まれるようにしました。また、下水道の中は3Dで全て復元しました。
 

■お気に入りのシーンについて〜実在のスーパーウーマン3人が会するシーンは感動

キャラクターは僕が一つ一つ書いて描きましたが、原画を見ながらキャラクターを描くのは本当に楽しいです。中でも友情を感じる人物はロートレックで、彼は画家としても素晴らしいが、人間としても素敵な人でした。
 
スーパーウーマンが一堂に会し、男性支配団への対抗策を議論するシーンでは、ルイーズ・ミシェル(無政府主義者)サラ・ベルナール(ベルエポック時代を代表する大女優)、マリ・キュリー(物理学者、科学者)の3人を登場させましたが、3人が話していることには感動しました。そして、一番満足したシーンは、鉄の建物のエッフェル塔があり、鉄の骨組みの前を、飛行船が(キラキラと輝きながら)降りてくるシーン。それを目にした時、「悪くないな」と思ったのです。
(江口由美) 
 

『ディリリとパリの時間旅行』“Dilili à Paris”
2018年 フランス 94分
[監督]ミッシェル・オスロ 
[声の出演]プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ他
 
フランス映画祭2019 横浜
◼ 期間:6月20日(木)~6月23日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 

 

 
 
 

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夢破れてUターン、自分の居場所求めて
《えちぜん鉄道》のアテンダントとして再生する笑いと感動の物語。

急に《えちぜん鉄道》に乗りたくなって、勝山市へ行ってきました!

 

福井県勝山市を舞台に、お笑いタレントの横澤夏子映画初主演作にして、越前鉄道の新人アテンダントを颯爽と好演。夢破れて都会から戻った主人公が、疎遠になっていた家族や地元の人々との交流を通じて、故郷の温もりに癒され、改めて故郷で生きる歓びを感じていく、笑って泣ける感動の物語『えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。~』を観て、思わず旅に出たくなった。


echitetu-500-1.jpg越前海岸から福井平野を走り抜け、さらに永平寺口から白山山系を望む勝山市まで九頭竜川沿いに走る《えちぜん鉄道》の、風光明媚な鉄旅が旅愁を誘う。早速、舞台となった福井県勝山市を訪ねることにした。以前から、勝山市の恐竜博物館へも行きたかったので、丁度いい機会となった。


echitetu-tabi-500-1.jpg大阪駅から特急サンダーバードに乗って2時間で福井駅に到着。JR福井駅のすぐ隣にある真新しい《えちぜん鉄道》の福井駅から勝山行きに乗車。可愛いアテンダントのお嬢さんが出迎えてくれる。今は10人のアテンダントが交代で勤務しているという。たった1両の車両に運転手とアテンダントが乗務するとは、今時なんと贅沢なことだろう。


echitetu-tabi-500-2.jpg終点の勝山駅まで約50分の各駅停車の旅は、平日だったこともあり、観光客より路線沿いの人々の乗降が目立つ。途中、保育園児の団体が乗り込んできて、車内は一気に賑やかになる。(どうです、この笑顔!“変なおばちゃん”を怖がりもせず、とびきりの笑顔でポーズ♪)


echitetu-tabi-500-3.jpg永平寺口駅を過ぎた辺りから九頭竜川沿いに走り、季節の移ろいを感じさせる白山山系が迫る山並みを目指す。途中、アテンダントが観光案内もしてくれるのも嬉しい。


echitetu-tabi-500-5.jpg遠くからでも目立つ山奥にある銀色に輝く球体にびっくり!近づくにつれその巨大さに目を奪われる。おお~モスラの卵か、ゴジラの卵か!? 謎の球体の正体は日本一規模の大きな自然史博物館の《福井県立恐竜博物館》。カナダの《ロイヤル・ティレル古生物学博物館》、中国の《自貢恐竜博物館》に並ぶ世界三大恐竜博物館のひとつらしい。


echitetu-tabi-500-4.jpg終点の勝山駅では、恐竜の親子が迎えてくれる。


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echitetu-tabi-240-2.jpg恐竜博物館へは、勝山駅から出ているシャトルバス(片道300円)が便利。予想以上に大規模な恐竜の展示に大満足。いたる所で、巨大な動く恐竜たちがお出迎えしてくれるのも楽しい。館内のレストランでは福井名物のソースカツや越前そばも味わえる。恐竜博物館オリジナルのお土産も数多く、家族連れでも十分楽しめる。


echitetu-tabi-500-7.jpg映画のロケ地をもっと見て回りたかったが、恐竜博物館で時間を取りすぎてしまって、断念。いずみの実家となった老舗蕎麦屋「八助」や、「勝山市左義長祭」の舞台となった古い町並みが美しい「本町通り商店街」を歩いて、九頭竜川にかかる橋を越えて勝山駅へと向かう。


echitetu-tabi-500-9.jpgそして、松原智恵子と横澤夏子がいずみの実母について語るシーンが撮影された、勝山駅構内にあるレトロなカフェ《えち鉄CAFE》で、オリジナルブレンドコーヒーとコーヒーゼリーを頂く。その香ばしく深みのある美味しさは、旅のいい思い出となった。今度は春に訪れて、「八助」の手打ち蕎麦を食べたい! 名残惜しい恐竜の里よ、今度は白山平泉寺や越前大仏・清大寺などへも行ってみようと思う。

