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『逆行』

 
       

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作品データ
原題 RIVER  
制作年・国 2015年 カナダ・ラオス 
上映時間 1時間28分
監督 脚本・監督:ジェイミー・M・ダグ
出演 ロッシフ・サザーランド『ハイエナ・ロード』、サラ・ボッツフォード、ヴィタヤ・パンスリンガム『オンリー・ゴッド』
公開日、上映劇場 2017年6月10日(土)~テアトル梅田、近日~元町映画館 他全国順次公開

 

必死の逃避行が、贖いの道へと続いていた。

 

貧困層が国民の60%を超えるとも言われる、東南アジアのラオス。タイ、ミャンマー、中国、ベトナム、カンボジアに隣接し、アジア圏で7番目に大きいメコン川をのぞむ共和制国家。ここで、NGOの医療活動に従事するアメリカ人医師ジョンは、劣悪な医療現場で激務に追われていた。憔悴しきっていた彼は、同僚から休暇を取るよう諭され、南部のリゾート地を訪れることになる。なんとかくつろごうとするが、極限の緊張を強いられてきた日々の重圧は、すぐには彼を解放してはくれない。その夜、バーでひとり静かに飲んでいた彼は、地元女性を泥酔させようとした観光客の若者をたしなめるが、逆ギレされてしまう。そして帰路につく途中、見過ごせない犯罪の現場に遭遇したことから……。


gyakko-500-2.jpgレイプ犯とはいえひとりの人間を死なせてしまったジョンは、自らの生存をかけた極限の緊張を強いられて自制を失ってしまい、命を救う医師から一転、逃亡者の身となる。言葉の通じない異国の地を逃げまどう主人公にふんしたロッシフ・サザーランドは、まるで異母兄キーファー・サザーランドが演じたジャック・バウワーのように迫りくる警察、孤立無援の窮地をからくも切り抜けていく。縦横無尽の手持ちカメラによる迫真の映像は、じっとりとまとわりつく罪悪感にくずれそうなジョンの焦燥、ひりつくような疾走を、まるで “追跡”するかのよう。


やっとの思いで、アメリカ大使館に逃げ込むが、ジョンが死なせたレイプ男はオーストラリアの議員の息子で、いまや懸賞金つきの国際指名手配となっていた彼を救う手立ては皆無だと告げられてしまう。命運が尽きたと絶望に打ち震えるジョンだったが、診療所に出入りしていたラオス人運転手から救いの手を差し伸べられる。


gyakko-500-1.jpg自分の犯した罪の重さを恐れ、その現実に追いつかれまいと孤立無援の逃亡を図ったジョンは、皮肉にも命(人生)を救うことがいかに困難であるかを身を持って知ることになる。運転手の手はずでタイへの脱出を試みたジョン。満身創痍で、悠々と流れるメコン川を泳ぎ切る。救った人間の、あるいは死なせてしまった若者の血と自ら流した血、絶望も、すべて洗い流すかのような大河メコンが、ようやく彼自身の魂に平穏さを取り戻させたようだった。


このあと、タイで拘束され処遇を待つ身となったジョンに、国外退去という思いもかけない吉報がもたらされる。しかし、どうあれ人ひとりの命を奪った人間が無罪放免というのでは、いくらなんでも…と思うのは至極当然。で、その問題視される点を、カナダの新鋭ジェイミー・M・ダグ監督は、ラスト3分で解消する。自分本位だった主人公が「救い」の意味を真に理解するという贖罪として。この結末には、不意を突かれてしまった。


最後に、『オンリー・ゴッド』で怪演したヴィタヤ・パンスリンガムが、バーテンダー役で出演していることを付け加えておく。


(柳 博子:映画ライター)

公式サイト⇒ http://gyakko.espace-sarou.com

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