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『僕と世界の方程式』 

 
       

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作品データ
原題 Ⅹ+Y  
制作年・国 2014年 イギリス映画
上映時間 1時間51分
監督 モーガン・マシューズ
出演 エイサ・バターフィールド(『ヒューゴの不思議な発明』『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』)、サリー・ホーキンス(『ブルー・ジャスミン』)、レイフ・スポール(『もうひとりのシェイクスピア』)、エディ・マーサン(『おみおくりの作法』)
公開日、上映劇場 2017年1月28日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都 ほか全国順次公開

 

~世界とつながる方法~

 

世界とつながっているとはどういう状態を指すのだろう。”共感覚”、耳慣れない言葉だが、人や音を見たり聴いたりするとき、同時に色彩があらわれるという。主人公のネイサンには生まれつき、この”共感覚”が備わっていた。視覚や聴覚に問題があるとそれを補うため他の感覚が研ぎ澄まされるというけれど、通常ないはずの感覚があるというのはどんな感じなのだろうか。


bokutosekai-500-1.jpg幼い頃から、周囲と違和感を感じながら育ったネイサン(エイサ・バターフィールド)。いつも外側から世界を眺めているようで、世界の一員だという実感がなかった。唯一、心を通わせることのできた父親とは事故による突然の別れがあった。大きな悲しみを抱えた母子に一条の光を与えてくれたのが数学だった。早くから才能を窺わせていたネイサンはやがて数学オリンピックを目指すまでに成長する。


bokutosekai-500-2.jpgイギリス映画界を牽引するスタッフが結集し、ドキュメンタリーの旗手モーガン・マシューズが、自身が手掛けた作品をモチーフに長編映画を撮った。ストーリーはフィクションだが、オリンピック出場権を競う合宿の様子や、地元では天才扱いされていても精鋭ばかりのなかでは埋もれてしまう焦燥感などが、リアルに描き出されている。そして、実際に出題される問いの数々は、理数系なら興味を引くことうけあい。数学オンチでもクイズ番組を見ているような興奮を覚えた。さて、晴れて特待生に選ばれたネイサンは、憧れの舞台への切符を手にする。しかし、中国人留学生のチャン・メイ(ジョー・ヤン)と親しくなったことから、思わぬハプニングに見舞われる・・・。


bokutosekai-500-3.jpg周囲との溝を感じさせる前半部分から一転、後半は一気に青春映画の瑞々しさを放つ。初めて同世代の仲間とまともに関わりを持ったことで、今まで色を持たなかった世界は色づき始める。そして、彼のなかであらゆるものが意味を持ち始める。それは、ヘレン・ケラーが水に触れながら「ウォーター」という言葉と出会った瞬間に似ている。初めてピアノの鍵盤に触れ、ネイサンの体のなかに音楽が流れ込むカット、街が色彩を持ち始めるカットは、比喩的でありながら、同時にネイサンの感覚の目覚めを表して圧巻だ。


bokutosekai-500-4.jpg独りぼっちだと感じる瞬間は誰にもある。言葉が通じない孤独より、心が通じあわない孤独は深い。数にこだわるネイサンの8匹のエビを1匹食べて「これで素数になった」とばかり微笑む少女の素朴さ、素のままの自分を受け入れてくれる存在の素晴らしさ、ネイサンは世界とつながる自分だけの方程式をみつけたのだ。自閉症スペクトラム、多発性硬化症、依存症、作品のなかには、孤独を抱えもがく人々が登場するが、ネイサンの変化が周囲にも影響を及ぼしていく。それはまるで化学変化のようだ。たとえ今は孤独であっても、きっと誰もがいつか、ネイサンのように心から安らげる居場所をみつけることは可能なのだと、信じる勇気が湧いてくる。

(山口 順子)

 公式サイト⇒ http://bokutosekai.com/

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