 


『えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。~』

【STORY】
echitetu-pos.jpg勝手に家を出て、東京でお笑い芸人を目指していた山咲いずみ(横澤夏子)は、挫折して久しぶりに帰郷する。父親の葬儀にも帰らず、実家の蕎麦屋を継いだ兄の吉兵(緒方直人)とは長年疎遠になっていたが、優しい兄嫁やその子供たちは歓迎してくれた。実は、いずみは赤ん坊の頃に引き取られた養女で、それをずっと秘密にしてきた両親や兄に対して不信感をつのらせていたのだ。


友人の結婚式で出会った越前鉄道の会長(笹野高史)にはじける笑顔を気に入られたいずみは、越前鉄道(えちてつ)のアテンダントの研修を受けることになる。1両のワンマンカーに青い制服姿の颯爽とした若い女性が車掌として乗務するという、今どき珍しい鉄道会社である。だが、兄に何の相談もなく急に帰ってきたかと思えば、地元で新たに仕事を始めるといういずみの勝手さに、兄は怒りを爆発させる。果たして、アテンダントとして一人前に乗務できるようになるのか、兄との和解は訪れるのか、いずみの心からの笑顔を見ることはできるのか?


■(2018年 日本 1時間49分)
■監督:児玉宜久 脚本:児玉宜久、村川康敏
■出演:横澤夏子、萩原みのり、山崎銀之丞、笹野高史、松原智恵子、緒方直人、辻本祐樹、坂本三佳、安川まり、古田耕子
■公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/echitetsu/
■©2018『ローカル線ガールズ』製作委員会

2018年11月23日(金・祝)~有楽町スバル座、テアトル梅田、あべのアポロシネマ、12月22日(土)~京都出町座、12月公開予定~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開


★シネルフレ作品紹介は⇒ こちら

(写真・文:河田 真喜子)

 

 
 

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自分の十年後はなんとなく予測できても、日本の十年後は?と問われると、少し悲観的な気持ちになってしまう人が多いのではないだろうか。超高齢化社会、バブル世代が還暦を迎えるような時代の日本は一体どうなるのか?
是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーを務め、新鋭映画監督5人により日本の十年後を描いたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が、11月3日(土・祝)からテアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開される。
 
日本、タイ、台湾の三カ国による国際プロジェクトである『十年』。日本版では、徴兵制、AI教育、安楽死、放射能問題、デジタル遺産というテーマのもと、現在と同じように葛藤を抱えながら生きる大人や、体制に抗いながら自分の切り開こうとする子どもたちの姿が描かれる。5本のオムニバスの中から、AIが教育する十年後を描いた『いたずら同盟』の木下雄介監督にお話を伺った。
 

 

■自分と世界との距離感を映画で表現した初長編『水の花』。

―――木下監督は大学在学中に応募した作品がPFFの準グランプリを受賞、PFFスカラシップに選ばれ、05年に完全オリジナルの初長編『水の花』を撮っておられます。この作品も『いたずら同盟』と同様、子どもが主人公でしたね。
木下: 『水の花』は、主人公は中学生の女の子で、自分の親に対し、ある種憎しみのような感情を抱いています。大人の世界に対して拒絶していくのですが、「大人は判ってくれない」ことを判っていくラストになっています。当時、僕は24歳で、自主映画出身の自分が長編1本目を撮らせていただく中で、自分と世界との距離感を映画で表現していました。
 
―――その次は13年の短編『NOTHING UNUSUAL』ですが、かなり間が空いていますね。
木下: 『NOTHING UNUSUAL』はアップリンクさんの企画に関わらせていただいたものです。『水の花』以降、自分の中では映画をやっているつもりなのですが、脚本を書く時も自分の内側に入り込み、7年かけて、自分と自分の周りにいる若者の青春群像劇を書いていたのです。『NOTHING UNUSUAL』は、2ヶ月後に上映という超スピード制作で、日食が起こる日を舞台に、30歳近くになっても定職につかず、夢を目指している青春の終わりを描いた青春群像劇でした。『NOTHING UNUSUAL』を撮り終わり、もう一度映画を勉強したいという思いが強くなって、映像の仕事やテレビの仕事にも携わるようになったのです。今回の『十年』は、新たに映画を作りたいと動いていたタイミングで声をかけていただきました。
 
―――元になっている香港版の『十年』をご覧になった感想は?
木下: 香港版の場合は、中国政府が意識をする対象として共通にあり、怒りに満ちた映画になっています。実際に作品を撮っている時に雨傘革命が起こり、国全体がそのことを元に映画と向き合えたという部分では、羨ましさも感じました。
 
 

■AIと、教科化された道徳を組み合わせ、子どもたちがどのように生きるかを描く。

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―――今回、日本の「十年後」を描く企画を打診された時、どう感じましたか?
木下: 実は僕の子どもが産まれた三日後にこのお話をいただいたので、十年後だと我が子は10歳だなということはすぐに思い浮かびました。後、以前からAIを映画で描いてみたいと思っていたのです。道徳が教科化されますが、道徳は本来、国が指定したり、先生に価値基準を教えられたりしながら植え付けるべきものなのか。自ら行動し、間違えてもそこから行動を起こすことで、価値基準を知っていくものではないかと思うのです。そもそも善と悪の二つだけではないですから。一方で、国がまとめ上げやすい教育を、不完全な人間の大人ではなく、ありとあらゆるデータを持ち、子どものことをよく分かっているとされるAIが代わりに担ったらどうなるだろうか。その中で、子どもたちがどのように生きるかという映画にしていきました。
 
―――各自のこめかみに設置されたAIシステムが、将来日本を支える労働力になることを見越した個人の能力、才能を加味したアドバイスしますね。
木下: 少子高齢化で効率的に考えていくことを優先させた場合、AIが言う通り、ダイスケが野球選手になれないのは本当かもしれませんが、それでも自分のやりたい事を叶えるために頑張ろうとするのか。そこはこの作品で問われている部分です。
 
 

■システムの中の一員であることを自覚。その中で行動を起こすことの可能性を探る。

―――AIシステムが最後にバージョンアップするのには驚かされましたが、そのように描いた狙いは?
木下: 若い頃は、政治は嫌だと言っていても、大人になってしまうと、そのシステムの中に入ってしまうという認識を持っています。その中で、どのように、ジリジリとでも変えていけるか。そこを模索しているのが、今の自分の気運であり、『いたずら同盟』にも反映されています。僕もシステムの一員であることを自覚して、行動を起こしていけば、そのシステムを変化する可能性があるのではないか。そういう気持ちが込められています。
 
―――AIシステムが学習するという部分をポジティブに捉えているということですか?
木下: 子どもたちが老馬を放ったということは、一般的な価値基準から言えば悪いことかもしれませんが、そういう善悪の基準を超えた部分で、僕は子どもたちが取った行動の背中を押してあげたいし、僕の中では肯定的な行動なのです。ただAIが、馬の死を目の当たりにした時の子どもたちの悲しみや、そのことにより人生観が変わったということを理解するところまでいってしまう場合、道具という現在の概念を超えてしまうのではないか。そこもAIと向き合う上で考えていかねばならないことだと思っています。
 
―――是枝裕和監督が総合監修をされていますが、どんなアドバイスがあったのですか?
木下: 是枝監督には脚本も3回ぐらい見ていただきましたし、編集も3回ぐらいチェックしてくださいました。全作品そのように脚本、編集を見ておられます。是枝監督からは「木下君の脚本は長編の書き出し方をしているよ」等、観客を意識した上で脚本をどうしたらいいかという視点でのアドバイスを下さいましたし、同時に僕がやりたいことも汲み取って下さいました。NGを出すのではなく、うまく想像させるように、アドバイスをしていただいた感じですね。
 
 
 
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■『萌の朱雀』の時から感銘を受けていた國村隼に念願のオファー。

―――子どもたちを見守る大人として、親や先生以外に、國村隼さん演じる用務員が登場します。第三者的な大人が子どもを温かく見守り、この物語をうまく支えていますね。
木下: 國村隼さんが脚本をすごく読み解いて下さいました。どのような歴史があって、用務員の彼があそこにいるのかも考えて下さいました。馬を逃がそうとする子ども達の背中を押してあげるのは、國村さんの演じる用務員で、そこでの見事な高笑いも含め、本当に國村さんにやっていただいて良かったです。
 
―――國村さんに最初からオファーを考えていたのですか?
木下: 『萌の朱雀』で父親役を演じた國村さんの佇まいや、立ち振る舞いから溢れ出る悲しみに、見ていてすごく納得させられ、この短編にぜひ出演して欲しいとお願いしました。今回、服装もアイデアを出してくださったり、台風で撮影が延び、野外撮影が室内撮影に変わった時も、すれ違いざまに子どもに声をかけるシーンで、あえてセリフをなくして通り過ぎる演技にされ、僕の中でもすごく納得のいくシーンになりました。
 
 

■観客の「見たい」という欲求を引き出す設定と演出。

―――最初は別の方向を向いていた三人の子どもが、馬を逃すという共通の目的で一致団結しますが、どのようにキャラクターを設定していったのか教えて下さい。
木下: 良太が主軸にありつつ、マユと大輔の化学反応が、AIの測定しきれない部分になるので、三人のバランスは考えました。三人が立った時の見え方や、大輔のリーダー格だけど憎めない部分だとか。自分が想定したことと、役者の方自身が持っているものが融合してキャラクターができました。そこが、前作『水の花』との大きな違いですね。方法論としてもフィルムで、ワンシーンワンカットで撮りたいとか、僕の頭の中で、撮りたいものが全部出来上がっていました。今回は現場で皆さんと議論しましたし、夜の森のシーンは、光が木に当たると白んでしまうので、限られた時間帯をめがけて撮影しました。
 
―――夜の森のシーンは、本当に幻想的で美しかったです。
木下: 照明がギリギリで、本当に大変でした。昔から、あえて見えにくくすることを取り入れていました。観客が前のめりになって「見たい」という欲求を引き出したいんですね。どうなるのかと暗闇に目を凝らしていると、馬の胴体が見えてゾクッしたり美しいと感じる。そのような効果を出すために、カラーコーディネーターや撮影とすごく色々作業しました。
 
―――今回の撮影は、矢川健吾さん(『穴を掘る』監督)ですね。闇の中での撮影は見事でした。運動場で、駆けていく馬を子ども達が追いかけるシーンも爽快でした。
木下: 運動場のシーンは、矢川さんでなければ撮れないですね。人間が乗っていない馬は本当に動きが予測できないので、車だと小回りが効かず追いかけられない。自転車だとカメラの重みで揺れてしまう。最終的に学校のリヤカーをお借りして、スタッフで引きながら、矢川さんが荷台に乗って、撮影したんです。夕方のシーンですが、早朝に逆マジックアワーを撮り、本当に楽しかったですね。
 
 
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■オムニバスだからこそ、自分らしさがより明確に見える。

―――『水の花』はラストが海でしたが、今回は山に入って行きます。自然に還っていく感じがしますね。
木下: やはり自然が好きなんですね。『十年 Ten Years Japan』の中で、石川慶監督の「美しい国」は、太賀さんと木野花さんの二人の芝居に集中するのも方法論として面白かったです。僕の場合は、自然に飛び出して撮るのが好きだったり、馬や後半の森の絵が利いているなと思ったり、同じ条件で撮っている他の作品があるからこそ、自分らしさがより明確に見えてきますね。普遍的に根底にあるものを掬い取りたいし、それを映画として表現したい。この映画を撮れたから、そういうことの気付きになりました。
 
―――出来上がった『十年 Ten Years Japan』全体をご覧になって感じたことは?
木下: 香港版が怒りの感情が根底にあるとすれば、日本版は社会の中に生きて、もしかしたら加担してしまっているかもしれない人たちが、社会を憂い、問題意識を提示しています。最初周りから、「政治的問題を撮るんですね」と言われたのですが、政治というのは自分たちの身の回りにあるもので、自分たちの行動一つ一つが政治や経済に繋がっているということを、本作を見ていてハッと気付かされるのではないかと思います。映画をご覧になった皆さんが、少しずつ行動を変えると、それが十年後の未来を変えることに繋がるかもしれません。
 

■国際プロジェクトを通して、他者にも大事なものがあると理解し、分かり合いたい。

―――最後に『十年 Ten Years Japan』は、タイ、台湾との国際プロジェクトですが、その意義をどう感じておられますか?
木下: まず日本がアジアの一員であることを意識しなければいけないと思います。香港版を見たときに、香港の歴史や国の状況が分かりましたし、タイや台湾、日本もそれぞれの国の歴史、事情があります。自分に大事なものがあるように、他者にも大事なものがあると理解できた時、分かり合えるのだとすれば、映画を通してそれをやれるのは、いいことだと思います。
(江口由美)
 

<作品情報>
『十年 Ten Years Japan』(2018年 日本 99分)
監督:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
エグゼクティブプロデューサー:是枝裕和
主演:杉咲花、太賀、川口覚、池脇千鶴、國村隼
配給:フリーストーン
2018年11月3日(土)〜テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
※11月4日(日)シネ・リ-ブル梅田 10:00の回(上映後)、神戸国際松竹 13:30の回(上映後)、早川千絵監督、木下雄介監督、津野愛監督、藤村明世監督による舞台挨拶あり。
 
公式サイト → http://tenyearsjapan.com/

© 2018 Ten Years Japan Film Partners

 

 

 

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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、香港のフルーツ・チャン監督最新作『三人の夫』がコンペティション部門作品としてワールドプレミア上映された。娼婦を描いた『ドリアン・ドリアン』(00)『ハリウッド★ホンコン』(01)に続く、「売春トリロジー」の3作目となる本作。ボート生活を送る常人離れした性欲に苦しんでいる主人公、ムイと、彼女と暮らす年老いた父親、ムイの赤ちゃんの父親である老漁師、そしてムイに恋し、結婚した青年“メガネ”が織りなす物語は、夫との性生活に満足できず、元の船上売春婦に戻るムイと男たちの性描写の多さに驚かされる一方、常人離れしたオーラを放つムイに心を奪われる。また、フルーツ・チャン監督ならではの移りゆく香港の今を、色濃く映し出す要素として、先日全面開通したばかりの香港とマカオを結ぶ世界最長の海上大橋「港珠澳大橋」も登場。今後香港に大きな影響を与える象徴的存在となっている。

 

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フルーツ・チャン監督、脚本のラム・キートーさん、主演のクロエ・マーヤンが登壇して行われた記者会見では、まずセックスが止まらない女性を描いたことについて、「本来、性欲は男性のものですが、今回初めて性欲の強い女性を描きました。自分でも女性の性欲がどこまでいくのかわからず苦労しましたが、医者に聞くと、その欲は無尽蔵だと。満足するまではどこまでも止まらないと言われました」とチャン監督がその苦労を明かした。

 

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初主演作にして、チャン監督の指示により1ヶ月で13キロ増量して体当たりの演技を見せたクロエ・マーヤンさんは、「チャン監督には、肉感的で、被害者ではなく力強い女性像が求められました。初めて脚本を読んだのは、香港に到着し、クランクインした初日でした。読んだ時、これぞ長年待っていて、今まさにやりたい役だと思いました」と告白。脚本のラム・キートーさんが、「普段はあまりありませんが、フルーツ・チャン監督の売春トリロジーの撮り方は、監督が文字脚本を起こし、今回のようにキャスティング後に、マーヤンさんをイメージしてビジュアルに落としていきます」と、このシリーズならではの撮り方であることを説明した。

 

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精神的な危うさも含めて、素晴らしい演技を見せたマーヤンさんを抜擢したことについて、チャン監督は「中国においては、女性がセックスをメインにした映画を撮ることはある意味冒険で、とても難しいのです。実は10年前ぐらいに一度、マーヤンさんと出会っていたのですが、当時は私のイメージと合わずキャスティングしませんでした。今回この役を探すに当たり、あの時のマイヤンさんはどうだろう、かなりイメージが変わっていると勧めてくれた人がおり、実際お会いすると、この物語のイメージに近くなっていたので、キャスティングしました」とその経緯を明かすと、マーヤンさんも、「自分との対話という意味で、過去の自分やこれからの自分を考えた時、いま、一番これをやるべきだと思いました。とてもパワフルでした」とオファーを決意した時の心境を語った。さらに、一度脱ぐ演技をした後、そのイメージを払拭することの大変さを聞かれると「『ラスト、コーション』のタン・ウェイさんと共演したときに、その後ご苦労なさったと聞きました。でも共演した時は心穏やかな状態でいらっしゃいました。私自身も心配はしましたが、海に飛び込んだのなら、そのまま漂っていきたいと思っています」と晴れやかな表情で語った。最後に、香港での上映はできるものの、中国では上映できないことを明かしたフルーツ・チャン監督。「これが社会の暗黒面ですね」と表現の自由が犯されている状況を皮肉った。

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

(江口由美)

 

 

 
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高校時代の出会いから10年に渡る同級生との恋とその決別を男子目線で描き、台湾で大ヒットを記録、日本でもスマッシュヒットした台湾映画『あの頃、君を追いかけた』。
男子高校生のたわいのない日常と、みんなが憧れるマドンナ的存在のクラスメイトと一緒に頑張ったテスト勉強。心の距離は近づいているのに、肝心なことを最後まで伝えられなかった後悔の念。全てが愛おしく思える青春の日々を新人監督だったギデンズ・コーとフレッシュなキャストで描いた同作が、日本版にリメイクされ、10月5日(金)よりTOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショーされる。
 
実力派俳優、山田裕貴と、本作が映画初出演となる乃木坂46中心メンバーの齋藤飛鳥が、10年に渡る恋物語を等身大の魅力で熱演。同級生役に松本穂香をはじめ、若手キャストが集結し、オリジナルをリスペクトするシーンを交えながら、期待と不安に心を震わせる青春時代がよみがえるような、心に残る青春映画が誕生した。前作『恋は舞い降りた。』(97)から21年ぶりにメガホンをとった長谷川康夫監督に、お話をうかがった。
 

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■青春時代に思い描いていた未来は叶わないことをきちんと描いたオリジナルに感動。

―――長谷川監督と山田さんとの出会いは?
長谷川:10年ほど前、彼がまだ名古屋から東京に出てきたばかりの頃に、僕の芝居の稽古場に現れたのが最初ですね。まだ俳優を仕事にする前でしたが、見習いのような形で(笑)稽古に参加して。まぁ僕から見ると、彼はその頃と何も変わっていない。いまだにどこか少年のまま。だから20代後半で制服を着ても(笑)、ひとつも違和感がなかった。少年の「熱さ」と「戸惑い」のようなものが、今でも彼の中にちゃんと残っていて、それは今回の主人公そのものです。たぶんこれまで彼が演じてきた中で、一番「山田裕貴らしい」役に巡り合えたんじゃないかと思っています。
 
―――本作は、台湾のギデンズ・ゴー監督による大ヒット青春映画『あの頃、君を追いかけた』のリメイクですが、最初その作品をご覧なった感想は?
長谷川:やられたと思いました。青春時代に思い描いていた未来など、決してその通りにはならない。それをきちんと描いているのが素晴らしいと。ほら昨今、「追い続ければ、その夢は必ず叶うことを知りました!」なんて言葉、よく聞くでしょう。高揚してるタレントさんがいて、周りも「うん、だから皆もあきらめずにガンバレ!」と図に乗る(笑)。でも夢が叶う人間なんて、ほんの一握りなんです。まず叶わないまま、人生は進んでいく。そのことを僕ら大人はみんな知ってます。でもね、たとえその夢が叶わなくとも、夢を追い続けた日々はそれぞれの人生の中でとても大事で、かけがえのない時間なんだって、オリジナル版では、そこをきちんと伝えてるんです。こんな映画はなかなかないなと、胸を打たれました。もしかしたら、ある程度、齢を重ねた人の方が心に沁みる映画なんじゃないかと、オッサンは涙で席を立てませんでした(笑)。
 
 
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■自分の色を出すのではなく、オリジナルで感動したシーンはそのまま取り入れる。

―――リメイク版を作るにあたり、最初に監督ご自身の中で決めていたことはありましたか?
長谷川:ヘタな企みはやめようと(笑)。監督というのは、普通ならあれこれ自分の色を出したいんでしょうが、その気持ちは極力抑えました。オリジナルを見たときに感動した部分、僕が「やられた」と思ったシーンは、あえてそのままで行くことにしたんです。日本の映画界を代表するカメラマンや照明家が納得の上で、オリジナルと同じ構図、同じカット割りにこだわってくれました。そうは言っても、微妙な感覚の違いは彼らそれぞれの腕の見せ所ですし、何より演じている俳優が違うわけですから、オリジナルの完全コピーとは別のものだと信じて撮っていました。
いくつかあるそんなシーンを、ぜひ観客の皆さんにも見つけてもらいたいですね。もちろん日本版ならではの場面も山ほどありますから、その比較なんかもしてもらいたい。
 
―――確かに、オリジナルの名シーンを彷彿とさせる箇所がいくつもありました。
長谷川:堤防に7人が座っているところなんかは、この作品のテーマに繋がる重要な場面で、オリジナルが本当に素晴らしかった。日本の季節を考えれば、受験直後にTシャツで海に行くなんてありえないけど、雪山にスキーじゃやっぱり違うでしょう(笑)。まぁ普通の監督なら、7人の並び順なんかも変えてみたくなるはずです。でも僕が客席で覚えた感動を、なんとか日本の観客に伝えようとするなら、絶対このままで行った方がいいと。それはスタッフ全員の思いでもありました。
 
 

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■パラレルワールドがキーワード。ファンタジー感が出るように、都市も季節も曖昧にして、誰もの心の中の故郷に重なるようにした。

―――ディテールもオリジナルを彷彿とさせます。例えば高校の制服も台湾風ですが、どんな狙いがあるのですか?
長谷川:主人公たちの暮らす街を、具体的にしたくないというのがありました。物語の舞台としての街を強調するのではなく、誰もが持っている故郷を重ねることができるようなどこかの地方都市、と曖昧にしている。その上で堤防場面のように、あえて季節感も無くして……まぁひとつのファンタジーと言っていいかもしれません。この作品のひとつのテーマでもある「パラレルワールド」というものも、ある意味、反映させている。例えば、浩介と真愛のデートが突然台湾になりますが、あれは実は本当にあったことなのかわからない。浩介や真愛の心の中の出来事かも……ということです。
 
―――台湾ロケは最初から考えていたのですか?
長谷川:プロデューサーの発案で、二人の一度だけのデートはオリジナルと同じ場所で撮りたいと、かなり早い段階で決まっていました。ただ現地では色々なことが起きて、実際は撮れなくなってしまった部分があったのですが、急遽場所も芝居も変えて撮影したシーンが、逆にとてもいいシーンになって……。映画ってそういうものなんだなぁって、対応してくれた皆に感謝しました。それがどこの場面か、見つけてもらうのも楽しみです(笑)。
 
―――最近の邦画の恋愛映画は当事者しか登場せず、家族をきちんと描きませんが、本作は浩介の家族をはじめ、登場人物の家庭模様や背景がしっかりと描かれていますね。
長谷川:オリジナルにも主人公たちの背景への説明はほぼありませんが、我々の脚本では、それぞれの背景、家庭環境や親の職業まできめ細かく設定してくれました。それはやはり大事だと思います。とくにこの世代の物語であれば、家庭環境を描写することは絶対に必要だと。浩介が自宅では全裸でいるのも、オリジナルではなんの説明もありませんが、日本版では父と息子の関係性を描くことで、少し解明(笑)されている。天然パーマも全裸の習慣も父親譲りで、母親だけが「なんでそんなことしなきゃいけないの」と冷めた目で見ているとかね。真愛の場合は、医者の娘というだけで観客にキャラクターのイメージが湧きやすい。
 
 
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■浩介と山田裕貴は重なる部分が多く、本当にいい役に巡り会えた。

―――浩介は恋愛映画の主人公にしては、格闘技もすれば、丸刈りにもなり、相当体を張っていました。山田さんはどのように役作りをされていたのですか?
長谷川:自分が出演した作品で、様々な主演俳優の振る舞いのようなものを見ているので、その中から自分がいいなと思ったところを取り入れながら、共演者と触れ合ったと話していましたね。出演が決まってからは、四六時中、浩介のことを考えていたとも。彼に言わせれば、浩介の体は「中途半端に頑張ろうとしている高校生の鍛え方」で仕上がっているそうです。そこまで考えていたのかとビックリしました。中国拳法の立ち回りも披露しますが、本当に完成された立ち回りではなく、どこかダメな感じにして欲しいと要求したので、頑張ってはいるんだけど、最後にはとことん相手にやられるような立ち回りを演じてくれていますしね。
 
―――もう一つ浩介で印象的だったのが、皆が将来の夢を話す場面の、「すごい人間になりたい」という言葉です。山田さんご自身もずっとそう思っていたそうですね。
長谷川:何度もそれは聞きました。高校生の頃、まったく同じ思いだったと。そんなところが、浩介と完全に重なっている。これでいいのかと常に戸惑いながら生きているような部分もそうですし、山田裕貴は、今、彼にしか出来ない、本当にいい役に出会ったなと思います。
 
―――キャスティングもオリジナル同様、映画出演経験がまだ少ないフレッシュな顔ぶれになっていますが、その中で一番年齢も上で、キャリアもダントツの山田さんが果たす役割は相当大きかったのではないですか?
長谷川:演技経験が少ないキャストたちの中で兄貴分的存在ではあったけど、上に立つというのではなく、この作品で皆が評価されればいいなという思いが強かったそうです。彼自身も長い間、様々な作品に出演してきて、せっかく映画に出ても、誰も観てくれず、出演作を認知してもらえなかったという経験もし、だからこそ、自分も含めた共演者の皆がこの映画に出たことで多くの観客の目に触れ、「あの映画に出ていた人だ」と言ってもらえればと、ずっと思っているようです。
 
 
 

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■視線の角度やカメラに映る際の表情を細かく指導する監督が今は少ないのでは。

―――ヒロイン真愛役の齋藤飛鳥さんは本作が初主演ですが、どのような演出をしたのですか?
長谷川:演技については何の心配もなかったので、こまかく指示したりすることはありませんでした。ただアップが多かったため、大きなスクリーンでは、まばたきや、瞳が少し動くだけで、何か意味を持ってしまうというようなことは伝えました。例えば「その台詞終わりで、視線をふっと5センチ下げてみようか」とか、相談しながら。いまの若い俳優さんは、カメラに映ることに事に関して、そんな具体的な指示を演出家から受けることが少ないのではないでしょうか。リテイクは繰り返しても、「じゃあ、こうしろ」と、まばたきのタイミングや視線の位置まで、なかなか言ってはもらえない。僕はつかこうへいの劇団時代、散々そんな演出を受けてきて、それが役者にとってどれだけ重要か身に染みていますし、言われたようにすることで、そこの台詞の思いのようなものが逆にわかるということも、経験してますからね。
 
―――本意をなかなか明かさない真愛は、浩介からもらったリンゴプリントのTシャツを着て、浩介のことが好きなのが観客にはヒシヒシと伝わってきますが、浩介は気付かない。それが青春の苦さですね。
長谷川:浩介へのひたむきな想いがなければ、あのリンゴのTシャツは着ませんよね(笑)しかも、浩介が出演する格闘技大会に応援しに行く時、同じTシャツだけでなく、一度も着たことがないジーンズ姿になっています。どう考えても真愛らしくない(笑)。でも格闘技大会に行くならと彼女なりに精一杯考えて選んだ服装なんです。それは衣装部がしっかり物語を把握して、意味合いまで考えて生まれたものです。映画が共同作業だというのはこういうところなんです。あの真愛らしくないジーンズ姿が、二人の別れをよりいっそう切なくする。
 
 

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■僕たちの仕事は文化祭の延長線上のようなもの。

―――長谷川監督の青春時代には、マドンナ的存在を追いかけた浩介のようなほろ苦い思い出があったのですか?
長谷川:マドンナを追いかけたどうかは忘れたけど(笑)、まぁ浩介たちと変わらぬバカをやってましたね。ちょうど学生運動の真っ只中で、それすらもバカをやる延長線上のような感じでした。所詮高校生の学生運動は、どこか文化祭の延長みたいなところがあったかもしれません。もっと言えば、僕が今やってる仕事なんてのも、まだずっと文化祭が続いてるようなもので、だから違和感なく20歳前後のキャストと仕事ができるんじゃないかな。感覚としては、部活の先輩、後輩という感じですよ(笑)。孫ほど年齢は違うんだけど(笑)。
 
―――「文化祭の延長線上」というのは、すごく意を得ている表現ですね。長谷川監督は、脚本で多くの映画に携わってこられましたが、21年ぶりの監督作で台湾青春映画のリメイクを若いキャストと作り上げた感想は?
長谷川:正直、彼らと一緒に映画を作れてよかった。65歳にもなって、こんな青春全開映画を20歳前後の若者たちと撮るなんてこと、誰が考えます?(笑)。逆にずっと監督という立場で映画を撮ってきていたら、まずなかった話でしょうね。「ちょっとあのジジイにやらせてみようか」なんて思った、バカなプロデューサーがいた(笑)。
それで僕も気負いのようなものがなく、優秀なスタッフたちの力を借りて、若い出演者たちとの芝居作りを楽しんだといったところです。だから一番うれしいのは、映画を観た人から「みんないい顔をしていたね」と言ってもらえることかな。本当に素敵な俳優ばかりだから。山田裕貴を中心として、齋藤飛鳥、松本穂香、佐久本宝、國島直希、中田圭祐、遊佐亮介、間違いなく皆、今後活躍してくれるでしょうね。とくに齋藤飛鳥は映画初出演にもかかわらず、僕たちカメラサイドの人間を驚かせてくれました。
 
 
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■重鎮スタッフも齋藤飛鳥に太鼓判「そこにいるだけで物語を全て背負える女優」

―――最後に、将来大いに期待できるというその齋藤飛鳥さんの魅力を教えてください。
長谷川:今、芝居が達者だと感じさせる若い女優さんたちは、結構いますよね。でも、こんなふうに演じていますと、キャラクターを作って見せるのではなく、演じていることを感じさせずに、そこにいるだけで物語を全て背負ってくれる女優……例えば吉永小百合さんのような……そんな女優さんが久しぶりに出て来てくれたんじゃないかと、大袈裟じゃなくそう感じています。今回参加した経験豊かなスタッフたちもこぞって、同じような感想を漏らしていました。齋藤飛鳥がこれからどんな女優に育ってくれるか、本当に楽しみですね。彼女のデビュー映画に携われたことを、皆、誇りに思っています。斎藤飛鳥が将来、大きな女優になり、ヨボヨボになった僕たちが「その映画デビュー作はワシらが撮ったんじゃ!」と、自慢する日を夢見ています(笑)。
 

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<作品情報>
『あの頃、君を追いかけた』(2018年 日本 1時間54分 キノフィルムズ)
監督:長谷川康夫
原作:九拍刀(ギデンズ・コー)『あの頃、君を追いかけた』
出演:山田裕貴、齋藤飛鳥、松本穂香、佐久本宝、國島直希、中田圭祐、遊佐亮介
2018年10月5日(金)~TOHOシネマズ梅田 ほか全国ロードショー
公式サイト: http://anokoro-kimio.jp/
(C)「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ
 
 
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『ゴールデン SHIKA 賞』、『ゴールデン KOJIKA 賞』、『観客賞』発表! 『ユース審査員部門クリスタル SHIKA 賞』長編・短編各最優秀作品賞も!

 
9 月 20 日(木)、あいにくの雨の中、ワールドプレミア上映の映画『二階堂家物語』のキャスト、その他大勢の豪華ゲストを招いてのレッドカーペット&オ-プニングセレモニーで開幕し、5日間に渡ってならまちセンター他で開催された『第5回なら国際映画祭』が本日閉幕し、クロージングセレモニーでは各賞の発表が行われた。
 
インターナショナルコンペティション部門の最高賞となる『ゴールデン SHIKA 賞』は、アグスティン・トスカーノ監督(アルゼンチン)の『ザ スナッチ シィーフ』が見事受賞。ペンフェイ監督(中国)の『ザ テイスト オブ ライス フラワー』が観客賞に輝いた。また、学生部門 Nara-waveの最高賞、『ゴールデン KOJIKA 賞』は、工藤梨穂 監督(京都造形芸術大学)の『オーファンズ・ブルース』が同部門観客賞とのW受賞となった。
 
他の受賞結果は以下の通り。
 

■インターナショナルコンペティション
最高賞 ゴールデンSHIKA賞
『ザ スナッチ シィーフ』(THE SNATCH THIEF)
アグスティン・トスカーノ 監督
 
観客賞 
『ザ テイスト オブ ライス フラワー』(THE TASTE OF RICE FLOWER)
ペンフェイ 監督
 
■学生部門 Nara-wave
最高賞 ゴールデンKOJIKA賞
『オーファンズ・ブルース』(ORPHANS BLUES)
工藤 梨穂 監督(京都造形芸術大学)
 
審査員特別賞
『DE MADRUGADA』(デ マドゥルガーダ)
イネス・デ・リマトレス 監督(Escola Superior de Teatro e Cinema)
 
観客賞 
『オーファンズ・ブルース』(ORPHANS BLUES)
工藤 梨穂 監督(京都造形芸術大学)
 
■NIFFユース審査員プログラム
長編部門:ベルリナーレ・スポットライト-ジェネレーション  クリスタルSHIKA賞
『マイ スキニー シスター』
サンナ・レンケン 監督
 
短編部門:SSFF & ASIA セレクション  
クリスタルSHIKA賞
『ヘリウム』
アンダース・ヴェルター 監督
 
■功労賞
クリストファー・ドイル
(撮影監督としての映画への貢献に対して) 
 
■特別功労賞
故・樹木希林
(俳優活動による映画への貢献に対して) 
 

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開催期間中は、急遽開催が決定した樹木希林さん追悼写真展『愛・樹木希林』をはじめとして多くのイベントや上映(69 作品)が行われた。
 
 
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特に24日朝に急遽決定した樹木希林さん初主演作の『あん』の緊急特別追悼上映では、永瀬正敏さんと河瀨直美監督の舞台挨拶も行われ、満席の観客と共に在りし日の樹木さんを偲んだ。 
 
 
<奈良国立博物館前広場で連日開催された ならアートナイト「銀幕の庭」by ならアートナイトチーム>
 
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<オープニングナイトを彩った灯籠>
 
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なら国際映画祭2018
 
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